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竜騎士団の問題児共  作者: 新嶋紀陽
20/24

19

「あら、おかえりなさい」


 そんな事を言いながら、小屋の前で三人を迎えたのはサラだった。


「何か成果はありました?」

「いや、それが全くなかった」

「流石にあそこまで壊滅状態ですと、何も残ってませんでしたから」

「そうですか……まぁ、あれだけ壊されていれば当然ですよね。あっ、そうだ。皆さん動いて疲れたでしょう? 今、丁度お茶を淹れようと思っていたんです。中に入ってちょっと待っててください」


 言われて、三人は小屋の中へと入っていった。そして、言われるがままにお茶が出てくるまでのんびりと待つことにした。

 何とものんきだなぁ、と思われるかもしれないが、それは彼らも同じ思いである。

 しかし、今の自分達にはこうやって待つことしかできない。自分勝手な性格である彼らからしてみれば、性分には合わないことではあるが、命令なので破るわけにはいかない。


(破るわけにはいかない、ね)


 自嘲気味にディストは笑う。聖騎士団にいた頃の自分は、自分を認めてもらうために独断行動が多かった。自分は兄とは違う。それを証明するために、命令違反などお構いなしだった。今、思えば、それはいつも比べ物にされる兄へと嫌がらせだったのかもしれない。

 だが、ここに来てからというもの、どうしてだかあの男の言うことに逆らうことはあまりないように思える。それは、あの男が自分より強いからだろう。

 しかし、果たしてそれだけだろうか。

 などと思っていると。


「はい、どうぞ」


 言われてディストは自分にお茶が出されている事に気がついた。


「ああ、頂く」


 そう言って、ディストはサラからお茶の入ったコップを受け取り、そしてそのまま口へと運ぼうとした時。


「ストップ」


 と、お茶を飲もうとしたディストの手をアルミスが止めた。

 それには、ディストだけでなく、エイミーも驚く。


「あ、あのアルミスさんどうかしましたか?」

「ディスト。そのお茶を飲まないで」

「あん? どうしてだよ」

「貴方が飲む前に、まず彼女に飲んでもらって」


 そう言って、ギロリ、とアルミスはサラを睨む。一方のサラはこの状況がどういうことか把握できていないため、困惑した顔になる。しかし、それはディストやエイミーも同じ。

 アルミスは一体どうしたというのだ?


「さっき、ディストに渡す前、こっそり何かを入れた。それは何?」

「な、何を言っているんですか? 私は、そんなものは入れてま……」

「嘘。弓兵である私の目は誤魔化せない。小さな白い粉のようなモノを入れていた。しかも、私達には見られないように」


 弓兵は目が命だ。視力が少しでも低い人間は弓兵にはなれない。そして、彼らは一点集中ではなく周りを見る洞察力が必要。

 アルミスは、一流の弓兵だ。故に、周りの些細な出来事もその目で見ているのだろう。


「嘘だというのなら、貴方がそれを飲んで」

「……、」


 真剣な眼で、アルミスはサラを見ていた。

 サラは何も言わず、ただ黙って下を俯く。


「サラさん?」

「どういうことだ、サラ」


 疑いを掛けられて、何も答えないサラにディストとエイミーは不審を抱いていく。

 黙ったまま答えないサラに、アルミスは追い討ちをかけるように質問をする。


「貴方は嘘をついている。昨日の団長の質問にも、そして今も」

「……それはどういう意味ですか?」


 アルミスの唐突な言葉にサラは質問で返す。


「貴方はこう言った。ドラゴンが村を襲っている所をずっと見ていた、と。けど、それはおかしい。ドラゴンに襲われているというのに、どうして『ずっと』見ていることができたの?」


 言われて、ディストは確かにと思う。

 襲われているのだから、そこは逃げるのが普通だろう。

 なのに、この少女はずっと見ていたという。逃げずにただ傍観していたと証言しているのだ。

 それは、おかしな話ではないか。

 三人の視線がサラに向かう。そしてそれは、疑いの視線であった。

 しかし、そんな三人を跳ね除けるかのように、サラはフフッと不敵に笑った。


「あーあ。これはダメですねぇ。どうやっても言い逃れができない状況です。やっぱり、慣れないことなんてするものじゃありませんね」


 その瞬間、サラの雰囲気が変わったのを三人は理解した。今まで隠していたものを一気に表へと出す、そんな感じである。


「それにしても、何とも抜け目ない人です。ディストさんは何にも気づかずさっさと飲もうとしていたというのに、貴方が気づくとは。流石は元黒騎士団で手柄を立てたアルミスさんですね」

「アルミスさんの事をご存知ですの?」

「ええ。もちろん。アルミスさんだけじゃありませんよ? ディストさんが元聖騎士団所属で現聖騎士団団長の弟であることや、エイミーさんが元白騎士団所属でこの国の五本指に入る大貴族、ベルモット家の第三息女だってことも知ってますよ」


