【38】 2章の6 過去
※5日連続投稿3日目!
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「あ、そ、その……」
ど、どどど、どうする?
ま、まさか『知り合い』に会うなんて思ってなかったぞ……いや、別に『美黒』さんと会った事は無いんだけど、でもいつも見てたのは『この姿』だしなぁ……ああ、ややこしい!
予期せぬ不意打ちにキョドっていると、『美黒』さんは俺がまともな返事をしない事に疑問を持ったらしい。
「……ど、どうしたんだい? 確かに10年かそこらは会っていなかったけど、100年200年経ってる訳じゃないんだよ? ……まさか、あたしの顔を忘れたって訳じゃないだろ」
ハハハ、と軽い笑いを漏らす『美黒』さんだったが、俺は内容に驚いていた。
た、タイムスケールよッ!? どんだけ長いんだ……小粋なエルフジョークとかなんだろうか……んん? エルフジョーク?
ついつい感じた『違和感』について考えてしまったが、幸い今度はすぐ横から助け船が来た。
「組合長、メルカは少し……『トラブル』を抱えている……ます。もしメルカの事をご存じなのであれば、『込み入った話』をする時間が欲しい……です」
「……レイフェさん」
た、助かった……流石はレイフェちゃん、無駄なくそつなく最高のフォローだぜ。
レイフェちゃんの言葉を聞いた『美黒』さんが、メルカとレイフェちゃんとに目線を数度巡らせる。
「ほぅ……何やらまた厄介事のようだね。分かった、二人ともついてきな」
一つ頷いた『美黒』さんが踵を返し、カツカツとヒールを鳴らしながら歩き始めたので。一度レイフェちゃんと顔を見合わせ、どちらともなく頷いてから後をついていくのであった。
◇◇◇
『美黒』さんについていく事数分。
現在地は『総合ギルドの』3階にある、各『組合長』の執務室の一つにお邪魔しております。
いかにもお高そうな内装に、若干気が引けておりますが……出ていく訳にもいかないしなぁ……。
「──なるほどね……」
「だからメルカの認識では、昨日の昼過ぎからの記憶しかない──」
……それはさておき、相変わらずのレイフェちゃん有能が発動中でして。俺がレイフェちゃんにした説明やなんかを、全部まるっとまとめてそのまま『美黒』さんにご説明頂けちゃってます。
あ、ちなみに最初レイフェちゃんが頑張って敬語に直そうとしてたんだが、聞きにくいから普通に喋って構わないと言う『美黒』さんの一言以降、いつものレイフェちゃんの喋り方に戻っています。
色んな意味で、俺もう要らないんじゃないかな……って気分ですが、当事者なのでそれは無理なのがツラい。
ツラいので、対面に座った『美黒』さんが組んだ足の隙間とか、魅惑の谷間に思いを馳せながらしれっと話を聞いております。これも悲しい男の性ですな……そこに浪漫があるのなら、性る訳にはいかんのです。まさにロマンシング……おおっと。
などと俺が下らない考えを満喫している間に、レイフェちゃんの説明が終わったようだ。
「……概ね、今のメルカの状況は理解できたよ……全く、やっぱり厄介事じゃないか」
「す、すみません……」
腕を組んで溜息をつく『美黒』さんの迫力に、思わず謝ってしまう……だ、だっていかにも気風のイイ姐御って感じの人だから、仕草に全部圧があるって言うか?
「よしとくれよ、メルカがあたしに謝るなんて……ああいや、今はあたしの事も分からないんだったね……」
顔をしかめてヒラヒラと手を振ったかと思えば、すぐに何かを思案する『美黒』さん。そうなんです、俺にはアナタの記憶なんてこれっぽっちも無いんですよー。
「まずは、と言うのも変な話だが、自己紹介でもさせてもらおうか」
居住まいを正した『美黒』さんが、まっすぐにこちらを見て口を開く。
ピリッとした空気に、俺も思わず姿勢を正してしまった。
「あたしの名前は、【シェーン=ビグロ=マイヤ=シュバルツ】。今はこの『テイン』の『総合ギルド』で『魔術組合長』をさせてもらっている」
「あ、はい……よろしくお願いします」
あ、やっぱり名前に『美黒』って入ってるんだな……でも、これは多分……違う。
さっき、一階での言動でも感じた事だが……この目の前の『美黒』さんは、俺が知っている『美黒』さんとは……違う人間だ。
そういえば、とか。今更、って話ではあるんだが……〈異世界〉に来る時に『メルカ』も言ってたっけ。
『──〈PC〉は、〈現実〉の〈中身〉の思考と、〈統合世界〉の知識を持って存在してる、という所でしょうか──』
あれは、つまり。〈日本〉の『プレイヤー』の思考回路……まぁ『考え方』とか『人となり』……簡単に言えば『人格』ってヤツか? それが〈異世界〉の『体』に入ってるけど、『知識・常識』とかは〈異世界〉のモノなんだっつう……話だった訳だな。
今、実感を持って理解出来た気がする。
やれやれ……〈現実〉での『ギルド』の知り合いに〈異世界〉で会うなんて考えたら、何て言えば良いのか分からなかったが……もう会う事は無い、って事か。
……ハッ、せいせいするね。
『──ッ』
「……メルカ? 大丈夫?」
「えッ? な、何がですか?」
いつの間にか俯いていた俺を、横から見上げるように覗き込んでいるレイフェちゃんが声を掛けてきた。
慌てて顔を上げると、視界の端を『水滴』が飛ぶのが見えた。あ、ヤベ。よだれでも垂らしてたか?
