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明日私は、恋してますか  作者: 植村夕月
Ⅲ 生徒会長、橘加奈
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53話   加奈の悪巧み その1

   加奈の悪巧み その1


 ちょっとおふざけが過ぎた那岐との昼食から、特に変わり栄えのない午後の授業が終わって放課後となる。

 今私はなぜだか、猛烈な寒気を感じている。朝昼特に変わったところはなかった。いつも通りに、冬の乾いた冷たい空気を肌に感じることを愉しんでいたのだ。このヒリヒリしていながらにさっぱりした感じがたまらないんだと思っていたら、今では、悪寒がする原因となった。

「さぶいな。鬱陶しいほどに寒くて気持ちが悪いぞ」

 私の感想は今や、百八十度反転している。冬の気候に対して煩わしい気持ちしかわかない。

 人間とは何と現金なんだろうか。

「風邪でも引いたの? 体が頑丈な加奈にしては珍しい」

「そう珍しいことでもない。ほんの一週間前にも、体調を崩しているぞ」

 両手で自分の体をギュッと抱きしめている私に、那岐はカイロを渡してくる。

「しっかり体温めて、ネギでも首に巻いたら」

「面目ない」

 私は那岐からカイロを受け取り、両手でそれを挟み込む。

 通学鞄を手に廊下を歩く私たちは、生徒会室に向かっていた。これから毎日放課後には通わないといけない。やることは多すぎるし、放課後だけで何とかなるなら、まだまし。

 生徒会に那岐が入ってもらえたため、最低人数の問題は解決した。次に役職について。

「那岐には、生徒会役員の会計をやってもらうことになる」

「えー、私庶務がいいんだけどな」

「庶務は間に合っている。それに皆には役職を兼務してもらうつもりだ。那岐は会計だけとは限らない」

 私のいう事に、那岐は口を半分開けて呆れていた。

「どうしたその、面白い顔は? なかなか珍しいから写メしておこうか」

「余計なお、せ、わ、だよ」

 スマフォを取り出す私に、那岐はぎょっと睨みつける。虎とか豹みたいな捕食者をイメージさせるものだった。ただでさえ寒くてしんどいのに、強烈な寒気が二重に襲ってきた。

 彼女の鬼の形相たる原因は、まえもって知らせていない生徒会の激務についてだろう。ちょっと人助けのつもりで入ってくれ、なんて言って入ってもらったんだ。無茶苦茶激務だったら、そら驚く? というよりは困惑するだろう。

 私は申し訳ない気持ちになる。

「前もって知らせるべきだった」

「何が?」

「私がやろうとしていることは、相当酷なことだ。皆馬車馬になって働いてもらわないといけない。そんなところに入ってもらうんだ。相応の説明はするべきだった」

 私は那岐から目をそらす。那岐は、耳に被っている髪をちょこちょこいじる。廊下を歩く足音が一つ消えた。正確には止まった。

 私は足を止めて、振り返った。

「加奈、私は別にかまわないよ。もともとかなり大変そうなことをしようとしているなっておもっていたし、誘われたときにそれは覚悟していたんだからね」

「そうか、その、ありがとう」

「お礼は、まだ言わないで。私は何もまだしていないんだから」

 彼女は一人歩き出す。

 早足の彼女に私も追いかける形となった。


 生徒会室に入る。

「みんな、こんにちは」

 役員各々が適当に挨拶を返してくれた。宮古さんなんて結構フレンドリーだ。対して吹田君や後輩くん二人に関しては凝り固まった感じ。

「さて、役員の欠番に関しては優秀なこの子に補ってもらう」

 私は那岐の耳元で、ささやく。

「自己紹介して」

 彼女は神妙な顔で頷いた。

「二年生の神宮寺那岐です。よろしくお願いします」

 私は彼女に吹田君の隣に座るよう、促した。

「さて、神宮寺那岐には会計をしてもらうことになる。その上で、仕事の効率化のためにみんなには生徒会の役職を兼務してもらうことになる。役職の兼務は生徒会規則によって禁止されているが、これに関しては、今より生徒会規則の変更を行って解決する」

 いきなり規則を変更する、なんて突拍子もないことを私が言ったために、宮古さんと那岐を除くメンバーは困惑を隠せない。

 五人程度だ。何か驚くようなことがあってもひそひそ隣の奴に話したりしない。放っておいても問題なかろう。

 それより。

「宮古さん、例の奴は?」

「まったく、人使いが荒いですよ」

 彼女は、鞄から両開きの黒い革製のボードを取り出す。それを受け取ると、開いて中身を確認する。一枚の高そうな紙が挟まれている。紙には生徒会長令二十五号と書かれて、規則変更に関するもろもろの記述がされた後に、校長印が押されていた。

「私が、生徒会在任中にこれを十は用意してもらわないといけないかもな」

 私はボソッとつぶやいて、皆に内容を開示する。

「生徒会長令二十五号だ。皆これによく目を通してくれ」

 各員一人一人に内容を確実に理解したかの確認をとる。全員が内容の確認を終え、特に異論がないか調べた。

 異論なし。

 鞄から朱肉と三センチ四方の木製会長印を取り出す。私は宮古さんから預かったそれに記名し、判子を押した。

「これより、生徒会長令二十五号を発令する。生徒会規則役職に関する事項を変更、役職の兼務を可能とする」

 皆に私が署名したことと、捺印をしっかり見せる。

 そして私は、副会長の宮古さんには書記を、吹田君には会計と書記、那岐も同様の兼任をしてもらう旨を伝えた。書記を多くした理由は一つ、生徒会長令の発効をより早く行うためだ。

「とはいってもな」

 私は先ほど押捺した書面をにらみつける。

 これは、そうそう発行するものではない。一生徒会が任期のうちで一回発効すればいい方だ。普通は、こんなものの存在を知らないで終わる。これを乱発するだろう私は、生徒の皆に反感を買うかもしれないな。独裁的だと。そして反発が酷くなり、私は公約通りに辞めることになるだろう。

 ……これは後に全校生徒が決めることだな。

 およそ、迎えるであろう未来を想像すると、私の胸はズキッと鈍い痛みが走る。


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