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【06】 1章の04 決定





「──お客さーん、居てますかね?」



 ……誰だ? メルカ()の事を『お客さん』と呼んでいるって事は、おそらくこの『宿屋』っぽい建物の従業員か何かだろうが……。


 居留守を決め込む……いや、顔を出さない方が怪しまれるかもしれないか。


 それに最低限メルカ()の顔はバレていると考えた方が良いだろうし……ええい、仕方ない。


 どういう相手か分からんから、こっちもどういう対応をすれば良いのか、イマイチ分からんが……とりあえず〈向こう〉で会った『メルカ』と、『ゲーム』の時のメルカ()を意識して喋ってみるか。



「……はい、どうかされましたか?」


「お、居るんじゃないですか。 ちょっとここ、開けて貰っても構いやせんかねぇ?」



 う、ぐ……マジか……くそ、出来れば出ないで済ませたいが……返事しちゃってるし無理か。



「……今、開けますので」



 一応、もしもの時に備えて、足に装備してる〈小剣(ショートソード)〉を握れる様に意識する。 乙女としては、一応自衛の意識も必要だろうよ……中身は気にすんな!


 ゆっくりとつまみを回し、ドアを押し開けると……そこに居たのは、小太りで目付きの悪いチョビ髭のオッサンが醜悪な笑顔を……って、第一印象ワルッ!? こ、これは開けるべきでは無かったのでは……?



 俺が、思わず内心でツッコんでいる間も、目の前のオッサンが喋りかけてくる。



「お客さーん、今日が宿代(・・)の支払日なんですがね、先日言ってた目処(めど)ってのはついたんで? 今日払えないんなら、部屋を引き払って貰わないといけねぇんですが」



 オッサンの言葉に、俺は一瞬戸惑いつつも必死に頭を回転させる。


 『宿代』……つまり、予想通りこのオッサンは『宿屋』の従業員か何かで、メルカ()はそれを払う必要がある……って事か。 だが、さっき確認した通り〈お金〉と言えるのは、二種類の〈硬貨〉が数えるほど……マズイ。 足りる、か?


 知らず知らず、背中に冷や汗が流れる感覚がある。


 ひとまずここは……よ、よし。 とぼけてみるか。



「『宿代』……ええっと……今日、でしたか?」



 俺の言葉を聞いたオッサンが、渋面を作ると諭す様に言ってくる。



「……お客さん、とぼけちゃいけねぇ。 間違いなく『タイインモクの月』、『ヒョウジュウシの日』ですよ?」



 ぐ……た、多分『暦』なんだろうが……さっぱり訳がわからねぇぞ、おい。 っていうか、〈お金〉の価値とかもさっぱり分からねぇんだけど……だ、大丈夫だよな……? 信じてるぞ、メルカ?



「え、ええ。 そうでしたね! ……これで、足りますか?」



 俺は曖昧な笑みを浮かべつつ、腰の〈財布〉を外すと。 中から、まずは黒ずんだ〈銅貨?〉を取り出して手渡してみた。


 すると、チョビ髭のオッサンは〈銅貨?〉を手に取り、目を細めながらジロリとこちらを睨みつける。



「……お客さん? これは、何のつもりで? こんな何の変哲も無い『アリド銅貨』一枚じゃ、そこらの露店で〈パン〉を一個買っておしまいですぜ」



 ッげ!? ま、マジか……!?


 ……頼む、こっち(・・・)なら大丈夫であってくれ……!



「あ、ああ! すみません、お渡しする物を間違えました。 こちらでお願いします」


「ふん……勘弁して下さいよ。 …………ぁん?」



 俺が〈銀貨?〉を渡すと、受け取ったオッサンは何かに驚いたかの様にマジマジと目を〈銀貨?〉に向けた後、急に満面の笑顔になって聞いてきた。



「……お客さん、この〈旧帝国銀貨〉は何処で手に入れなさったんで?」



 きゅ、〈旧帝国銀貨〉……? 何処で手に入れたか?


 ……な、何それ? 全然分からないっての……だけどまぁオッサンも笑顔になってるし、多分足りたんだろ。 ここはシレッと流して、情報収集の為にもさっさと出掛けちまおう。



 俺は方針を決めると、笑顔を浮かべつつさっきのオッサンの言葉を流用して返答する。



「……それが、先日ワタシの言っていた『目処』ですよ。 入手経路は、ワタシの死活問題なのでお答えできませんが」


「そうですか……」


「では、ちょっと用事があるので──」



 俺の答えを聞いて、何かを考える様に俯いたオッサンを置いて。


 とりあえず、一回ドアを閉めてしまおうとした俺だったのだが。



 ガッ



「──おい。 待ちな、『嬢ちゃん(・・・・)』」



 閉まりかけた〈ドア〉を、俯いたままのオッサンの手がガッシリと握って止めてしまった。


 そしてオッサンはゆっくりと顔を上げると、さっきよりもキツイ目付きでこちらを睨んでき……って、え? 何で?



