【31】幕間 関りし者達 ミーニー1
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当分は更新を続けられますので、よろしくお付き合い頂ければ幸いです!
今回は、視点が『ミーニー』のものになります。
話の都合上、同時2話投稿となります。
こっちが1/2です。
【SIDE:ミーニー】
──全く……不思議な人だ。
『自分』は、そんな事を考えながら夕暮れの街を一人歩いていました。
向かう先は、先日『仕事』で得た物を処分したばかりの『故買屋』です。
ひょんな事から出会った彼女、メルカさんは……『エルフ』だと言う事や、『貴族』だと言う事を抜きにしても、正直『不思議な人』だと思える方でした。
あ! もちろん『エルフ』共通の美しさは間違いなく、むしろその辺のエルフが霞んで見えるほどの美貌だと言うのは間違いありません。
ただ、そんな彼女ですが……初めて見た時には、上下共に下着だけと言う非常に扇情的な……いえ、あれはその、事故ですけども。
……以前、愛する『妹』の着替えを誤って見てしまった時にも、しばらく悶々としてしまう事になりましたが……その時とはまた違う、下着姿の女性にあれほど目を奪われてしまうとは……自分には考えもつきませんでした。
更に均整の取れたその肢体でメルカさんは、『あんな事』を──いやいやいやいや、何を考えているんでしょう自分はッ! メルカさんの『趣味』の事は忘れる、そう誓ったはずでしょう!
ふらふらと、ついこの目で見た『光景』を反芻する思考の渦に飲み込まれそうになってしまい、自分で自分の頬を張り正気を取り戻します。
……でも、ふとそんな風に考えてしまうほど、メルカさんは本当にお美しかった。
もっともそのせいで、あの宿での『仕事』の下見が中途半端になってしまいましたが……言っても仕方が無い事ですね。
それに、あの件のおかげでギリギリ『大事な場面』に間に合う事も出来た訳ですし。
あれ? でもよく考えたら、ギリギリになってしまったのもメルカさんと関わっていたからじゃ……あれ?
何となく釈然としないものを感じながらも、足を止めずに進めていた自分は。気付けば目的地の『故買屋』に到着していました。
もっとも、表看板に書かれているのはただの『雑貨屋』の表示であり、ここが『故買屋』だと言う事は『知る人ぞ知る』類いの情報なのですけど。
大通りを照らす〈魔石灯〉の光の範囲から少し外れた場所にある入り口は、もうとても暗くなっていますが自分は気にせずドアを開きます。
「こんにちは。店主さん、いらっしゃいますか?」
ガラゴロと音の悪いドアベルの鳴る音を頭上に聞きながら、薄暗い店の中へと声を掛けました。
普通の商店なら、ほとんどが店仕舞いしているような時間ですが、故買屋に関しては逆にこれからが忙しい時間帯。店主は在室しているはずです。
すると予想通り。奥の倉庫に通じるドアが開き、いつ見ても陰気な顔をした店主がチラリと顔を覗かせるのが見えました。
「……な、なんだ。こんな時間に誰が来たのかと思えば、いつもの『坊ちゃん』か」
「店主さん、『坊ちゃん』はやめて貰えませんか?」
「お前の年齢なら『坊ちゃん』で十分だろう。で、何の用だ? また『買い取り』か? 今……ちょっと、その取り込んでいるんだが」
陰気な顔の店主が、自分を揶揄するように『坊ちゃん』と呼び。奥のドアから離れる事も無く、やたらとまくし立てると言う事は……どうやらあまり機嫌が良くない上に、本当に忙しいようです。
ここは、さっさと用事を済ませるのが良さそうだ。
気を取り直した自分は、この店に来た用件であるメルカさんの鞄に関する情報が無いか、確認してみる事にしました。
「いえ、ちょっと探し物がありまして。今日の昼過ぎくらいからこっち、〈茶色い革の鞄〉が『入荷』していたりしないかな、と」
自分が、出来るだけにこやかな表情を浮かべながら店主に確認すると、陰気な顔を一瞬ピクリと震わせた店主が絞り出すように言葉を発します。
「お前……何で『アレ』を……探してる」
「いえいえ、『卸し』の方が大変困ってらっしゃるようでして、もし『返品』できるのならお願いできないかなー、と思うところなんです」
……どうやら『当たり』のようですね。一番簡単な原因で良かった。
自分は、そう考えながら店主の反応を伺っていたのですが……どうも何かおかしい。
自分から目を背けて、何かを考えている事は別に構わないのですが……薄暗くて見えづらいのですが、どうも震えているような……そして滝のような冷や汗を流しているような?
