12
スリラーンは、森に囲まれた小さな村だ。近くには大きな山があり、ドラゴンはそこに住み着いているという。
取り敢えず、ドラゴンの情報を得るためにギン達はスリラーンの村へと足を運ばせたのだが。
「……、」
誰も一言も発しない。
それはそうだ。
何せ、スリラーンの村があると言われていた場所に行ってみれば、そこにあったのはただの村の残骸。辺り一面焼け焦げた跡があり、家と呼べる物は一つとして存在していなかった。
壊滅。
その言葉が今のこの状況にぴったりな一言だった。
「随分とまぁやられてるな」
「ひどいですわね……まさか、ここまでとは」
エイミーと同様な事を思ったのは他にもいるだろう。
だが、ギンはある程度予想はしていたことである。
相手はドラゴン。竜騎士団を全滅させた程の実力を持っているのだとしたら、これくらいの村など消し炭にすることは容易い。
だが、予想はしていても、それを実際見るとなると、やはりこみ上げくるものはある。
「この有様だと、残ってる人はいなさそうねー。まぁ、無理もないか。ドラゴンが襲ってきたんですもの。そりゃあ、逃げたくもなるわね。どうする、ギン?」
「どうするも何も、この状況じゃあな……取り敢えず、休める所を探すぞ。これからどうするかは、それから……」
ばきっ。
「誰だ!?」
突然の物音に、ギンはすかさず反応する。それと同じくして、ディスト達もギンが振り返った方向を一斉に見た。
そこにいたのは、一人の少女。
真っ赤な髪。それはまるで炎のようだ。触れば火傷をするかもしれないと思うほどに。
赤髪の少女は、ギン達を見ながらおどおどとした口調で質問を投げかけてきた。
「あなた達……誰?」
その当然とも言える疑問に、ギンは答える。
「あー……驚かせてすまない。俺達は、騎士団の人間だ」
「騎士団の……?」
「そう。お前さんはこの村の人間か?」
「はい……サラと言います」
ペコリ、とお辞儀をする彼女に、ギンも釣られてお辞儀を返す。
「あなた達は……まさか、あのドラゴンを退治しに来たんですか?」
「ドラゴンの事を知ってますの?」
エイミーの言葉に、サラは「ええ」と答える。
「わたしはドラゴンが村を襲っている所をずっと見てましたから……あのドラゴンが、村に火を吐く所をも。村の人たちを襲うところも」
顔を伏せながら言うサラ。
「サラ。こんな時に何だが、その時の事をもっと詳しく聞かせてくれないか?」
「それは、構いませんが……本当に退治しに行くつもりなんですか?」
「まぁ、それがオレ達の仕事だからな」
と、生意気な事を言い出すディスト。だがしかし、彼の言う通り、それが自分達の仕事であり、任務である。
そんな彼を見てか、サラは「分かりました」と言いながら、手招きする。
「近くに私が住んでいる小屋があります。話はそこでしましょう」
サラの言葉に従って、一行は小屋へと向かった。
*
ギン達が連れてこられたのは、古臭い小屋だった。人一人が住むには十分な広さを持っているが、さすがに六人にもなると、狭く感じられた。
サラの話を掻い摘んでみると、ドラゴンがこのスリラーンへとやってきたのはかれこれ一週間程前の話らしい。
その時は夜で、村の人々は眠りについていたためにドラゴンがやってきたのを感知するのに遅れたそうだ。いや、ドラゴンという夢物語の生物が忽然と姿を現すなどということは、誰にも予測できないだろう。
ドラゴンは口から炎を吐き、村に火を放ったと言う。そして、家から出てきた人間を次々と襲い、中には食われた者もいたそうだ。ドラゴンに食われるなんて、想像しただけでも吐き気がしてしまう。
ドラゴンは村を荒らし、壊し、崩し、滅茶苦茶にした後、その大きな翼を使って空を飛び、山へと去っていったそうだ。
「ドラゴンが去った後、残った村人は半数もいませんでした。残った村人達はドラゴンに恐怖し、皆この村から逃げていってしまいました。残っているのは、もうわたし一人だけです」
「なるほどな……しかし、どうしてお前さんはここに残ったんだ?」
「わたしには村の外に知り合いはいませんから、行くところがなくて……両親も半年前に死んでしまいまして……わたしにはここしかないんですよ」
