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今日は早めに投降します。
また短めです。
とまあ、そんな具合で死んでしまう程、ギンの体はやわではなかった。
何せ、左腕を切断されても生きているような生命力溢れる男だ。そう簡単に死ぬわけがないのである。
着地の時に、かなりの衝撃が走ったがしかし何とか死なずには済んだ。
「……ホント、ギンって凄いわよねー」
戦いを一部始終見守っていたユーラの感想はその一言に尽きた。その顔はどこか馬鹿にしていたというか、呆れていたというか……しかし、ギン自身も同感なので、何も言わなかった。
暗殺者達を一通り縛り付け、捕縛することには成功した。
そして、ギンはふぅ、とため息を吐く。
「……それにしても、お前さん、ホント人間じゃあねぇな」
などと少々呆れた口調でギンはマドラに向かって言う。
「あの距離で『絶空』喰らって生きてるなんて……ホント、あり得ないわ」
「それを言うならおまえもだろう? あんな高さから落ちてよく平気でいられるな。普通だったら死んでいるぞ」
「俺をそこらのボンクラと一緒にするな……まぁ、互いに人間離れしてるってことから見れば、確かに俺もお前さんの事を言える義理はねぇな」
ギンは苦笑しながら、己の人間離れっぷりにほとほと呆れる。そのおかげで、色々と今まで助かってきたのだ。悪いことは言えない。
マドラも拘束はしたものの、かなりの傷を負っている。死んではいないといっても、『風ノ咆哮』をまともに受けたのは事実。体に蓄積されたダメージから考えて数時間はまともに動くことはできないだろう。
「さて……ギン、これからどうする?」
そう口走ったのはユーラである。
これからどうするか。確かに、それは色々と考えなければならない議題だ。自分達はドラゴンを退治しに来たのだから、任務に準じるならこのままドラゴン退治へと山頂へ向かうが、状況が状況だ。そんなことも言ってられない。
「取り敢えず、一旦サラの所の小屋に戻るとするぞ。あいつらにも説明しなきゃならねぇこともあるし、それに」
「それに?」
「聞かなきゃならないこともあるからな。こいつらだけでなく、お前からも」
ギロリ、とユーラを睨むギン。ユーラはアハハハ、と苦笑いをするだけだった。
そうして、彼らは暗殺者達を連れて、小屋へ帰ろうとする。
「んじゃあ、とっと歩いてもらおうかお前さん達」
「チッ、こんな格好悪い姿になるとはな……。やっぱり他人に作戦を任せたのが間違いだったか。まぁ、楽しめたのならそれで良しとするか」
「?」
ギンはその言葉を聞いて、顔を顰める。
他人に作戦を任せたのが間違い……?
そう言えば、気になる事を聞くのを忘れていた。
「おい、お前さん。そういや、どうやって俺達がここに来るって分かったんだ?」
「っというか、そもそもよくこんな所で隠れてたわよね? ドラゴンが来たらどうするつもりだったの?」
ユーラの疑問も尤もだった。
ここはドラゴンが住み着いている山。いつドラゴンに襲われるか分からない。にも関わらず、ここでギン達を待ち伏せていたのには、一体どういう訳があるのだろうか?
しかし、ギン達の問いにマドラは「はぁ?」という声を上げた。
「お前さん達が来るのを知ったのは依頼人からここに来るよう手配すると言われただけだ……それよりも、ドラゴンって何だよ。そんなモンいるわけねぇだろうが」
その言葉に、ギンとユーラは顔を見合わせる。
互いに、どういうことだ? と視線で言い合った。
そして、ユーラは再びマドラに質問をする。
「ドラゴンがここに住んでいるの、知らないの?」
「知らないも何も、そんなモンいるわけないだろうが。大体、俺達がこの山を探索した時だって、そんな生き物はいなかったぞ」
マドラの言葉は、ギン達をさらに混乱させていく。
彼が嘘をついている、という可能性は低いだろう。そんな事をした所でなんにもメリットがない。そもそもにして、彼からは嘘をついているような感じが全くない。
本当の事をありのままに話しているだけだ。
「ねぇ、アナタ達がこの山を探索したのっていつのこと?」
「あぁ? 確か……一週間前くらいだが? 先に誰かいたら色々とまずいからな。ここに来てからすぐさまやった」
それは、ますますおかしい。
確か、サラの話ではドラゴンが村を襲って山に住み着いたのも一週間程前の話。だとすれば、山を探索したマドラ達と遭遇しているはずなのだ。
一体全体どうなっているんだ?
「ギン、これって……」
「分からん。だが、どうやらこいつらを雇っていた人物っていうのは騎士団内部の人間、もしくはそれを操れる者だろう。だとすれば、依頼そのものがガセだっていう事も十分に有りうる。俺達をここにおびき寄せてこいつらに俺達を殺させるためにな」
「そうよねー……。ねぇ、そこら辺どうなのよ? 何か聞いてない?」
「知るかよ。何度も言うようだが、俺にとっては強い奴と戦えればそれでいい。殺せれば尚いい。仕事の事なんて、金と相手の強さの事以外は興味がねぇ」
うわー、コイツ本当に戦闘狂だなぁ、心の中で呟くギン。どうしてこんな奴に勝てたのだろう、とちょっと疑問に思ってしまう。
「とにかく、だ。何度も言うようだが、一度村に戻って情報を整理するぞ」
「そうね。ここにいても埒が明かないし、そうしましょうか」
と、今度こそ三人が待っている小屋へと帰ろうとするが……。
「なぁ、さっきからおまえらが言っている村ってスリラーンのことか?」
マドラの一言により、その足は再び止められる。
「ああ、そうだ。とは言っても、今俺達が使わせて貰ってるのは、その近くにある小屋だがな。知っていると思うが、スリラーンは一週間程前、そのドラゴンに……」
あれ? とギンは自分の言葉に不思議な矛盾点を見つける。
先程、ギンはこの依頼はガセネタかもしれないと言った。そして、マドラの証言やこの状況からしてそれはほぼ間違いがないだろう。
だがしかし、それでは話が食い違ってしまう。
一週間程前、スリラーンという村がドラゴンによって滅ぼされた。その情報をギンが手に入れたのは……。
そんな事を考えるギンに、マドラはさらに追求する。
「おいおい、何言ってんだ? スリラーンが壊滅したのは半年以上も前の話だぞ?」
その言葉が嘘かどうか。そんなことを一々確認している場合ではなかった。
ギンは思考する。
マドラの言っていることが全て事実だとしたら、ギンの情報には間違いが存在する。
ドラゴンがいないという状況。スリラーンが壊滅した時期の違い。そして、それらを見たという『少女』。
それらを照らし合わした時、出てくる答え。
そうして、ギンは気づく。
ああ、これはあれだ。完全にやられた。
「……ユーラ。こいつらの事はお前に任せる」
「了解」
ユーラも事の次第に気づいたのだろう。何も聞かず、ギンの我が儘にただ了承してくれた。
ギンは、地面を蹴り、そして駆ける。今自分が出せるだけの速さで全力疾走する。そうでもしなければ、間に合わないかもしれない。
今、この状況を端的且つ的確に一言でまとめるとしたら……。
あの三人が危ない。




