【33】 2章の1 武装
今話から2章突入です!
……進行が遅いのはご勘弁ください!
冷やりとした空気が頬を撫でる。
手に持った〈杖〉を経由して、『ワタシ』の中の『 』が世界に具現化した残滓だ。
『ワタシ』にとっては、息をするよりも簡単な事。
それが……出来ないはずなんて、無い。
──『フフッ……その通り』
◆◇
──うん……? なんか、変な『夢』を見た気がするが……気のせいか。
やれやれ……一人暮らしのほぼ無職だと、時間の制限が緩いのは良いが不規則になって困るよな。
そろそろ布団も一度干さないと、湿気でカビたりして変な匂いが……ん? ……あれ、臭くない……? いつもの湿気た臭いじゃなくて、お日様の匂いが……あれ、実は最近干してたっけ?
……いや、待て。
これは、あれか。
確認する為に、俺は『自分』の耳を触ってみる──
フニフニ
んふッ……あーあ。やっぱり、『夢』じゃなかったのか。
触り慣れない、スラリと伸びた『メルカ』の耳の感触に。
『俺』は、ゆっくりと自分の置かれた環境を思い出していった。
◇◇◇
ベッドで起きた時には、何故か昨日着ていたはずのローブを脱いでしまっていた。俺には脱ぎ癖は無かったはずなんだが……メルカのクセでも移ったんだろうか?
とりあえず、ベッドサイドにまとめられていたローブを着込み、適当に身だしなみを整える。
昨日は意識していなかったが、『ゲーム』の時と同じ髪型にしてみる。といっても俺には難しい髪型を作る技術は無いので、顔の両サイドを少し残して残りを後頭部でまとめるポニーテールの亜種だ……何となく左にずれて結んでしまった気もするが、まぁいいだろう。
……うむ、自分の顔ながら今日も美人さんだ。
まだ着ける必要も無いかもしれないが、念の為こちらも外れていた足の〈小剣〉を……って、あれ? これも? ……我ながら器用な寝方したもんだな。
最後に〈巾着〉を腰に挟み、身支度完了である。
そう言えば特に起こされなかったが……まぁ、起きてたところで俺に何が出来るって訳でもなかったか。
ドアを開けて廊下に出たところ、ちょうど目の前をレイフェちゃんが通りかかった。今日も安定のメカクレである。
「あ。おはようございます、レイフェさん。昨日はありがとうございました」
「おはよう、メルカ。よく眠れた?」
「はい、スッキリ目が覚めました。気付いていませんでしたが、結構疲れていたみたいです」
苦笑を浮かべながら返事をすると、一つ頷いたレイフェちゃんに手招きされ……ぬおッ!? ね、寝ぐせは直したはずだが!?
警戒してゆっくり近づくと、レイフェちゃんがうっすらと笑みを浮かべる。
「何もしない。朝ごはんが出来てるから、一緒に食べよう」
「え、あ、はい」
む、むぅ……思わず警戒したのがちょっと恥ずかしい。
昨日と同じようにレイフェちゃんと連れ立って1階に降りると、今日はチロッペたんがキッチンでパタパタと動き回っていた。
「おはようございます、チロッペさん。起きるのが遅くてすみません」
何が出来る訳でもないが、他の人間より遅く起きたのなら一応謝っておこう、の精神である。
俺の声が聞こえたのか、〈フライパン〉を振っていた手を止めて、チロッペたんが振り返った。
「ああ、メルカさん! おはようございます。今出来るので、先に座っててください!」
「あ、何かお手伝いできることは──」
「メルカ、座っとく」
一応の気遣いとして手伝いを申し出てみたが、言い切る前にレイフェちゃんに袖を引っ張られ、止められてしまった。
顔を向けてみれば、レイフェちゃんがふるふると首を横に振っている。
「もう準備はできてる。食べてからが忙しいから」
「はぁ……分かりました」
まぁ、元々そんなにやる気があった訳じゃないから全然構わないんだが……ん? 今、何か気になる事を言わなかったか?
レイフェちゃんに手を引かれながら、何が気になったのか考えていたのだが……結局分からないのであった。
レティシアさんは所用で出かけているとの事だったので、チロッペたんとレイフェちゃんの3人で食卓を囲む。
昨日も思ったが、これだけでもなかなか至福の空間である。美少女たちと食卓を囲む権として売りに出したら、速攻で買い手がつくのではなかろうか……いや、しかし売らずに独占したい気持ちもムクムクと湧き上がってくるこの不思議よ。
と、俺の妄想はさておき、個人的に助かるのは……飯が美味い事だな。
元々が『ゲーム』だからか、食い物の基準がほぼ〈日本〉と同じレベルだ。今のところ『米』は見かけていないが、『ゲーム』時代には『ライス』として存在していた。
多分、どこかには存在しているんだろう。今は大丈夫だが、その内俺がホームシックに……かかるかね、俺? いや、でも『米』自体は割と食べたくなる気もしないではないし……見つけたらキープしとくべきか。
俺がモグモグとチロッペたんの手作りモーニングを頂きながら、考えを巡らせていると。
横に座っていたレイフェちゃんが、声を掛けてきた。
「メルカ、今日この後の予定だけど」
「あ、はい?」
手に持っていたパンを皿に置き、レイフェちゃんの方に向き直る。
「昨日の夜にレティシアとも相談して考えていたけれど、メルカを一度『総合ギルド』まで案内しておこうと思う。併せて、この街中の案内もする」
「『総合ギルド』、ですか」
ふむ、何らかの公共施設的なものかな。
現状では、特に自発的に出来る事も無い事を考えると……同行する事に否やは無いな。
「……分かりました、よろしくお願いしますね!」
「ん、任せて」
どことなく満足そうなレイフェちゃんに癒されつつ、会話に入って来ないチロッペたんが気になって目を向けると……何故アヒル口? いや、めっちゃ可愛いけども……むしろ可愛さしかないけどもぉぉ!
