【46】 2章の13 判明
※いつも誤字脱字報告ありがとうございます! 非常に助かっております!
「こ……ここ……」
凄まじく動転しているのか、レイフェちゃんがすっかりニワトリのようになっている。
何かヤバイ匂いがプンプンしてきたぞ……貨幣の偽造って、そこまでヤバイ罪なんだろうか?
しかし、少なくとも俺が自分でやろうとした訳じゃなくてな? これも全部『メルカ』ってヤツのせいなんだッ! ……今はメルカだけどさッ!
「……あ、あの、そのレイフェさん? それはですね──」
何とか誤魔化せないかと、固まっているレイフェちゃんの後ろから声を掛けてみた、のだが。
固まっていたはずのレイフェちゃんが、グリンッと音がしそうな勢いでこちらに振り返ると、一足飛びに近付いて──え、ちょま、何ッ!?
近づいた、と言うか跳んできたレイフェちゃんが、俺の〈ローブ〉の胸の辺りを掴んできたのだ。
ちょ、ちょいちょいレイフェさんやッ!? 伸びる! 服が伸びちゃうから、ちょっと落ち着こう! なッ!?
「──メ、メメメメメメッ!?」
今度は何だッ!? と言うかレイフェちゃんッ!? 初めてまともに瞳が見えたけど、見開いててちょっと怖いんですがそこんとこどうですかッ!? ホラー映画のオバケの方みたいになってますよッ!?
「レ、レイフェさん落ち着いてッ! ワタシは逃げませんので、とりあえず落ち着いて下さいッ!」
いや、気持ちは逃げたい。凄く逃げたい。
だが、現状逃げ出したところで行く当ても無い。ここでレイフェちゃんを説き伏せるしかない。
覚悟を決めて、胸倉を掴まれている現状から思考を変換する。
……そうだ、逆に考えるんだ! これは『胸倉を掴まれてる』んじゃなくて、レイフェちゃんが激しく『ハグを要求してきている』んだッ!
今ならギュッとハグしても大丈夫に違いないッ! と言うかこの後通報されて捕まるんなら、チャンスは今しか無いだろう常識的に考えてッ!
あまりにも革命的な自分の発想に、我ながら驚いた。
驚きながらも、服を引っ張るレイフェちゃんの力に抵抗せず、流れるように片膝をついてレイフェちゃん側に体重を移動する。
「メメ、メル、メル……」
「ああ、はい? メルカですよ?」
ああ、謎言語みたいになってたのは、メルカの名前を呼びたかったらしいな。
見開かれていた瞳も、今はグルグルと混乱しているのを示すように盛大に泳ぎまくっている。自由形かな?
……でも俺も正直、今それどころじゃないんだ。
物理的距離は、もういつキッスしてもおかしくないレベルだが、両腕はレイフェちゃんを捕獲範囲に捉えたぞ……よ、よし……行くぞッ!
ギュッ……
レイフェちゃんの背中に回した手が、そのやはらかな感触を俺の脳に伝えてくる。
……なぁにこれぇ? ムニムニキュッキュしてるんですけどぉ?
ハッ!? いかん、ちょっと脳がバカになりかけた……レイフェちゃん恐ろしい子ッ! ……年上だけどッ!
さておき、持ち直しかけているようにも見えるレイフェちゃんは、まだ動転状態のようだし……折角だから、背中もなでなでしておこうかなッ!? いや、これは決してよこしまな気持ちから来る行為ではなく、動転した人間を落ち着かせる為の緊急避難に他ならないのであってレッツゴォッ!
ナデェ……ナデェ……
ほへぇぇ……これはイイ……!
ぐぬぬ……世のカップル共は、こんな心地よい感触をいつも味わっているというのか──許せるッ! 今なら特別期間限定でこの私にも許せるッ! これが満たされると言う事かッ!
何なら、今なら伝説の『頭なでなで』すら行使できるやも知れぬッ!? いや、しまいでかッ! いざッ! いざッ!
