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【41】 2章の9 暴走

※3日連続投稿3日目。


いつも誤字脱字報告ありがとうございます!



 と、倒壊は流石に……色々とマズイだろッ!


「ア……の、シェーンさん!?」

「ボクも手伝う……組合(ギルド)長、落ち着いて」


 慌ててレイフェちゃんと立ち上がり、二人でアネゴに声を掛ける……が、怒り心頭過ぎるのか、俺たちの声に全く反応していない。

 むしろ俺の場合、アネゴの肩越しに見える『ク〇エルフ』の懇願するような目と、モロに目が合っている状態なんだが……いや、別にお前の為に止める訳じゃ無いし。自分の身とその他諸々を守る為だし……ちなみに本心なので、間違ってもツンデレとか思わないように……知ってる? ならよし。


「あ、あああ姉上ッ! そこの、そこの……お嬢さん! お嬢さん方が何か言って……いや、仰ってますよぉッ!?」

「……ごめんねごめんねごめんね」

「あああ、聞こえてないぃぃぃッ!?」


 ……意外と愉快な反応をしている『ク〇エルフ』の事は、とりあえず置いておくとして。


 全く止まる気配が無いアネゴを止める為には、実力行使もやむを得ないと言う事か。


 ……つ、つまり。ここで後ろから羽交い絞めにしても、やむを得ないと言う事だな! FOOOO!!

 これは危険から身を守る為の非常手段なのでありまして決していかがわしい気持ちなどほんのちょっとしかなく緊急避難なのであるからして正当! 妥当! 無問題(モウマンタイ)

 んじゃ、失礼しまーす!


 ……と、そそくさとアネゴの後ろから歩み寄ろうとした……のだが。


「こうなったら、力づくで止める」


 俺より素早く、先にレイフェちゃんがアネゴの傍に駆け寄ってしまった。

 し、しまった……出遅れた! ……いや、むしろこれは? 二人まとめて『抱擁(ハグ)』出来ちゃうラッキーイベント到来ッ!? いざッ! いざッ!!


 レイフェちゃんに数歩遅れて飛び出した俺は、両手を広げて駆け寄り──


 パシッ


「ッ!?」


 まるで放電のような、短い破裂音と共に。

 先にアネゴに向かっていたレイフェちゃんが、急に『何か』に弾かれたようにこちらに跳ね返ってきた。

 慌てて、広げていた両手でレイフェちゃんを抱きとめる……あ、目標達成? い、いやいやそうじゃなくて。

 ……何だ?


 レイフェちゃんの様子を見てみると……アネゴを押さえ込もうと伸ばしていた手が『何か』に激しくぶつけたように、赤くなって……一部からは血も出ているッ!? な、何だッ!? 俺の目には、『何か』が当たったようには見えなかったぞ!?

 急いで、何か傷口に当てる物……ええい、〈ハンカチ〉くらい持っておくんだった! ……〈ハンカチ〉? あ!


 振り返ってみれば、さっき使ったアネゴの〈ハンカチ〉が目に入った。一度レイフェちゃんから離れて、部屋の中央のテーブルから〈ハンカチ〉を取ってくる。


 ちょっと俺の涙が染みてしまっているから、そこまで衛生的ではないが……今着てる〈ローブ〉とかよりはマシな筈だ。

 創傷部位に、押し付けるように〈ハンカチ〉をあてがう。と、そこまで黙っていたレイフェちゃんが、呟くように言葉を発した。


「『何か』に……弾き飛ばされた」

「な、『何か』って?」

「……分からない」


 俺たちがよく分からない『現象』に戸惑っていると、アネゴ越しにその姿が見えたのか『ク〇エルフ』が声を掛けてくる。


「お、おい! 何を止まっている!? 早く、早く姉上を止めてくれッ!」


 こ、こんにゃろう……こっちはそれどころじゃねぇってのに。

 最初こそアネゴに公然と抱き着ける特典と思って、ついでに助けてやろうかと思ったが……レイフェちゃんが怪我しちまったんだぞ。

 ちらりレイフェちゃんを見てみるが、また何かを考え込んでいるようだ。


 ……チッ、仕方ない。何か、知ってるかもしれんしな。


「……いえ、それが……『何か』に弾かれてしまって、近づけないようなのです」

「弾かれた……ああ、姉上の『攻性障壁(アグレシヴ・ウォール)』か、って姉上本気過ぎませんかッ!?」

「『攻性障壁(アグレシヴ・ウォール)』?」


 ……なんぞそれ?

