絶望の星が降り注ぐ
はじめまして。素人です。
なので見苦しい場面や言葉違いなどが多々あると思われますが、温かく見守ってくださればありがたいです。作品内にゾロアスター教関連の言葉とか出てきますが、作者はゾロアスター教大好きですんで、了承してください。
それはある日突然降り注いだ。
人を、家を、家畜を圧し潰し、大地に消えぬ傷を刻み付けた。
それを一人の少年は眺めていた。目の前で家が吹き飛び、父と母が必死の形相で少年の名を叫び続ける。
少年は空を眺め続けていた。これから起こることを本能的に理解したのだ。
そして聞こえた音がある。両親の声ではない。しかしはっきりと聞こえた。世界の終わる音が。
少年の周りを影が覆う。大きな影だ。
その影は少年に言う、いつか私を殺してほしいと。
少年は約束した、アンタをいつか殺してやると。
その時、少年の心は何を思っていたのだろうか——。
この日のことは忘れない。忘れてはいけない。いつか少年が強くなるために。
この約束は忘れない。忘れてはいけない。いつか必ず果たすために。
それはある日突然降り注いだ。世界を壊し、星の命を削る、絶望の流れ星が。
★★★★★★★
I.G.187、技術が発展し人類の生活圏が宇宙にまで広がっていた。火星ではテラフォーミングが実施され、すでに人が住める星になっている。が、やはり自らが生まれたこの母星を離れない人も多く、宇宙へと旅立つ人はまだ少ない。
しかし、地球の外には今までなら体験できなかったことや、未知の物質、未知の神秘、なにより自分たち以外の未知の生命体が存在しているはずなのだ。宇宙に行くことを、心から願った人たちが大勢いるはずなのだ。
これから増えることだろう。新しい何かと出会うために、あの暗くて冷たくて美しい世界に旅立つ者たちが。空を見上げれば、今日も飛んでいる。宇宙の旅人を乗せたシャトルがその世界に向かって。
「はん、また飛んでるよ。薄情な奴らだな。この母なる大地を捨てて、何も感じないのかね、あいつらは」
ここはアメリカ合衆国フロリダ州ケネディ宇宙センター近くの都市オーランドで、頻繁に先ほどのようなシャトルが見えるのである。
「そういうなよ、ディラン。外に出るのは大体が若い奴らさ。俺たちが若いころにはまだ外に出られなかったからな。生まれた時すでに外へ行けるなら、行きたいと思うのが普通だ。特に若い時は好奇心旺盛だしな。俺もあと少し若ければ行きたかったもんだ」
「勘弁してくれよ、親父さん。あんたが行っちまったら誰がこの酒場で飯作ってくれるんだよ」
「お前も昼から飲んでないで、そろそろ仕事に行けよ。それに俺がいなくても俺の息子がやってくれるさ」
ディランと呼ばれたこの男は普段デバイスの整備をしている。デバイスというのはこの世界における万能ツールで、身分証明、財布、自宅や乗り物の鍵、旧世代の携帯端末のような機能も備えた、一人一台を持つことが義務付けられているまさに必須ツールなのである。それゆえ、デバイスの整備業というのは人口が多く、また、企業によってその腕前も変わってくる。
そうなると仕事は当然腕のいい企業が根こそぎ持っていき、弱小企業には仕事が回ってこないのである。なので、ディランは真昼から顔見知りの店主であるランドンの酒場で酒を飲んでいるのである。
「うるせー、どうせ仕事なんて回ってこねーよ。なら、ここで酒飲んでても誰も難癖つけやしねーさ。なんなら、星に願ってみるか? 俺に仕事が回ってきますようにってさ! まァ、こんな昼間に流れ星なん「星だ……」あん?」
「星が見える」
そういってランドンが空を指す方向へディランも目を向けると確かに赤く輝く星が見えた。
「本当だ……。なんでこんな昼に? というか、よく見るとあれ、だんだん大きくなってないか?」
ディランの言う通り、赤い星はだんだん大きくなっている。周りの人々が気付き始めざわめき始めている。なかには地面にへたり込んでいる人もいた。
「おいおい、まずいぞ! あんなのがこの近くに降ってきたら俺たちも吹き飛ぶぞ! 早く逃げないと!」
「いや、待て!」
「なんだよ!」
「一つじゃない」
「は?」
ディランが再び空に目を向けるとそこには無数の赤い星が空のいたるところに現れている。その赤い光の数だけ、絶望が降ってくるのだ。
サイレンが鳴る。この音は国民保護の意味だ。
「緊急事態発生、近隣の皆様は地下シェルターに避難してください。繰り返します」