ポン……ナデリナデリ……
……上質な絹織物のような、まるで抵抗を感じぬこの手触りよ……イイ仕事してますねぇッ! 絹織物とか触った事無いけどもッ! そんなにゅあんすですッ! しゃーわせぇ……ほへぇぇぇ。
と、それまで壊れたPCみたいになってたレイフェちゃんが、ようやく少し落ち着いてきたらしい。
「……メル、カ?」
「あー、はいー。メルカですよー」
腕の中のレイフェちゃんのあったか柔らかさに、癒され過ぎた俺はもはやフヌケ状態だったが。
何とかレイフェちゃんの呼びかけに返答した……あー、ナデナデぇ……。
「……ッ!? メ、メルカッ!?」
「はいー。メルカですよぉー?」
ナデナデぇ……。
「お、落ち着いた。もう大丈夫……だから、メルカ?」
「えへへへへへ…………え?」
魅惑の感触に抗えず、トリップしていた俺だったのだが。
トントンと胸を軽く叩かれる感触に、ふと意識が戻り腕の中に目線を向けてみれば。
軽く俯いてキレイな瞳は見えなくなってしまったが、見えている顔やら耳やらギュッと握られている両手まで真っ赤になっているレイフェちゃんの姿が……おうわッ!?
「す、すみません!? つい!」
どうせ捕まるんなら、とか思ってすみませんッ!
現状を再認識した俺が、慌ててレイフェちゃんから離れて立ち上がりながら弁解する。
と、ちょっとシワになった服を整えながら、まだ真っ赤なレイフェちゃんが応えてくれた。
「……ん、大丈夫。ボクが慌てたせい……メルカのせいじゃない」
さすがはレイフェちゃん。
気を取り直すのも早い……まだ真っ赤だけど。まだ真っ赤だけどッ!
……あー、でももう終わりかぁ……もうちょっと楽しみたかった……ぐぬぬ。
「──メルカ……落ち着いて、聞いて欲しい」
「は、はい……」
直前まで動転しまくってたのは俺じゃないんだが……まぁ、今この場でそれを言い出すほど俺も鬼じゃないのでスルーしておくか。
内心でツッコミをいれながらも、俺は神妙な表情でレイフェちゃんの次の言葉を待った。
すると、レイフェちゃんはもう一度。ギュッと握った自分の手をそっと開くと、中に入っている銀色の輝きを放つ『贋金』を確認して、すぐにまたギュッと握った。
……いや、これはもしかすると?
俺がやった事じゃないと全力で弁解すれば、レイフェちゃんが許してくれる可能性がちょびっとはあるか?
むしろ、隠蔽の共犯者に持ち込んでしまえば……秘密を共有しあう二人はやがて……なんてな? なんてなー!?
「……聞いてる?」
「あ」
「……もう、落ち着いて」
「は、はい……」
……何故か、レイフェちゃんが通常運転に戻ったでござる。さっきまでの興奮状態なら、上手い事誘導できたかもしれなかったのに……誰だ、レイフェちゃんを冷静にさせたのはッ!? ……はい、俺ですね。
自業自得なので何も言えない俺に向かって、レイフェちゃんが声を掛けてくる。
「……メルカ。キミは忘れているみたいだけど、この『お金』は──」
「はい。『ニセモノ』なんですよね……以前泊まっていた宿の人間に、突き返されました」
幼子に言い聞かせる様な口調のレイフェちゃんに、思わず俯きながら弁解するように口を開いてしまう。
いや、何かこういう口調を聞く時って、怒られる時が多くない? 条件反射って言うか?
「え? いや──」
「だから誰にも見られないように隠そうとしてたんですが……すみません! 決して、決してこれを使用しようとした訳じゃなくて、むしろ何で持ってたかも分からないんです!」
畳みかけるように、レイフェちゃんに弁解を並べてみる。
クックック……これだけやれば、レイフェちゃんはきっと秘密を共有する関係になってくれるに違いない!
と、俺が考えながら俯いていると。
サワワッ
何か両方のほっぺたに、『柔らかいモノ』が触れてきた……ん?
その『柔らかいモノ』に促されるように、目線を上げてみると……レ、レイフェちゃん? 何で俺のほっぺたに手を当てていらっしゃる?
「……ちょっとしゃがむ」
何故か真正面から俺のほっぺたに両手を当てたレイフェちゃんに促され、再度姿勢を低くする。
両膝をついて、目線が合う高さまでしゃがむと。満足したようにレイフェちゃんが頷いた。
姿勢こそ違うが、ついさっきと距離感はそっくりな状況になってしまった訳だが……な、なんだ?