苦笑するサラに、ギンは申し訳なさそうな顔で謝罪する。
「すまん。嫌な事を聞いたな」
「いえ、良いんですよ。両親が死んでも、わたしにはこれがありますから」
そう言いながらサラが見せてきたのは、腕輪だった。
「それは?」
と尋ねたのはエイミーであった。
「両親の形見です。これがあれば両親が見てくれていうような気がして」
そう言いながら、サラは大事そうに腕輪を抱える
「……なぁ、サラ」
「はい、何でしょう」
「村を襲ってきたドラゴンはどんな色だった?」
ギンの質問に、一同は疑問に思う。
ドラゴンの事を訊くのは当然のことだ。しかし、大きさや体格ではなく、色というのはどうもしっくりこない質問だった。
首を傾げながら、サラは答える。
「夜だったので、よくは見えませんでしたけど……恐らく赤だと思います」
赤、か……。そう呟くギンの姿は、どこか落胆しているように見えた。
「あの……何度も訊くようですが、本当にあのドラゴンを退治しに行くつもりなんですか?」
「そのつもりだ」
「この人数だけで?」
サラの疑問は尤もなものだろう。
ドラゴン。数年前まで空想上の産物とまで思われていたその存在は、想像以上の脅威となってギンの前へと立ちはだかった。結果は竜騎士団の壊滅。その事実をギンは今でも忘れておらず、胸に刻んである。
そして、それ故に。
「いや、俺とユーラの二人だけだ。後は残って待機だ」
彼は唐突にそんなことを言い出した。
「な、何を言っていますの!?」
ギンの言葉にいち早く反応したのはエイミーだった。しかし、驚いているのは彼女だけではない。他の二人も目を丸くしてギンを見ていた。
「団長もあの惨状を見たでしょう!? あれ程の力を持っている魔物に団長とユーラさんだけで倒せるとお思いですの!?」
「さぁ? それは、行ってみないと分からないな」
「さぁって……貴方ねぇ!!」
エイミーは、机を叩きながら立ち上がった。
「そんな倒せるかどうか分からない相手にたった二人で飛び込んでいった所で、やられるのがオチですわ!!」
「んじゃ訊くが、何かいい手でもあるっていうのか?」
「少なくとも、人数を減らすよりは大人数で行った方がより勝率は上がりますわ」
その言葉を聞いて、ギンははぁ、とため息を吐く。
「あのなぁ、エイミー。今回の敵はお前さんが戦ってきたどんな魔物よりも強い。それは俺が断言してやる。ドラゴンってのは本当に強敵だ」
「でしたら尚更、大勢で協力し合うべきじゃないのですか!!」
「協力、ねぇ……それが今のお前さん達にできるか?」
ギンの言葉に、エイミーは狼狽える。
そこを突くかのように、ギンはどんどんと口を動かす。
「この村に来るまでの戦闘を見させてもらった。ああ、確かにお前さん達は以前よりも協力しあう戦い方をしている。けどな、未だにズレがある。この前のウルフェン戦でもお前さんとディストとの間には隙がちらほらと見えていた。通常の魔物ならいざ知らず、相手はドラゴン。一瞬の隙を与えてしまえば、確実に殺される。これは予想や予測じゃねぇ。実際に戦った俺の経験だ」
二年前、ギンが所属していた竜騎士団はかなりの実力を持っていた。もちろん、チームワークだって現在の竜騎士団より遥かにあった。
しかし、そんな竜騎士団が全滅したのだ。
ならば、未だにバラバラな協力関係である三人を連れて行った所で結果は見えている。
「流石の俺でも、今回ばかりはお前さん達を護りながら戦うのは至難の技なんだよ」
「……わたくし達が足でまといと言いたいんですの?」
真っ直ぐと自分を見つめてくるエイミーに、ギンもまた真正面から向き合い答える。
「ああ、そういうことだ。邪魔と言っても過言じゃねぇな」
それだけだった。
その一言を聞いて、エイミーはギンから視線を逸らし、「分かりました」と言って小屋の入口へと足を運ばせる。
「おい、高飛車女、どこへ……」
「……ちょっと外で風に当たってきます」
それだけ言い残すと、エイミーはそのまま外へと出て行った。
ディストやアルミスは不満げな顔でギンを睨む。
しかし、ギンはその後もサラからドラゴンの詳細を聞くだけで、彼らの睨みに関して、そしてエイミーのことも何も言わなかった。