警告を聞き、大勢の人々が急いでシェルターへ向かう。その表情はみな、生き残ろうと必死だ。
「嘘だろ……。俺が星に願ってみるか、なんて言ったからか? なら悪かった! だから助けてくれェェェ!」
「気をしっかり持てディラン! お前の発言が引き起こしたことじゃないくらい分かるだろ! とにかく地下に隠れるんだ! 早く地下シェルターに行くぞ!」
「本当にそれで助かると思うのか! あの星が一体なんなのかすら分からないのに! こんないきなり世界が終わっちまうなんて、誰も予想できるわけがないんだ! なら、俺はこの先の地獄を見ないでいいように、ここで死ぬ!」
「やってみないと分からないだろ! とにかく行くぞ! ルーカス、 降りてこい逃げるぞ!」
ランドンは泣き喚いてるディランの腕を掴んで立たせると、七歳の息子を呼び、地下シェルターがある場所へと向かった。
そしてたどり着いた地下シェルターには先に向かっていった人たちが大勢いた。幸い、ランドンたち3人が入れる余裕はまだあった。
「ねぇ、父さん。なんで僕たち隠れてるの?」
まだ七歳の子供に、正直にいうのは気が引けた。なにより、息子にはまだ希望があるということを教えてやりたかった。
「少し、大変なことになってな。どうやら星が落ちてくるみたいなんだ。でも、大丈夫。すごく揺れるかもしれないけど、それだけだから。揺れがおさまったらもう大丈夫だからな」
そういって、ルーカスの頭をなでた時、ついに大地が大きく揺れた。
★★★★★★★
大きな揺れが地下シェルターを襲った。その揺れは何度も起こり、数十分後にようやくおさまった。
「ふう……。終わったか。ほらみろ、ディラン。なんとかなるもんだろ?」
「……そんなのは外に出てからだ。どんな景色になってると思う? 俺は地獄のようになってると思うぜ」
「まったく、お前ってやつは一度暗いことを考えるとそれにとらわれ続けるよな。地獄なんてないさ、時間をかければすべて元に戻るに決まっている」
「…………」
「よし、外にでるぞ。ついてこい」
ランドンはそう言いながら出口へと向かう。ディランとルーカス、そしてシェルターに隠れていた人々もぞろぞろとついていった。
みんな心の中では同じことを考えていることだろう。外はどうなった? 家は無事か? これからどうすればいいんだ? と。
「出口だ。開けるぞ」
ランドンのその一言にその場にいた人たちは固唾を飲み込む。
「よっと、外は……? おかしいぞ、降ってきたはずの隕石がどこにも見当たらなっ……」
「は?」
外に出てあたりを見回していたランドンの上半身がいきなり消失した。その切断面は実になめらかで、残されたランドンの下半身は上半身をなくしたにもかかわらずに立ち往生している。あたりにランドンの体から噴き出した血の雨が降り注ぐ。それを見たディランは顔を真っ青にしながら
「おい……? 親父さん? 悪い冗談だよな? なんで何も言わないんだ? 大丈夫だといったのはあんただろ? ……なんとか言えよ!」
ディランのその声を皮切りに人々は叫び、泣きながら外へと逃げ出す。そして、ランドンを殺したものの正体を目の当たりにする。
「ぎゃアアア!」
「なんだこいつは! こんなの見たことな」
「助けてくれエエエ!!」
「ギ、ギギ、フシュゥゥゥ」
我先にと逃げ出した人々が次々に肉塊へと変えられていく。
それは金属の輝きを放っていた。複雑な構造をした体はロボットだ。これはいわゆる機械生命体というやつなんじゃないか? ディランは頭の中でそう考えていた。大きい。目測でも約十メートルはある。
その機械生命体はまるで虎のような形状をしていて、爪で切り裂き、足で踏みつぶし、背中のガトリング砲でハチの巣にし、鋭い牙が生えた顎で捕食している。
あんなのに勝てるわけがない。早くルーカスを連れて逃げないと。ディランの頭の中ではそれだけしか考えていなかった。
「ルーカス! 逃げるぞ! やつは俺たちに気づいていない! 今のうちに……、おい、ルーカス!?」
ディランはルーカスを呼んだが、返事が来ない。父親が目の前で殺されたから呆然としているのかもしれないと思ったディランはルーカスのもとへ行こうとするが、ふと気になってやつの方を見た。
そこには今まさに機械生命体に捕まり頭部を食いちぎらそうなルーカスの姿が見えた。
ディランは頭が真っ白になった。もう無理だ。助けられない。こうなったら俺だけでも逃げて……られるか!
