【53】 2章の20 変態
※前回の【52】道連で、序盤の衛兵二人とのやり取りを変更しています。
名前や所属を増やしただけですので、見なくても問題はありません。
すみません、へんたい遅くなりました!
──『テインの街』を出発して、どのくらい過ぎただろうか。
多少バタバタしつつも、予定していた同乗者を乗せた俺たちは『テイン』を出て『王都』に向けて移動しているのだが……特に誰とも喋らずに、ガタガタとそれなりに揺れる馬車で過ごすのは中々に苦痛だ。
馬車に乗る前、一瞬泣きそうになっていたエルネたんは。
すぐに元の調子に戻ってはいたが……どう見ても強がりなのが一目で分かる程度の戻り具合だった為、俺も下手に喋りかけられず。
今も馬車の後方の席で、一人外を眺めながら静かに座っている。
なお、俺がいるのは馬車の前方側、向かい合った座席がある部分だ。
見たくもないイケメンのブラーが正面に座っている状態に逆戻りとなっている。
気持ち的にはエルネたんの横にでも座りたいのだが……今の空気を乱して、突っ込んでしまって良いのか悩んでいるところだ。次の休憩とかがあったら、そのタイミングで行ってみるか?
ああ、もう一人のウェルだが……狭苦しい車内は苦手だとか何とかで、後方の荷物エリアでゴロゴロしている。
確かに図体的に考えて、あのサイズが一緒に乗られるのは勘弁ではあるから妥当なのだが。
ちなみに、俺たちが乗っている馬車だけで移動しているのかというと、そうではない。
『衛兵』のオッチャンこと【ダグラス】と、ニイちゃんこと【ケニー】の二人は、衛兵隊で使っている馬を二頭連れてきていたので、そちらに騎乗して移動中だ。
だから今の俺たちの隊列としては、前から『ケニーの馬』『俺たちの乗った馬車』『ダグラスの馬』の順番で移動しているようだ。
馬車も含めて基本の移動速度は馬が基準なので、通常の乗り合い馬車よりは早く移動しているとか。
通常なら『乗り合い馬車』で5日を見込む移動だが、おそらく4日で到着するだろうと目の前のブラーが言っていたが……エルネたんと仲良くなれる可能性とかを考えたら、そのくらいの日数が妥当か。
何て考えていると。
『──旦那! そろそろ、最初の休憩場所が見えてきましたぜ!』
外から、御者のオッサンの声が聞こえてきた。
「ふむ……やっとか」
目をつむっていたブラーが、目を開きながら言うのだが。
今回ばかりは俺も同意だな……やれやれ、やっと休憩か……車内の空気のせいで、変に疲れた気がする。
◇◇◇
最初の休憩地点は、街道沿いに大きく開けた場所で近くを小川が流れるという、見事にのどかな風景が広がっていた。
「ここで、半刻ほど昼食も兼ねた休憩とする」
この集団のリーダー的立ち位置のブラーによる言葉の後、各々自分たちのやる事をやり始めた。
ブラー自身は周辺の警戒。
衛兵のダグラスのオッサンと、元気が出て来たエルネたんは昼食の準備。
御者のオッサンと衛兵のケニーは、それぞれの馬の世話。
そしてウェルは、「獲物がいねぇか見てくるぜ」などと近くの森へ消えていったが……弓も矢も無しで、獲物を捕まえられるんだろうか? 罠猟?
……ちなみに、俺は自由です。
やる事を探そうとしてみたのだが、周辺の警戒とか分からないし、昼食の準備はどう見ても邪魔になりそうな手際の良さだったし、馬自体初めて至近距離で見たし、猟とか出来ないし……はい、役立たずです! 知ってた!
それでも、何か出来ないかと泣く泣くブラーに聞いてみたのだが。
「……手伝い? ……いや気にするな。メルカは、目の届く範囲で好きに過ごしていれば良い」
と、言われてしまいました。
……俺は、キャンプに来た小っちゃい子供か? 確かに何も出来ないのだけれどもッ!
若干ふてくされつつも、どうせ何もしないで良いのならと近くを見て回る事にしてみた。
御者のオッサンと、ケニーが四頭の馬たちに水を飲ませてやっているのを横目に見つつ、俺も小川に近付いてみる。
深さは……どのくらいだろう? 割と底まで見える清流だが、結構深そうにも見えるな。
手ですくってみると、綺麗な水が冷たくて気持ちいい。
……馬は飲んでるけど、人間も飲んで大丈夫なのかね?
ジーっと手の中の水を眺めていると、段々体温が移ってぬるくなってしまった。
仕方なく手を開いて、水を捨てる。
……まぁ、そもそも水に関しては、この便利な〈魔力水筒〉があるしな。
そう思いながら、自分の腰のベルトから革の〈水筒〉を外して水を口に含む。
元々『メルカ』の持ち物だったこの〈水筒〉は、持ち主の『魔力』か『魔石』を消費して飲料水を生み出してくれる便利アイテムだ。
俺自身は、『魔力』の扱いに関してまだ良く分かってないが、手に〈水筒〉を持っているといつの間にか中が満タンになっているので、とりあえず気にしない事にしている。使えれば良いのよ、使えれば。
と、俺がゴクゴク喉を鳴らしていると。
「──おッ? なんでぇメルカ、中々良いモノ持ってるんじゃねぇか!」
「ゴフォッ!?」
思ってもみないほど至近距離から、やたらデカイ声が聞こえてきたので、思わず口に含んでいた水を吹き出してしまった。
慌てて口を〈ローブ〉の袖で拭いながら振り返ってみると、おそらくニヤニヤ笑っているのであろうウェルの姿があった。
「おお、ワリイワリイ! そんなに驚くなんて思ってなくてよぉ!」
その顔……どう考えてもわざとだろう、このヤロウ……!
