表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/54

【35】 2章の3 騒動



 

 突然響いた怒鳴り声と、何かが地面に落ちるような音。


 それと共に、先程までこの場にあった穏やかな喧騒が静まり、場は一旦静寂に包まれた……が。


『──あー、デカイ声出して申し訳ねぇ! 大した事じゃねぇんで、気にしねぇでくれッ!』


 さっきの怒鳴り声と同じ声が周囲に向けてだろう、謝罪の言葉を落ち着いたトーンで伝えている。それが聞こえた為か、徐々に周囲の喧騒が戻り始めた。


 今の何だったんだろね? 正直、物見高い野次馬根性に満ち溢れた俺としては、めちゃくちゃ気にはなるんだが……今の声が聞こえた辺りは、さっきレイフェちゃんにも注意された『右の受付』の真ん前だ。位置的には『傭兵』の受付かな。目を向けてみれば、ちょっとした人だかりになっている。

 そして俺は、レイフェちゃん(姫さま)にここから離れぬと約束した身。ゆえにここから離れる訳にはいかんのだッ! 許せッ! ……何を? そして誰?


 俺が一人で謎の葛藤をしていると、視界の端をついさっき見た後ろ姿が駆けて行く……って、あれ? 今の……レイフェちゃん、だよな? 今の、ペロリズムをビンビンに刺激する走り方は間違いない。

 ここに居るって気付かなかったのか? って、ああ。背にしてた〈柱〉のせいで見えてなかったのか……呼び止めよう。


「あ、レイフェさーん」


 こっちですよー、と俺は続けようとしたのだが。


 ……あるぇ? レイフェさんレイフェさん?

 何で、自分で行くなと言った『右の受付』に向かって、わき目も振らずまっしぐらに突っ込んでイクンディスカ?

 そして人だかりの中に、小ささを利用して消えて行って……行って……行っちゃあマズイんじゃあないでしょうかッ!?


 周囲の音がろくに聞こえていないのか、俺の呼びかけにも無反応でそのまま人だかりに突っ込んでしまった。想定外の事態に、混乱する。


 何で!? ナゼ!? ホワイッ!? ……あー、うー……とは言え、行く以外の選択肢は……俺には無いか。待ってろレイフェ、今行くぞッ!


 レイフェちゃんの後を追った俺は、昨日の『ク〇エルフ』の時に(つちか)った……と言うほどのものでもないが。すり抜け技術を使って、人だかりを通り抜ける。ほとんどが普通の〈服〉ばっかりだった昨日と違って、革や金属で出来た〈鎧〉を着ている連中ばっかりだったから、少々気は使ったが……いや、当たったら痛そうだし? 『メルカ()』の玉の肌に傷が付いたら、損害賠償じゃ済まされねぇぜベイベ?


 スルスルと柔軟かつ思い通りに動いてくれる体を駆使して、人だかりを通り抜けると。

 そこには、ある意味想像通りの光景が繰り広げられていた訳なんですが。


 人だかりの最前線まで移動し、パパッと周囲の状況を確認すれば。人だかりの中心付近に立つ4,5人の鎧姿の男共。そして男共と向き合う、もはや見慣れた感のある少女に庇われながら、座り込んでいる『女の子』──って、ネコミミッ!?


 リ、リアル『ネコミミ少女』きましたワぁーッ!! 俯いてて顔が見えないが、〈異世界(こっち)〉に来て初めてネコミミっ子を発見ッ! ケモミミオッサンは、少なくとも俺個人には需要が無かったから、本当に助かるぅー! チッ、オッサン邪魔! ソコ退いて! ネコミミが見られない!


 目の前に中肉中背の鎧姿のオッサンを片手で押しのけ、一歩前に出る。


「ちょ、おい何しやが──あ、アンタはッ!? な、何でもありやせんッ!」


 無理やり押しのけたオッサンが何か言ったので、チラリとフード越しに目線を向けてみれば。突然青い顔をして、人ゴミを掻き分けてどこかに行ってしまった……トイレだろうか? 漏らすなよ? ああいや、今はそれどころじゃなかったんだった。


 もちろん『ネコミミ少女』も気になるが、今の俺にとっての第一はレイフェちゃんだ。


 目の前の鎧姿の男共も、正直おっかない。だがレイフェちゃんが関わっているのなら、手伝わない選択肢を取るのは流石に漢気が無さ過ぎるってもんよ! ……それに、さっきのレイフェちゃんが言ってた事を考慮に入れれば、『総合ギルド(この場所)』でならばそうそう無体な事はされないだろう、と言う寸法よ。フハハ、やれるものならばやってみるがイイ!


 一歩前に出た事で周囲の目線も浴びながらも、自分自身の心づもりは置いといて、メルカ()は堂々とレイフェちゃんに近付いて声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


 対峙している男共からの視線も、俺の視界の端には入っていたが。とりあえずは無視しておく。

 俺が声を掛けた事でこちらに気付いたレイフェちゃんが、ハッとした後、情けなさそうに口を開いた。


「メ──ごめん……逆に(・・)、巻き込んでしまった」

「い、いえいえ」


 レイフェちゃんのお役に立てるなら、ハイよろこんでッ! ってなもんですが……逆に? 何が?