 サラの口調は、当然だ、と言わんばかりなものであった。

 しかし、エイミーは呟く。


「どうして……」


 と。

 それに対し、サラはやれやれと言いたげな表情で首を左右に振る。


「どうして? そんなの決まってるじゃありませんか。殺しのターゲットの情報を収集することくらい、殺し屋としては当たり前でしょう?」

「殺し屋だと?」

「そう。貴方達を殺してくれと頼まれた殺し屋。とは言っても、私は案内人。ドラゴンに襲われた村の生き残り。そして、ドラゴンは山に住んでいるというガセ情報を貴方達に流して山へと向かわせる。そして、山で待ち伏せている私とは別の殺し屋が貴方達を殺す。それが筋書きだったのだけれど……あのギンって男が貴方達をここに置いていってしまうから、予定が狂ってしまい、おかげで私が貴方達を殺さねばならなくなりました」


 困り果てた顔で腕を組みながらサラは言う。

 そんなサラの姿に腹を立てたのか、ディストが毒づく。


「ハッ、毒殺とはまたセコイやり方だな、オイ」

「ええ。せこいやり方でなければ、貴方達は倒せませんから。言ったでしょう? 私は貴方達の事を調べたと。今の私では、貴方達三人を相手にすれば、恐らく負けるでしょう」

「では、降参すると?」

「まさか。言ったはずですよ? 『今』の私では、と」


 サラの言葉に、三人は各々の武器を持ち、臨戦態勢に入る。

 何かを仕掛けるつもりだ。


「ねぇ、アルミスさん」

「何?」

「貴方は私が嘘をついていたと言った。ええ、それは正しい。この村が襲われたのは一週間前ではなく、半年以上も前の話です。けれど、村が襲われている所をずっと見ていた、というのは本当なんですよ」


 サラは笑顔だった。

 笑顔で、彼女はさらりと告げる。


「だって、この村を壊滅させたのは、私なんですから」


 彼女は右手をゆらりと上げる。

 その腕には昨日、彼女が両親の形見だと言った腕輪が。


「《竜鱗の腕輪(レッドブレス)》」


 その言葉と同時に、腕輪が赤い眩い光を放つ。

 同時に、サラの体に変化が生じる。

 バギゴギッ!! と何やらとてつもなく嫌な音が彼女の体から聞こえる。その皮膚は何やら赤い鱗のようなモノへと変わっていく。そして、何よりも彼女の体そのものがどんどんと膨れ上がっていくのは三人の目の錯覚ではないようだ。

 呆気に取られる三人であったが、ここでディストがあることに気づく。


「おい……この小屋ヤバイんじゃないか?」

「ええ、多分……このままだと」

「……退避」


 その瞬間、三人は小屋の外へと避難した。と同時に、小屋が崩れ中から巨大な生物が姿を現す。

 その生き物は、赤い……いや紅かった。

 巨大な四肢。敵を一撃で切り裂く爪。獲物を噛み砕く鋭い牙。どんなモノも弾き返す頑丈そうな鱗。背中には折りたたまれた翼。そして、全てのものを射抜くような眼。

 それら全てを見て、三人は認識する。

 目の前にいる異形の存在は、小さい頃に呼んだ絵本でしか存在しないはずのドラゴンであると。

 圧倒的な威圧感と存在感。その前では、人間などアリのような存在に思えてしまう。

 ここに来るまで、ディストはドラゴンの話を何度か聞いた。そして、いるとも分かっていた。

 けれども、こうして目の前に現れたことで、改めて思う。

 ドラゴンは存在したのだ、と。


「ふぅ……この姿になるのは、半年ぶりになりますね」


 ドラゴンの声は、サラのものだった。やはり、あれの元はサラなのだろう。しかし、そう思えない程、今の彼女は変化してしまっている。


「しかし、毎回のことですが、変身すると少々体に激痛が走るのは嫌ですね。服も破けてしますし、正直この姿にはなりたくありませんでした」


 などと愚痴を言うサラ。それは、彼女が余裕である証拠でもあった。

 だが、三人はどうだろうか。

 目の前にいる敵に対し、硬直してしまっている。初めて出会う異形の物に、恐れを感じている。

 情けない、と思うかもしれないがこんなものを前にして恐怖を感じない奴などいるのだろうか?

