23話 Daybreak 1
23話 Daybreak 1
「啓二君、そこにある書類には全部目を通しましたか?」
「えっと、これは第二期の部の予算請求に関してか」
私は生徒会室で、生徒会役員の友人の仕事を手伝っていた。この学校の部費支給は年に二回行われており、十一月の末に支給すべきかどうかの査定が行われる。その査定で生徒会は忙しくなっているわけだ。しかし、生徒会役員九名のうちの五名がインフルエンザに感染して休みとなっている。
「どうしてこんな時期に、みんな病気になってしまうんでしょうね」
「本当にな」
私は机にうずたかく積まれた書類を一枚一枚丁寧に目を通す。書類を系統別に分けていくなんて簡単な作業だ。篠原君は私の作業を手伝って残ってくれている。
「二条さんの様子は、どうですか?」
私は窓から気だるげに空を眺めていた少女を思い浮かべる。クラスのみんなとも距離を取って自分からほとんど話しかけてこない子が、最近はよく友人と話すようになったし笑顔を浮かべることも多くなった。
静謐なオーラを放っていた彼女。そんな彼女はここ数日姿を消したままだ。
そしてそんな理由も分かっている。
「回復傾向にあるけど、それ以外は何とも」
辛そうにする啓二君を見て、私は彼女に関する話題にふれたことを後悔した。
啓二君にとって、彼女は特別なんだ。私が彼女に対して抱いている感情なんて、彼の比ではないから。
二条有紀さん、……彼女は病室で今も一人。
私は立ち上がって、啓二君を窺った。彼は少し驚いた様子ながら、すぐに笑みを浮かべた。
「どうしたんだ?」
「啓二君、今日はもういいです。早く帰ってください」
「でも、まだだいぶ作業が残ってるぞ」
作業という言葉を聞いて、私は頭が痛くなった。目を閉じて目頭を押さえる。
「大丈夫です。それより有紀さんのところへ早くいってあげてください」
彼は「ありがとう」と言って生徒会室を飛び出していった。
あの様子を見ると、学校が終わればすぐにでも行ってあげたかったんだろうなって思った。
私は彼に悪いことをしたな。
「さて、とっとと済ませちゃいますか」
私は腕まくりすると、机の上の紙束をキッと睨んだ。