【48】 2章の15 預金
投稿が一日遅れて申し訳ありません。
また、各種つじつま合わせを入れまくったので、あとがきに詳細を記入しております。
「お待たせしました、メルカさん」
「あ、いえいえ……」
その後数分で、いつも通りの微笑みを湛えて帰ってきたレティシアさん。
今は変な圧も感じないが、さっきの一幕を見た後だとその微笑みもちょっと気になるな……?
「あ、そうだ! メルカさん!」
「は、はい!?」
「さっきの『お金』の事なんですが、そのまま持ち歩くのは少々危険かと思うんです」
「それは……そうですね」
うん、それは間違いない。
誰が好き好んで、億単位の現金を持ち歩きたいというのか。
札束で張り倒したい相手が居るとか、札束のプールで美女たちと泳ぎたい、なんて即物的な欲望を持っていないと難しいだろう。俺はそんな事ないしな! ……なにかな?
さておき、同意はするが……何をどうするんだ?
「少し話が変わるんですが、メルカさん『身分証』は何か持ってますか?」
「『身分証』ですか? それなら、頂いた物が……ここに」
ちょうどよく、アネゴから貰ったところだ。
〈ローブ〉の胸元を広げ、チェーンでつながれた〈指輪〉を取り出して見せる。
するとそれを見たレティシアさんが、怪訝そうな表情を浮かべた。
「頂いた……? あの、メルカさん? 元から持ってたとか、新しく発行した、ではなくですか?」
「あ、ええと……そうですね、言い方が悪かったです! 新しく発行して頂いたので……」
しまった、ついそのまま伝えてしまったな。確かに、普通なら『身分証』は発行する物であって、貰う物じゃないよな……まぁ言い直したから大丈夫……いや、レティシアさんめっちゃ怪訝そうな顔でこっち見てるッ!?
……ああ、ややこしいし全部言っとくか。
「ワタシの記憶には無いんですが、元から持っていた物が使えなくなってまして……『魔術ギルド長』さんが、新しく作って下さったんです」
「『魔術ギルド長』が……なるほど」
一瞬何かを考えていたレティシアさんだったが、納得したのかパンと一つ手を叩くと。
「それは良かった! でしたら、その『身分証』で『ギルド』に預金しておきましょう!」
「え!? ……『預金』なんて出来るんですか?」
「ええ。『身分証』で所有者の確認も出来るので、自分が預けた分ならどこの『ギルド』でも引き出す事が出来ますよ!」
……いや、確かに『ゲーム』でも銀行機能はあったが……まさか〈異世界〉でも使えるとは。
少々の驚きと、それなりの納得を持って、俺は頷いた。
「……ただ、その『ギルド』ごとに払い出せる額は変わるので、いつでもどこでも預けた金額の全てが引き出せる訳では無いんですけどね……」
「なるほど……」
よく分からんが、とりあえず頷いておく。
「それじゃあ申し訳ないんですが、メルカさんには『総合ギルド』までご一緒していただくとして……本当ならアンちゃんと代わってあげたいんですけど、メルカさんのお持ちの額が額ですし……仕方ないですね」
「すみません、お手数をお掛けします……」
「いえいえ! ではちょっとレイフェの様子を見て、アンちゃんに言づけてから戻ってきますので、もう少しだけお待ち下さいね!」
「はい、分かりました」
小走りで店の中に入っていくレティシアさんを見送り、店頭の商品を見ながら待つことにした。
◇◇◇
「──んー、ここに来るのも少しぶりですね」
「そうなんですか?」
もう一度『総合ギルド』まで、レティシアさんと雑談しながら歩いてきたのだが。
分厚い門を通り抜けて、ギルドの建物を目にした時にレティシアさんがそう言ったのだ。
そんなに遠い距離でも無いのに、まして商店を営んでいるレティシアさんが『ギルド』に来ないなんてことがあるのだろうか?
疑問が目に浮かんでいたからか、レティシアさんが苦笑しながら口を開いた。
「色々あって来にくいんです……もちろん、必要な時には来ますけど」
「……えっと、その」
ああ! あんまり聞かない方が良い事を聞いてしまった気がする!
