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竜騎士団の問題児共  作者: 新嶋紀陽
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8

 三人が竜騎士団に入ってから一週間が経った頃。

 突然だが、ギン・ボルガーは怒っていた。

 本当に突拍子もない事ではあるが、事実なのでそれ以外の説明のしようがない。

 もちろん、それにはちゃんとした理由と訳が存在する。

 その原因となるのが、目の前に正座している三人。

 何故、三人が正座しているのか。そして、どうしてこんなにもギンがカンカンに怒っているのか。その発端となるのは、今から数時間前の出来事が原因だった。


 *


 ディスト、エイミー、アルミスの三人は騎士団の食堂へとやってきていた。その目的は至って単純、昼食を食べに来ていたのだ。

 本当ならバラバラで食べたい三人なのだが、「常日頃から団体行動しろ」という団長様からの命令によって強制的にこのような状況になっていた。

 並んで食堂へ入ってきた三人。そんな彼らを見て、周りはざまめき始める。


「おい、あれって……」

「ああ、例の問題児共だ」

「よくこんな所に顔出せるよな。恥とか知らないんじゃねぇか?」

「はぐれ者のくせになぁ。身の程を知れって感じだよな」


 ヒソヒソと三人の事を話す団員達。それはどう考えても彼らを受け入れる仕草ではなかった。中には、クスクスと嘲笑するようなものまで聞こえてくる。はっきり言って、不愉快ではあったが、しかして三人は何もしない。こういうことには慣れているのだ。

 騎士団の食堂は、セルフになっている。つまりは、食べたい者を自由に選べるのだ。そもそもにして、騎士の中には、貴族やらお金持ちが多い。何せ、騎士になるには特例を除いてかなりのお金が必要になるため、必然的にそうなる定めにあるのだ。故に、食べ物に関しても、騎士団のものはそれなりに金がかかっている。