 俺の疑問はともかく、『ク〇エルフ』は勝手に絶望したようで。


「あああ、もうダメだぁ……姉上が展開した『攻性障壁(アグレシヴ・ウォール)』なぞ、誰も突破できん……な、何で私がこんな目に……」


 急にうなだれて、動かなくなってしまった。

 意外とメンタルもろいなコイツ……何だっけ? 『難攻不落』だっけ? ……名前負けしてんじゃね?

 まぁ、『雑魚メンタル』は放っておくとして。


「……そうか、聞いた事がある」


 知っているのかレイフェン!? いや、レイフェちゃん!


 傷を押さえながら、レイフェちゃんが独り言のように喋り出す。


「高位の『魔導士』は、自分の構成する『魔術』の完成を阻害されない為に、周囲に『魔術障壁』を展開する……らしい。そして、止める為には……」

「な、なるほど?」


 何となく、イメージは分かる。

 で、対処方法は?


 言葉の続きを待ってみると、ゆっくりと俺を見上げるレイフェちゃん……ん?


「『障壁』を行使しているのと、同格以上の『魔力』をぶつける必要がある……」


 ……ほう。同格以上の『魔力』、ね。


 今、この場に居て、そんな可能性があるのは……『メルカ()』だけだよなぁ。

 本当に止める事が出来るかなんて分からんが……少なくとも『メルカ()』は、世界に数人しか居ない『Sランク』だって話だし。


 んーどっちにしろ、この建物が崩れたりしたら生きてられるか分からんしな。レイフェちゃん含めてカワイイ子も多い事だし──やってみるしか、ないか。


「やって、みます」

「ゴメン、メルカ……頑張って」


 上目遣いのレイフェちゃんにそんな事言われたら、頑張らない訳にもいきませんな!

 ……ただ、具体的な方法がさっぱり分からんし……ええい、当たって砕けるしかなかろうてッ!!


 一応、頭部をガードするように両腕を構えて、さっきレイフェちゃんが弾かれた辺りを想定して……い、行くぞッ! ……ああ、でもやっぱり怖えッ!?


 来るであろう衝撃と痛みを想像してしまい、突っ込みながら思わず目を閉じてしまった。



『──ハァ。やれや──』


 ……んん?


 目を閉じたまま俺が突っ込もうとした瞬間、誰かの声が聞こえた気がした。

 ……そして。


 ピシピシ


 ──パリパリ


 ────バギンッ



 ゴンッ



「い……いったぁぁッ!?」


 そ、想定はしてたけどッ!? してたけどッ!? え、レイフェちゃんの時と感じ違くないッ!? メッチャ重い音してたよッ!? あ、頭に響いた……あうぅぅ涙目になってるってこれ……たんこぶ出来てない? か、鏡どっかあるっけ?


 脳天まで響く鈍痛に、思わずジタバタと転げまわってしまう。

 と、数秒か数十秒か、はたまた数分か。

 少し痛みがマシになったかな? というタイミングで、横から声がかけられた。


「メ、メルカ? 大丈夫?」


 こ、この声は……レイフェちゃんか?


 のたうちまわる内に仰向けになっていた俺は、うっすらと目を開いてみる。

 すると、逆光と涙目による光の乱反射の中、見慣れてきたお団子髪のシルエットが目に入る。


「レイフェ、ちゃん?」

「ちゃ!? ……う、うん。ボク、だよ?」


 うー、まだかなりジンジンするんですよ……いっそレイフェちゃん膝枕とかしてくんないかな…………ん? ……って、それどころじゃなかったんだったッ!?