反射的に手で口元を拭うが……特に濡れてはいない?
と、正面に座っていた『美黒』さん……いや、区別をつける為にも違う呼び方の方が良いか……じゃあ『アネゴ』だな。まんまそれだし。
さておきアネゴが、『何か』を差し出して……白い……〈ハンカチ〉?
「……使いな」
「あ、ありがとう……ございます」
でも、何処に?
俺が戸惑っていると、横から手を伸ばしたレイフェちゃんが〈ハンカチ〉を手に取ると、何故か俺の目元に当てられた……え、まさか? 俺が? ……涙を流してるのか?
両手を上げて、レイフェちゃんから〈ハンカチ〉を受け取りつつ、空いた手で目じりを確かめると。
そこには確かに、結構な量の涙が溢れていた。
「す、すみません! ど、どうしたんでしょう……」
特に悲しくも無いし、痛みを感じた訳でも無かったのに……意味が分からん。
〈ハンカチ〉を広げて両目を覆い、涙を止めるべく押さえる俺の肩を。
横から誰かが、ポンポンと叩く感触がする。
「大丈夫。大丈夫」
この声はレイフェちゃんか……と、年下の女の子に慰められるオッサンの構図はヤヴァイ! ……あ、いや、今は『メルカ』だから、構図的には大丈夫か……でも、俺の『ハート』がッ! 『ハート』が色んな意味でヤヴァイッ!
羞恥心とかその他色んな感情で、内心は季節外れの嵐の模様だったが。
結局謎の『涙』は、その後数分間は止まる事が無かったのであった。
──ようやっと溢れる『涙』が収まった俺は。妙にスッキリした気分で、じっと待ってくれていたアネゴとレイフェちゃんに謝罪と礼を言う。
「すみません、お騒がせしました……レイフェさんも、ありがとうございます」
「気にしなさんな。珍しいモンが見れたしね」
「大丈夫。いつでも頼って」
ぐ、ぐぬぬ……アネゴの頼り甲斐がある感じなのは、見た目からでも明らかであるが。レイフェちゃんにも謎のママみが深いと言うか……俺、そんなに特殊性癖は持ち合わせていなかった筈なのであるが、妙に頼りたくなるのは何ムーヴなのであろうか悩む今日この頃……いや、精神年齢とかは実年齢と比例しない例はいくらでも存在する事は知識として持ち合わせていたし、俺自身精神年齢は十代で止まって久しいので理解は出来るのだが……謎だ。
「まぁ、メルカも落ち着いたんなら色々話すとしようかね」
「あ、はい! お願いします」
足を組みなおしたアネゴの美脚に目線を取られつつ、姿勢を正して傾聴の態勢をとる。
「メルカが記憶を失ってる事態への現実的な対応としては……まず、メルカの為ならあたしが『支援』をする事に問題は無いよ。あんたには散々世話になったんだ……恩返しさせて貰える機会が出来たんなら、こっちからお願いしたいくらいでね」
「あ、ありがとうございます」
な、何か凄い豪気な事を仰ってますね……いや、アネゴの『立場』を考えたら人ひとり養う位何の問題も無いって事か?
俺が感心していると、アネゴが更に言葉を続ける。
「何なら、アタシの方で宿泊先の手配もするが……」
「それは……」
助かるのは助かるが、俺は今のところレティシアさんのとこにお邪魔させて貰って、美少女美女に囲まれて至福の時を味わっている状況な訳でして。
気遣いはありがたいが、何とか宿泊先については据え置いて欲しいんだが……?
と、内心で俺が葛藤していると、何かを考えていたレイフェちゃんが口を開いた。
「メルカは、今レティシアの店で滞在している。宿泊に関しては問題ない」
「レティシアの……そうかい、分かった」
何故かレイフェちゃんの言葉を聞いたアネゴは、納得したように頷いている。
まぁ、俺にとっても都合は良いから……良いか!