今までさんざん世話になった恩人の息子一人助けないでいつ恩を返すんだ。親父さんは死んだ。なら、この恩はルーカスのものだ。
「待ってろ! 今助ける!」
そういって機械生命体のもとへと駆ける。手には拾い集めた大きな石を握りしめながら。
「ルーカスを放せ! この鉄屑がァァァ!」
「グルルル!」
投げつけた石が機械生命体にあたり、こちらを向く。そうだ、こっちを見ろ。早くルーカスを助けて俺も……。
その時、ディランの耳は耳障りな音を拾った。まるで骨を握りつぶしたような音を。
おそるおそるルーカスを見ると全身から血を噴き出しながら頭が真っ赤に膨らんでいた。そして、体をつぶされ行き場の失った血がルーカスの頭に集まり、やがて耐え切れなくなって破裂した。
地面に膝をついたディランはまた耳障りな音を聞いた。それは自分の心が砕けた音だった。
「はっ、ははは。何が大丈夫だよ。やっぱりあの時にさっさと死んでおけばよかったんだ。そうすればあんたとルーカスの死ぬところなんて見ずにすんだのに」
機械生命体は最後の生き残りであるディランのもとへ向かいじっと見つめ、そして大きな口を開ける。
「グル……」
「なんなんだよ、お前は。どこから来やがったんだ、クソッタレが。あぁ、クソっ、やっぱり地獄だったじゃねェか、地下の外は」
やがて、あたりには肉を咀嚼する音だけが響いていた……。
★★★★★★★
こんなことが世界各地で起こっていた。
のちに《プラヴァシ》と呼ばれる彼らは圧倒的戦力差で軍を寄せ付けず、ことごとく撃破していった。
アメリカ大陸とアフリカ大陸は奪われ、日本はどうなったか確認できず、オーストラリアは海に沈められた。
たった数日で世界地図を書き換えたプラヴァシになすすべなく、人類は最後の砦であるユーラシア大陸で連合軍を結成し、徹底抗戦した。
人類滅亡の危機に人々は絶望を浮かべるが、希望もまた、残っていた。
それは着地に失敗して壊れたプラヴァシの部品を火星に送り、調査研究した結果、対機械生命体兵器の製造が可能ということだった。
完成した兵器、それは対機械生命体人型機動決戦兵器〈鉄機〉と名付けられ、戦場に投下。
そしてナディ・タミルという一人の男の活躍によって、ユーラシア大陸に巣くっていたプラヴァシを全滅させ、ようやく安寧の地を手に入れたのだ。
勢いづいた連合軍はアメリカ大陸奪還作戦を決行したが、プラヴァシは人類の思うようにはさせてくれなかった。
プラヴァシに効いてたはずの武器が効かなくなったのだ。これにより奪還作戦は失敗、連合軍はユーラシアへ帰還、火星にすぐさま報告。
再び研究が推し進められ、新しい兵器を製造し、ユーラシアに上陸しようとするプラヴァシを撃破する防衛戦にとどまった。
これが繰り返し行われ、ついに千年にも及ぶ生存競争……残存戦争が始まったのだ。
そして千年後、物語は動き出す……。
To be continued
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