何て言えば良いのか分からない!
「ああ、別に何か悪い事があったとかじゃないですよ? ちょっと気まずいだけですので」
「そ、そうなんですね」
人当たりの良いレティシアさんが気まずいって一体……いや。
気にはなるが、この話題は終わらせておこう。
下手に触っても当方には対処できかねます。
話しながらも足は動かしていたので、すぐに中の受付まで到着する……ん? あれ?
預金するって言うから、てっきり『商業ギルド』の受付かと勝手に思ってたんだが……ここ『魔術ギルド』の受付だよな?
「すみません、ちょっと面会をお願いしたいのですが」
「はい。どなたへの面会ですか?」
にこやかに対応してくれる受付嬢へ、堂々とした態度でレティシアさんが返答する。
俺は、その後ろで控えめに立っているだけだ。
「魔術ギルド長の、シュバルツ様に」
ん? それって、もしかしなくても……アネゴだよな? え、何でアネゴに?
俺と同じ疑問、と言う訳ではなかろうが、受付嬢も怪訝そうな表情を少しだけ浮かべる。
「……ギルド長にですか? 失礼ですが、あなた様は……」
「商業ギルド所属のレティシアと申します。急ぎの用件、だとお伝えいただければ」
「……分かりました。ただ、面会出来ない可能性もありますので」
「もちろんです」
受付嬢の言葉に頷き、踵を返したレティシアさんについて近くのベンチまで向かう。
と、その時レティシアさんが小さく呟いた。
「(……多分、すぐに会えるとは思いますが)」
……まぁ、もし会えなくても、メルカの名前を出したら会えそうだしな。
「──レティ、お前がここに来るなんて珍し……って、メルカも来てたのかい!?」
「ど、どうもシェーンさん」
「はぁい。少しぶりね、シェーン」
少し前まで滞在していた『魔術ギルド長執務室』に、もう一度足を踏み入れた俺に掛けられた声は、少し想定とは違うものだった。
と言うか、アネゴとレティシアさんの距離感がおかしい。明らかに元から知り合いだろう、これ。
「レティシアさん、シェーンさんとはお知り合いだったのですか?」
「ええ、少しだけですけどね」
レティシアさんの顔を見上げて問うてみれば、可愛くウェインクしながら返事してくれるレティシアさんカワイイ。子持ちのお母さんには見えない。
と、それを見ていたのか、アネゴが呆れたように口を開いた。
「レティ、少しだけってお前──ああ、分かった。分かったよ」
「分かればよろしい」
アネゴに視線を向けたのだが、両手を上げて降参の姿勢だ。
レティシアさんが何かしたのかと思ったが、いつもの表情で佇んでいるだけである……いや、多分何かやったなこれ。ツッコまないけど。
……まぁそれはいいや。アネゴもヒマじゃないだろうし、話を進めなければ。
「シェーンさん、お忙しいところを申し訳ないんですが……」
「あ、そうなの。シェーン、メルカさんがちょっと『大変な物』を持ってたから、処理を手伝って欲しいんだけど」
ちょ、レティシアさん? 言い方よ。
チラリとアネゴに目を向けてみれば、やっぱり頭を抱えている。
すまん、アネゴ。だが、これも俺のせいじゃないんだ!
