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竜騎士団の問題児共  作者: 新嶋紀陽
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4

 ガギンッ、ガギンッ!! と金属同士がぶつかり合う甲高い音が森の中に響き渡る。

 音の正体は、ギンとディスト。二人の剣が交差し、ぶつかり合い、削り合う度に生じる音だ。


「おらっ!!」


 掛け声に合わせながらのディストの一撃は、速く、強く、そして重かった。

 しかし、そんな一撃をギンは片腕の剣で軽々と受け止める。


「どうした? もう限界か?」


 くっ……!? と苦い顔をするディストとは裏腹に、ギンの表情は全くもって余裕だった。その事に対し、ディストの顔はますます強ばる。

 ギンはディストの剣を弾き飛ばす。しかし、ディストは諦めず、再び剣を振り上げ、そして降ろす。そんな単純な作業ではあるが、常人からしてみれば一瞬の速さでやってのけてしまう彼の腕力は素晴らしいものだと言えよう。

 しかし、それでもディストの一撃はギンには届かない。

 ギンは攻撃を未だにしていない。ディストが剣で一撃を放ち、ギンがそれを受け止めるか、受け流す。それだけだ。その事実がディストをイラつかせる。彼は、自分がまるで子供のようにあしらわれていることが許せないのだろう。俺様主義の性格なら、尚更だ。

 だが、どれだけディストがイライラしようと、腹を立てようと、彼の一撃は流されるばかり。

 一方は攻撃し、一方は防御する。そんな『作業』とも言えるような行為がもう何度も繰り返されていた。

 ディストの攻撃を受ける度に、ギンには衝撃と重圧が掛かってきた。だが、それはギンが片手で受けれないほどのものではない。

 重くないのだ。

 別にディストの剣が軽いというわけでも、彼の一撃一撃が弱いというわけでもない。むしろ、ディストの一撃はギンの腕にビンビン伝わってくる程の威力はある。

 だが、それでは足りない。

 ギンを納得させるには、到底届かない。


「邪魔ですわ!!」


 突如としてギンの耳に入ってきたエイミーの声。

 直後、ディストの後頭部の左から、ギリギリの間隔を開けながらエイミーの突きが炸裂する。


「っと!!」


 一瞬の判断で、首を曲げ、エイミーの槍をやり過ごすギン。避けた後は、すかさずディストの剣を払い除け、後ろに大きく下がった。

 意外且つ強引な攻撃。一歩間違えれば、ディストにも槍があたっていたかもしれない。だが、エイミーはそんな事など微塵も感じていない。

 その証拠に、エイミーはギンに攻撃を与えられなかった事に対し苦い顔をするだけで、ディストには何の言葉もかけない。

 速かった。今の一撃は、相当訓練をしていなければできない芸当である。ちょっと槍が使える高飛車お嬢様と思っていたが、どうやらそれは間違いだったようだ。

 エイミーは、自らの槍をグルングルンと巧みに回転させながら、徐々に間合いを詰めていく。

 一方のギンは、間合いを詰めるどころか、動いてすらいない。ただ剣を肩に担いで、不敵な笑みを浮かべている。それは、挑発とも取れる行為だ。


「舐めないで下さいまし!!」


 槍が前へと動く。

 言葉にしてみれば単純なものだが、実際のそれはそんな生易しいものではない。

 一瞬、本当に一瞬の一突き。何メートルもの間合いをエイミーは即座に詰め、そしてギンに向かって刃を放つ。そこには、微塵も迷いなどという言葉は存在していなかった。

 迷いのない攻撃。そういったものほど強く、そして崩れにくいものはないだろう。

 だがしかし、それも当たらなければ意味がない。


「いい一撃だ」


 声がしたのは、エイミーの前方。

 もっと詳しく言うのなら、エイミーの槍の上に片足で立っているギンのモノだった。


「こうやって人が乗っても動かず揺らがず崩れない腕の力に、体の姿勢。それに関しては評価しよう。だが、それでもお前さんは、俺には届かない」


 言うが早いか、その言葉に怒ったエイミーは、ギンを落とそうと振り払う。ギンはその動きに合わせながらひょいっと跳躍し、地面に足を付ける。

 エイミーはもう一度攻撃を仕掛けようと構えるのだが……。


「おい高飛車女!!」 


 ディストの一言によって、それは妨げられた。


「テメェ、さっきの一撃、俺にも当てる気だっただろ!!」

「うるさいですわね、男性がイチイチ小さい事を言わないで下さい。大体、貴方がわたくしの邪魔になっているのがいけないんですのよ」

「何が邪魔だ。槍を突くしかやってないくせに、偉そうな事言ってんじゃねぇぞ」

「なっ、貴方に言われたくありませんわ!! 先程からず~っと同じ攻撃ばかりして、そのくせ防がれてばかりじゃありませんの。学習能力がないというのは、きっと貴方のような人のことをいうのでしょうね」

「んだと、このクソ女!!」

「誰がクソですか、この野蛮人!!」


 ……何と言えばいいのだろうか。

 ディストの攻撃といい、エイミーの突きといい、その腕は確かなのはもう間違いないようだ。だがしかし、全くチームワークがまるでない。

 これでは、それぞれの良さを殺してしまっている。

などと考えていると、その隙を突くかのように、草陰の中から数本の矢がギンに狙いを定めて襲ってくる。


「ちっ!?」


 ギンはすかさず剣を振り、二本の屋を叩き落とす。しかし、それが全てではない。続けて無数の矢はブレず、そして勢いと止めずに直進してくる。

 露骨に嫌そうな顔をしながら、ギンはさらに後へと下がりながら降り注ぐ矢を回避していく。剣を振り、叩き落としては避け、叩き落としては避けの連続。

 やがて、矢は襲ってこなくなる。恐らく放ったとしても当たらないと分かったのだろう。弓兵にとって、無駄に矢を消耗するのはあまり良いことではない。何せ、剣士や槍兵と違って、弓兵は矢がなくなってしまうことは武器がなくなってしまうことと同等な意味を指すのだから。


