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竜騎士団の問題児共  作者: 新嶋紀陽
12/24

11

※短めです

 その日は野宿することになった。

 好都合なことに、森の中には洞窟があった。中には野生の動物も魔物もいなかったため、彼らはそこで一晩過ごすことになった。

 月が天に登った深夜。

 ギンは一人、見張りをしていた。

 洞窟の出口付近にて、ギンは座ったまま月を眺めながら今日の事を思い出していた。

 ディストとエイミー。彼らは顔を合わせる度に、喧嘩をしている。もう一週間以上経つというのに、一向に止む気配はない。喧嘩をする程仲が良い、という言葉があるが、正直近くで喧嘩をされる身にしてはいい迷惑だ。多分、それはギンよりもアルミスが一番分かっているだろう。

 などと考えていると。


「……おい」


 不意に声を掛けてきたのは、ディストだった。

 噂をすれば何とやら、とはこの事だろう。


「何だ、ディスト。眠れないのか? まさか、その歳で子守唄でも歌ってほしいとか?」

「うるせぇ。んな事誰が言うかよ」

「じゃあ、何だ?」

「いや、その……昼間は悪かったな。嫌なこと聞いて」


 突然の一言に、首を傾げるギン。

 こいつが謝るとか、一体全体どうしたことだろうか。


「気にしちゃいねぇよ。そんな事より、お前さんにちょっと言いたい事があるんだが」

「何だよ」

「お前さんとエイミーは、どうしてあんなにも仲が悪いんだ? いや、別に仲良くしろって言ってるわけじゃあないが……こう毎日のように口喧嘩されちまったら、な」

「仕方ねぇだろ。アイツの方から喧嘩吹っかけてくるんだからよ。アイツ、一々言う事が高慢すぎなんだよ。人のこと見下したような言い方しやがって……」


 あー……それは分かる。確かにあの高慢少女は、そう言った口調が多い。お嬢様ならでは、というか板に付いているというか。ディストが嫌っている理由も分からなくはない。いや、むしろ理解できる。


「けどよ、お前さんとエイミーは何だかんだ言っても戦闘中は息が合ってんだよなぁ。今日だって、二人の息はぴったりだったじゃねぇか」

「戦闘中はまぁ、確かに……アイツは実力あるし、一緒に戦っててやりやすいし、なんつーか、こう、後ろを任せられるっていうか……」

「安心して戦える?」

「まぁ……そういうことだな」


 頭を掻きながら、ディストは言う。

 そんな彼を横目で見ながら、ギンは呟く。


「おかしな話だな。戦闘中はあんたにもお似合いな二人なくせに、どうしてそこまで互いに嫌ってるのかねぇ」

「別に嫌ってるわけじゃねぇよ」


 その言葉は、予想外だった。

 彼の性格上、もっと罵ったり、悪口を言うと思っていたのだが。


「確かに、口は悪いし、高慢で頭にくる奴だけどよ……別に嫌っちゃいねぇよ」

「へぇ~」

「な、何だよ」

「いや~、意外だなぁっと思ってな。お前さんからそんな言葉を聞くとは思ってなかったんでなぁ」


 語尾を伸ばすその口調は、どこかイラっとするものがあった。

 しかし、そんなギンにツッコミを入れることなく、ディストは続ける。


「俺がアイツの……クロードの弟だって事は知ってるよな」

「ん? まぁな」

「クロードは……兄貴は優秀であり、天才だ。それは誰から見てもそうだ。故に、アイツは聖騎士団の団長になれた」


 クロード・ジャッジ。

 成績優秀、容姿端麗、さらには戦闘においても天才的な実力を持つ彼は、歳若くして団長になれた。その才能はまさに天から与えられたものだと人々は良い、『天剣』の異名を持つほどの有名な人物だ。

 その名は国中の人間が知っており、今では憧れの的なのだ。


「小さい頃から、アイツは天才だった。それに比べて、俺は凡人よりもちょっと出来がいいだけのボンクラだった。いつもいつも、アイツと比べられた。クロードはあんなにもできるのに、どうしてお前はできないんだってな。その度に言われたよ。やっぱり母親が違うと才能も違うのかって」

「母親が、違う?」


 何だそれは初耳だ。

 そんな感想を表情に出していたのか、ディストはギンの顔を見ながら苦笑する。


「そりゃ知らねぇよな。何せ家族とうちの使用人くらいしか知らないことだからな。けどま、これが事実なんだわ。俺の母親は親父が外で作った女で、俺を親父に預けてどこかへ逃げたんだと」

「……そうか」

「別に母親に恨みがあるとか、そういうわけじゃねぇ。でもな、陰口とか叩かれるのは嫌だったから、俺は必死に努力した。そのおかげで、俺は強くなった。優秀と呼ばれるほど、強くなった。けどな、アイツは……兄貴はその遥か先にいた」


 ギンは思う。ディストは強い。これは世辞ではなく、本心だった。戦闘に対する実力は確かなものだ。それは、彼の戦いを見れば明らかである。

 けれども、そんなディストでもクロードには遠く及ばなかった。


「強くなったオレには、女どもがわんさか寄ってきた。けど、それはオレに惹かれたからじゃない。オレがクロード・ジャッジの弟だからだ。オレに取り入れば、兄貴に会えるからな。そういう女をオレは山のように見てきた。この前のセリアとか言う奴だって、オレの名前を聞いた途端、目の色変えていた。全く、女ってやつはどいつもこいつも同じなんだと改めて思った」


 呆れたように言うディストの言葉は、どこか寂しげな物も混じっていた。それは、自分ではなく、兄しか見ない女たちに絶望したためか。


「……けどな、あの高飛車女は……エイミーは違った。オレに付け入ろうとするどころか、逆に罵ってきやがった。口は悪くて、高飛車で、事あるごとにケチをつけてきやがって、本当にいけ好かない奴だけどよ……アイツはクロード・ジャッジの弟ではなく、ディスト・ジャッジとしてのオレを見てるんだ」


 今まで散々兄と比較されてきたディスト。

 彼にとって見れば、近づく女は全てクロードが目当てであり、自分など眼中にない。そんな人生を歩んできた彼に、自分を見てくれる人物が現れた。

 それが嬉しいと思わない人間などいないだろう。


「なるほどな。つまりは、お前さんは自分を見てくれるエイミーが好きだと。そういうことか」

「っ!? だ、誰がんなこと言った!? オレは別にそういう意味で言ったわけじゃねぇ!!」

「はいはい、もういいからさっさと寝ろ、照れ屋さん」

「誰が照れ屋だ、誰が!! ……もういい、寝る」


 ぶっきらぼうに言いながら、ディストは洞窟の中へと戻っていった。

 そんな彼を見ながら、不敵にふてぶてしくギンは笑っていた。

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