戸惑いながらレイフェちゃんを見ていると、レイフェちゃんの手に力が入り顔の距離が近づ……かない。
ミョーンミョーン
と言うか、左右に引っ張られている。
俺は今、レイフェちゃんにほっぺたを引っ張られている。
「フフッ。やわらかい」
いや、あの? レイフェさんや?
楽しそうなのは良いけど、何で俺のほっぺた引っ張って遊んでるの?
いや、全然痛くない強さだし、楽しそうだから俺も眼福っちゃ眼福なんだけどね?
「ふぁお、えいふぇふぁん?」
「……ん。メルカにお返し」
レイフェちゃんの言葉に一瞬考えるが……ああ、さっきの?
頭なでなでのお返しで、ほっぺたみょんみょんか……何そのステキサイクル?
ひとしきりみょんみょんして満足したらしいレイフェちゃんが、ほっぺたから手を離していくが。
その片方の手の中から、マジックのようにピョコンと青白い『贋金』が顔を出した。
そして、真剣な表情を作ったレイフェちゃんが続けた言葉が。
「メルカ。これは──『贋金』なんかじゃない」
だった訳でありまして……何だって?
◇◇◇
「『贋金』じゃない……? ですが、これは街の宿で……」
「多分、その宿の人間が見た事が無かった」
見た事が無い? 街で商店ほどではないとは言え、貨幣を扱うのが基本みたいな宿屋で?
そんな事がありえるの?
俺の疑問を感じ取ったのか、レイフェちゃんが言葉を続ける。
「メルカ、昨日の夜した話……覚えてる?」
「昨日の夜、と言うと……ああ、貨幣の価値のお話ですか?」
俺の答えに頷くレイフェちゃん。
うむ、何となくは覚えてるぞ。
一番価値の低い『真鍮貨』から始まった、形状と価値の勉強だった。
残念ながら『実物』を見れたのは、レティシアさんの店に有った『金板』までだったが……ってまさか!?
そうだ、それなら宿の人間だって見た事がない可能性はある。
ある可能性に思い当たった俺は、思わず自分の手が震え出すのを感じながらレイフェちゃんを見つめ返す。
もう一度頷くレイフェちゃんに、俺も自分の中の答えを返す。
「こ、これが……『白金貨』……?」
『真鍮貨』100万枚換算の、最高価値の貨幣……?
単純に〈日本〉の価値に変換は出来ないけど、およそ『真鍮貨』が『10円』前後の価値だと思ってるから……まさかの『1000万円』くらいの価値……!?
……待てよ? 俺は確か……それを……『12枚』持ってるぞッ!?
い、一億……? あわわわわわわわッ!?
自分の想像に、歯の根が合わない気分というやつを初めて味わっていると。
「……ん? メルカ──違う」
……はい? え、違うの?
慌てて焦点が合ってなかった視線を、レイフェちゃんに向ける。
「違う、そっちのレティシアが説明した方じゃない」
「……え?」
って言っても、昨日お金関係を説明してくれたのはレティシアさんだけ……あれ? そういえば、話の途中でチロッペたんが何か言ってたような?
曖昧な記憶なのは、何か違う事を考えていたからな気がするが……何を言ってたっけ?
まるっと内容を覚えていないので、ちょっと誤魔化すように口に出してみる。
「えっと……もしかして、チロッペさんが説明して下さった?」
「そう」
ホッとした表情で頷くレイフェちゃんだが、残念ながら俺にはその肝心の内容が、ね?
俺がついつい視線を逸らすと。
「……もしかして、忘れた?」
「アハハ……す、すみません……」
「……昨日はメルカも疲れてた。仕方ない」
レ、レイフェちゃん!? そんなぽんぽんと頭を撫でながら言われると、俺の肩身が狭いッ!
気を取り直したレイフェちゃんが、再度真剣な表情になる。
「昨日の夜、チロッペが説明したのは──『フォビフォテイン帝国』の、つまり『旧帝国貨幣』の事」
「『旧帝国貨幣』……あ」
そう言えば、レティシアさんに質問した。
宿のオッサンに『旧帝国銀貨』がどうのって言われたから、念の為に価値を知っておこうと思ったんだ。
あの時か!
