【52】 2章の19 道連
1日遅れました!
『声デカライオン頭』こと【ウェル】……心の中で敬称は必要ないな、コイツも。
ウェルへの挨拶は出来たが、まだ二人同行者は残ってる訳だ。
こちらに視線を向けていた二人に、俺から挨拶する事にする。
「お二人も、昨日──ではなく一昨日でしたね。お世話になりまして、ありがとうございました」
「いえいえ、私どもは職務でしたので。とは言え、今回ご同行するとは思ってもみませんでしたがな。『テイン衛兵隊』で分隊長を務めております、【ダグラス】と申します」
「ジ、ジブンなんかの事を覚えて頂けていて、光栄ッス! ……あ、いえ光栄です! 自分はダグラス分隊長の部下で、【ケニー】と申しますッ!」
自己紹介されたからには、俺もしない訳にはいかないか……名前だけの方が、トラブルが無いかね? 俺っちは一庶民ですよ、っと。
「ご丁寧にありがとうございます。ワタシは、『メルカ』と申します。道中、よろしくお願いいたします」
「「ハッ」」
名前を確認し合った後、渋い濃茶で揃いの〈革鎧〉を着た二人が。
右手を拳にすると、胸の真ん前で手の甲をこちらに見せる姿勢をとる……見慣れないが、多分『敬礼』なのかな、これ? 〈剣〉とか手に持ってたらどうするんだろ? 右横に誰か居たら刺さるんじゃね……?
つい気になった事に思考を飛ばしていると、横からウェルが口を開いた。
「へぇ、何だ? 同行者は全員メルカの知り合いかよ……奇妙な縁もあったもんだな?」
ん? ……確かに。言われてみれば、そう……あ。
「確かにほとんどの方はそうなのですが、あちらの『御者』の方は今日が初めてお会いした方ですね」
言いながら視線を向けると、こちらを見ていた御者のオッサンとキレイに目が合う。意外と綺麗な蒼の瞳だった。
「……へッ!? あ、あっしがどうかしましたかい?」
見つめ合った一瞬の間の後、御者席から転げ落ちそうなほど慌てた御者のオッサンが問いかけてきたので、急いで否定しておく。
「あ、大丈夫ですよ! 御者さんがどうこうではなく、ここに居る方々が偶然ワタシがお会いした事のある方ばかりだったのですが、御者さんは初めてお会いした方です、と言う話になっただけですので!」
「な、なんだ、そうだったんです──でやすかい! あっしはてっきり、なんか粗相でもしちまったんじゃねぇかと……」
「急に驚かせてしまって、申し訳ありません……」
「ああ、いえいえ! 気になさらねぇでくだせぇ!」
分かりやすく下手に出てくれるので、会話はしやすいが……大丈夫かな? メルカの肢体に、劣情を催されたりしないでくれよ? ほら、メルカ美人だし。
なんて事を俺が考えていると。
「──うーん……なぁ、御者のオッサンよぉ?」
「ッ!? へ、へぇッ!? 何でやしょう!?」
ズイッと俺の横から身を乗り出したウェルが、スンスンと鼻を鳴らしながら首を捻っている。
哀れ御者のオッサンは、声が震えているではないか……あんまり驚かせてやるなよ、バカライオン。
「どっかでてめぇの臭いを嗅いだ覚えがあるんだがよ、オレ様と仕事した事があったか?」
「……『傍若無人』様とですかぃ? いえいえ、あっしは一介の御者ですんでご一緒なんてとてもとても! ただ、『総合ギルド』の中で何度かお見掛けした事はありやすんで、その時にあっしの臭いを覚えてらっしゃったんじゃねぇですかぃ?」
ウェルの問いに、スラスラと御者のオッサンが答える。
別に変な事は言ってない……言ってないんだが……急に、口数が増えたな?
人間ってのは──嘘をつく時には、口数が増える。
ちょっと、この御者のオッサン……気にしておいた方が良いかもしれない。
アネゴの手配だから大丈夫だと思いたいが、末端まで確認しないだろうしな。
俺は警戒したが、逆にウェルは納得したらしい。
「……おぅ、そうか! 手間取らせて悪かったなぁ!」
「いえいえ、そんなそんな!」
ヒラヒラと手を振って、踵を返したウェルだったが。
「フン……」
こちらを向いて再度真面目な顔をすると、鼻を鳴らした……あ、これはウェルも変だと思ったのかね?
俺の貞操は危険だが、それなりに高位の『冒険者』……あ、違うな? 確か、ウェルは『傭兵』とか言ってた気がする……多分。
さておき、腕の立つヤツっぽいから、危険からは守られやすそうだな……貞操はスゴイ危険だが。
近づき過ぎないように注意しつつも、離れ過ぎないようにしとこう、と俺が考えていると。
「……ぁあん? そういやぁ、オレ様が護衛するのはメルカだけじゃねぇはずだが……?」
再度タテガミを揺らしながら首を捻るウェルに、俺の後ろからブラーが返答する。
「ああ、それか。実は私も『組合長』に詳細は教えて頂けなかったのだが、後一人同行者が居るらしい。メルカとその一人が、今回の護衛対象だ」
おお? 何だ、野郎とオッサンだけじゃなかったのか!
