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【49】 2章の16 前夜

※投稿が遅くなって申し訳ありません。


※今回は、主人公の結構な変態っぷりがあります。


※いつも誤字脱字報告、本当にありがとうございます!




 日が傾き始めた街中を、レティシアさんと二人で話しながら歩くのも中々楽しかったが。

 レイフェちゃんやチロッペたん、レティシアさんと過ごせるのが今日までだと思ってしまうと、やはり寂しかったり悲しいと考えてしまう事を止める事は出来なかった。


 そんな俺の気持ちを読み取ったのか、レティシアさんが声を掛けてくる。


「メルカさん、大丈夫ですよ。メルカさんならすぐに『魔力制御』を習得して、戻って来られます」

「……そうでしょうか?」


「ええ。きっと」


 レティシアさんは、特に根拠を示さなかったが。

 そこまで自信満々に言い切られると、信じてしまうのは人間心理の不思議なところだ。


「……頑張ります」


 それはさておいても、こんなにイイ女のレティシアさんが奥さんで、チロッペたんが娘のヤツはやっぱり羨ましくてしょうがないね……ああ、俺もパートナーが欲しい。

 もちろん、可愛くて賢くて頼りがいがあってお金……は、俺が持ってるから別に良いか。

 そんな相手は居ないもんでしょうか……あ、もちろん女の子ですよ?



「──あ、お帰りなさい! お母さん、メルカさん!」


「ただいま、アンちゃん」

「ただいまです。チロッペさん、レイフェさんは起きられましたか?」


 店に戻ってくると、元気よく嬉しそうにチロッペたんに出迎えられた。

 返事をしつつ、気になっていたレイフェちゃんの様子を聞いてみると。


「あ、ついさっき──「ごめん。心配かけた」」


 チロッペたんの言葉の途中で、横から返答があった。

 視線を向けてみれば、見慣れた様子のレイフェちゃんが佇んでいる。


「もう、すっかり大丈夫なんですか?」

「ん。ボクが、動揺し過ぎただけだから」


「レイフェが動揺だなんて、珍しいこともあるものよねー」


 頷きを返すレイフェちゃんに、レティシアさんからからかい混じりの声がかけられた。

 すぐにレイフェちゃんが不服そうな表情でレティシアさんを見ているが、への字に結んだ表情はやたら可愛くてしょうがない。ぺろぺろしちゃいたいくらいである。


「……レティシア」

「あらあら、怒られちゃうわ。もう大丈夫そうだし、レイフェには今日の夕飯をお願いしておこうかしら?」

「……ん。分かった」


 そういえば、この2日でレティシアさんとチロッペたんの料理は口にしたが、レイフェちゃんの料理は食べた事無いな……? 独特のドワーフ料理とかあるのだろうか?

 まぁ、ゲテモノ料理でなければ基本何でも食べる主義だから、レイフェちゃんの料理だけ食べれないという事は無いだろうが……あれ? これフラグでは……いやいや、そんなまさか!


 内心、少しだけイヤな予感がよぎっていると、食料品を取り扱っているコーナーからレティシアさんに呼ばれた。


「メルカさん、明日から持って行く『保存食』だけど……」

「あ、はい」


 まぁ、夜のお楽しみと言う事で。


 ……何か、別の意味に聞こえそうだな?



  ◇◇◇



 賑やかで楽しい夕食を終えて、俺は一人割り当てられた部屋で過ごしている。


 ──ポタポタポタ


 ……ちょっとだけ心配していたレイフェちゃんの料理だが、香辛料と骨付き肉多めな以外は割合普通の料理だった。

 俺は食べた事無いが、中東とかシルクロードとかそんなエリアの料理のイメージに近い気がする。見た目のイメージだけだが。


 ピチャッ──


 ……そう言えば食事の途中、レティシアさんにレイフェちゃんが何か言われていたようだった。

 伝統料理がどうのこうのとか、あれは特別だどうのこうの……まぁ機会があれば食べる事もあるだろう。

 しかい、俺のイメージだと割とレイフェちゃんはあわあわしているイメージもあるんだが……レティシアさんのイメージだと、あまり慌てない感じなのだろうか。


 パシャッ──ポタポタ


 ……ん? ……何か変な音が入ってる?


