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竜騎士団の問題児共  作者: 新嶋紀陽
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9

 そんなこんながあって、三人は正座させられていたのだった。


「……で? 白騎士団の連中は愚か、自分達をほくそ笑んでいた他の連中までも巻き込んで暴れまわった挙句、机やら椅子やら食器やらを壊しに壊しまくって、十人以上をベット送りにした、と……この報告に不備はないか?」

「一つだけ」

「何だ」

「窓も割った。十枚くらい」

「……よし、それも入れておこう」


 アルミスの言葉に、イラつきをさらに募らせながら、ギンは続ける。


「まぁ、アレだ。お前さん達の気持ちもよーく分かる。そりゃあ、そんな事をされれば黙っちゃいられないだろうな。お前さん達を見てほくそ笑む奴らも、堂々と罵ってきたそのセリアって奴も正直ざまぁみろと感じはする。だが……何事にも限度ってもんがあるだろうが」


 ギロリ、と睨んでくるギンに三人は目を逸らす。


「アルミス」

「……私は悪くない」


 そう言って、そっぽを向く。

 おいおい子供か、と心の中で呟くギンは、大きなため息を吐く。


「食べ物の恨みは恐いというが、お前さんのはやりすぎだ。お前さんが壊した机や椅子や食器や窓の修理代、及び十人以上の治療代……おかげで竜騎士団は赤字経済まっしぐらだ」