……いや、でもここで期待してもう一人もオッサンだったら、俺は立ち上がれない……股間からはそもそも無くなってるしな。
俺が要らぬ期待をしないように、どうでも良い事を考えていると。
タッタッタッタッ……
軽快なリズムで、大通りの向こうから誰かの近づいてくる足音が聞こえてきた。
……もしかすると、この足音の主かな?
◇◇◇
俺が足音の聞こえてきた方向に目を向けるのと、足音の主が口を開くのでは、後者の方が早かった。
「──ご、ごめんなさい! お待たせしましたッ!」
聞こえてきたのは、ハァハァと息を切らせる音と、可愛らしい高音の女の子の声……つまり女の子ッ!
思わず目を向ける速度が倍加する。下手すると3倍化する。どうもレッドコメットです。
そして、目を向けた俺が見たのは。
──『神』との再会であった。
……いや、違う……違わないけど違う。
ピンと尖ったストロベリーブロンドの髪と同じ色の『ネコミミ』を持ち、小柄な体格には一見不似合いだが、その実『黄金比』を超えた何かの神がかったバランスに支えられた『神』を持つ、愛らしいネコミミ少女がそこに立っていた……オー、マイ、ゴッデス……!
もとい、この特徴的な美少女を見間違う筈もなく。
昨日知り合った【エルネ】たんが、そこに立っていたのだ。
思わず、こちらから声をかけてしまう。
「エルネさん! 最後の同行者は、アナタだったんですか!?」
「あッ! ……えっとぉ、そのぉ……メ、メルカ、さん……」
俺が勢いよく声を掛けると、途端に顔を赤くして挙動不審になるエルネたん。
ああ、もうこの光景だけでご飯が食べれそうだが、昨日よりはまだ喋れそうだ。
……いっその事、同行者でなくとも同行者にしてしまえば良いのではないだろうか……ダメ?
「も、申し訳ありません、エルネさん。再会できたのが嬉しくて、つい驚かせてしまいました……お話を伺っても大丈夫でしょうか?」
「は、ハイ! エルネこそごめんなさい……『ニーニー』に聞いてたのに、つい驚いちゃって……」
おお、昨日より言動がしっかりしてる! 昨日は、色々と困ってたから精神的に弱ってたのかもしれんな……しかしこれは、『神』ネコミミ美少女と、嬉し恥ずかしトーキングッ!
エルネたんが細かく動くたびに追随する『神』に視線が向きそうになるのを我慢しつつ、顔を見ていても視界に入る『神』への感謝を忘れない……ああ『神』よッ!
……感謝はさておき、誰だって?
「いえいえ! そんな事、何も気になさらないで下さい! ……あの、ところで『ニーニー』さん、とは?」
「え、えっとぉ……ニーニーはニーニー……あ、お兄ちゃんです!」
「なるほど、ニーニーさんはお兄さん……」
頭の中で、昨日聞いた言葉がリフレインする。
『──『妹』を、『王都』まで同行させて頂けないでしょうかッ!?』
……あれ? もしかしてのもしかしする?
「……エルネさん、お兄さんもといニーニーさんと言うのは、もしかして──ミーニーさんの、事でしょうか?」
「あ、そうです! ニーニーの名前は、ミーニーですよぉ!」
嬉しそうに破顔したエルネたんにクラクラしながらも、俺の頭の中で妙に納得出来た部分があった。
あのイケメンミーニー君の妹がエルネたんなら、悔しいが納得出来る。
イケメンの妹が美少女とか、想像通りとはいえ想像の上をいかれたぜ……!
……ああそうか、あれほど必死にミーニー君が頼んでいたのは、エルネたんと『王都』に行きたかったからか。
そりゃ、これだけカワイイ妹と一緒なら、『王都』でもどこでも行きたい……あれ?
……そもそも、何で行かないといけないのかは聞いてなかったな?
納得できたのに、納得できない部分が出て来てしまった。
同時に、いくつか謎が生まれた事にも気付く。
どうせなので、様子を見つつエルネたんに聞いてみるか。
「……あの、エルネさん?」
「ハイ! 何ですか、メルカさん?」
うはぁ……い、いや! この程度で止まっていては何も聞けない!
「いくつかお伺いしたい事があるのですが……」
「ハイ! エルネで分かる事だったら、大丈夫ですよぉ!」
ニコニコニコニと満面の笑みで答えられると、もう尊いが過ぎて腰が砕けそうになる……だが、俺は負けない!
「では、まず──「おいメルカ」」
……何、人の言葉を遮ってくれちゃってるんですかねぇッ!?
ギロッと視線を向けると、腕を組んだブラーがムッツリと立っていた。
「会話中のところ悪いが、ここであまり時間を使う訳にもいかんのだ。細かい話は馬車の中で頼む」
「あ、そう……ですね」
……くそう、真っ当な理由を口にしやがって。
反論できんじゃないか。
……あ、いや。これだけは聞いておかないと。
ブラーに頷きを返しつつも、一言断ってからエルネたんに問いかける。
「すみませんが、一つだけ。エルネさん、ミーニーさんはご一緒ではないのですか?」
すると、俺の質問を聞いたエルネたんは。
キュッと自分の身を抱くと、俯きながら答えてくれた。
「ニーニーは……エルネを『王都』に行かせてもらう代わりに、『組合長』のお仕事を受けちたからぁ……居ないのぉ……」
……あちゃあ。
……そんな泣きそうな声は、勘弁してくれぇ。
最後の一人はエルネたそ!
※20220608 『衛兵』二人の自己紹介を追加




