10話 別れていくことと新たに出逢ったこと その1
10話 別れていくことと新たに出逢ったこと その1
体育祭が終わって二日が経った。
私たちは相変わらず、普段通りの生活を送っていた。篠原君と付き合っているのだけれど、一緒に昼食を摂ったり、休み時間にだべったり、一緒に帰ったり、やっていることは付き合う前から変わっていない。
終礼が終わって先生が教室から出ると、クラスメイトが騒ぎ出した。
私は鞄を掴んで席を立つ。
「行こうか、篠原君」
「うん、そうだな」
騒然としている廊下を歩みながら彼に話しかける。
「今日は篠原くんに会ってほしい人がいる。その人のとこまで来てくれない?」
「別に、構わないが。その人の都合は大丈夫なのか?」
私は彼に振り向くことなく、答えた。
「大丈夫よ」
今日は金曜日。
週三回言っている弟のお見舞いの日だ。水曜日は体育祭で行けなかった。四日ぶりに私は弟と会う。今日は私に起こった変化を彼に報告したい。
病院への道は車の通行量が少なかった。病院への道は黄色い銀杏並木がつづく。ひらひらと空を舞う黄色い葉っぱは、曇った空を背景にその存在を強調させる。
病院の玄関をくぐり、私は受付を通り過ぎる。廊下の端まで歩いていくと、非常階段があった。扉を開けて非常階段を昇る。篠原君は私の後に続く。
そして彼の病室に入った。
相変わらず穏やかな顔で眠っている泰孝。
私は篠原くんに目を配る。
「彼は私の弟、二条泰孝。年子なんだ」
弟を紹介すると、彼はもの申さぬ少年に律義に頭を下げた。
「泰孝、私の隣にいる人は、私の恋人の篠原啓二くん。とても優しい人。あんたも絶対に気に入ると思う」
紹介を終えると私はこの一週間の出来事を弟に言い聞かせた。一時間そうしていると、さすがに篠原君に悪いと思って、病室から出た。
篠原君は私の弟を見て、何とも言えない表情をしている。
「……お前の弟の泰孝さん、いつから眠っているんだ」
「半年、交通事故が原因」
「そうか」
気まずい雰囲気のまま、病院を出た。私たちは病院のすぐそこにある公園のベンチに腰掛けた。そしてやや攻撃的というか、強い口調で、
「二条」
と名前を呼ばれた。
驚いた私は、肩をびくっとさせる。
「二条、いや有紀」
「は、はい」
彼は私を唐突に呼び捨てにした。
恋人同士だから、別に変なことではないけれど、しばらくは苗字で呼び合うものだと思っていた。だから突然こうされたことに、私は驚いた。
公園はブランコやシーソーに滑り台があった。しかし誰も掃除しないのか落ち葉だらけで忘れ去られたようになっている。そんな中にぽつんといる私は、現実で父母に向き合ってもらえない私の家庭図を表しているようだった。篠原啓二、彼さえいなければの話だけど。
彼がいるとどこだって世界は美しく栄えて見える。
「お前の中で俺がどんな立ち位置か分からない。でも、俺はお前の力になりたいし、お前の心の支えになりたい。お前の心を占有したい」
とんでもないことを言う。私が恥ずかしくて死にそうだ。
もう私にとって、何より特別だというのに今さらか。
私は彼にデコピンする。額を抑えている啓二に、私はいった。
「欲張り」
彼を背に呟いて、公園を出た。