「……メルカの頼みなら、そりゃあ聞くけどね……今度は何なんだい?」
「それがその……」
「──『旧帝国聖銀貨』を、10枚ほど預金したいんですって」
俺がどう伝えようかと悩んでいたのに、横からレティシアさんが遠慮なく全容を伝えてしまった。
それを聞いたアネゴは、しばらく無言だったが。
「……まぁ、まだマシ、だね」
と言いながらため息をつくのだった。
◇◇◇
「──『モノ』が現行の貨幣じゃないから、アタシが個人的に買い上げて、その価値分の預金をメルカの口座に入れておいたよ」
「ありがとうございます、シェーンさん」
「いいよいいよ。この程度の事ならおやすい御用だ……むしろ『圧縮純聖銀』なんて、研究から実用、観賞用、収集とどう扱ったって得しかない代物なんだから、アタシがお礼を言いたいくらいだね」
ヒラヒラと手を振るアネゴに、もう一度頭を下げる。
結局、レティシアさんに渡した1枚と、念の為に俺が持ったままにしておく事にした1枚を除く、10枚をアネゴに渡して預金して貰った。
明細として渡された紙……割と綺麗な紙だが、それに記載されている金額も相当だ。
……一、十、百……俺の見間違えではないらしく、明細には『1億1千万アリド』と記載されていた。
桁が多すぎて、目がチカチカする。
ついでに、すぐ使えるようにと一部を崩して袋に入れて渡されたのだが、金貨や小金貨、銀貨が多くこちらもチカチカする。これの中身で『1千万アリド』分らしい。
アネゴが明細を渡しながらチラッと、『王都』でオークションにでも掛けた方が価値は上がるんだけどね、何て呟いていたが……正直ゴロゴロしてても生活できそうな金額が手に入った訳だし、そもそも持ち歩きたくないのでこれで良しだ。
それにレティシアさんの見積もりだと『聖銀貨1枚』で少なくとも『白金貨10枚』って言ってたはずだから、2割ほど上乗せされている計算だ。十分だろう。
「(そういえば、メルカさん?)」
「ッ!? ……(は、はい?)」
唐突に、横に座っていたレティシアさんが小声で話し掛けてきた。
敏感な耳に吐息が掛かったので、思わず飛び跳ねかけたが、何とか耐えて小声で返事をする。
「(さっき『お預かり』した分の『聖銀貨』も、お返ししましょうか)」
微笑みながらの提案だが、ここは俺も見栄を張りたいお年頃。
「(……いえ、あれは先程も言いましたが、レティシアさんに差し上げた物です。受け取って頂けませんか?)」
世話になってるし、今後も世話になりたいからな。
こちらも微笑みながら返事をすると、レティシアさんは一瞬止まっていたが……やがて頷いた。
「(分かりました。ではもうしばらく、『お預かり』しておきましょう)」
……何故、受け取らん。
釈然としない物を感じつつ、不承不承頷いておく。
「……人の目の前で内緒話とは、レティは相変わらずイイ性格してるねえ……」
「あら? あんまり褒めないでよシェーン」
レティシアさんの返事に、こめかみをピクリとさせたアネゴだったが。
それ以上は反応せず、こちらに声を掛けてきた。
「……まぁいい。それよりメルカ、準備は大丈夫かい? 何か足りないようなら、下で手配も出来るが」
「いえ、大丈夫そうです。後、必要そうなのは保存食周りのようでしたので、レティシアさんのお店で購入させて頂こうと思っていますから」
俺の返事に、アネゴは満足そうに頷く。
「それなら良かったよ。移動する馬車にも必要な食料は多めに積むように手配はしてるから、足りない事は無いと思うけどね」
「はい、ありがとうございます」
そこまで喋ったアネゴが、何かを思い出したかのように顔を上げた。
「あ! そうだ、メルカに伝えといた方が良い事が──」
ドンドンドン!
『組合長!? 来客中に申し訳ないのですが、急ぎ対応して頂きたい事がッ!』
「──またかい! あー、メルカ。『同行者』の事はブラーから聞いたかい?」
顔を歪めながら質問してくるアネゴだが、『同行者』ってのは増えるって言ってた事かね?
それなら一応聞いたぞ。
「あ、はい」
「……なら良いか。じゃあ気をつけて行ってくるんだよ!」
そう言いながらアネゴは、颯爽と部屋を出て行ってしまった。
……え、放置? 良いの?
呆然としていると、レティシアさんが声を掛けてくれた。
「えっと……帰りましょうか?」
「……はい」
※修正した部分が多かったので、こちらに記載しています。
【42】王都、の最後に身分証に関する記述を追加(3千字程度)
【47】聖銀、からその日の最後の記述を削除
特に、【42】の追加分は結構量も多くなってしまったので、気になる方は読んで頂いた方が良いかも知れません。一応読まなくとも、そういう事があったのか、程度で認識して頂ければ幸いです。




