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【07】 1章の05 喧騒





 若干……いや、かなり頭髪が(ワビ)しくなっている、オッサンの視線を後ろに感じながら。


 俺は〈メイジローブ〉の上からパンパンに膨らんだ〈鞄〉を背負って、サイドに〈木の杖〉を縛り付けた『お(のぼ)りさん』状態で、宿の前に立っていた。


 あ、時間も無かったし〈綿外套(コットンマント)〉は適当に畳んで〈鞄〉に突っ込んだ。羽織ったら暑そうだったのもあるし。



 一瞬の停滞の後、チラリと俺が後ろを振り返ろうとすると──



 バタンッ ガチッ



 ──とっとと行け、とばかりに宿屋のドアが勢い良く閉められた上に、鍵の掛かる音までしやがった。宿屋が昼間に玄関閉めても良いのかよ……はぁ。



 ……とりあえず、行くか。このまま此処に居たら、塩でも撒かれるかも知れ……いや、逆に貴重品かな?



 何とか気を取り直した俺は、人の喧騒が聞こえる方に向かってトボトボと歩き出した。


 安宿だけあり、大通り等では無く裏路地に入り口があったらしい。日の光の入り難い裏路地を数回曲がり、適当に声が大きくなっていく方角に進んでいってみれば。



 しばらくすると前方に、明るく光る大通りが見えてきた。


 暗い裏路地の光量に慣れた俺の目は、人々が動いている事こそ見えるものの、細部まで見て取る事が出来ない。


 仕方なく手で顔の前に(ひさし)を作り、ゆっくりと大通りに入ってみれば──




「そこの兄さんッ! どうだい、採れ立ての新鮮な肉で作った〈串焼き〉だよッ!」


 ガヤガヤ ワイワイ


「ああん!? そんな安い値段で売れねぇよ! 出直して来な!」


 ガヤガヤ ワイワイ


「すみません、『馬車』が通りますよー。はい、そこすみません……はい、ありがとうございますー」



 ──正直、仮とは言え落ち着けるスペースから、追い出されてしまったショックはあった。だが、目の前に広がる景色を眺めてみれば、そんなショックは軽く吹っ飛んでしまっていた。



「ほれほれ、道の真ん中で立ち止まってるんじゃねぇぞッ! どいたどいたッ!」


「あ、すみませんッ! ……はぁぁぁぁぁぁ……いやいやいや、これは……凄い」



 〈獣人〉だろうか、犬耳を頭から生やしたオッサンの荒っぽい声に、慌てて道の端に寄りながらも。


 思わず意図しない独り言が飛び出してしまう位に、俺は驚き、感動していた。



 太陽の位置から見て、おそらく昼過ぎの街中は、ガヤガヤワイワイと活気と喧騒に溢れていて、行きかう人の量は中々とんでもない。


 俺は人の流れに沿って歩きながら、周囲を観察していった。



 パッと見た感じ、ポピュラーな〈人間(ヒューマン)〉が多いが、中には俺と同じ様な耳の尖った〈エルフ〉や褐色の肌の〈ダークエルフ〉も居るし、頭一つどころか三つ位はでかい巨体を、窮屈そうにしながら荷物を運ぶ〈ジャイアント〉の兄ちゃんも居る。

 他にもさっき怒られたオッサンの様に、頭から動物のような耳を生やした〈獣人〉らしき連中もチラホラ……あれ? でも、ほとんど丸ごと動物みたいな頭の連中も居るな? バリエーション違い……? 気になるな……お、ネコ耳! ……って、オッサンかよ!


 まぁ細かい事はさておき、正に『ゲーム』や『アニメ』でしか見た事が無い様な〈世界〉そのものだ……おお、あの〈ダークエルフ〉の姉ちゃんすげぇな……『巨』じゃなくて『爆』だぜ『爆』。何がとは言わんが。



 キョロキョロと目に入る様々な物を観察しながら、人の流れに沿って歩いていく。

 カンカンと甲高い音と煙を吐き出す建物を覗けば、いかついヒゲの……4頭身位か? の、オッサン達が鍛冶をしている。あれ、多分〈ドワーフ〉……だよな? ココ、『鍛冶屋』か何かかな?