 ああ、そりゃお湯で濡らしたタオルでの『清拭(せいしき)』中だからだ……つまり、全身ふきふきだな!

 〈異世界(こっち)〉では、今のところ『風呂』を見かけてないからな……『王都』には有ってほしいんだが、望み薄だろうか? 川で水浴びとかも楽しそうだし、絶対にやりたいが……それと『風呂』とはまた別物だからなぁ……命の洗濯とは言いえて妙というやつだよ。

 最悪でっかい樽を買って、中に水を溜めたら焼いた石でも放り込んで、スノコの上から入れば……やりにくそうだけど、最低限『風呂』にはなるだろう。


 ……しかし、そこまで明るくない部屋の中で、一人全裸になって体を拭いていると……ちょっとムラムラしてくる気がしないでもない! というかしてる! メッチャしてる!


 この部屋に姿見とかが無くて本当に良かった……さすがにすぐ隣とか向かいの部屋に美女美少女が居る状況で、その……ヤらかす訳にはいかないですからね! ええ、イきませんとも!



 ……俺は一人で、一体何をやってるんだ?


 さておき、体はまだ良いけど。

 意外と面倒なのが髪だな。


 元々の『俺の体』だと、短髪にしかした事なかったからな……こんな背中の中ほどまであるロングなんて、扱いにちょっと困る。

 まぁ、今のところは濡れタオルで挟んで拭いてるだけだが。

 実際に『風呂』に入ったら、誰かに髪の手入れの仕方とか教わった方が良いんだろうな。

 折角の綺麗な『メルカ』の髪だし、体と含めてちゃんとメンテナンスしてやりたい……もとい、したいとこだ。


 ん? ……それはつまり、『風呂』さえあれば公然と美女たちのはだか、を……おぉぉッ!?


 そ、それはそうか! よく考えるまでもなく、俺の今の体は『メルカ』な訳だから、女性と一緒に『風呂』に入って何もおかしくはない、と言うか当然の流れな訳でありまして!


 どんなにガン見しようが、あわよくばイチャイチャキャッキャッの末にぺたぺたぺろぺろしても、何の問題も無いと言う事ですなッ! 嗚呼、素晴らしき人生ッ!


 こ、これは……『メルカ(自分)』のメンテナンスはもちろん、もし無ければ『風呂』文化を何としてでも浸透させる必要があるな……俺、頑張るよ!


「……クシュン!」


 ……やべ、ちょっと全裸で居る時間が長すぎたか。

 微妙に冷えてきてしまった……もしかしなくても、髪を拭く時は服を着といた方が良かったのでは? 今更過ぎるけど。


 ま、まぁいいや。

 体はもうサッパリしてるし、くまなく拭いたしな。


 早めに下着も着けてしまって……しかし、下着(これ)も構造が簡単で助かった。

 いわゆる〈紐パン〉と、〈フロント紐ブラ〉……で良いのか? 呼び方は分からんのだが。

 まさか、他人が着ているのを脱がす前に、自分で着けて外す方を経験するとは思わなかったが……まぁ、良い経験だよな。


 あわよくば、〈異世界(こっち)〉で他人のを脱がすのも経験してみたいもんだが……こればっかりは分からんか。

 後は頭からずぼっと〈寝間着〉を着て……っと。


 あ、この〈寝間着〉はチロッペたんが貸してくれたものだ。残念ながら綺麗に洗われてて、特に匂いはしない。

 もとい、シンプルでゆったりめなワンピースで、実に楽なものだ。


 いつも着てる〈メイジローブ〉と構造も似てるが、あっちは革ベルトで腰を絞るからもっと密着する。

 まぁ、それでも楽なもんだが……生地がしっかりしてるからか、あれを着ると気分もしっかりする気がする。裏地とかが絹っぽくて、着心地は凄く良いんだけどな。


 ……そう言えば、今朝起きた時には何も身に着けていない全裸で寝ていたが、あれはやっぱり俺が無意識に脱ぎ散らかしたんだろうか?

 寝ていて暑かったとか? だが、腰で絞ってた革ベルトまで無意識で外すのは……うーん?

