11話 別れていくことと新たに出逢ったこと その2
11話 別れていくことと新たに出逢ったこと その2
帰宅するとあることに私は気付いた。玄関に無造作に脱ぎ棄てられた男物の革靴が一足転がっていたことに。この時間に父親が家にいるのは珍しい。煙草を相当吸っているようで、煙たくなっている。
そっと父がいるだろリビングへと足を運んだ。
テレビは点いていて、床には酒瓶が転がっていた。煙草を手にブツブツ何かつぶやいている。
明らかに不機嫌な父に関わりたくない私は、そっと自室にこもった。私は部屋の扉のカギを閉めた。そして扉に凭れる。
「絶対だめだ。今近づいたら何されるか」
私はベットに俯せになる。あの親父を見ると無性に疲れてしまう。
怖い。
脳裏にその言葉がぼんやりと横切った。そして気が付かないうちに私は眠ってしまった。
私の浅い眠りを妨げたのは、やはり父が出す音だった。ただその音は尋常ではなかった。というのも、男の怒鳴り散らす声に、女の泣き声、割れる瓶の音がしたからだ。自室の扉を開けて、私はそっと様子を見に行った。
リビングで私の目に映ったのは、酷かった。床に座り込んで涙を流す母に、皿やら投げつけて怒り散らす父。あまりの衝撃から、耳に音が入ってこない。
とにかく父を止めなければ。
その一心で私は彼等の間に入る。
父を抑えにかかる。体格差があっても、酔っぱらっているのなら何とかなるかもしれない。そう思った。もともと怪力な私なら、十分に何とかできるはずだった。
だけど、異常な状態では本来のことができないものだ。
右側頭部の大きな衝撃が走る。視界はぱしんと真っ白になって消えた。足と手の感覚がない。視界は徐々に回復した。私はぼんやりする意識の中周りを見渡した。ちゃんと手足はある。だけど、それは木材のように重く固くなって動かない。
私が殴られたときに、私のスマホが投げ出されたみたいだ。それは目と鼻の先にある。感覚が少し残っている右手をそれに向かって必死に伸ばす。ぴくぴくと指先が動く。ふと携帯の画面に指が触れた。真っ黒な画面に光がともる。画面には彼の名前と電話番号が挙がっていた。
携帯をめったに使わない私は、以前彼にかけた画面のままにしていたのだ。
私は受話器を上げる。
呼び出し音の後に彼の声が聞こえた。
「もしもし、有紀?」
私は彼に精いっぱいの声をだす。
――たすけて――。