納得したところで、再度レイフェちゃんが喋り出す。
「……宿泊や金銭面ではそれで良いとしても、メルカが記憶を失った理由が分からないと……何か『危険』があるかもしれない」
おっと……他に説明のしようが無いとは言え、伝家の宝刀『記憶喪失』がそういう風な危惧を産んじゃう訳ですか……でも、実際には危険が無いなんて言えないしなぁ……どうしたもんか?
俺がどうやって説明しようか悩んでいると、対面のアネゴが何とも言えない表情で切り出した。
「メルカに『危険』……ねぇ? あたしからすると、それも違和感がある言葉なんだが……」
「? それはどう言う?」
まるでメルカに『危険』なんか無い、みたいな言い方だが……?
〈日本〉で会った時、メルカは確か──
『──〈異世界〉でのワタシは、極普通の魔導士でしかありませんでしたよ──』
──なんて言ってた筈だけどな?
俺の疑問に気付いたのか、ニヤリと笑みを浮かべたアネゴが口を開く……どうでもいいが、その表情イイね! なんかゾクゾクする。
「『冒険者ギルド』、『探索者ギルド』、そして『魔術師ギルド』……何か分かるかい?」
「……いえ」
それだけで分かる訳無いでがしょ? こちとら記憶が無いんやぞ? ……嘘だけどな!
首を横に振る俺に、アネゴは言葉を続けた。
「メルカ、あんたが所属してた『ギルド』だよ。ついでに言えば……『冒険者』と『探索者』では『Aランク』。『魔術師』では……世界にそう何人も居ない『トップランカー』──『Sランク』だったのさ」
……はい?
…………。
……メルカ。
おま……おま、何処が『極普通の魔導士』じゃぁッ!?
世界にそう何人も居ない『極普通』が居てたまるかッ!
近所のスポーツセンターに行ったら、オリンピックの金メダル選手がプレーしてて、対戦する羽目になるようなもんぞッ!?
無いからッ! そんなん無いからッ!!
俺の内心の混乱を楽しんででも居たのか、目の前のアネゴが変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべているのがちょっとムカつく。……でも、やっぱりなんかちょっとゾクゾクしちゃう……新しいトビラが開け──
「……メルカが、『Sランク』……?」
おおっと、今まで聞いた事が無かったレイフェちゃんの愕然とした声に、現実に戻ってまいりました。ここがそもそも〈異世界〉っていうツッコミは無しね。
さておき、昨日の『貴族』の時と同じで……レイフェちゃんに変に距離を取られたらイヤなんだけどなぁ……と思いながらそっと目線を向けてみる、と。
「……す、凄いッ! は、初めて会ったッ!!」
はい、推しのアイドルと出会った中学生みたいな反応のレイフェちゃんがいました。
椅子から立って飛び跳ねております。
ワキャワキャしております。
シャツの裾からちらちら覗くおへそとか、キュロットスカートの裾がまくれて結構深い所まで見えるふとももとか……ごちそうさまです。揺れない胸……それもまたヨシッ!
謎の悟りを開いていると、ワキャワキャが一旦落ち着いたのかレイフェちゃんがタタタッと駆けよって来て至近距離で上気した顔で上目遣いで……あ、前髪カーテンが割れて、ちょっと瞳が見える……やっぱりカワイイじゃあねぇの! 確定美少女ッ!!
「メ、メルカ……!」
「は、はい? 何でしょう?」
い、いけね……とりあえずレイフェちゃんにちゃんと対応しないと。
内心でよだれを拭いつつ、表情はキリッとしてレイフェちゃんに応える。
「あ……握手しても、良い?」
「え……ええ。もちろん?」
握手? いや、まぁそれくらい全然──
キュッ
「うわぁ……」
キュッキュッ
「えへへ……凄いなぁ」
……どっちかと言うと凄いのはレイフェちゃんの件。
い、今までのレイフェちゃんとのギャップが凄すぎて、俺の理解が追いつかないよママン。
まぁ、ある意味で年相応の反応が見られるし、めちゃくそカワイイので文句なぞあろうはずもない! って言うか、これ流れで『抱擁』しても許される流れでは無かろうか……さっきは『大作戦』が未遂に終わってしまったし、これは挽回のチャンスだな! よし、実行──
「──ボク、36年生きてきて、初めてだよッ!」
……ぱーどぅん?
あんだって?
ここまで読んで、面白い、もっと続きを! と興味を持って頂けましたら、是非BMやご評価での応援もよろしくお願いいたします!
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