【47】 2章の14 聖銀
※いつも誤字脱字報告、本当にありがとうございます! とても助かっております!
「──で、レイフェがそんな事になっちゃった訳ですね……」
「す、すみません……」
「今回のは、ちょっとメルカさんにも落ち度がある気がしますので、もう少し考えて下さい……と言いたくもあるのですが、さすがにレイフェが気絶するとは思わないでしょうし……」
さすがはレティシアさん。
理解のある方がいらっしゃるというのは素晴らしい。
気絶したレイフェちゃんを、ひとまず昨日俺の借りたベッドで横にして。
部屋に備え付けられたテーブルと椅子で、レティシアさんに事情を説明した訳なのだが。
説明の為にレイフェちゃんが持っていた『聖銀貨』を、と思ったら、異様にきつく握り込んでいて全然離してくれなかったので、俺の持っていた『聖銀貨』をテーブルに広げた。
いつもは糸目……と言うか温厚そうな笑みを浮かべているレティシアさんが、目を見開くさまは……中々に迫力があったけど。
「それはともかく、メルカさん」
「はい!」
表情はいつもの笑顔に戻ったはずなのだが、レティシアさんの圧がひどい。
その豊かな胸部に目線が行く余裕すらない。
「今後は、『聖銀貨』を不用意に人前で晒さないようにして下さい。冗談ではなく、人死にが出ますよ?」
「……ひ、人死に?」
思わずオウム返しで答えた俺に、表情を消したレティシアさんが頷く。
「普段真面目な人間でも、欲に駆られて犯罪を起こしかねない代物です。レイフェは正確な価値の説明をしましたか?」
「い、いえ……その前にワタシが複数枚取り出して、レイフェさんが気絶してしまったので」
俺の言葉に、頭が痛そうな表情と溜息をつくレティシアさん。
気持ちは……いや、正直よく分からんが、そこまで価値があったのか? 『聖銀貨』。
俺の視線に気付いたのか、レティシアさんが真面目な表情のまま説明してくれる。
「……そもそも『聖銀』自体が稀少な事はもちろんなのですが、特に『聖銀貨』に加工されている物は『純度』がまるで違うのです」
はぁ、『純度』?
「そもそも、現在世間で通常取り扱われているような『聖銀合金』は、『純度』が10%もあれば相当な高級品です。もちろん用途にもよりますが……少しでも混合されていれば、『魔力』の通りがまるで違い、強度も跳ね上がり、幽体系モンスターへの特効がつきます」
お、おう?
何かすげぇ、ってのは分かる。
ただな、その……具体的な価値を提示して頂かないと、実感がですな?
そんな、俺の心の声が聞こえた訳ではなかろうが。
「それが『聖銀貨』の場合は『純聖銀』。しかも特殊な加工と『魔術』によって、『圧縮された純聖銀』ですからね? どんなに安く見積もったって……現行の『白金貨』で、10枚はくだらないでしょう」
レティシアさんが具体的な価値を提示してくれた。
……してくれたは良いのだが。
『白金貨』で10枚……? つまりおよそ……1億円?
それが12枚。
……なるほど、人死にが出てもおかしくはないな。
と言うか、今にもサスペンスが劇場的に発生してもおかしくないレベルである。
あ、やべ。冷や汗が出て来た……手は、震えてないと良いが。
と、俺の様子を見ていたレティシアさんが、もう一度溜息をついた。
「……少しはご理解いただけましたね」
「は、ははは、はい……」
うお、声が……勝手に震えてる……?
と言うか、俺の体自体が震えている。
……だって小市民がそんな事を言われましてもッ!?
「(……ちょっと、脅かし過ぎましたかね?)」
しかし、ぼそりと呟かれたレティシアさんの言葉が耳に入り、少し正気に戻る。
……な、なるほど。
今のは、不注意な俺に対する警告を含めたお話か。
……ん? となると、実際はそこまで極端な価値では無い可能性も……?
ある程度高額なのは間違い無さそうだが……よ、よし。
お世話になった『お礼』も兼ねて、ちょっと確かめてみよう。
「レ、レティシアさん」
「はい? 何でしょう」
俺の呼びかけに居住まいを正すレティシアさん。
まだ真面目な表情だから、ちょっと気圧されるが……負けん!
「色々と教えて頂き、ありがとうございます」
「……お礼を言って頂けるほど、大した事はお伝えしていませんが?」
昨日初めて会った時みたいに、少し距離を感じるな……警戒されてる?
……それなら、ちょうどいい。
「いえ、本当に助かっています。現にワタシは何も知ら……覚えていないのですから、仮にこの『聖銀貨』を取り上げられても何も言えなかったでしょう」
「……わたしにも、真っ当な商売人として生きている自負がありますので」
あー、怒ってる。これはちょっと怒ってる……少し笑顔になってるのが余計怖ぇぇッ!