 だが、そんな状況下でもディストはドラゴンに質問を投げかける。


「おい、テメェ……この村を壊滅させたのは自分だって言ったな。そりゃどういうことだよ」

「そのままの意味ですよ。半年前、私はこの姿でスリラーンを襲ったんです。それはもう徹底的に壊滅させる程に」

「何故、そんなことを……」


 アルミスの問いに、サラは


「何故? 何故ですって? それは決まっていますよ……復讐です」


 突然と、声のトーンが下がる。

 それは、憎しみや恨みが募った、そんな声に聞こえた。


「私がスリラーンの村の人間だというのは本当です。半年前まで、私は両親と共にこの村に住んでいました。けれど、村人達が私達からある物を奪おうとして、私の両親は殺されました」

「ある物って、まさかさっきの腕輪?」

「ええ、そうですよ。この腕輪は所有者をドラゴンに変身させる力を持っています。貴方達も魔装と呼ばれるものが存在するのはご存知でしょう? これは、その一つです」


 所有者に特殊な力を与える存在。それが魔装だ。

 サラの持っていた魔装は、どうやら所有者をドラゴンに変える力を持っていたらしい。


「魔装は希少な物。それ一つで国が買えると言われる程に。その価値に気づいた村人達は私達を襲い始めました。《竜鱗の腕輪(レッドブレス)》は私達家族の家宝。それを守るために、両親は殺されました。私の目の前でね」

「……、」


 誰も何も言葉を発しない。発せれない。

 そんな話を聞かされて、一体何を言えば良いのだろうか?

 サラの独壇場は続く。


「最初は目を疑いましたよ。昨日まであんなに仲が良かったのに、今日になって自分達を殺そうとしていた。そんな気持ち、貴方達に分かります?」


 信じていたものに裏切られる。そんな気持ちなど、元々他人を信じることをしてこなかった三人には分かるわけがなかった。


「村人たちは口封じのために私も殺そうとしました。恐怖のあまり、私は腕輪の力を使ってこの姿になり、村人達を皆殺しにしました」


 淡々と話を続けるサラ。

 だが、その声には確かに怒りのようなものを感じ取れる。


「奴らは村の安泰のためだの何だのほざいていましたが、結局は自分達が幸せになりたかった。だったら、私が復讐をするのも何の問題もないでしょう?」


 ふさけた考え方だが、三人に彼女の意見を否定することはできない。

 自分の両親を目の前で殺された。その事実を覆す程の言葉をディスト達は持っていなかった。


「……テメェがこの村を襲った理由は分かった。それに文句は言わねぇ。だが、俺達を殺す理由は何だ? 誰の指示だ!?」

「おかしな事を言いますね。殺し屋にそんなことを聞いて素直に答えるとでも?」


 サラの正しい意見に、ディストは反論できない。


「けどまぁ、本当の事を言うと私も依頼人がどういった理由で貴方達を殺そうとしているのかは知りません。正直、興味もありませんから。けれど、ディストさんやエイミーさんは身の上からして、殺される理由は色々とあると思いますけど?」


 聖騎士団団長の弟。国屈指の大貴族の娘。

 この二つに関しえいえば、それだけで十分に命を狙われる理由はある。

 しかし、だ。

 命を狙われる理由があったとして、はいそうですか、と素直に自分の命を差し出す程、潔い性格な人間はここにはいない。

 三人は武器を構える。


「あら? もしかして戦うつもりですか? この状況で? この場面で?」


 何とも馬鹿にした口調。しかし、今のサラにはそれを口にするだけの力があった。

 まともに戦えば、負けるのは必至。

 しかしだ。今の彼らに逃げるという選択肢はない。この巨大な生物から逃げられるとは到底思えない。ならば、彼らが生き残る方法は一つしかないではないか。


「……おい、高飛車女に無口女」


 言われて、二人はディストを見た。


「逃げてもいいんだぞ?」


 その言葉は、遠まわしにこういう意味だったのだろう。

 ここは任せてお前達はさっさと逃げろ、と

 戦えば死ぬ確率はとてつもなく高い。ならば、一人を残して二人は逃げる。そういう作戦はなくはない。いや、むしろこの場面でならそれが最良なのかもしれない。

 しかし、だ。

 エイミーとアルミスはディストの提案を跳ね除ける。


「何を言い出すのかと思えば、そんな下らない事……こういう場合、もっとマシな言葉は出てこないんですの?」

「全く」


 ひどい言われようだ。

 二人の言葉に、ディストは反論する。


「何だよその言い方。っつか、十分にマシな言葉だっただろうが」

「黙りなさい。わたくしは仲間を見捨てて逃げる程、弱くもありませんし、落ちぶれてもいませんわ」

「私達は仲間。皆で生き残る。でないと意味がない」


 言われて、ディストは一瞬目を丸くした。

 仲間、と二人は言ったのだ。

 このどうしようもない自分に対して。常に俺様で自信過剰なディストに対して。

 仲間だと言ってくれた。

 生き残ろうと言ってくれた


「……ハッ、言うじゃねぇか」


 微笑するディスト。

 目の前にはドラゴンという巨大な敵。圧倒的な力を持っているのは歴然。

 しかし、ディスト・ジャッジという少年は、笑う事ができたのだ。


「エイミー、アルミス」


 それは。

 それは、初めてディストが彼女達の名前を呼んだ瞬間でもあり、そして彼らを仲間だと認識した瞬間でもあった。

 名前を初めて呼ばれたためか、二人は少々驚いている。そんな彼女たちにディストは一言。


「行くぞ」


 もう他に何も言葉はいらない。

 たったそれだけの一言で、彼らの戦闘は始まる。




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