表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜騎士団の問題児共  作者: 新嶋紀陽
11/24

10

 スリラーンという村に、ドラゴンが出たという事件があった。

 そのドラゴンは、村を襲い、村にいる半数以上の人間を殺戮した。そして、壊すだけ壊した後は村の近くにある山にいるという。

 今回の依頼は、そのドラゴンを退治するといったものだった。


『今回の任務は危険じゃ。何せ、相手が相手じゃからのう。流石の其方も命の保証はない。よって、竜騎士団に一人、助っ人を用意させよう。何、安心せい。其方もよく知っておる人物じゃ』


 そう言われて、三日が経った。

 ギン達竜騎士団一同は、スリラーンの町を目指して歩いていた。

 そんな中、ギンは眉を顰めながら、呟いていた。


「……確かに、今回の任務は危険だ。より万全の準備はしておかなくてはならない。人数不足を指摘されても、それは仕方がない。だから、助っ人の事も断らなかったが……」


 ビシッと指を差しながら、ギンは叫ぶ。


「何でよりにもよって、テメェなんだよ!!」

「なによー。別にいいじゃない。ワタシが居ると何かもんでいでもあるのー?」


 女口調ではあるが、そこにいるのは男だった。

 結論を言うと、助っ人とやらはユーラだったのだ。


「大アリだ。っつか、何で黒騎士団のテメェが助っ人なんだよ。もっとマシな奴はいなかったのか」

「やーねー、人付き合いの悪いギンの知り合いでそれも物凄く強い人材という条件が揃っているのはワタシぐらいでしょう?」


 言われて、言葉が詰まるギン。否定したいが、本当のことなので何も反論することができない。

 自分の人付き合いのなさに、ギンは今更ながら後悔していた。

 そんな二人の後ろを歩いている三人は、聞こえないように、ヒソヒソと話をしていた。


「……おい、大丈夫かよ、あんな奴で」

「ちょっと心配ですわね……」


 ディストとエイミーは不安げな言葉を零す。

 しかし、アルミスは


「大丈夫。あの人は強い」

「やけに自信有りげだな、無口女」

「そう言えば、アルミスさんは黒騎士団でしたわね。一つ質問なのですけど、あの方はどれくらい強いのですか?」

「とっても強い。黒騎士団では副団長を務めてる」

「へぇ、副団長ねぇ……って、何っ!? 副団長!?」


 驚きの新事実に目を丸くするディスト。

 あんなのが副団長だなんて……と言葉にしなくても、今の彼の顔を見れば一発で分かる。人は見かけによらないとは、まさにこの事だ。


「しかし……今時ドラゴンだなんて、信じられませんわ」


 ふと、エイミーはそんなことを呟いた。

 そんな彼女に、ギンは苦笑して答える。


「まぁ、魔法やら魔力が人間社会からなくなって、数百年。そういった魔物もすでにお伽噺の中にしか存在しないと思われてからな……二年前までは」


 この世界には、魔法が存在していた。

 していた、という過去形から分かるように、今ではそんなものは存在しない。しかし、昔は人間は魔法で栄えていたという。

 しかし、数百年前に現れたとある魔法使いを倒すために、人間は魔法を捨てたという。故に、今では誰も魔法は使えない。

 例外として、『魔装』という物が存在する。所有者に特殊な力を与える物で、騎士団長がそれぞれ所持している鎧がそれに当たる。だが、それとて数はごく僅か。ナイトメアには四つの鎧……つまりは『魔装』があるが、それとて多い方である。

 魔法がなくなり、そして同じような不思議な存在、ドラゴンも存在していたもの……過去のモノにされていたのだ。

 あの事件があるまでは。


「……なぁ」

「ん? 何だ」

「ドラゴンってのは、どれだけ強いんだ?」


 ディストの問いは、三人全員の疑問でもあった。

 ドラゴンというのは、夢物語、お伽噺だけの存在と思ってきた彼らは、その強さが如何なるものなのかは全く把握できなかった。

 その質問に対し、ギンは。


「前の竜騎士団が全滅して、俺が左腕を失うくらいは、な」


 それ以上は、何も言わなかった。

 そして、三人もまたそれ以上は聞くことはなかった。いや、できなかった。

 その横顔が、あまりにも哀しそうだったから。

 そんなギンをユーラは一人、なにも言わずギンを見つめていた。


 *


 魔法はこの世界からなくなったが、しかしそれでもこの世には人間に害をなす不思議なモノがいる。動物よりも遥かに獰猛で凶暴。そして、人が理解できる範疇を超えた異常で異様な力を持っており、魔法が使えなくなった今の人間にとって、脅威とも言える存在。