「れ、レイフェさん!? ア、じゃなくてシェーンさんはッ!? 建物はッ!?」


 痛みを堪えつつ、慌てて立ち上がろうとした俺の肩を、優しく押さえながら何かにもたれかけさせられた……何だ? この『やわこい』の──


「(──大丈夫)」

「ふわッ!?」


 耳元で(・・・)囁くように伝えられた言葉に、思わず震えてしまった。

 ……え、って言うかこの俺がもたれかかってる『やわこい』のって、まさか。


 そっと目線を向けてみれば。至近距離だからその前髪の奥の瞳までバッチリ見える、レイフェちゃんのご尊顔が目の前に……にぃぃぃッ!?


「凄いね、メルカ。流石は『Sランク』……ありがとう」

「へ、あ、はい……?」


 ちょっとだけ顔を離してくれたから、今度は震えがくることは無かったが。

 相変わらず至近距離に見えている顔に、見とれてしまう。はぁ……カワイイなぁ……ん?


 見とれていて気付いたが、レイフェちゃんのキラキラした瞳が向いているのは、俺の方じゃなくて?


 何を見ているのかと、レイフェちゃんの視線を追ってみると──そこには。



「う……ん? こ、これはなんだいッ!?」

「うう……し、『死後の世界』とはこのようなモノなのですね、姉上……さ、寒い」



 天井から床まで、一面の『氷の世界』になった部屋の入口周りと、その中心の太い氷柱の中で氷漬けの彫像のようになっているアネゴと『雑魚メンエルフ』の姿が……あった。



  ◇◇◇



「だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……面倒掛けてすまなかったね」

「いえ……そんな事……」


 ……ちょっとはあるかもな。


 正気を取り戻したアネゴの指示で、呼び寄せられた数人の『魔術士』により。アネゴの執務室に展開されてしまった『氷の世界』は、無事撤去された。

 その際、若干低体温症? のような兆候がみられた『雑魚メンエルフ』は、備え付けの医務室に連行された。終始、何かうわごとのような言葉を呟いていたが……まぁ、どうでもいいか。


 そして、今は若干厚着になったアネゴと、念の為怪我の治療をしたレイフェちゃんと俺で、さっきまでと同じようにソファに座りなおしたところだ。


 幸い、レイフェちゃんの傷もそこまで重くは無く。軽い擦過傷程度で済んでいたようで、『治療魔術』を掛けて貰って事なきを得た。

 俺の方も頭部の打撲くらいで済んだので、念の為『治療魔術』を掛けて貰って、今はほぼ痛みも無い。念のため〈薬草〉付の包帯を巻いているのも、傷が頭部だからというだけだ。


 しかし、アネゴはそうは思わなかったらしく。


「そ、その傷は……」

「え? ……ああ、気にしなくても大丈夫ですよ!」


 どんよりと落ち込んだ様子で、所在なさげに手を泳がせている。


 やれやれ『メルカ()』の玉の肌に傷がついてしまったが、今回は仕方あるまい。

 気の強いアネゴキャラの涙目とか、上目遣いとか、その他おはだけ等モロモロを勘案すれば、今回の収支は大黒字間違いなしですからねッ! ウヘヘヘッ!

 あ、でもどうしても気になるんなら、重病人のごとくアネゴに一切の生活の面倒を見て貰っても構わないんですよぉ? イチャイチャしようZEッ☆


 などと脳内妄想で楽しんでいたのだが、アネゴは気を持ち直す様子が見えない……あー、もう仕方がないアネゴでヤンスねぇ?


「シェーンさん!」

「な……なんだい?」


「レイフェさんたちのおかげで大分助かりましたが……ワタシは、知らない街で良く分からない状況に陥って、凄く心細かったんです!」


 チラリと目線を向けてみれば、一つ頷くレイフェちゃん。イケメンカワイイ。


「でも、今日シェーンさんに出会えて、色々話を聞いて教えて……『ワタシ』の事を聞けて、何て言うか……助かりました!」

「……」

「この傷も、もう全然痛くないんです!」


 ちょっとは響くけどな。


「だから、本当に気にしないで下さい!」

「メ、ルカ……」


 アネゴが、どんどん声が細くなってる!? ちょっと健気な感じにし過ぎたか……?

