3話 Falling 1
短めですので、ほんのちょっとしか空き時間にでもお楽しみいただければ幸いです。
3話 Falling1
あの子はいったいどうしてしまったの?
私は受話器片手に呆然としていた。職員室の中、教員たちは各々の職務を滞りなく進める。時折こちらに視線をちらりちらりと向ける者もいた。
「先生! しっかりしてください」
通話口より雷のように耳を叩く声が飛び出す。
放心していた私は、その声で我に返った。
「ああ、大丈夫だ。とにかく搬送先の病院を教えてくれ、すぐに向かう」
「は、はい。すぐに、来てください」
分かっているよ、神宮寺。お前は今一人で友達の変わり果てた姿に対面している。このあまりにイレギュラーな事態は、ツンドラの気候に真っ裸で放り出されるよりも冷たくて痛いだろう。
私は受話器を電話にたたきつける。
その音に周りの教員から視線が集まる。私は教頭のもとへ歩み寄り、
「教頭先生、生徒の具合が悪いので病院へ向かいます。事態の仔細は向こうより連絡しますので――」
そういうと私は職員室を稲妻のように後にした。
生憎私は運転免許証を持っていない。タクシー会社に手配した車を待っているしかない。
しかし運が良かった。付近に待機していたタクシーがこちらに来たのだ。運転手は私を認めると、停車し後部扉を開く。
私は車に乗り込み、荒くドアを閉めた。
「市立病院に急いでください知人が危険な状態なんです」
「は、はい。了解しました」
私がシートベルトを着用すると同時に運転手はアクセルをベタ踏みする。車は急発進し、背中が後部座席に押し付けられた。運転手の無理な運転のおかげで病院にはかなり早く着いた。
私は病院に入り救急外来へ向かった。救急外来の待合には先ほどの電話の相手、神宮寺がいた。
「神宮寺!」
私は待合椅子で靴を脱ぎ小さく体育座りをしていた少女に声を掛けた。顔を膝にうずめている女の子はこちらを向いて、私を凝視する。そうして顔をくしゃくしゃに歪め泣き始めた。
「すまない神宮寺。怖かったな、痛かったな、辛かったな、……哀しかったな」
「うん、うん、うん、うん……」
少女は私の胸の中で泣く。
間もなく日が暮れる頃だった。
次話は、夕方以降に更新予定です。