 ん? 何かこっちを見られてる様な……って、〈ハンマー〉を持ったまま目を見開いてダッシュでこっちに来るッ!? あ、〈エルフ〉と〈ドワーフ〉って仲悪かったっけ!? よし、絡まれる前に逃げるべ!



 俺はさっき宿屋で把握した身体機能を無駄に発揮して、人の波をすり抜けながら離脱する。


 少し走ると、大通りの左右に並んでいた『店舗』が無くなり、一気に視界が開ける。


 どうやら、Y字に分かれた大通りの間に結構な規模の〈広場〉を設けられているらしい。



 走って特に疲れた訳ではないが、どうせなので外周部の道路から中央部の広場に入ってみる事にする。どうも、その付近に同じ位のサイズの〈敷布〉を敷いて、その上に色々な〈商品〉らしき物を並べたスペースがあるのだ。


 おそらくだが、『市場』か何か。さっきの大通りほどではないが、のんびりした客引きの声が周囲からあがっている。俺も再度キョロキョロと周囲を観察しながら、適当に歩いてみた。



「掘り出し物の『中古装備』は要らないかー。買ってからほぼ未使用の状態だぞー」


「練習で作成した〈ポーション〉類を、格安で販売中でーす。材料の〈ハーブ〉類の買い取りもやってまーす。副作用は自己責任でお願いしまーす」


「色々な〈古着〉置いてるヨー。〈外套(マント)〉も安くしとくヨー」



 ……ふーむ。どうやら、外周部の道路と接しているエリアの方が、客の入りが良い様だ。逆に、広場の中央の〈噴水〉前では、人の数がまばらになっている。適当にキョロキョロと周囲を見回しつつ、中央の〈噴水〉に近づいていけば、そんな事が見て取れた……後、ポーション作成してるヤツ、絶対買わねぇ!



「──良い商品、置いてますよー! どうぞ、ご覧になって下さーい!」



 ふと、そんな少々活気が減ったエリアの中で。比較的小柄な少女が〈敷布〉を敷いたスペースの前に立って、声を張り上げて物を売っている。商品アピールなのか、パタパタと大きく手を振って大忙しだ……積極アピールの割に、ほぼ客が居ないようだが。


 うーん、あの子も耳が尖ってるけど、体格的に〈エルフ〉にしては小さ過ぎる……気がするな? 子供の〈エルフか〉……あんまり詳しく知らんが、〈グラスランナー〉ってヤツ……かね? にしても……〈短パン〉から覗く足が良いねぇ、眩しいねぇ……グフフ。



 〈短パン〉少女に癒されつつ、俺は一度しばらく歩き続けてきた足を止めた。



 ……しかし、これはアレだ。何が言いたいかと言うと──マジファンタジー。


 アーンド、人混みマジすげぇッスわー。むしろもう、なんか『人ゴミ』って感じ? 君は今、天空王の前に……いや、目を痛めそうだからやめよう。


 〈向こう〉の、デカめの繁華街の駅前をうろついた気分だぁね。



 ふぅ……とは言え、だ。


 『俺』の認識だと、こんな人混みをうろつくのも久々なもんで、多少あてられてしまった感がある。伊達に引きこもってないからな。


 ひとまず辺りを見回した俺は、目に付いた涼しげな〈噴水〉横に腰掛けて、現時点で得られた情報をまとめる事にした。背中から邪魔な〈鞄〉を降ろし、空いているすぐ横に置きつつ思考を巡らせる。





