【32】幕間 関りし者達 ミーニー2
今回は、視点が『ミーニー』のものになります。
話の都合上、同時2話投稿となります。
こっちが2/2です。
※ちょっと短めです。
【SIDE:ミーニー】
『この魔力の感じ……なんや〈お嬢〉の知り合いかいな。もっとも前からの知り合いとは……ちゃうようやけど』
誰も人が居ないにも関わらず、どこからともなく話し掛けているような『声』が聞こえ続けています。
自分の目の前、2歩ほどの距離で止まった『氷の犬』を警戒しつつ、とりあえず他にやりようも思い浮かばないので、自分は『声』に反応してみる事にしました。
「……今のこの声は……もしかして、自分に話し掛けていらっしゃるのでしょうか?」
『おお? なんやボウズ、おんし『精霊感知』のチカラ持っとるんかいな』
「『精霊感知』……?」
急にテンションが上がった『声』の相手に、自分が思わず戸惑っていると。
『声の主』は、何かを納得するかのようにもう一度明確に喋りかけてきました。
『なんや驚かして悪かったなぁボウズ。まさか、こっちの声が聞こえる人間がおるなんて思わんかったんや』
「あ、いえ、それは構わないのですが……今、どちらから喋りかけていらっしゃるんでしょうか?」
姿が見えない相手との会話と言うのは、これほど自分の神経をすり減らすとは思いませんでした。
話の内容からすれば、おそらく危害は加えられないような気もするのですが、何分『声』の発生源がまるで分からず……それこそ、まるで自分の頭の中に直接言葉が刻まれている感覚なのです。
自分の不安を感じ取ったのか分かりませんが、『声の主』が気遣うような声をかけてきます。
『おお、まだまだ弱いチカラなんやな。それやとワシの声を聞くんもツライやろし、この辺にしとこか』
「は、はぁ……」
『ほんなら〈お嬢〉に、あんじょう届けたってな──』
「あ、待ってください! アナタは一体ッ!?」
咄嗟に誰なのか問いかけてみましたが、まともな返事をする事無く『声の主』の声は遠ざかって行ってしまいました。
……一体、今のは何だったんでしょう?
後、〈お嬢〉と言うのは……?
自分が疑問に思っていると、次の変化が起こりました。
ゴトリ
見れば、先程までまるで生き物のように動いていた『氷の犬』が、立った姿勢のまま横倒しになっていました。
命を失い、ただの彫像と化したかのようで……命を、失う? ……いえ、そんなまさかでしょう。
首を振り、バカな考えを頭から追い出します。
と、更に次の変化が。
「──か、はぁッ!? はぁあぁはぁ……た、助かった」
「なッ!?」
急に上がった声に驚いて視線を向ければ、先程まで微動だにしなかった男が作業台に手をついて、荒い息を吐いているところでした。
どうやら、死んでいた訳では無かったようです。
「大丈夫ですか?」
「うぉッ!? 誰だッ!?……って、アンタは、たまに店に来る……」
「ええ、利用させて貰ってる者ですね」
男は、自分の事を知っているようです。
自分は認識していなかったのですが、どこかから確認されていたのでしょうか。
それはさておき、この男が無事だったのなら逃げてしまった店主に代わって、メルカさんの〈鞄〉を返してもらう交渉相手になってもらいましょう。
「今回、ココには偶然立ち寄ったんですがちょうどよかった。そこの〈鞄〉の『卸し主』が『返品』を求めてまして、良ければ買い取らせてもらおうかと思うのですが」
「か、構わんぞ! いっそ好きに持って……あ、いや仕入れ値もあったか」
あ、失敗しましたね。
思っていた以上に、この男にとっては厄介払いの気持ちが強かったようです。買い取りと言わずに引き取りと言っておけば無償で持って行けたかも……教訓にしておきましょう。
「中身が分からんしな……ええい、仕入れ値の金貨1枚でどうだ」