 俺は表面には出さなかったつもりだったが、戸惑ったのが見抜かれたのかレイフェちゃんが言葉を続けた。


「キミと……勘違い(・・・)した」

「勘違い……あ」


 チラリと、後ろに座り込んでいる『ネコミミ少女』に目をやるレイフェちゃんの動作で、さっきの言葉の意味が分かった。


 なるほど。騒動に巻き込まれたのが『メルカ()』だと勘違いして、慌てて助けに来てくれたのか

 んで、実際には巻き込まれてなかったのに、レイフェちゃんを追っ掛けてメルカ()が来ちゃったもんだから……あれ、これ俺が来ない方が良いまであった? ……い、いや、そなこと無い! そなことなーよ!?


 内心で冷や汗をダラダラとかきながら、しれっと目線を勘違いでかばわれた小柄な『ネコミミ少女』に向けて──俺は目を見開いた。目をこすって、二度見した。思わずガン見した。


 ……うわぁお。


 この子……すっげぇ。


 『ネコミミ少女』は、小柄で細身にも関わらず。その胸部は──実に豊満であった。具体的に言うと『爆』であった……ほへぇ……宇宙の法則が……みだれりゅぅ。


 し、しかも、造形としてのバランスが神がかっている……無駄にデカイのではない、ともすれば下品と感じてしまいそうになるギリギリのラインを攻めているにも関わらず、その形状には美術品のごとき素晴らしさが内在していた。その様は正に『神』が宿ったと言っても過言ではない。


 俺が感動のあまり、思わず信じても居ない神に感謝の祈りを捧げかけていると。

 自分に向けられた視線に気付いたのか、『ネコミミ少女』が俯けていた顔を上げ──


「……おねえちゃん、だれ?」


 ──や"ぁ"ん"、か"わ"い"い"ぃ"ぃ"ぃ"ん"!(だみ声


 『ネコミミ少女』は、ストロベリーブロンドのショートカットから、ピョコンとネコミミを立たせ。ビクビクしながらこちらの様子を窺ってい……ヤバイ、鼻血吹きそう。めたんこカワイイ……俺、今日からケモナーになぅ! 語彙が死んだ……だが、その生涯に一片の──



「──あー、急に出て来てオメェ……何なんだよ?」


 ……ぁあんッ!? 『人類の至宝』の鑑賞を邪魔するなんざ、てめぇこそ何なんだよッ!?




  ◇◇◇




「彼女は──」


「……これは失礼しました。『知人』が怪我など負っていないかと、ついつい気遣ってしまいまして」


 背後から聞こえてきた無粋な男の声に、横でレイフェちゃんが答えかける。が、インターセプトして俺が答えた。


「はぁ……そこの『ドワーフ』の姉ちゃんとイイ、おめぇとイイ……野次馬じゃねぇってんなら、そこの『ガキ』の関係者かよ?」

「いいえ、今お会いしたばかりですが?」


 そもそもの経緯は分からなかったし、一応双方の言い分を聞いてから自分の身の振り方を決めようと思っていたが……さっきからの言い方と、この『ネコミミ()少女』を勘案して、キサマらが『悪』だッ!! 弁護控訴上告却下、判決有罪これにて閉廷ッ!!


「はぁ、だったら出しゃばってくんなよな……(『器用貧乏』のクソガキみたいに出てきやがって)」


 立ち上がってぶつくさと愚痴を言うように喋っている、男共の一人。最初は同じテーブルに座っていたのだろう、軽装のヒョロ、軽装の長髪、重装のデカブツ、重装のハゲ……とコイツで全部で5人、か? 一人だけ立って前に居る事から考えても、とりあえずの相手はコイツだな。なかなか立派なアゴを持ってる事だし、コイツは仮称【シャク()】で良いか……後、『器用貧乏』ってなんの事だ?


 俺が目の前の男の呼び名を、シャク男にしていると。


「大体、問題はもう解決してん──」

「か、解決なんてしてないもんッ! 【エルネ】、ずっとそう言ってるもんッ!!」


 呆れたように溜息をついたシャク男の言葉に、勢いよく『ネコミミ美少女』が反論する。

 動いた拍子に揺れ動く『神』も素晴らしいが、首に着けたちょっと不似合いなぐらい無骨な〈チョーカー〉も倒錯的でなんかイイ……って、【エルネ】……? それもしかして、名前? ……一人称、名前? はぁぁぁぁぁぁぁ……(たっと)い。マジ無理。


 ……じゃなかったわ。エルネたんを、お助けするのです! エルネたそぉぉぉッ!


「……こちらの少女は、こう仰ってますが?」


「(チッ、めんどくせぇな)」


 コイツ、舌打ちしやがったぞ……しばきたい……猛烈にしばきたい……ぐぅぅぅ、『俺』に力が有れば(・・・・・)……!