 すなわち、魔物だ。


「はぁ!!」

「てりゃあ!!」


 剣が振り下ろされ、血飛沫が飛び交う。

 槍が突き出され、肉が切り裂かれる。

 矢が降り注がれ、急所に命中していく。

 とある森の中で、ディスト、エイミー、アルミスの三人は魔物と戦闘していた。

三人が相手にしているのは、ウルフェンと呼ばれる魔物だ。姿形は狼にそっくりであるが、その牙や爪は通常の狼よりも遥かに鋭いのが特徴。

 その数はざっと見積もって十五、六。

 戦闘もできない普通の人間であれば、確実に殺されている状況なのだが、しかして現状はこちらが断然有利であった。

 前衛で戦う二人に、後衛でアルミスがそれを援護する。とても在り来りではあるが、良くできた陣形であった。

 一方、ギンやユーラはというと、そんな彼らを他所に高みの見物と洒落こんでいた。


「あら、結構やるじゃない、あの三人。陣形を崩さずに良く動けてるわ」

「そうかー? 俺にはよくあるパターンとしか思えないけどな。あれだと、相手に先を読まれて対処されちまう。魔物相手ならまだいいが、相手が人間となると使えないな」

「あら、結構辛口な評価ね」

「甘い評価をするよりは、辛い評価をする方がいいだろう?」


 それもそうね、とギンの言葉にユーラは肯定する。


「……なぁ、一つ聞きたいことがあるんだが」

「あら、ギンがワタシに質問? もしかして、今日の下着は何色とか……」

「この前、アイツ等を試していた時に妙な連中が見てやがったんだ」


 あら、スルーするのね……と呟きながら、ユーラはギンの質問に答える。


「まぁ、いいわ。で? アナタが気になるのは、そいつらが誰かってこと?」

「それもある。だが、何故アイツ等を狙ってきたのか……狙っていたのは三人全員なのか、または一人だけなのか……それが気になってな」


 あの暗殺者達が何者なのかは、あの後調べてみても分からなかった。そのため、自分よりは情報を持っているであろうユーラに訪ねたのだ。


「まぁ、あの子達はいろいろと事情がある三人だからね。ディスト君は、言わなくても分かっているけど、聖騎士団団長のクロード・ジャッジの弟。エイミーちゃんは、国の五本指に入るほどの貴族の第三息女。この二人に関しては狙われてもおかしくないわね。ただ……」

「ただ?」

「アルミスちゃんはねー……ちょっと不思議な子なのよ」

「不思議な子?」

「そ。あの子は名前と年齢以外は一切分からないのよ。どこから来たのか、両親は何をしているのか一切不明なのよ」

「おいおい……そんな奴がよく騎士になれたな」

「それはあれよ。ウチのクソジジイ……ゴッホン、団長様が連れてきたのよ。いや、拾ったと言った方がいいかしらねー。身元も不明な彼女を『今日からコイツはウチの一員だ』なんて言った時は、とうとうコイツ犯罪起こしやがったな、と思ったけどねー」


 随分な言われようだな、黒騎士団の団長は。日頃からそれだけ周りに迷惑でもかけているのだろうか。


「ま、そんなわけで、こんな複雑な事情を抱えた三人がここにいる。誰が狙われていたのかなんてことは分からないし、誰が狙っているのかも分からない。なら、ワタシ達がやれることは」

「相手の出方を待つ、か」


 それはもう理解している事だ。

 しかし……相手が何かしらの行動を起こすまで、自分達は何もできない。そんな状況は、ギンにとっては些か不満があるものだった。

 それを理解したのか、ユーラは苦笑しながらギンの肩を叩く。


「まぁ、そう考え込まない方がいいわよ。考えたって、何も始まらないし、解決しないんだから」

「それは……そうだが」

「それより、アナタがまず片付けなきゃいけないことはアレの方じゃない?」


 は? と言いながら、ギンはユーラが指差す方向を見る。

 見ると、ウルフェンを全滅させ、戦闘が終わったというのに、何やら言い争うディストとエイミーの姿が。そして、そんな二人の傍にいるアルミスは、こちらをじっと見ていた。さっさと止めろ、と言っているのだろう。

 重いため息を吐きながら、ギンは彼らの元へと歩いていった。

 まぁ、二人にも言い分はあるだろうが……面倒なので、ギンは取り敢えず殴って黙らすことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