 しかし、もしそうだとしたら……明日からの旅路では気にしておいた方が良いな。

 ケダモノに襲われかねん……俺ならつい襲ってしまうだろうし。下手に脱げないように、ズボンタイプの服も有った方が良かったかも? 今更だけど。


 さておき、着替えも清拭も終わったし……冷えちゃったタライの水を捨ててくるか。

 捨てる時は庭木の根本に掛けてくれ、って言ってたし。


 〈寝間着〉だけど、外に出ていく訳じゃないし……良いよな?


 ◇


 両手がタライで塞がっているので、部屋の〈魔石灯〉は持ち出せなかったのだが、メルカ()の目は高性能なようで星明りだけでも結構な範囲が見え──


「──メルカ?」

「えッ!? っとっと!」


 部屋から出た瞬間にドアの影から声を掛けられて、思わず手に持ったタライを取り落とすところだった。

 幸い、素早く空中で抱え込んで事なきを得たが……って、それより今の声は。


「……レイフェさん?」

「ん。ごめん、驚かせた……メルカは、水を捨てに?」


 光を絞った〈魔石灯〉を手にしたレイフェちゃんが、自分の部屋の前に立っていた。

 見れば服装も昼間のままのようだし、他には何も手にしていないようだが……どうしたんだ?


「はい。レイフェさんはどうしたんですか?」

「ボクは……少し、眠れなくて」


 目線を逸らしながら言うレイフェちゃんが気になったので、苦笑を浮かべながらお願いしてみる。


「……レイフェさん、もし良かったら下までご一緒して頂けませんか? タライ(これ)をもっていると、明かりが持てないんです」

「……ん。分かった」


 まぁ、本当は明かりが無くても見えてるんだが……口実口実。


 先導してくれるレイフェちゃんについていき、階段を下りる。

 キッチンの裏にある庭へ、内カギを開けて二人で出た。


「……あそこの、植木の根元に」

「分かりました」


 レイフェちゃんの指示に従い、手に持ったタライから水を捨てる。

 振り返ると、井戸のポンプの前で立っているレイフェちゃんが手招きしている。

 ……ポンプ、あるんだな。


「メルカ?」

「あ、今行きます」


 レイフェちゃんに指示されるまま、タライの中を水ですすぎ、軽く振って水気を飛ばす。

 そのまま、出て来たドアの横辺りに立て掛けておく。


 と、レイフェちゃんはそのまま中に戻ろうとしていたので、俺から声をかけた。


「あの、レイフェさん?」


 ベンチでもあれば良かったのだが、残念ながら見当たらないので……〈寝間着〉が少し汚れるかもしれないが、手ごろな段差に腰かけてレイフェちゃんを手招きする。


「……ん?」


 優しいレイフェちゃんは、俺をスルーする事無く。

 手招きされるままこちらに近付いてくれたので、ポンポンと俺の横を手で叩くと。

 〈魔石灯〉の明かりを更に絞り、横に腰かけてくれた。


「……メルカ、どうかした?」

「いえ、そういう訳ではないんですが……」


 ……しまった。

 様子が気になって呼び止めたのは良いが、パッと話題が思いつかない。

 えーっと、えーっと……何か、何かないか……?


 チラチラと話題を探して目線をさまよわせている内に、レイフェちゃんの恰好が目に入る。


「そ、そうなんです! 実はワタシ、寝ている間に服を脱いでしまうクセがあったみたいで……このままだと、明日からの旅路で困った事になるかもしれないので、レイフェさんの着てらっしゃる〈ショートパンツ〉のような服をお借りした方が良いのかな、と」


 出発前日の夜にこんな事を言うのも気が引けたが、口に出してみると意外と良い口実になった気がする。と言うか、実際にその危険があるのなら本当に借りておきたいところだ。

 しかし、軽く首を傾げたレイフェちゃんは、事も無げに口を開く。


「ん? 昨日メルカはボクが脱がせたから(・・・・・・・・・)、最初から何も着てなかったはず」


「あ、そうだったんですか? じゃあワタシが脱いだ訳じゃなかったんですね! ……え?」


 んん? んんんんん? あるぇ? 俺の耳がおかしくなったのかな?

 今、レイフェちゃん何か……おかしな事を口にしなかったか?