  ◇◇◇





 ──そう、だな……今までの見てきた全体の感じからすると、俺が『メルカ』を作ってプレイしていた『MMORPG』……ポピュラーな西洋風ファンタジーの骨子に、『北欧神話』や『ケルト神話』の世界観をブレンドした『ゲーム』だったんだが……街の大まかな雰囲気や、建物の構造、人々の服装はそっくりそのままソレだ。まぁ、前情報どおり、っちゃそうなんだがね。



 洋風の『木造建築』がメインで、物によっては『石造建築』……で良いのかね? 詳しい呼び方を知らんから適当だが……まぁ、とりあえず『鉄筋コンクリート』ではねぇだろう。多分だが。


 んで、だ。遠景には小高い丘の上に、石造りだろう尖塔をいくつか備えた〈城〉も見える。『領主』の〈城〉か、はたまた『王』が居るのか。ま、今の『俺』には関係ないけど……関係無いよな?



 ンンッ。そう、次に〈服装〉に関してだが、おそらく〈綿〉だろう材質の服や、〈麻〉っぽい素材の数が多い気がする。生成りのままの色合いもあるが、ほとんどは結構カラフルな染色も成されている。一体『何』で染めてるのかね? 気になる様な、スルーしたいような……。


 その中でも目に付くのは、たまに見かける『商人』っぽい連中や、おそらく『貴族』っぽい豪奢な〈馬車〉の『御者』だろうか。


 そういう連中の〈服装〉が、パッと見でも分かる位に独特の光沢がある生地だから、多分〈絹〉とかその辺も使われてると思うが……ああ、もちろんカラフルな『染色』も施されている……センス無いトコのは、ある意味凄いぞ……原色まんまで不協和色(今考えた)だからな。


 ま、詳しい事は流石に分からんがね。俺、職人でもなんでもねぇし。



 ……ああ、ちなみに今俺が着ている、『メルカ』の〈服〉であるこの〈メイジローブ〉。こいつも相対的に見て、やっぱり結構上物っぽいな。基本は〈綿〉っぽいのだが、装飾部分や細かい文様、後裏地なんかに多分〈絹〉が使われていたりする。着心地がサラサラして良い感じ。


 そんな〈服装〉のせいか、さっき街中を歩いている時に、割りと視線を浴びていた気がするぜ。


 ってか、まぁ『ルックス』の時点で大分違うしな! 今もそこらから、チラチラと物珍しそうな(・・・・・・)視線が来るし。



 ……だから、そんな恨みがましい目で見てくれるな、お嬢ちゃん。商売の邪魔したのは悪いが、俺も少し考え事したいの。



 さっきの宿での、オッサン相手の『演技』を思い出しつつ、軽くニコッと微笑んで首を傾げてやる……おい、固まるなー? 手の中の商品が落ちるぞぉ……あー、遅かったか。



 ガチャン



「ああーッ!?」


 一人だけ居るおそらく客っぽい、売り手の少女より更に小柄な少女を放置して、真っ赤になってワタワタし始めた〈グラスランナー〉だろう少女から視線を外しつつ、もう一度考える。




 ──ただ一つ気になるのは。


 あの『MMORPG』には、〈ドワーフ〉も〈グラスランナー〉も〈ジャイアント〉も……存在しなかった(・・・・・・・)、と言う事だ。



 いや、正確には……俺が死ぬ前プレイしていた時には、『実装』されていなかった、になるのかね。確か、大分先の予定ではあったが、新種族追加的な告知は有った様な気がする。


 うーん、そこのトコを考えると……『メルカ』の言っていた『統合再構築』という部分には、『予定されていた物』や『可能性があっただけの物』まで含まれているって事だろうか?



 ……とはいえ、ココまでの考えは俺の推測がほとんどだ。出来れば『誰か』に、もう少し詳しく情報を頂きたい所ではあるな。


 やれやれ、『常識が無い』ってのは不便極まる。誰か俺に優しくレクチャーしてくださいよ……あ、もちろん美少女希望でね? 今なら対価に、『美少女()』の添い寝もつけちゃうぜ? グフフ。






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