【51】 2章の18 同類
投稿が遅くなって申し訳ありません!
(最近ずっと遅くなってんなコイツ……)
今日はキリが悪かったので、いつもより短めです。
俺があまりのショックに、放心している間にも。
カラカラと馬車は進んでいき、その集団の前に停車した。してしまった。
「──では、先に……む? おい」
「え、あ、はい?」
かけられた声に慌てて視線を向けると、ブラー君が怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「護衛との顔合わせの意味もある。一度降りるぞ」
「はい。分かりました……」
本当に、間違いようもなく、彼らが同行者のようだ……何てこった。
これからの数日間、俺は野郎どもに囲まれて過ごさなければならないなんて……今朝までとの落差が酷くはないだろうか?
大きなため息を心の中で吐き出しつつ、出入り口のドアに向かう。
軽く身をかがめたブラー君が先行し、ドアを開いた。
と、その時。
「ウゲッ!?」
車の外から、これが心底イヤそうな声です。と見本に出来そうな声が聞こえてきた。
この声は……多分、あの『ライオン頭』だよな? と、俺が考えていると。
「……何だ。何か、文句でもあるのか?」
先に降りたブラー君が、腕を組みながら誰かに話し掛けている……まぁこの状況なら、相手は『ライオン頭』だよな。
どちらにしろ、ブラー君の体が邪魔で降りられないので、しばしドアの横で様子を伺う。
「文句あるに決まってんだろォ? えぇ? 『難攻不落』さんよォ」
「それはこちらのセリフだ。この『傍若無人』が」
……何か知らんが、あんまり仲は良く無さそうだな……後、呼びかけに使ってるのは、多分『二つ名』ってヤツだよな? 使ってる状況はろくでもないが、それ自体はカッコいいよね……ハハッ。
ともかく、そんな面倒を起こしそうな二人が乗った馬車で、俺は数日間旅を……ええええええぇぇ? すっごくイヤになってきた。今からでもキャンセルしたい気持ちでいっぱいいっぱいです。
などと俺が考えている間にも、外からは二人の『舌戦』が聞こえ続けている。
「てめぇ『王都』に行ってるんじゃ無かったのか? ……あぁ、そうかッ! とうとう左遷されやがったな? こいつぁ、おめでとうございますってなッ」
「違うわッ! 貴様の様な根無し草と違って、今の私はおば──『組合長』の指示で動いているのだ……今は、とある女性の護衛中だ」
「ハッ! お偉い『貴族』様が、オンナ一人の護衛です、ってかぁ? 自分が途中で襲っちまうんじゃねぇのか? この根っからのムッツリがよォ?」
「……ええい、うるさいわッ! この、全身筋肉の脳味噌まで筋肉になった性欲バカがッ! オープンだからって何でも許される訳が無いだろうがッ!」
「あぁ!? ……はっはーん、さてはてめぇオレ様がうらやましいんだろォ? いやぁ、経験豊富で悪かったぜ! 何せオレ様は、乾く暇もねぇからよぉ?」
「いつもいつも尻軽女ばかり相手にして、何が楽しいのだかなッ!? 乾く暇が無いのも、何か要らぬモノでも貰ったからなのではないのかッ!?」
「んだとぉッ!?」
「何だッ!?」
……無駄に息の合った罵り合いをするなぁ、こいつら。実は気が合うんじゃないか?
そして、出来れば俺とは遠いところで息を合わせていて欲しいんだが……同乗するんだぜ、この後。
いつの間にかお互いの胸倉を掴みながら、至近距離で言い合っている二人を視界に収めながら。
誰からも見えていないのを良い事に、俺はもう一度深く溜息をついた。
と、無駄な膠着状態だった外から、ようやく事態を動かす声が聞こえてくる。
「──あ、ああー、そのヴァイス卿? 『傍若無人』殿? 我々は騎乗で護衛の任にあたる訳ですが、護衛対象はお二人だけでよろしいのですかな? 正直、お二人であれば護衛なぞ必要無いような気もいたしますが……は、はっはっは!」
この声は、多分衛兵の『オッチャン』だな。
圧のある筋肉してたが、この二人に比べれば一般人寄りだろう『オッチャン』には、この調子で頑張ってもらいたいところです……と言うか、俺が関わりたくないので、応対全部お任せしちゃおうじゃないか!