だが! 一宿一飯の恩に加えて、とても素晴らしい景色をご提供いただいた事のお礼をするには、現状俺には『これ』しか無いッ!
「……はい。その通りだと思います……と言っても、ワタシは昨日初めてお会いしたばかりですし、レティシアさんのお心まで存じ上げている訳ではありませんが」
「……」
「そのお礼と言うには、少々不足かもしれませんが……『こちら』をお納めください」
そう言いながら、俺は腰の〈巾着〉から『聖銀貨』を一枚取り出し、レティシアさんの前に置いた。
これで素直に受け取るなら、実はそこまで高額じゃない理論を展開してみたが……どうだろうか?
すると、ジッと俺の行動を見ていたレティシアさんが、こちらに視線を向けた。
「…………メルカさん? わたしの話を……聞いていました?」
うぉッ!? めっちゃ笑顔になってるッ!?
なのに、圧が倍増したよコレッ!? 怖すぎるッ!
だ、だがッ! 俺は負けんッ!!
「も、もちろんキッチリ聞いていました! その上で、レティシアさんにはこちらをお渡ししたいと考えたのです!」
ちょっと早口になったけど、噛んではいない! 言い切ったぞッ!
言い切った姿勢のまま、ちょっと見開かれたレティシアさんの瞳を見返す。
ここで視線を切ったら負けだ! ……まぁ、正直キッチリ見返すと怖すぎたので、綺麗な形の鼻辺りを見てたけど。
多分、数十秒くらい過ぎただろうか?
俺が視線を逸らしたいのを必死に我慢していると。
視界の下の方で、たゆんぼわんと動くものがあった為、ついつい視線がそっちに移った。
どうやらレティシアさんが腕組みした事により、圧迫されたモノが溢れたようだ。
……あ。視線、逸らしちゃった。
「──んふッ」
何か、含み笑いのような音が聞こえた気がしたので。
つられて俺が視線を上げるのと、レティシアさんが腕組みを解くのはほとんど同時だったと思う。
レティシアさんは、いつもの穏やかな笑顔に戻っていた。
……視界の端に、首を傾けたレティシアさんが一瞬見えた気がしたが……気のせいか?
大体、首を傾けるって疑問を持った時とかだしな……いや、そりゃ多少は変な言動してる気はするけど。
もう一度チラリと確認してみるが、レティシアさんはいつもの穏やかな微笑に戻っている。妙な圧も、無い。
何だったんだろうと、俺の方が内心首をひねっていると。
「……分かりました。でも、お受け取りする訳にもいかないので、ひとまず『お預かり』しておく事にします」
そっと手を伸ばしたレティシアさんが、丁重な動作で『聖銀貨』を手に取った。
「あ、はい。それで大丈夫です」
受け取って貰えた……が、わざわざ『預かる』って言われちゃったぞ。
結局、本当にそこまで高額なのか分からなかったな……まぁ、それなり以上には高額、と認識しておこう。
若干釈然としないながらも、一応納得した俺だったのだが。
『──メ、メルカさーん!?』
コンコンコンコンコン
今度は激しいノックの音と共に、ドアの向こうからチロッペたんの声が聞こえてきた。
はて、店の手伝いをしていたはずだが……わざわざ俺を名指しとは、何の用だ?
心当たりがあるかとレティシアさんを見てみるが。
レティシアさんも首を傾げている。
ふむ、レティシアさんで分からないなら、もちろん俺にも分からん。
「はい、チロッペさん。どうかしましたか?」
返事をしながら席を立つと、勢いよくドアが開いて、チロッペたんがそのカワイイ姿を見せた。
だが、いつもの快活な様子ではなく、妙に慌てているように見えるが……どしたん?
「い、今『魔術ギルド長の使い』と仰られる方がいらっしゃってるんですが……」
「『魔術ギルド長の使い』……あ」
ああ、そう言えばアネゴが細かい日取りとかは追って連絡する、とか言ってたっけな?
俺の表情から、思い当たった事があるのに気付いたのだろう。
チロッペたんが、俺にすがるように近づいて……て、ど、どしたん!?
俺の胸元にすがりついたようになったチロッペたんが顔を上げると、よく見ればちょっと涙目になっている。それ自体はかなり庇護欲をそそるというか、ちょっといじめたくなる可愛さだが……何で?
「なんだか凄い怖いエルフの人で、メルカさんを出せッて居座ってるんですッ!」
「エルフの……」
……あー、何かスゴイ嫌な予感がするんですけど?
◇◇◇
「──む、やっと来たか。遅いぞッ!」
開口一番、1Fに降りて店側に顔を出した俺を出迎えたのは、そんな一言だった。
レイフェちゃんの様子を確かめてからすぐに来る、と言っていたレティシアさんを置いて。
俺とチロッペたんは小走りでここまで来たのだが……こんな事なら急がなければよかった。いや、店に迷惑がかかるし来ない訳にもいかないのは分かってるんだがね。
しかしコイツ……ギルドででアネゴと居る時とは、まるで態度が違うな……?