 ヒラヒラと見せるのは、請求書の束。その枚数は数十枚であり、請求料がただ事ではないことを意味している。

 睨み顔なギンは、いつにも増して鋭い。

 しかし、それでもアルミスは言い返す。


「悪いのはあいつらの方」

「いや、確かにそうなんだがな……」

「だって、あいつら二人を馬鹿にしてた。仲間を侮辱することは許せない」


 何の前触れもなくそんな一言を言うアルミス。その言葉に、ディストとエイミーはどう反応していいのか分からなかった。

 ギンは、やれやれと言わんばかりな表情で息を吐く。


「ったく……まぁ、お前さんの言い分は理解してやろう。だが、やり過ぎというのは変わらない。よって、お前さん達はあと二時間そのまま正座な」


 なっ!? と三人は声を揃えて驚く。それはあんまりだ、と言いたげな三人。特にディストとエイミーの場合、暴れたわけではないので尚更である。

 そんな二人に対してか、ギンはこう呟いた。


「お前さん達、連帯責任って言葉、知ってるか?」


 ギンの言葉に、うっと唸る二人。確かにごもっともな言葉ではあるのだが、このまま二時間も正座というのは、あんまりである。

 その時、三人を助けるかのように、突然と声が聞こえてくる。


「新人をそう虐めるものではないぞ、小僧」


 ドアが開いたと同時に入ってくるのは一人の女性。

 その人物に三人は驚き、ギンは一人ため息を吐いた。


「……何でこんな所に来てるんですか、ロゼリア団長」


 白騎士団団長、ロゼリア・リリース。

 三騎士団の一角、その団長がそこにいたのだ。


「ふむ……いつ来ても汚らしい所じゃのう。もう少し掃除をするべきではないかえ、小僧」

「余計なお世話です。これでも結構片付いている方です」

「これで片付いているとは、其方の片付け方には些か疑問を抱いてしまうのう」


 ロゼリアの言う通り、この部屋はかなり汚い……というか、片付けられていない。あちこちに書類の山があるというのが片付けている状態とは、あまり褒められたものではない。


「ロ、ロゼリア様……どうしてここに……」

「おお、エイミーではないか。久しいな。相変わらず、可愛らしい顔をしよってからに。其方を見ておると、自分が年寄りだということを実感してしまうのう」


 嘆かわしいことじゃ、と呟くロゼリア。そんな彼女はふと、その隣にいるディストを見て首を傾げる。


「ん……? そこにいるのは、クロードの弟かや?」

「……そうだが」

「ちょ、礼儀を弁えなさい!! ロゼリア様に失礼ですわよ!!」


 などと横から注意するエイミーの言葉に、しかしディストは耳を傾けない。


「むー……いやはや、やはり兄弟と言うべきかのう。顔形が似ているのは当然だが、雰囲気までもが本当に似ておる。最初に会った頃の彼奴(あやつ)そっくり……」

「あんな奴と一緒にするな!!」


 それは誰にも予想ができない事だった。

 突如として大声を出すディストに、エイミーやアルミス、そしてギンまでもが驚く。

 何がそんなに彼を怒らしたのか。それは分からないが、しかし、今の彼が尋常ではないほど怒りを顕にしていることは確かだった。

 一瞬びっくりしてしまったエイミーだったが、自分の元上司に対して暴言を吐いたディストに再び注意をしようとするが、ロゼリアによってそれは止められた。


「……どうやら、妾は其方が触れて欲しくない事を口にしてしまったらしいのう。すまなかった」

「いや……別に。オレも大声出してすいません」

「いやいや良いのじゃ良いのじゃ。子どもは元気がなくてはのう。なぁ? ギン」

「……それは、遠まわしに俺が年寄りと言いたいわけですか?」

「誰もそんな事いってはおらんだろう? 全く、其方は自意識過剰じゃのう」


 何か言い返したい。けれども、それでは話が一向に前に進まないと思ったギンは反論することを諦め、ロゼリアに質問する。


「……それで? 何で貴方がこんなところに来たんですか?」

「何故と問うのかや? いやな、どうにも妾の部下がそちらに粗相を働いたとか。故に、その侘びをしにきためまでよ」

「侘び……?」


 ロゼリアの言葉に、ディストが反応する。

 そんなディストとは裏腹に、エイミーは慌てて、手と顔を横に振った。


「お侘びだなんて、そんな……結果的に怪我を負わせてしまったのはわたくし達の方ですし……」

「いやいや、別にそんなことはどうでも良いのじゃ。今回のことはどう考えても妾の部下達が悪い。実力もないくせに、喧嘩を売ろうとするとは……呆れて物も言えん。彼奴らが怪我をしたのは、それは彼奴らがその程度の実力しか持ち合わせていなかっただけのことじゃ。其方達が気にすることではない」


 それに、とロゼリアは続ける。


「どこぞの阿呆がこんな事を言っていたらしいのう。次期白騎士団団長がどうのこうのと……いやはや、そんな戯けがおるとは、全くもって情けない話じゃ。しかも、勝手に白騎士団に入れようとするとは……本当に身の程知らずもいたものよ」


 ロゼリアは何一つ表情を変えてはいない。それは、笑顔のようにも取れるのだが、しかし恐いと思えるのはどうしてだろうか。

 バッ、とロゼリアは机の上にある物を放り出す。

 そのある物とは白い風呂敷のようなものに包まれており、中身が何であるかは見た目からでは分からない。縦長で、少し太いそれは一体なんだのだろうか。


「侘びの印じゃ。受け取るが良い」

「侘びの印、ですか……?」 

「って、いうと、何かの食べ物とか……?」


 ディストの間抜けな言葉にロゼリアは、ん~っと何かに悩んでいた。


「なんじゃったかのう……ああ、そうそう。確か、セリアとか言ったな、あの身の程知らず。その娘の左腕じゃ」


 ぞっと。

 その言葉が出た途端、三人は背筋が凍る程の寒気を感じた。

 あまりも衝撃的な言葉に、三人は何を言えばいいのか分からなかった。そんな三人に対し、ロゼリアは続ける。


「白騎士団は妾の騎士団じゃ。それを勝手に自分の物だと勘違いしておる輩にはそれ相応の罰が必要でのう。本当なら五体をバラバラにして、それでも死なない生き地獄を与えたかったが……流石に今回の事くらいでは、それはやり過ぎだと判断した。故に腕一本で我慢してやったのじゃ」


 顔色一つ変えずに、ロゼリアはとんでもない事をころっと言ってのける。

 その、あまりにも異常なことに三人は息を飲むしかできなかった。


「……で? その作り話はいつまで続くんですかね、ロゼリア団長」


 ふとそんな事を言い出すギンに、三人は「え?」という表情で彼の顔を見た。


「ん? 気づいておったか」

「当たり前です。いくら貴方でもそんな事をすればただじゃ済まない。しかもそれを他人にべらべらと喋るなど馬鹿な行為など絶対にしない。するとすれば、表に出さないように証拠を隠す。違いますか?」 

「……全く面白くないのう、其方は」


 言いながら、ロゼリアは風呂敷を開く。

 そこにあったのは、人の腕程ある薪であった。

 それを見て、ディストはムッとなり、エイミーはふぅと安堵の息を吐き、アルミスはじーっと薪を見つめていた。


「あまりウチの連中を脅かさないで下さい」

「すまぬすまぬ。若い者を見てしまうとどうにもいじりたくなるのが妾の癖なのでのう」


 そんな癖はさっさと直してください、と言うギンの言葉にロゼリアは是とも否とも言わず、ただ微笑するだけだった。


「……それで? 貴方が来た本当の理由は何ですか?」

「はて、何のことかのう?」

「とぼけないで下さい。貴方がただ侘びを入れるような、殊勝な性格ではないことも知ってますよ」

「むー。そんな言い草は何じゃ。まるで、妾が悪女のようではないか」


 いや、まさにその通りじゃないですか。今のやり取りで悪女じゃないとでも? などとは口が裂けても言えない。


「全く、可愛げがなくなったのう、其方。昔はもっと素直でからかいがいがあったというのに」

「……本気で話がないなら、さっさと帰ってもらえますか? こっちは請求書の山で大変なんで」

「ああ、そのことで話があったのじゃ」


 ロゼリアは懐をゴソゴソとしながら、一枚の書類を取り出した。


「実はのう、騎士団にちょっとした依頼が来たのだ。内容はある魔物の退治。それを其方ら竜騎士団が受けるというのなら、今回の請求料は妾が払ってやろう」

「ほ、本当ですか!?」


 ロゼリアの言葉に、エイミーが食いつく。


「ああ、本当じゃとも。白騎士団団長の名に誓っても良い」


 恐らく、その言葉に嘘はないのだろう。

 しかし、嘘がないということは、それだけ怪しいということでもあった。


「どうせ、ロクな仕事じゃないんでしょう?」

「まぁ、そう邪険にするでない。其方にとってはこれ以上ない仕事かもしれんからのう。いや、竜騎士団だからこその仕事、と言い換えても良いのかもしれん」

「?」


 どういう事だ? と言いたげな表情のギン。

 そんな彼に、次の瞬間、飛んでもない一言が出てくる。


「退治する魔物はのう……ドラゴンなのじゃ」

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