28話 Daybreak 2
28話 Daybreak 2
「加奈さん」
生徒会室に向かっている途中、廊下で声を掛けられた。振り返ってその主を確かめると、那岐さんが、手を膝について息を切らしていた。
「どうしたのですか? あんまり廊下を走っちゃいけないです」
「ああ、ごめんなさい。廊下であなたの姿を見つけてつい……」
彼女は二、三度深呼吸して息を整える。呼吸が落ち着いたらしく、私は再び歩き始めた。
最近不穏なことが生徒会で起こっている。インフルエンザ騒動から立ち直って、業務状態は正常に戻ったはずなのに。生徒会役員の友人からある話を耳にした。確証はないが、近々生徒会がリコールされるという。
どういった理由でそんな事になってしまったのかはなはだ疑問だがこれ以上関わるとろくなことになりかねない。そんな話を私に聞かせている時点で、何かある。
私は眉間に指をあてた。
「私はこれから生徒会ですけど、加奈さんはどうするんですか?」
「うーん。えっとね、私は特に用事がないんだけどちょっとあることを耳にしてね、生徒会の一員である加奈さんには話しておいた方がいいという事で」
私は生徒会の一員ではない、とはっきり断っておきたいけどそれより彼女が私に言いたいこととはどんなことだろうか。
「何ですか?」
彼女は私に耳を貸すようにジェスチャーをした。私は那岐さんのほうへ耳を寄せる。本当に聞かれたくない話なのだろうか、廊下には誰もいないのに。
「噂話にすぎないんだけどね。どうやら運動部の様子がおかしいみたいなんだあ」
「おかしいって、どういうことです。何か問題でも起こしたのですか」
「いや、私もほとんど知らないんだけどね、運動部の部員たちの様子がおかしい」
那岐さん、どうやらろくでもない話を聞いたみたいだ。この言いようは、何か知っているけど、それを言うには憚られる。ましてや疑いの段階でそれを口にすることは大変危険だということか。
私は腕時計を見る。
現在時刻一六時五十一分。もうすぐいかないとまずい。彼女からはもっと根掘り葉掘り聞きたいけれど、その欲求は押さつけないといけない。
「那岐さん、私もう行きますね」
「あ、うん。ごめんね!」
私は生徒会室へ小走りで向かった。走るなと注意しておきながらこのざまである。
私はなぜこのような状態になっている。生徒会の会議に混じるなんてことは考えてもいなかった。これでは、私の扱いは実質庶務という事なのか。これはやばい。何とかして抜けないとなあなあで生徒会のメンバーにされてしまう。
私はじーと、生徒会長のほうを睨んでいた。
生徒会長の男子はなんで睨まれているの、っていう顔をしていた。
「えっと、と、とにかく話を始めよう。まず、私は一身上の都合で生徒会長を辞任する」
会長の言葉にざわめきが広がる。
その言葉に最も理解できないといった顔をした副会長は、会長に詰め寄った。
「どういうことです。なぜ辞めるんですか?」
動揺が広まる中、私は役員のある言葉を思い出した。近々生徒会が解散されるという話。
本来なら生徒会長が何らかの事情で辞めた場合、副会長が会長に昇格することとなっている。空いたポストは順繰りに昇格という形で処理される。別に会長が辞めるというだけなら、こんな話しは出てこない。
解せない。
今日の会議は混乱によって、碌な論議もできずに終わった。
生徒会の各々が会議室から出ていくなか、私は会長に呼び止められた。あまり帰りが遅くなると、穂波さんに迷惑をかけてしまう。
「会長、話は終わったんでしょう。私は急いでいますのでこれで」
「待ってくれ」
会長が私の肩を掴む。
こいつ。
私は、即座に彼の手を肩から振り払った。軽々しく私に触れるな。
私は内心で毒づいた。
「何です? 短く話すなら聞きます」
「すまない。実は、生徒会に不信任決議案が出されようとしている」
生徒会に対する不信任決議案なんて、そうそう出されるものではない。どうしてそんなものが挙がっている? 現生徒会は特に問題もなく機能している。悪いうわさなんててんで聞かない。
冷たい空気を胸いっぱいに吸う。熱くなった頭がほんの少し、冷えた。
あんまり考えるな。
関わったら面倒なだけ。ただ、どうにも放っておくことだけはダメな気がした。
「会長、その話の詳細は後日」
「ああ」
私はボロボロで所々壁がはげ落ちているコンクリートの校舎のなかを進んだ。