「……でしたら、その『含み笑い』は止めた方が良いのでは? 誤解されかねませんよ?」
目を細めながらウェルに言ってみるが。
「おっと、いけねぇ……プッ」
「……ウェル様?」
「おおっと、オレ様は仕留めた獲物をバラさねぇとな!」
言いながら、ウェルは手に持った……多分、鳥の一種だろうモノを片手で川に沈めた。
黒っぽい羽だが、形状的にはニワトリっぽい見た目だな?
カラス色のニワトリ?
俺がジッと見ているのに気付いたのか、ウェルが肩越しに振り返るとニヤッと笑う……多分。
「珍しく野性の『地走り』を捕まえたんでな、今日の昼飯は期待して良いぜ?」
「『チバシリ』……?」
「おう。何だ、メルカは見た事ねぇのか? ちょっとした森とかに良く居るんだが、ほとんど飛べねぇ鳥なんだわ。その分、やたら足が速いんだが……そこはオレ様の腕でな?」
ポンポンと鳥を沈めている腕を叩くウェル。
ウェルの言い分が本当なら、ニワトリっぽい見た目のダチョウみたいな生き物なのかね?
まぁ、美味いのなら文句も無い。
そう思いながら見ていると、唐突にウェルが何かに気付いた。
「あっと、いけねぇ」
「……どうかされましたか?」
「このままだと、細かい作業がしにくいんだった」
そう言うと、ウェルは一度手に持った鳥を地面に置き、目を閉じた。
何をするのかと見ていると──みるみる、特徴的なウェルの『ライオン頭』から、毛が縮んでいくではないか! え、何コレッ!?
動画の逆再生のように、ザワザワシュルシュル髪やタテガミが縮み、体格も小さくなっていく。
……うん、若干……気色悪いです。
まぁ、俺の感想はともかくだ。
多分10秒もしない内に、ウェルの『変態』が終わった。
……『変身』と言うよりは、気持ち悪いのと本人の言動的に『変態』でお願いします。
「──おしッ! これで捌きやすいぜ」
そう言いながら再度手に持った鳥の首を、反対の手で握った大ぶりな〈ナイフ〉でスパンと落とす。
しれっとグロシーンを展開されたが……これもまた一つの生活の……ごめん、無理。見てられないわ。
ドバドバ出てくる血と、むしむしむしられていく羽に、目を向けていられず視線を逸らす。
するとどうしても目に入るのは、見違えたウェルの姿だ。
今はしゃがみ込んでいるが、見上げる様な長身、俺の視線がウェルの腹筋近くだった状態よりは、それなりに身長は下がっている。
それでも、せいぜい鳩尾に俺の頭が来るくらいだったから、ほとんど変化無いっちゃないのかもだが。
筋肉も、ある程度は落ちているが……そうだな。
『筋肉モリモリマッチョメン』から、ブラーの筋肉の付き方に近い、引き締まった筋肉へと変化している、って感じか?
……もっとも、こんな『変態』する様なヤツの筋肉に、見た目からの類推が意味を成すのかは不明だが。
そうそう。
『ライオン頭』の時は、ほとんど意味が無かったように見えたウェルの『小さめのポンチョ』だが、今は『少し丈の短めのベスト』みたいになってる。
何だっけ? ネイティブアメリカンな民族衣装かなんかに、こう言うのが在った気がする。
どうやら、この『変態』を前提にした服装、だったみたいだな。
……どっちにしろ腹筋丸見えだけど。チラ見せじゃなくて、ガチ見せだけど。今ココに需要ねぇから!
ホント、『露出狂イケメン』とか勘弁してください。
……そう。そうなのだ。
『変態』したウェルは、大変遺憾ながら……大層な『イケメン』だったのだ。
「おお、こいつぁ中々肥えてやがるな……!」
何て言ってるウェルの容姿だが、ライオン頭時の首から下と同じく。
褐色の肌をした顔は、野性味に溢れた眼光鋭いワイルド系で、どこか、獣っぽさを滲み出させている。
タテガミと同じ『くすんだ薄い黄色の頭髪』は、何故かツンツンとした刈り上げショートに変化している。
フッサフサがツンツンである……ちなみに減った分は何処に消えたんだ? 下か?
全体の印象としては、オリエンタルさと、ネイティブアメリカンを足して2で割らなかった様な……かなり、濃い見た目の『ワイルドイケメン』へと変化していたのだ。
……と言うか、こいつもイケメンかよぉ……どいつもこいつもよぉ……!
俺が謎の義憤に駆られていると、視線に気付いたのか。
鳥を捌く手を止めたウェルが、フッとこちらを流し見しながらニヤリと笑う。
「なんでぇメルカ、オレ様のあまりの美顔に惚れちまっ「冗談は言動だけにして下さい」──た……え?」
おっと、いけね。
つい本音が。
「そういえば、食事の準備はどうなったんでしょう? ワタシ、確認してきますね!」
「え、あ、おう」
何か呆然としているウェルを置いて、俺はエルネたんの居る馬車の方へ戻っていくのであった。
こんなんばっかりだよ!(待て