「金貨1枚?」
高過ぎです……払えない事は無いですが、少々厳しいですね。
ここは少し交渉しておきますか。
自分は一つ溜息をつくと、踵を返しながら返答します。
「分かりました、では『卸し主』には見つからなかったと伝えましょう」
「え……あ、いや待て!」
まぁ、あれだけ嫌がっていたのに、持ち帰らないとなるのも困りますよね。
「すまん、取り過ぎた! 小金貨4枚で──」
「小金貨1枚」
「ぐ、いやそれは……せめて3枚」
「2枚」
「……銀板2枚だけ、足して貰えんか」
最初の半額……まぁこんなものでしょうか。
「……仕方ありませんね」
「おし、頼む」
懐から取り出した〈財布〉の中から、小金貨2枚と銀板2枚を男に渡します。明日使う『予定』の分は足りますが……少し余裕が無くなってしまいますか。『王都』に着いたら表の仕事も受けておかないと。
自分が減ってしまった〈財布〉の中身に考えを巡らせていると、ホッとした表情を見せた男が後ずさりました。
「……正直、そんな開けようとしただけで『凍結』が発動するような特級の『呪物』なんて、もう触りたくもねぇんだ。は、早く持って出て行ってくれ!」
顔を青ざめさせて距離を取った男の言葉に、一瞬〈鞄〉を掴む手が躊躇してしまいましたが……どちらにせよ、メルカさんへの『恩返し』の為にも持ち帰らない訳にもいきません。
覚悟を決めて〈鞄〉を持ち上げ──お、重たッ!? 何だ……? 見た目よりだいぶと重量があります。
もちろん持てない重さでは無いのですが……一度しっかりと抱えなおしました。
「では、自分はこれで失礼します」
「お、おう……いや、ちょっと待て」
〈鞄〉を抱えて踵を返した自分を、男が呼び止めました。
何でしょう。今更惜しくなったのでしょうか?
首だけで振り向いた自分に、男はゴクリと唾を飲み込みながら質問してきました。
「アンタは……その〈鞄〉の持ち主を知ってるのか?」
「それは……」
もちろん知っていますが……『裏』の界隈にメルカさんの情報が出回るのも、何かとご迷惑になりそうですね。
「……知らない方が良い事も、世の中にはあると思いませんか?」
「そ……そうだなッ! いや、すまねぇ! つい聞いちまったが、深入りするつもりは毛頭ねぇからよ!」
自分の返答を聞いた男は、両手と首をぶんぶんと横に振りながら答えます。
よし、これで大丈夫でしょう。
荷物を持ちながらだと若干開けにくいドアを通りながら、自分は『故買屋』を後にしました。
しかし、今日はもう良い時間になってしまいました。
メルカさんにこの〈鞄〉をお返しするのは、明日のお昼にしますか。
何より愛する『妹』も、家で待っているのです。えっと、まだ『薬』は足りているので買う必要は……ああ、どこかで夕飯を調達していかないといけないんでしたね。どこかの『屋台』か『飯屋』に寄ってから帰りますか。
そう思いながら歩みを進めていた自分は、ふと手の中の〈鞄〉が気になりました。
特に必要無いとは思いますが……あの男もやたら気にしていましたし……。
「……今日はもう遅い時間ですので、メルカさんに〈鞄〉を返すのは明日にしますよ?」
周囲に誰も居ないのが幸いですが……いえ、自分でも〈鞄〉に話し掛けるのはどうかとは思うんですよ?
でも、何となく……気になるじゃないですか。
結局、自分の言葉に何かの返事がある訳でも無かったのですが、何事も無ければまぁ良いだろうと『妹』の待つ『家』へと歩を進めるのでした。
どちらにせよ、3日後には『王都』に向けて出発しなければいけませんので、その前に〈鞄〉を取り戻せたのは幸いでした。
メルカさんに喜んで頂けると良いのですが。
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