 三人はそれぞれ自分の昼食を取り、揃って席についた。

 その時、エイミーはディストの方を向いて一言申す。


「貴方……お肉ばっかりですわね」


 呆れた風に言うエイミーの言葉に、ディストはムッとなる。


「んだよ。肉はオレのエネルギーそのものなんだよ。一々文句言ってくんじゃねぇよ」

「まぁ、流石は野蛮人。食生活からもすでに野蛮な領域ですわね」

「うっせぇ。っつか、そういうオマエも何だよ、ソレ。野菜ばっかじゃねぇか。もっと肉食わねぇと力つかねぇぞ、このモヤシ女」

「誰がモヤシですか。貴方こそ、そんなにバクバク食べてますと、豚みたいになってしまうますわよ?」

「安心しろ、オレは常日頃から鍛えてんだ。どっかのお嬢様なモヤシと違ってな」


 相変わらず犬猿の仲な二人に、アルミスは無関心を通していた。


「っつか、野菜ばっかでよくそんなに育つな」

「はい? 育つってどういう……」


 エイミーはディストの視線を追いながら、その意味を確かめる。そこは、エイミーの首元より下であり、もっと詳しくいうのなら胸である。

 エイミーはバッと胸を両腕で隠し、赤面する。


「っ!! 変態、鬼畜、野蛮人、この人でなし!!」

「はぁ!? ちょ、おい待てこら!! 何でオマエにそこまで言われなきゃならなんだよ!!」

「うるさいうるさい!! そういうデリカシーがないから、貴方は野蛮人なのですよ!!」

「意味分かんねぇぞ!! そもそも、オマエだってな――」 

「二人共」

「何だ!!」

「何ですの!?」


 険しい顔の二人に、アルミスは一言。


「食事中」


 それだけ言うと、アルミスは自分の食事に戻る。

 アルミスの言葉に、二人は自分達がいかに浮いているのかを再認識し、互いに顔を背けながら食事を再開する。

 しかし、嫌な事とは続くもので。


「あっれー? これはこれは誰かと思ったら、そこにいるのは竜騎士団へ左遷されたエイミーさんじゃないのー?」


 それは、誰がどう聞いても嫌味の篭った言葉だった。

 ディストがふと声がした方を向くと、そこには数人の人間を引き連れた少女がいた。襟の部分にバッジを付けている。

 騎士団の団員にはそれぞれ襟の部分にバッジを付ける義務がある。聖騎士団は黄色、白騎士団は白色、黒騎士団は黒色、竜騎士団は緑色だ。

 彼女の場合は白いバッジであることから、白騎士団の一員であることはすぐに分かった。

 エイミーの名前を知っていることから、彼女と知り合いらしい。


「セリア……」

「久しぶり、エイミー。会うのはあなたの任務失敗以来ね」


 セリアと呼ばれたのは、桃色の長髪少女。強気な態度に、お揃いと言わんばかりな強気な目……というより、何やら格下を見るようなその目つきは、あまり好印象を持てるものではなかった。


「……何の用ですの」

「そんな言い方ないじゃない。『元』白騎士団のメンバーがどうなっているのか、見に来ただけよ」


 元、という所を強調するセリアに、エイミーはムッとなったが、何も言わない。言っても無駄だということを理解している。


「それにしても、おかしいわねぇ。見た所、竜騎士団のメンバーの方が見当たらないんだけど……ああ、そうでだったわ、竜騎士団ってアナタ達しかいないんだったわねぇ」


 瞬間、セリアの背後にいる連中がクスクスと嘲笑を浴びせてくる。

 しかし、三人は何も言わずにただ黙っている。


「にしても大変ねぇ。メンバーが少ないと、やることも多いでしょう? こんな所で油を売っててもいいの?」

「オマエに指図を受ける筋合いはねぇと思うが?」


 とうとう、と言うべきか。ディストがセリアの話に割り込んでくる。


「アナタは?」

「人に名前を尋ねる時はまずは自分からって知らないのか?」

「おい、お前!! 誰に向かってそんな口を利いている!!」

「こちらにおわすお方は、かの有名な貴族、ランディラー家のご息女、セリア・ランディラー様だぞ!! 次期白騎士団団長候補にも挙げられるお方だ!! 礼儀を弁えろ!!」


 取り巻きの少年たちが激昂する中、セリアはまぁまぁ、と言いながら彼らを制する。


「初めて会う人にそんなぶしつけな言葉はダメよ。アナタの言う通りね。アタシはセリア・ランディラー。白騎士団所属の騎士よ」

「オレはディスト・ジャッジ。元聖騎士団所属で今は竜騎士団所属の騎士だ」


 その名が出たとたん、周りがざわめき始める。

 そのざわめきを代表するかのように、セリアはディストに質問をする。


「失礼だと思うけど……アナタのお兄さんは、もしかして聖騎士団団長のクロード・ジャッジ?」

「……ああ、残念なことにな」


 その一言が、さらなる波紋を呼んだ。

 ざわめきがさらに大きなものになり、驚きもまた大きなものになる。


「……これは驚きね。まさか、こんな所であの『剣聖』クロード・ジャッジの弟に会うなんて。しかも、そんな人が竜騎士団なんて弱小騎士団に入っているなんて、本当にビックリだわ」