『──?』


 内心猛烈に腹を立てながらも、目の前のシャク男に良いようにされてはならぬと、目ぢからで返事を促すと。いやいやなのか、首を振りながらシャク男が返答してきた。


「……そこのガキは、『契約不履行』になったから依頼をキャンセルしたんだよ。『契約金』が満額払えねぇってんなら、他に対処のしようがあるか? ああ?」


 いちいちムカつく態度だが、シャク男はこう言ってる。例えそれが事実だとしても、俺はエルネたんに有利になるように立ち回るつもりだが……エルネたんの言い分はどうなんだ?


 俺が確認も兼ねてエルネたんに目線を向けると、全体から感じるおっとりとした雰囲気を多少荒立たせながら、エルネたんが大きく体を動かして反論を……わぉ、弾むなぁ。 WAO!


「最初に言ってた額なら払ったよ! なのに急に、契約金が払えなかったら契約不履行だ、って言いだしたんだからッ! だから、せめて最初のお金を返してって言ってるのに……」


「だぁから、言ってんだろ? 最初に書いた〈契約書〉に、『契約締結時に小金貨3枚、出発前に小金貨7枚、しめて小金貨10枚を支払う。もし契約不履行となった場合には、それまでに支払った分は返却しない』って書いてあるんだよ。おめぇとあの『アニキ』がサインした時にも、これは書いてあったんだ! もう一度確認してみるかッ?」


 そう言いながら、シャク男が『契約書』を投げ渡してくる。まぁ、ここで破ったところでこれだけ衆人環視の中では意味がないし、そもそも手付金を返さないって事だから『契約書』自体の価値はもうそこまで無いのか。


 足元に飛んできた『契約書』を拾い上げ、一応中身を読んでみる。うん、意味が分からない文字なのに、意味が分かるって不思議だね。

 さておき、書いてある内容自体は、シャク男の言う通りだな。エルネたんのサインもバッチリ書かれてる……強いて言うなら、問題の内容の部分は段がずれて他より小さめの文字になっているが、読めないほど小さい文字、とかではない。なんか、変な位置に折れ線がついてるせいで、問題の部分だけが妙に読みにくいが……ってあれ、もしかして……これ、前に『人をだます方法』を調べてた時に載ってた、詐欺の手法じゃねぇのか?


 ふと思い立ち、折れ線に沿って『契約書』を曲げてみる……なるほど。多分、こうやって騙したのか。


「エルネさん、とお呼びしてもよろしいですか?」

「え……あ、うん。大丈夫だよ」


 大きな声を出して疲れたのか、少し息の荒いエルネたんに声をかける……字面だけみると、ちょっとヒワ……いやいやいや、違った。


 『契約書』を見せつつ、サインを書いた時の状況を確認する。


「もしかして、『契約書』にサインする時、やたらと急かされたりしませんでしたか?」

「う、うん! この後の予定があるから、急いでくれって……」


 まぁ、それも詐欺の常套手段だな、考える暇を与えない。


「後、何か理由をつけて『契約書』を……手か何かで押さえられていませんでした?」

「あ、そう! 文字がずれたらダメだからって、アイツが両手で左右押さえてた!」


「分かりました、ありがとうございます」


「(メルカ、何か分かった?)」

「(はい、おそらくですが……)」


 小声で話し掛けてきたレイフェちゃんに、俺の想像を伝えてみる。


 ……なんて事は無い、単純な方法だ。


 要は、『契約書』の問題の部分だけ読まれないように、折り曲げて見えないようにしてただけの事。

 更にそれに気付かれないよう、急かして、押さえつけてた訳だ。


 荒いなんてもんじゃない、一昔前の訪問販売だってもう少しうまくやるだろうが……問題は、サイン自体は(・・・・・・)されちまってる(・・・・・・・)、って事だな。

 こっちの『法律』に詳しい訳じゃないが、経緯はどうあれサインされちまってるのは……難しいんじゃないだろうか。


 俺の想像を裏付けるように、レイフェちゃんの表情が曇る。


「(手法自体は問題がある……けれどそれを証明できないし、何よりサイン自体は本物)」

「(やっぱり、そうですよね)」


「あの……」


 俺とレイフェちゃんの様子で、状況がよろしく無いのが分かったのだろう。

 エルネたんが、不安そうな表情で声をかけてきた。


 この可愛らしい顔を、更に歪める原因になる一言を告げるのは気が重いが……仕方ない。


「……ごめんなさい、どうやら状況を覆すのは難し──」


 覚悟を決めて、エルネたんに告げようとした時の事だった。


「──なぁ、おい。いい加減理そっちに非があると理解出来たんなら、『落とし前』をつける相談でもさせてくれねぇか?」



 ……へ? 落とし前? ……何の?




落とし前! 落とし前!



ここまで読んで、面白い、もっと続きを! と興味を持って頂けましたら、是非BMやご評価での応援もよろしくお願いいたします!

   _        _

  |作|       |作|

_(・ω・_) → d(^ω^ )

 ☆☆☆☆☆ →  ★★★★★


このように作者が喜びます。

それはもう喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうやって解決(物理)するのか気になる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