「……そうでした、ちょうどあの時チロッペさんが何か……」
「あの時、チロッペは『通常の旧帝国貨幣』と、『特殊な旧帝国貨幣』の事を話した」
「通常と特殊?」
特殊って、なんだろ?
俺が理解していない事はお見通しのようで、レイフェちゃんは流れるように説明してくれる。
「通常と言うのは、文字通り通常の金属で作られた『貨幣』の事。今の『アリド・フォテイン』でも流通している『真鍮・銅・銀・金・白金』などの金属で作られた『貨幣』の事」
「な、なるほど……」
よく聞く金属の事だよな。まぁ『白金』なんかは正直見た事も無いから勘違いしたけど。
俺の返事に一つ頷いたレイフェちゃんは、一度ゴクリとつばを飲み込んで説明を続ける。
「……大事なのはここから。『旧帝国』時代には、特殊な……『魔法金属』で作られた貨幣が存在した」
「ま、『魔法金属』……?」
それって、もしかして……?
「今はもう、精製方法が失われた『魔法金属』も含まれてる……『真鋼』『魔銅』『聖銀』『神金』で作られた『貨幣』」
お、おおおお……! 『ゲーム』でしか聞いた事の無いような名前がズラリと……!
……え? それってつまり?
「そして、メルカの持ってた『コレ』は……色味・軽さ・硬さ……どう考えても『聖銀』」
なーんだ、やっぱり色合いから考えても『聖銀』か! 何か納得!
ん? 落ち着いてるなって? ……いやいや、そりゃもう『聖銀』なんつったら、『架空金属』の中でも有名人じゃないですか。
大体のファンタジーには、レギュラー出演決定の大物さんですからねー?
俺も色々な『ゲーム』でお世話になりましたッ! あざーッス!
……まぁ、同時に?
ヤツは『架空金属』の中でも最弱ッ! 新しく強い『架空金属』が手に入ったら、即座に乗り換えられるNTRポジッ! ──ってイメージが強いせいで……ちょっとだけ感動が、ね?
とは言え多分、それなりに価値はあるみたいだから、当分は遊んで暮らせそうだな! ……レイフェちゃんも一緒にゴロゴロしちゃう? しちゃう? グヘヘヘヘ。
それはさておき、これが『聖銀』なのかぁ……って、わざわざレイフェちゃんの手から取るのも何かいやらしいか。
……自分の〈巾着〉の分を見てみよう。ゴソゴソっと。
「……メルカ? どうした?」
「いえ、折角なので自分でも……あ、ありました!」
緊迫した表情のレイフェちゃんが、不審げな表情で問いかけてくるが。
何か言われる前に〈巾着〉の中から『聖銀貨』を取り出した! ……中身が少ないからね。
シャラン
「ふむふむ。これが『聖銀』なんですねぇ……」
やっぱり軽いな……『アルミ』っぽいと思うくらいには軽いが、輝きが違うな! ……プラシーボ効果じゃないと思いたい……だって区別なんかつかないし!
と、ひとしきり手の中の『聖銀貨』をシャラシャラと弄んでいると。
「メ、ッメメメッメメメメメメメ……」
……おろ? 何かデジャヴな声が……?
妙に聞き覚えのある声に目線を向けてみれば。
こちらもついさっき見た気のする、メカクレ前髪の隙間から目を見開いたレイフェちゃんがッ!?
距離が近いからさっきよりハッキリ見えるッ!
……って、今度はまた目が泳ぎ出した……メドレーかな?
「……ぁ」
……ん? あれ? レイフェちゃん?
白目はちょっと怖い……レイフェちゃん!?
頭がフラフラしてるよッ!? 大丈夫ッ!?
「……キュゥ」
「──レ、レイフェちゃぁぁぁんッ!?」
た、倒れてきたぁぁぁッ!?
あ、柔らかい……じゃないッ!?
な、何ッ!? どうしたのッ!?
「レ、レティシアさぁぁぁぁぁんッ!?」
た、助けてぇぇッ!?
衛生兵ッ! 衛生兵ぇぇッ!
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