(あの女……やってくれるじゃねぇか)


 どうやら、アルミスとかいう少女は、隙の突き方を心得ているらしい。

 無理なく、無駄なく、正確に。今のアルミスの攻撃は、正しくそれに準じた攻撃だ。

 アルミスの姿は、ここからでは見えない。恐らく、森のどこかに身を潜めているのだろう。矢の威力、それから角度から考えて、距離はざっと百メートルと言ったとこか。

 前線で戦う二人が戦っている最中、彼女がずっとギンが油断する時を待っていた。そして、先程の、たった一瞬の隙を彼女は見逃さななかった。

 などと考えてはみるものの、悪く言ってしまえば、二人を『囮』にしているというわけだ。

 弓兵としてその判断は間違っていない。弓兵というのは、敵から距離をとってから戦う遠距離型だ。そういった戦法を取るのは自然なこととも言える。

 しかし、それはギンが求めているものではなかった。


「おい。お前さん達」


 何だ!! 何ですのっ!? と言い争っていたディストとエイミーは同時にギンの言葉に返事をする。見事なシンクロだなぁ、と思いながら、ギンは呆れた口調で言い放つ。


「戦闘中におしゃべりとは随分と余裕のあることだな」


 テストが始まって、かれこれ二時間が経過しようとしている。にも関わらず、三人はギンに一撃も入れることができていない。それどころか、彼に触れてすらいないのだ。

 ギンの目の前にいる二人は、額に汗をかいている。息も少しだけだが荒れていた。もう二時間以上も手に武器を持ち、体を、神経を使っているのだ。疲れが出始めるのもうなずける。

 しかし、ギンはというと、彼らの攻撃を受けているというのに、その顔には一切の疲れを感じさせるものはなかった。汗は一つもかいておらず、呼吸も乱れていない。三人の攻撃を避け、受け止め、かわし続けているのにも関わらず、だ。何というスタミナだ、と三人は同じ感想を抱いただろう。


「この時期だと、夕暮れまであと二時間と少しってところだな。まぁ、痴話喧嘩なんて事をしてるんだ。それだけ勝算がある作戦でもあるのか?」


 その言葉に、苦悶するディストとエイミー。言い返したい、けれども言い返す言葉が見つからないと言わんばかりな表情である。

 ギンはちらり、と草陰を見る。相変わらず、草木が邪魔をしてアルミスの姿は見えない。だが、こちらが見えなくとも、アルミス自身はこちらの様子を見ているはずだ。


「まぁ、何はともあれ、この程度じゃあ話にならないな。このまま時間だけが過ぎていくのも何だし、もう降参しちまえば?」

「うるせぇ!! テメェにんな事言われる筋合いはねぇっつんだよ!!」

「そうですわ!! こんなところで諦めるわけには参りませんのよ!!」


 その言葉通り、彼らの目にはまだ戦いの意思はある。

 そうでなくては面白くない。

 こんなところで諦めてしまうとは、ギンも思っていない。そんな生半可な連中ならば、ギンもここまで付き合おうとは思わないのだ。

 実力は認めよう。

 だが、ギンが求めるのは違うものなのだ。

 ディスとは剣を握り、エイミーは先端をギンに向ける。

 戦闘続行。

 そうして、二人は同時に前へ足を踏み出した。

 その時である。


 バシッ!! 


 二人の足元に、一本の矢が突き刺さる。


「おわっ!?」

「なっ!?」


 唐突に現れた矢によって、二人の足はそこで止まる。

 一体何が起こったのか。それは、ギンにも分からない。この矢は恐らくアルミスのものだろう。ギンを狙ったものが外れたのか? いや、先程から見せている技量から察するにそんな初歩的なミスはしないだろう。

 では何故? と疑問に思っていると、ギンの視界に入ってきたのは、矢にくくり付いている紙だ。


「? 何だこれ」


 ディストも矢についていた紙に気づき、自らの手にとった。広げながらも、その中身を見ると彼の顔に変化が生じる。


「……おい、高飛車女」

「いい加減名前で呼んでくれませんの? それとも、もうお忘れなのですか?」

「んなことどうでもいい。それより、これ見ろ」


 見せつけるように、ディストはエルミーに紙を押し付けた。

 強引な言葉にエイミーはムッとなったが、開かれた紙を見た途端、彼女の顔にも変化があった。


「……これって」

「とりあえず行ってみるしかねぇだろ」

「おーい。何二人でコソコソ話してんだ?」

「なんでもねぇよ。それより、アンタ。オレらはちょっとここから離れるが、逃げるんじゃねぇぞ!!」


 は? というギンの言葉を聞く間もなく、ディストとエイミーの二人は、茂みの中を走っていった。彼らの姿が見えなくなるまで、それほど時間はかからなかった。

 一人残されたギン。一体何が起こったのか、彼には見当がついていた。


「作戦会議ってところかな……まぁ、そんなもんした所であいつらがどうにかなるとは思えんが」


 などと思いながらも、ギンはディストに言われたようにここで待つことにする。

 日没まで、あと一時間と五十分を切った。

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