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竜騎士団の問題児共  作者: 新嶋紀陽
8/24

7

「どっこいしょっと……これで全員だな」 


 ボロボロになった三人をギンは一箇所に寝かせていた。

 ギンが放ったあの一撃、『絶空』を食らった三人はそのまま風に吹き飛ばされ遥か先でノックダウンしていた。

 息もしているし、脈もちゃんとあることから、死んではいない。しかし、痣だらけなのを見るとどうやら体へのダメージは相当なものだろう。

 やり過ぎた、とは思う。

 いくら不意を突かれたためにちょっと本気を出すとは言っても、あんなモノを食らわされてはたまったものじゃない。

 負けたくないがために、《ドラグーン》を出現させるとは、本当に大人気ないと思う。

 まぁ、彼らに対しての謝罪を考えるのは後にして。


「……それで? そこにいるお前さん達は、いつまで隠れてるつもりだ?」


 ギンと三人以外は誰もいないはずの森。その陰から人影が出現する。

 その数十から二十はいる。それぞれ黒いフードを被り、顔を見えないようにしている。

 この状況から考えると彼らは……。


暗殺者(アサシン)、か」

「……、」


 ギンの問いに彼らは答えない。しかし、彼らから感じる殺気は尋常なものではないことは確かだった。

 怪しい香りがぷんぷん匂う彼らに、ギンは警告する。


「お前さん達がどこの誰で、誰の指図で動いているのか。そんなもんは分からないし、興味もない。だが……こいつらに手を出すなら、全員ここで狩るぞ」


 殺気が森を駆け抜ける。

 数秒、数拍、数瞬。

 ギンと黒ずくめの殺し屋達は臨戦態勢に入っていた。

 しかし、それを最初に解いたのは黒ずくめの方。

 殺気を無くし、まるで風のように彼らは姿を消す。

 残ったのは、静寂。

 まるで何もなかったかのようなその静けさは、逆に不気味さを際立たせていた。


「……ん? オレは、一体……」

「あいたたた……体中が、石みたいですわ……」

「……痛い」


 三人は何の前触れもなく起きだした。

 その姿を見て、ギンはフッと微笑する。


「あっ! テメェ銀髪!! よくもやりながったな!!」

「おっ? ようやく気がついたか」

「気がついたかじゃねぇ!! テメェ、あんなの反則技じゃねぇか!!」

「仕方ないだろう? お前さん達が予想以上に強かったんだから。それだけ、お前さん達を認めたってことだろうが」

「知るか!! この借りは倍返しにして返してやる!!」

「まぁまぁ落ち着け。冷静になって周りを見てみろ」

「あぁ?」


 苛立たった声を発しながらディストは周りを見渡す。

 辺りはすでに真っ暗。どう見ても太陽は地平線の彼方へと沈んでいる。


「ぁ……」

「分かったか? テストはもう終わったんだよ」


 その一言は、三人にしてみれば死刑宣告と同等だった。

 自分達は負けた。これ以上なく、完膚無きまでに。たった一撃。たった一撃で、自分達はボロボロになるまで痛めつけられてしまった。

 力の差がありすぎる。

 あまりにも冷たく、そして非情な現実に三人は嘆くことも、駄々を捏ねるわけでもない。

 ただ、握りこぶしを作って悔しがっていた。

 そんな三人を見ながら、ギンはふとこんな事を呟く。


「……ちょっと質問なんだが、あの戦い方を指示したのは、アルミスか?」

「ええ……そうですわ」

「ふ~ん……意外だな。お前さん達二人が素直に人の言うことを聞くとは」

「……げられたんだよ」


 は? と聞き返すギンに、ディストはもう一度言う。


「頭を下げられたんだよ。頼むからって……女のこいつがそこまでしてるってのに、男のオレが何もしないわけにはいかねぇだろ」

「あそこまで真剣に言われてしまっては、断れませんわよ……」


 恥ずかしいのか、ディストはギンと目線を合わせないように言い、エイミーもまた苦笑する

 そうか、と呟くギン。その顔にはどこかすっきりしたようなものがあった。


「……ごめん」


 不意に聞こえてきた謝罪の言葉はアルミスのものだった。


「別にオマエのせいじゃねぇよ。オレが勝手に決めたんだ」

「そうですわ。貴方の作戦があったからこそ、あれだけ動けたんですのよ? 貴方がいなかったら、わたくし達は何もできなかったはずです」

「……、」


 気にするなという二人に、しかしやはりどこか申し訳ない気持ちがあるのだろう。アルミスは顔を俯けていた。

 ドーンとした重たい空気が漂う中、ギンは片手を上げた。


「あー……ちょっといいか?」

「何だよ」

「まだ何か言いたいことでもありますの?」

「いや、お前さん達に言わなきゃならないことがあるんだが……」


 ん? と三人は眉を顰める。また、嫌味でも言われるのかと思っていたが……。

 …………。

 …………。

 …………?