「ぬ? ……いかん、そうだったな。このケダモノが要らぬ事をぬかすので、つい熱くなってしまったわ」
「んだとぉ? このインケンが……チッ、とは言え確かに仕事は仕事だったな。と言うか、さっき遠目からでも見えてたんだがよォ……」
……何かもう、正直出たくないところだけど。
ここは外の会話の流れ的に、俺が出て行くところだよなぁ? やれやれ。
様子を見つつ、ドアから顔を出しタラップを降りる。
するとブラー君がバツの悪そうに軽く目線を逸らしながら、こちらに手を伸ばしてきた……のを無視して。
膝より少し高いくらいの最後の馬車のタラップを、軽く飛び降りる。
このくらいの高さなら、別に〈ローブ〉がめくれて中が見えるなんて事も無いしな。
……いや、何かブラー君に触りたくない、ってのも無論あるのだけれど。
また自分の手を見つめているブラー君は、とりあえず置いといて、だ。一応昨日は助けられた訳だしな。
「……どうも、昨日はお世話になりました」
ハハハと愛想笑いをしつつ、『ライオン頭』に挨拶をしておく。
すると、目を丸くした『ライオン頭』が、俺とブラー君を交互に何回か見た後、吹き出すように笑いながら返事をする。
「……ダハハッ! おぅ、昨日ぶりだなメルカ! 今日も、むしゃぶりつきたくなるくれぇ良いオンナっぷりだ──」
「やめて下さいね」
……あ。
またつい、顔を背けながら無意識に即答してしまった……いや、だって気持ち悪いんだもん!?
とは言え、ぶった切り過ぎたな……『ライオン頭』が怒り出さない内に、謝っておくか?
念の為に愛想笑いを浮かべつつ、そっと顔を向けてみると。
「お、おう……わ、悪かった、な?」
鳩が豆鉄砲……じゃねぇな。ライオンが鼻っ面殴られたみたいな顔してるな……見た事ないけど。
さておき、どうやら怒った訳じゃなさそうだ。
「い、いえいえ。お分かり頂けたのであれば、それで……」
「おう、許可貰ってからにするわ」
いや、そもそもやるなと言ってるのですがぁッ!?
内心でツッコミつつも口に出すのは一応……はばかられたので、愛想笑いを再度浮かべておいた。
機会を見て、もう一度言っておこう。
と、俺と『ライオン頭』のやり取りを見ていたのか、横から不思議そうにブラー君が声を掛けてくる。
「なんだ? メルカ、このケダモノと知り合いだったのか?」
「え、ええ。昨日ギルドで少し揉めたところを……助けて頂きまして」
どうでもいいがブラー君、その無表情はやめて頂きたい。何か怖い。
……さておき、昨日も俺は自分で何とかするつもりだったが。
よく考えてみれば、実際出来たかどうか分からなかったし……こいつに助けて貰ったんだろう。
もう一度目を合わせて、軽く頭を下げておく。
すると、ニカッと……いや、この顔だと、何と言うか……グワッと? 多分笑顔……になった『ライオン頭』が楽しそうに声を出した。
「それどころか、オレ様とメルカはお互いを名前で呼び合う仲だぜ? ……なッ!」
「えッ?」
「……えッ?」
……ああ、また! と言うか、予想できないラインから唐突に話題を振るの止めて頂けませんかねぇッ!?
後、正直に言って良いかな? 俺、お前の名前覚えてないんです……わ、悪いな!
……とは言え、そのまま言うのはちょっと角が立つよな……言い方言い方……よし。
「申し訳ありません。その、お会いした前後の記憶が衝撃的過ぎて、お名前を……ド忘れしてしまいました」
「お、おお……そう、か」
お、おう……結構しょげたな? 元気もりもりだったタテガミとか、ピンとしてたケモミミが寝てしまったぞ。
表情は若干分かりにくいが、全身で感情表現してるところは分かりやすいかもしれない……ただ、ヤロウの感情が分かっても嬉しくないんだな、これが。
と、今まで無表情だったブラー君が、急にドヤ顔になって口を開いた。うん、凄くウザイ。
「なんだなんだ? 貴様は名前すら憶えられていないのではないか! 私はメルカに、ごく一部の者にしか許可していない、『愛称』で呼ぶ事を許しているというのになぁ!」
……え? 自分だって最初凄い嫌がってたじゃん? それに許したって言うか、こっちが脅したって言うか……ええー?
俺が内心でドン引きしている間にも、調子に乗ったブラー君……もう、ブラーで良い気がしてきた。
ブラーが、『ライオン頭』を煽っていると、さすがにシャクに障ったのか。
「ぃよしッ! メルカ、もう一度伝えてやろう!」
下がっていたケモミミやタテガミを大きくして、まるで威嚇のようになっている……どうでもいいが、ビジュアルが怖い。食われそう。物理的に。
「『偉大なる獅子』の血を継ぐ、強きオレ様の名は【ウェルマスフェルテ】ッ! 最大最強の意を持つ名だが、他種族であるメルカには特別にッ! 親しき者のみが呼べる【ウェル】と呼ぶ事を許してやるぜッ!」
「……はぁ、ありがとうございます」
どうしよう、どっちも鬱陶しい……でも、呼ばないともっと鬱陶しそうだしなぁ。
「短い間ですが、よろしくお願いいたします……ウェル様」
「──おぅッ!!」
……声デカッ!?
インケンとケダモノ。