『外弁慶』とでも言えば良いのか? えーっと……アネゴは確か……。
「それは申し訳ありません──ブラー様」
記憶を確かめて、あえて短い呼び方で呼んでみたが。
案の定、『雑魚メンエルフ』はプンプンと怒り出した。
「ブ、ブラーだとッ!? そんな呼び方は、伯母上にしか許し──」
「シェーンさんから、アナタの事は良いように使ってくれと言われておりますが……ワタシの勘違いでしたか? もしそうでしたら真に申し訳ございません! ひとまず今、ブラー様が『伯母上』と呼ばれた事も含めて、シェーンさんに詳しく確認させて頂く必要があるようですね……?」
「なッ……!?」
一気に素早く。ただし、しっかり聞き取れるように要点ではスピードを落としてご説明差し上げる……アネゴの許可は頂いてるからな? 今までのムカつき、そっくりそのまま返してやろう!
すると『雑魚メンエルフ』もとい『ブラー』は、目を白黒させながら何事か考えているようである。
まぁ、そんな猶予は差し上げないのだがね!
「それで、シェーンさんからのご用件は一体何だったのでしょう? ワタシもそんなに暇では無いのですが?」
出来るだけ見下すように、上下関係を伝える為に慇懃無礼に伝えると、目の端をピクピクさせながらブラーが返事をしてくれた……虎の威を借るキツネ? ノンノン、アネゴの威を借る俺でございますぞ?
「う、む……いや、姉上からの伝言を伝えに来た」
「ではサッサと仰ってくださいませんか?」
「くッ……「伝えていた『王都』行きだが、思わぬ変化があった。悪いが明日の朝の出発となるので、準備を急いでほしい」……との事だ」
「そう、ですか……」
不満げな表情だが、役割はこなしてくれたらしい。
ブラーの言った内容はある程度想定していた内容だが、明日か……ちょっと早いな。
俺が考えていると、ブラーが再度口を開いた。
「伝言は聞いたな。私は行くぞ!」
「お待ち下さい。集合場所や移動方法を伺っておりませんが?」
「チッ……夜明け頃に、大型の馬車でここまで迎えに来る」
舌打ちしやがったぞコイツ……『貴族』の割にしつけがなってないというか……逆に『貴族』だからか?
さておき、大型の馬車? 移動するのは俺とブラー……後は、御者くらいじゃないのか?
気になったので、聞いておくことにする。
「大型の馬車、ですか?」
「……姉上に言われて、急に人数が増えたのでな。8人乗りの〈箱馬車〉を準備する予定だ」
「人数が……?」
何で──ああ!? まさか、ミーニー君か? まさかの同行可能になったと?
やるなミーニー君……それだけ凄いネタでも持ってたのか?
さておき、これでむさ苦しい旅ではなくなりそうだ! ミーニー君の妹ちゃんが可愛い事を祈ろう!
俺が内心で浮かれていると、しびれを切らしたのかブラーが声を掛けてきた。
「おい。質問が無いのなら私は行くぞ」
んー……そうだな、他には無いかな?
「分かりました。使いっぱしりご苦労様です。シェーンさんに、どうぞよろしくお伝え下さいね」
ニッコリと微笑んでブラーを追い返そうとしたのだが、何かが気に入らなかったらしい。
こめかみに青筋を立てたブラーが、一歩近寄り俺に何か言おうとした──のだが。
「……貴様、あまり調子に──」
「あら! そこに居るのはッ!」
突然、すぐ後ろから聞こえた明るい声に、正直心底ビックリした。
そこに人が居ないと思ってるところに、人が居ると凄まじくビックリすると思うんだよ……俺だけ?
もとい、慌てて振り返った俺の目に映ったのは、にこやかに笑うレティシアさんだった。
「あらあら、随分とお久しぶりねぇ……元気そうで何よりだわぁ」
「……誰だ、きさ──あッ!?」
「あらぁ? わたしの事、忘れちゃったのかしらー?」
俺に絡もうとしていたブラーが、胡乱げな目線をレティシアさんに向けていたのだが。
唐突に何か思い出したようで、言葉に詰まっていた。と言うか……強烈に顔色を悪くし始めた? 何だろう……レティシアさんと知り合いだったのか?
「あ、メルカさん。ちょっとこの子とお話してくるから、チロッペと一緒にお店で待ってて貰えます?」
「え、あー……はい?」
「その、私は、だな、待て──」
「じゃあ、すぐに戻りますからぁー」
ヒラヒラと手を振りながら、レティシアさんがお店から離れていく……横にブラーを引き連れながら?
……何がどうなっているんだ?
もしかしなくても、レティシアさんとブラーは知り合いだった。って事らしい、な。
しかし、意外と力強いなレティシアさん……逆らわんとこ。
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喜びの舞、参の型! ……怒られますね、やめときましょう。