 先程からの彼女の言葉には悪意しか感じられないのは気のせいではないだろう。

 フーン、といった具合にセリアはディストを見る。その目はまるで、品物を見定めるようなものであり、正直ディストは好きになれないものだった。

 そして、セリアはこんな事を言い出した。


「ねぇ、アナタ白騎士団に入らない?」


 突然のスカウトに、ディストは表情をムッとさせる。


「はぁ? オマエ、何言ってんだ? オマエにそんな権限あるわけないだろうが」

「そうでもないわ。仰々しいのは嫌いなんだけど、アタシの実家はそれなりの貴族でね。その力を使えば、アナタを白騎士団に引き入れるなんてことは造作もないわ」

「ちょっとセリア!! 貴方、何を……!!」

「アナタは黙ってて、役立たずのお嬢様」


 敵意むき出しの言葉に、エイミーも我慢ができなかったのか、勢いよく立ち上がる。

 しかし、ディストが手を上げたことによって、それは止められた。


「今の話、本当なんだろうな?」

「ええ、本当よ」


 その一言を聞いて、ディストはふぅ、と息を吐いた。その表情は何かを理解したかのようなものだった。


「なるほど……オマエ、オレが嫌いなタイプだな」

「……なんですって?」

「自分の家柄に頼るその言い方。自分では何もしない奴の台詞だ。そういう奴は皆口ばっか。信じられるわけがない」


 挑発的なディストの言葉に、セリアは奥歯を噛み締める。


「アナタ……アタシを侮辱する気? アタシより、そんな女の方がいいっていうの?」

「さあな。だが、少なくとも、そこにいる高飛車女もオレの嫌いなタイプだが……家柄に頼ることなんて一度もしなかったぞ。まぁ、オマエよりは幾分かはマシだな」 


 言われて、エイミーは少々照れくさくなり、顔を俯かせた。


「……アタシを侮辱するなんて、いい度胸じゃない。お兄さんが団長だからっていい気にならないで」

「別にいい気にはなってねぇよ。オマエがただ一人で騒いで怒ってるだけだろう?」

「……ログ、ブライン」


 呟いたのは、男の名前なのだろう。

 背後の連中の中から、二人の男が出てくる。


「アタシに逆らうとどうなるのか、教えてあげて」


 その言葉にニヤける二人。

 次の瞬間、バンッ!! と机の上に置かれていた食器が全て空中へとダイブした。

 あっ、と声を漏らすのはアルミス。彼女は床に落ちた自分の昼食をじーっと見ていた。


「あらあら、大変ねー。昼食が床に落ちちゃった。今から新しいのを取ってくるには時間がないんじゃなーい? ああ、でも床に落ちただけだし、まだ食べれるわよねー。アナタ達のようなゴミにはお似合いの食事じゃない」


 瞬間、ゲラゲラと笑い出すセリアとその他大勢。

 もう我慢の限界だ。そう思って、エイミーとディストは立ち上がったが……。

 ガシャンッ!! と。

 唐突にセリアの顔面に食器が投げつけられた。

 は……? と思ったのはセリアだけではない。彼女の取り巻き、ひいてはエイミーとディストもポカーンとした顔になっていた。

 一同は食器が飛んできた方向を見る。

 そして、そこにいたのは下に俯いているアルミスだった。


「私の……ご飯……」


 ゆらり、と立ち上がるアルミス。ぶつぶつと何かを呟いているようだが、小さくて聞こえない。

 しかし、確実に何やら危ない気配がするのは間違いない。


「え……ちょ、おい、無口女……?」

「アルミスさん……?」


 幻覚だろうか。不気味なオーラを放つアルミスに二人は思わず言葉を掛ける。しかし、アルミスにはその言葉は聞き取れていないようで、ひたすら何かを呟いている。

 今のアルミスを見て、一言で感想を、と言われれば皆こう答えるだろう。

 怖い。


「な、何なの、アナタ!! 自分が何をしたのか、分かってい……」

「黙れ」


 とてつもなく低いトーンで言われたせいか、それとも彼女の目がとてつもなく恐かったせいか、セリアは反論できず、ひぃいっ!? と声を上げる。

 普段の彼女からは想像もできない一言にディストとエイミーも驚いていた。


「食事は食欲を満たす大事な事。それを邪魔するということは万死に値する」


 一歩一歩近づいてくる彼女を止める者はいなかった。

 そうして、セリア達の前に立ったアルミスはただ一言。


「そういうわけで全員殺す」


 それは宣戦布告だったのだろう。

 そこから先、アルミスが何をしたのか、セリア達がどうなったのか、気になるかもしれないが、敢えて割愛させてもらう。

 ただ、ディストとエイミーは今後、アルミスの食事の邪魔は絶対にしないと心の中で誓ったのだった。

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