 す、少し図太い感じも入れとこう!


「あ、でもどうしてもって言うなら……これからも、どんどん手助けお願いしますね!」

「……」

「……」


 ……ちょーっとやらかしたか?


 チラリと目線を向けてみれば、レイフェちゃんは……あ、ジト目。これは雰囲気的にジト目です! 見えないけど!

 しかし、俺にかかれば美少女のジト目はイコールご褒美でしかない! 美少女×ジト目=ご褒美の公式が成り立つんですねぇ……ハイ、ここテストに出まーす!


 しれぇーっと視線を動かしてみれば、アネゴもプルプルして……あ、怒った? えいえい?


 だがしかし。

 幸いにもアネゴは怒っていた訳ではなく。


「ハ、ハハハハハ! やっぱり、『記憶』が無くてもメル姉はメル姉だッ! アハハハハハッ!」


 腹を抱えて大爆笑……え、そこまで面白かった?

 いやまぁ、喜んで頂けたなら文句は無いけど。



 ──しばらく爆笑を続けたアネゴは、スッキリした表情で姿勢を正した。


「わ、悪かったね……なんだか、妙に安心しちゃったんだ」

「あ、安心……ですか?」


「ああ。元々、突然突拍子もない事をやり出す人だったからね」


 ……これは、認めて良いところなのか?


 釈然としない気持ちを抱えつつも、アネゴの言葉を聞く事にする。


「色々と苦労もさせられたが、どれも楽しかったからね……」

「……な、なるほど?」


 何だろう……親か子供が、何かやらかしたのを聞いてる気分だが……もちろん、そんな経験は無いので、あくまでそんな気分風、ではあるが。


 何とも言えないいたたまれなさを感じていると、ニヤニヤ笑いながら話していたアネゴが急に真面目な顔になった。


「それと──『魔力』は相変わらず、とんでもないみたいだね。あたしを止める為に、あれほど明確に『現象』を引き起こすなんて」


 今は撤去された、『氷の世界』を作り出した事を言っているのだろう。

 ただ、それに関してはちょっと待ったを掛けたい。


「すみません、それなんですが……ちょっと分からなくて」

「うん? ……どういう事だい?」


「はい……自分では、ああしよう(・・・・・)とした訳では無いんです」


 驚いた表情のアネゴに頷きつつ、言葉を続ける。


「あの、ざ……エルフの方が『攻性障壁(アグレシヴ・ウォール)』がどうのと仰っていまして。レイフェさんの知識から、止める為には『同格以上の魔力』が必要だと推測されたもので……止めよう、とは思っていたんですが、それを『氷』でやろうとは思っていなかったんです」


 なんせ今まで触れた事の無い……『技術』、で良いのかね?

 『魔力』の扱いなんて、スペースシャトルの操縦方法ばりによく分からんのよ……いや、下手したらそれ以上か?

 何となく止めれたら良いな、とでも言うか……ぶっちゃければ行き当たりバッタリだったんだがね。


 俺の言葉を聞いて、アネゴは何かを考え込んでしまった。


「……どういう事だ? あれほど明確に『現象』を引き起こしたってのに……意識すらしていなかった?」


「もしかすると……」


 と、それまで静かだったレイフェちゃんが、口を開いた。


「あれも一つの、『魔力暴走』?」



ここまで読んで、面白い、もっと続きを! と興味を持って頂けましたら、是非BMやご評価での応援もよろしくお願いいたします!


作者が頑張れれば読者も嬉しい! を、実現できるように頑張る所存! ぞんぞん!

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― 新着の感想 ―
[一言] メルカさんまた普通に中にいるんじゃなかろうか
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