「「「はぁああ!?」」」


 素っ頓狂な大声を出す三人に、ギンは耳を塞ぐ。ただし、片手しかないために、あまり意味はなかった。


「ったく、うっせぇぞ!! んな大声出すな!! ビックリするだろうが!!」

「いや、だって、え、いや、その、え? え? 合格?」

「ど、どうしてですの? だってわたくし達は……」

「……負けた」


 信じられないと言わんばかりな表情な彼らに対し、ギンは不敵な笑みを見せた。


「ああ、確かにお前さん達は俺に負けた。もうこれ以上ないくらいにな」

「改めて言われると、何か……」

「腹が立ちますわね」

「同感」


 人には事実であっても、口に出されると勘に触ることがある。


「だが、今回のテストは別に勝ち負けが問題じゃあない。その証拠に俺は一言も俺に勝利しろとは言ってないだろう?」


 あっ、と三人は思い返すが、そう言えばそんな事は一言も言われていない。


「最初に俺はちゃんと宣言したぞ? 俺を認めさせろってな。で、俺はさっきお前さん達を認めたって言っただろう?」


 言われてディストは思い出す。確かに言っていた。


「俺は、お前さん達が騎士に必要なものが備わっているのか。それを確かめるために戦ったまでだ」

「騎士に必要なもの?」

「何だよ、ソレ」


 ディストとエイミーは相変わらずふてぶてしい顔付きだったが、アルミスは気づいたようで、首を少し傾けながら呟く。


「もしかして……チームワーク?」

「大正解」


 ギンは笑顔で頷いた。


「お前さん達は今まで、協力、連携、助け合いができなかった。だから、ここにいる。騎士にとって戦場は人生そのものと言っても過言じゃない。生き死にを一瞬の判断で決められてしまう。それが戦場だ。そんな戦場を生き抜くには、手段と方法がある。そして、お前さん達のような新米に最も必要なモノ、それがチームワークだ」


 三人はギンの話をじっと聞いていた。何も言わず、何も口に出さず、ただ静かにしている。


「お前さん達は、そこそこ力がある。技量や体力何かはまぁ、俺が口を出す必要はない。だが、お前たちには経験が一切ない。いくら技術がよくても、いくらスタミナがあっても戦場っていうのは、あっと思った瞬間に死んでしまうことが当たり前の世界だ。そうならないためには、互いが互いを支え合い、助け合うことが必要だ。それがお前さん達にあるかどうか、それを試すためのテストだったんだよ」


 そのため、彼らがどれだけの実力を持っていようが、技術を持っていようが関係なかった。そんなものはギンは最初から求めていない。


「正直な話、俺は絶対お前さん達は合格しないと思っていた。世辞なんかじゃない。本当にそう思っていた。その理由は、お前さん達も分かってるよな?」


 言われてなくても、そんな事理解している。

 前半、三人は各々の攻撃をしていた。助け合う事も、協力し合うこともない。チームワークなんてものは微塵もなかった。単独行動、個人プレーのオンパレード。最後にはいがみ合い。


「これはもう決まったなと思った矢先、お前さん達は見事にやってくれた。いやはや、本当に予想外だった。まさか、あんな初歩的且つ馬鹿げた罠に引っ掛かるとは。ホント、我ながら情けない話だ」


 二人の陽動に、アルミスの矢、最後には頭上から岩という罠という在り来りな作戦。

 しかし、そんな作戦にギンはまんまと乗ってしまった。


「油断してた、不意を突かれた、予測してなかった。言いたい事は多くあるが、どれもこれも言い訳にしかならないからな」


 彼らにないと思っていた協力、助け合い、チームワークを見せつけられ、挙句は顔に傷まで負わされた。彼らは証明したのだ。自分達の価値を。そして、ギンはそれを認めた。


「もう一度言おう。認めてやるよ。お前らは騎士としての資格をちゃんと持っていた。故に宣言する。今からお前さん達は、竜騎士団の一員であり、俺の部下だ。今までどんな扱いを受けてきたかは知らねぇが、ここに来た以上はこき使ってやるから覚悟しておけ」


 ギンの言葉に、呆ける三人。未だに信じられないと言いたげな表情だ。

 しかし、それもすぐに元に戻った。


「へっ、言ってくれるじゃねぇか、団長。だが、覚悟すんのはアンタも同じだぞ。俺達はすぐにアンタを追い越してやるからな」

「その通りですわ。せいぜい足元をすくわれないよう、気をつけることですね」

「右に同じく」


 相変わらず、可愛げがない言葉だ。

 しかし、気のせいだろうか? ギンには彼らがこれ以上なく喜んでいるように見えたのは。


「ったく、お前さん達は……」


 相変わらずな三人の対応に、苦笑するギン。

 実を言うと、不安はある。あの殺し屋達の事だ。恐らくは、この三人を狙っていたのだろう。何が目的なのか、それは不明だが、このままで終わるとは到底思えない。またやってくるのは目に見えている。今回は襲ってこなかったが、次はどうなることか。

 彼らには面倒な未来が待ち構えている。それも近いうちに。

 だが、しかし、それでも。

 今は、こいつらに喜ばしてやることの方が、ギンには大切に思えた。

 こうして、竜騎士団に三人の問題児達がやって来たのだった。

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