「……おりゃぁな、これでも『宿屋』やって長いんだがよ。 暗い中、こっそりとならまだしも……白昼堂々『贋金(ニセガネ)』を出されたのは、初めての経験だぜ」


「え……」



 ニセ……ガネ? お、い……まさか……!?



 俺がその言葉に驚いている間も、ドアを止めている手とは反対の手の中で〈旧帝国銀貨?〉を弄んでいたオッサンだったのだが。


 チィンッ!


 気付けばいつの間にか握っていた拳から、勢い良く俺の顔に向かって『何か』が飛んできた。


 俺は驚きつつも反射的に手が動き、思わず掴み取った『何か』を見てみれば。 さっきまでオッサンが弄んでいた、さっき渡した〈旧帝国銀貨?〉が有った……って、いきなり何しやがるこのオッサン!? メルカ()の顔に傷が付いたらどうするつもりだ!


 俺が内心、混乱と憤慨をしつつ目線を向ければ。 一瞬オッサンは、何か訝しげに目を細めていたが、すぐに鼻を鳴らすと口を開いた。



「……そいつは、確かに見た目こそ『古銭』で値打ちモノの〈旧帝国銀貨〉に似てるがな……本物の〈銀〉が、こんなに軽い(・・)訳がねぇんだよ。 確かに細工は精巧だが、片手落ちもいいところだ……それとも何か? 最後には自分の『カラダ』で支払おうとでも思ってやがったのか?」



 言葉と共に、ジロリと『メルカ()』の体に視線を走らせるオッサンに、俺は思わず身を引いてしまう……いや、だって想像するだけでもキツイって!


 それこそこれが『ゲーム』の中であれば、オッサンの言葉通りにいくらでも取り入って良いようにしてしまう所だが、完全な主観視点と感覚を持った状態……要は『自分(メルカ)の体』でそんな事は出来ない、って言うか絶対にしたくないッ!! マジで勘弁ッ!



 そんな俺の姿を確認すると、オッサンは再度ヘンと鼻で笑いながらくるりと背中を向け、言葉を投げた。


 ……って言うか、後頭部が見事にハゲ上がってるな、オッサン。



 余りの急展開に頭が追い付かず、つい目に入ったオッサンのアグレッシヴな後頭部を凝視している俺を余所に。 オッサンが言葉を続ける。



「残念ながら、『その手』も無しだ。 嬢ちゃんみてぇな美人が、こんな安宿に来る時点で胡散臭ぇたぁ思っていたがよ……いくら安かろうが『詐欺師』に貸せる部屋はねぇし──」


 そこで一度言葉を切ったオッサンは、歌舞伎の如く見得を切りながら。


「──そもそも、おりゃあ『女』に興味はねぇんだよッ!」



 いやいやいやッ! 俺、詐欺師じゃな……待って? 今、何か変なカミングアウト聞いた気がするんだけどッ!?



 俺は誤解を解こうと口を挟み掛けたのだが、オッサンが最後に付け加えた一言に意識が持っていかれ、口に出すタイミングを逸してしまった。 そのせいで、オッサンは次の言葉を止める事無く言い切ってしまう。



「さっきの人探しのニイちゃんだったら、一晩と言わず……チッ、だが金が払えねぇ嬢ちゃんは『客』じゃねぇ。 本来なら『衛兵』に突き出す所だが……こっちもヒマじゃねぇし、面倒はゴメンだ。 40秒だけは(・・・・・・)待ってやる(・・・・・)



 ちょ、え、何を待つって──



「〈贋金〉なんて面倒に、関りたくはねぇんでね……さっさと荷物をまとめて出て行って貰おうか。 そんで、二度とウチの宿には近づくんじゃねぇぞ!」



 バタンッ



 言葉と共に、勢い良く閉められる〈ドア〉。


 そして、俺の心を占めるのは一つの思い。




 ……おいおいおい、勘弁してくれよ……メルカぁぁぁ……!







~その頃のイケメン君



「……ッ!? な、何だろう……急に寒気が?」

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