と、目線を向けた事に気付いたのか、チロッペたんがハッとした表情を浮かべて目を泳がせた……ああ、ぺろぺろしたぁぃ……!
「な、何ですかメルカさんッ!?」
「い、いえいえ? 何だかチロペさんが元気が無かったような気がしたので……」
「そ、そんな事、無いですよ?」
両手を横に振って、慌てて否定するチロッペたんだが……横からレイフェちゃんが説明してくれた。
「……チロッペは、一緒に街を歩けないのを残念がっている」
「レ、レイフェ!」
やだぁ、何それ。つまり『メルカ』と一緒にお出かけ出来ないのを、とても残念がっていると。じゃあ、是非とも今度二人でらぶらぶデートしようぜぇ、ぐふふふふ。
「今日はご一緒できないようですが、チロッペさんが良かったら、また今度お出かけしましょう!」
「メルカさん……はい、是非ご一緒しましょう!」
にこにこ顔になったチロッペたんを見ると、俺までニコニコ顔になっちまうぜ困ったなぁーまったくぅー!
と、それまでしばらく黙っていたレイフェちゃんが、ツンツンと腕をつついてきた。レイフェちゃんはつつき癖があるなぁ……もちろん、文句などあろうはずもねぇッ!
「……今日は、ボクと」
──んんんんん、ねぇッ!!
◇◇◇
二人とイチャイチャ──イチャイチャ? だよな、多分──した後。俺とレイフェちゃんは、お出かけ準備をした訳ですが。
その時、昨日『考えていた事』が頭をよぎった訳ですハイ。ほら、身を守る術、ってやつです。
いや、脈絡もないように感じるかもしれませんが、小さめの〈鞄〉を背負ったレイフェちゃんの、小振りなおし──後ろ姿を! 後ろ姿を見ていた時にですね? ふと気になった訳ですよ。
昨日着ていたのと同じような、膝丈の〈キュロットスカート〉の腰辺りに。昨日は気付かなかった『膨らみ』がある事に気付いたんですよこれが。俺っちのたゆまぬ観察が招いた発見であると……いや、それはどうでもよくてだな。
まぁ、とりあえずその『膨らみ』が気になったもんで、レイフェちゃんに尋ねてみたんですよ。
そしたら、開けてビックリ玉手箱──
『──これ?』
『はい、何か入れてらっしゃるんですか?』
『ん』
シャキンッ
レイフェちゃんの頷きと、軽い金属音と共に出て来たのは、ある意味フィクションで見慣れた〈トンファー〉!
しかも、打撃部分が伸縮式……! イイ趣味してる!
思わず、昨日の商品と同じくシゲシゲと眺めていると。
『……持ってみる?』
『え、い、良いんですか? 是非ッ!』
で、持ってみた訳なんだが……いやぁ素晴らしい。
伸縮式なのに、ガッシリとした作りは振ってもまるでブレが無い。凄い工作精度だ。
昔見たカンフー映画を参考に、軽くブンブンと回してみたり、腕を伸ばした時に打撃が一番威力が出る振り下ろし、逆回しで振り上げ、と動かしてみる。
しっかりと練習した訳では無いから我ながら多少動きがぎこちなかったが、この『体』だと見た目以上に力が有る事もあって、総金属製で重ためのはずなのに問題なく振り回せる。
思わず楽しくなってブンブンと振り回していると、呆然としたような声が聞こえてきた。
『メ、メルカ……何で、使える?』
『え……あ』
しまった、何も考えずに振り回してしまった……い、言い訳は……よし!
『な、何ででしょう? 使った事は無いと思ってたんですが、手に持ったら自然と……』
『……確かに、使い方を知っている振り方だった』
実際に使った事は無かったんだけどね。
んでとりあえず、伸縮を戻してレイフェちゃんに〈トンファー〉を返すついでに。昨日考えていた事を相談してみた訳です。
『レイフェさん、昨日も考えていたんですが、ワタシが今持っている身を守る手段はこの〈小剣〉だけなんです』
『……ん』
続けて、と言う風に頷くレイフェちゃんに従って言葉を続ける。
『記憶を失う前のワタシは、『魔法職』だったのかもしれませんが……今のワタシは使い方が分からなくなってしまっています。それで昨日も考えていたんですが、咄嗟に使いづらいこの〈小剣〉より、レイフェさんが作っていた〈商品〉の方が扱いやすいのではないかと……思ったんです』
『……なるほど』
もう一度頷いたレイフェちゃんが、何かを考えるように腕を組んでいる姿を見ていると。
こちらに目線を向けて来たので、俺も合わせる……合ってる、よな? 多分……?
『今見た感じだと、ボクもボクの〈商品〉たちを使ってみてもらうのは、ありだと思う』
と言うレイフェちゃんの言葉を受けて、出かける為に玄関まで移動していたのを2階に逆戻りする事になった訳です。
──結局、プラス20分ほどかけて『メルカ』の装備を整えました。
重武装メルカ、爆誕ッ!
細かい武装の内容は、また後日。