「レ、レレレイフェさん?」

「どうかした?」


「その、今……レイフェさんがワタシの服を脱がせた、みたいに聞こえたんですが……ワタシの聞き間違い、ですよね?」


 少しばかり引きつった笑顔を浮かべながらレイフェちゃんに問うてみるが、レイフェちゃんは首を横に振る。


「聞き間違ってない。昨日の夜、メルカの服を脱がせて体を拭いたのはボク(・・・・・・・・・)

「……んんんんん? え、レイフェさん?」


 うぇいとうぇいとうぇいと? 待つが良い。

 脱がされただけでも驚天動地なのに、今なんか追加されませんでした?


 レイフェちゃん? え、レイフェちゃん?


「あの、レイフェちゃん? 今、ワタシの服だけじゃなく、体を拭いたと聞こえたのですが?」

「ちゃん……フフッ。うん、メルカの体、全部拭いたよ。気持ち良かった?」


 オッフ……その満面の笑みで「気持ち良かった?」は、破壊力が……い、いや! それはそれで良いとして、いや良くは無いのだけどもッ!? ……ど、どっちなんだいッ!?

 そして、何故意識を失っていた昨日の俺! 嬉し恥ずかし体拭き拭きプレイの記憶がカケラも無いとか、文化遺産焼失レベルの失態ですよコイツぁッ!?


 心の中で頭を抱えた俺がヘッドバンギングしているのを表に出さず、顔を逸らすだけで堪えていると。

 レイフェちゃんがもう一度声をかけてきた。


「……メルカは不思議。一緒に居ると……楽しい」


 何故か部屋の前で出会った時と雰囲気の変わったレイフェちゃんを怪訝に思いつつも、良い方向に変わったのなら間違っていなかったと胸を撫でおろす。


「……そんな事ありませんよ? ワタシの方こそ、レイフェさんやチロッペさん、レティシアさんと一緒で……嬉しいです」


 色んな意味で。

 うんうんと頷いていると、こちらに顔を向けたレイフェちゃんが何故か頬を膨らませている。リスかな?


「……ちゃんが良い」

「え?」

「『さん』じゃなくて、『ちゃん』が良い」

「えっと……?」


 さん? ちゃん? ……何の事……あ。

 今、俺……動揺して呼び間違えてたか?

 しまった、つい心の中での気安い呼び方を……ってあれぇ?


 ……『ちゃん』の方が良いの?

 いや、俺としても呼びやすいけども。


 逡巡しつつも、口ごもった俺に対して何か期待した風のレイフェちゃんに……応えない訳にもいかないだろうJK。


「……レイフェ、ちゃん?」

「うん!」


 また、ニッコリ満面の笑みになるレイフェちゃんは、正に天使でありましょうや……俺、昇天。あ、はなぢでそう。

 思わず、もう一度顔を背けた俺にレイフェちゃんが感慨深そうに言葉を続ける。


「本当に、メルカは凄い。目が離せない」

「いえ、その……何と言うか、すみません」


 前髪の隙間から見えた、キラキラした瞳に当てられてしまう。

 これが噂の羞恥プレイってやつですか、そうですか……でも、キライじゃないッ! キライじゃないよぉッ!?


 謎の感情と、ちょっぴりの快感に苛まれる俺に。

 情け容赦なく楽しそうにレイフェちゃんが言葉を重ねる。


「いきなり〈下着〉丸出しにしてみたり、」


 はい、そんな事もありましたね。



「目の前から消えて見せたり、」


 すごく慌ててたんです。



「実は『貴族』だったり、」


 ……あくまで、かもしれない、だけどね。



「いつも騒動に巻き込まれてたり、」


 俺から招いてる訳じゃないよ?



組合(ギルド)長と知り合いだったり、」


 ……それは『メルカ』が、知り合いだったんだ。



「『聖銀(ミスリル)貨』をじゃらじゃら取り出したり、」


 ……それも『メルカ』が、持ってたんだ。



「実は『Sランク』だったり、」


 ……『メルカ』が、だ。




「──本当に、メルカって凄い」



 …………そう。凄いのは『メルカ』だ。


 ……『俺』じゃない。


 勘違いなんか、してない。



「……メルカ(・・・)?」


「いえ、何でもありません。明日も早いですし、もう寝ましょうか、レイフェちゃん」

「う、うん……」


 そうだ。

 『俺』は、勘違いなんか──してない。



勘違いしてはいけない。



ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!

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[良い点] メルカさん脱ぎ魔じゃなかった!
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