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転機

「おい、メルジーネ! メルジーネ! 起きてくれ!」

 一方横穴に逃げ込んだアーレスは翼の焼け焦げたメルジーネを起こそうとしていた。頬を軽く叩いていると、ようやくメルジーネはショックから立ち直り目を覚ます。

「ここは……?」

「控えの間に開いた横穴だ。先はない。行き止まりだ。閉じ込められたな」

「そう、わたしやられて墜ちたのね……」

 メルジーネの言葉にアーレスはうなずく。

「ああ、しっかりしろ。すぐ敵が来る」

「そうね。でもその前に服を着るわ。そのかごに入っているでしょ。出してちょうだい」

「ああ……傷は良いのか」

「大丈夫、変身してたところがやられただけ」

 アーレスは今まで律儀に背負ってきたかごを下ろして中身を取り出す。中はメルジーネの鎧と服が入っていた。メルジーネはそれをつかみ生えていた翼を脱皮する要領で上半身ごと脱いで落とすと裸のその身に装甲をまとい始める。

「おい、急いでくれ!」

 アーレスがせかすが、メルジーネ気にした様子もなく自分のペースで服と鎧を着け続ける。

「せかさなくても大丈夫。しばらくは無事よ」

「どうしてわかる?」

「向こうはどうせこっちをなぶり殺しにするつもりでしょ。でなきゃこの閉鎖された空間ごと炎で焼き払っている」

 濁った白の鎧をそのしなやかな黒い身にまといながらメルジーネは言った。

「ふん、そんな思惑を後悔させてやるんだから」

 メルジーネの独り言のような言葉にアーレスが口を挟む。

「どうやってだ?」

「これから考える」

 ぷいと横を向いてメルジーネがどこか早口で言うとアーレスは頭を抱えた。

「おいおい……」

 そして空になったかごを控えの間に落とそうとする。と、メルジーネがそれを制止した。

「ああ待ってそのかご捨てないで」

「なぜだ? ここで戦うなら空間を作って少しでも動きやすい方が良いだろう」

 かごを手に持ったアーレスが口を挟んだがメルジーネは何かを思いついたかのように口元に笑みを浮かべる。

「それ、装甲車にするわ」

「装甲車?」

「そう、まじないよ。それと、脱出方法も思いついたわ」

 メルジーネは脱出方法をアーレスに説明する。アーレスは始めうさんぐさげに聞いていたが、途中で興味を持ち始め、最後にはどこか面白そうにうなずいた。

「そうだな、それでいってみよう」

「協力してくれる?」

「もちろんだ。それしか生き残るすべはない」

「そうね、ありがとう」

 アーレスの好意的な反応にメルジーネは心底嬉しそうにかつ邪悪そうに笑った。



「取り囲んだか。さて向こうはどう出るかな?」

 一方こちらも邪悪そうに笑う人に変化した魔竜王が二人が会った穴を眺めている。と近くで観察していた魔物の一人が大声を出した。

「火が! 入り口で火がともりました!」

「愚かな! ただの火など恐れる我らではない!」

 魔竜王は人間の小細工を哄笑する。

「何かが吹き出てきます」

 魔竜王は入り口を見るそこには火のついたかごがあった。魔竜王はさらにせせら笑う。

「ただの火のついたかごではないか! そんなもの落としたところで!」

「いいえ、違う。こいつ、落ちるんじゃない。上がっていきます! 地上に向かって飛んでいきます!」

「なんだと!」

 確かにまばゆく炎を吹き上げながらかごはどうしたまじないか、重力に逆らって上昇してゆく。かごの上にはよく見えないが二人の人影が。魔物が叫ぶ。

「やつら、あれに乗って逃げるつもりです。魔竜王! さっきみたいに撃ち落としてください!」

「ふん、火炎をくらえ!」

 魔竜王はのどから火炎弾を発射してそのかごの中心線を射貫く。しかしかごはそんな攻撃を気にした様子もなく上に昇ってゆく。

「墜ちない! 魔竜王様の攻撃を食らっても! なぜだ!」

「それは、幻だからよ」

「何ぃ!」

 剣捌きが起きしゃべっていた魔物の息の根が止まる。もともと地下に住まう者故まばゆい光には弱い魔竜王が叫ぶ。

「どうした! くっ、おのれ炎で何が起きているのかよく見えん!」

「かごが!」

「なんだ、ぐわっ!」

 今度こそかごが魔竜王めがけて落ちてくる。かごの空間にはメルジーネの魔法でありったけの鉱石がみっしりと詰められていた。かごは魔竜王めがけて一目散に斜面を駆け下り魔竜王はそれに轢かれ押しつぶされる。

「さあ、地上のうるさいのは片付けた。もう一度飛ぶわよ」

「ああ。やってくれ!」

 メルジーネの言葉にアーレスは叫ぶ。黒々と控えの間に影を広げてもう一度メルジーネが飛ぶ。

「コザカシイ!」

 しかし、かごで押しつぶされていた魔竜王が変化の術を解いてその真の姿をすぐに現した。変身の衝撃でぼろぼろと控えの間の外壁が崩れ出す。そうして火炎のブレスが、幻覚とその影に隠れ飛行しているメルジーネもろとも焼き尽くさんとする。だがそれもメルジーネの策の内だった。

「やっぱりあれが魔竜王。ということはいまは玉座は空のはず!」

「そうだな。行くのか」

「ええ、突貫するわよ。魔竜王の秘密もそこにあるはず!」

「了解!」

 アーレスを抱え()く飛ぶメルジーネはそのまま玉座に転がり込む。()く飛んでいた翼は魔竜王の放つ炎に焼かれる。しかし焼かれた翼は、以前メルジーネが生やし、魔竜王の攻撃で傷き脱ぐように捨てた上体のみの偽物であった。それが焼かれたのである。幻覚と、重量魔法。そうして実体のある翼。二つの魔法にはりぼてのまやかしを重ねるメルジーネはやはり卓越した魔術師、いやペテン師でもあるのだった。


 こうしてメルジーネとアーレスは魔物に気づかれることもないまま地下迷宮の心臓部に乗り込むことに成功したのであった。

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