「お前、確か『Dランク』の『冒険者』だったよな……? た、助かった」
店主のおかしな様子に訝っていると、一言呟いた店主が無言で自分を手招きします。
はて……? 何か困り事でしょうか。
疑問に思いつつ、同時に若干警戒しながら。
店主正面のカウンターまで近づきます。
すると、何故か。
店主がグルグルと手を回し、いつもならば近づく事も嫌がられるカウンターの潜り戸を示します。
入ってこい、と言う事でしょうか?
何故か声を出さない店主に合わせて、自分もジェスチャーで確認をしてみますが、大きく頷いて焦ったようにもう一度手招きされます。
少々狭い潜り戸を抜け、カウンターの中に入り込むと。店主が小声で話し掛けてきました。
「(悪い、ちょっと奥で『面倒な事』になっていてな)」
「(面倒な事、ですか? 強盗でも入りましたか?)」
店主に合わせて小声で返事をすると、何やら曖昧な様子で考える店主。ややあって、首をひねりながら口を開きます。
「(ちょっと俺も何て言って良いのか分からんのだが、『アレ』がどういう反応をするのか分からんのだ。ゆっくり、静かに入って来てくれ)」
そう言うとドアの中に顔を引っ込める店主に続き。念の為自分は、店主自身にも警戒を向けながら奥の部屋に入りました。
すると、そこに居たのは──おそらく『ヒューマン』の男が一人。
倉庫として使われているのであろう、壁際に高い棚を複数置いた広めの部屋の中で。
中央付近に置かれている作業台に向かって、微動だにせず立っている姿でした。
近くに置かれている〈蝋燭〉の光が室内でゆらゆらと揺れている姿は、昔聞いた怪談の類のようですが……何でしょう?
何かあればすぐに抜き放てるよう、愛する『妹』が贈ってくれた〈愛剣〉の柄に軽く手を当て、細く息を吐きます。
……その時、自分は妙な違和感に気付きました。
自分の吐いた──呼気が。
白く、色付きました。
今の季節は初夏だと言うのに、です。
気付いていませんでしたが、露出している肌に感じる気温も──おかしい。
まるで昔、家で入った事のある『氷室』のよう、な。
自分の置かれている異常事態の答えを探るべく、店主にチラリと目を向けると。
慌てて俺は関わっていないとばかりに、横に首を振る店主の姿。
そして、ついてこいと手招きをする店主に続き、部屋の壁際に沿うように回り込むと、店主が部屋の中央を指し示しました。
自分も目線を向けて見れば、まず先程背中が見えていた『ヒューマン』の男の姿が目に入ります。
ですが、こちらが視界に入っているはずなのに男は微動だにしていません。
何をしているのか、と目を凝らした時に気付きました。
動かない男の目の前、広めの作業台の上。
そこに有ったのは……『おかしな物体』でした。
冬になると、家の軒先に出来る『氷柱』のような、とても透明度の高い物体で形作られた……『犬』? いえ、もしかすると『狼』なのかもしれませんが……〈蝋燭〉の灯しかない室内では、明確な像が分からない程の透明度です。
そんな『物体』が、有るか無いかも分からない『視線』を。こちらに向けているように感じました。
「(……店主さん、『アレ』は一体なんですか?)」
「(俺に分かるんなら、とっくにどうにかしてるッ!)」
小声で叫ぶと言う器用な真似をする店主は、どうも役に立たないようです。
何か情報を得られればと、周囲にゆっくりと目線を向けて見れば。
その謎の『物体』の後方、すぐ近くに。
自分が探していた、メルカさんの〈鞄〉らしき物が、作業台の上に置かれているのが目に入りました。
「(店主さん、あの〈鞄〉がもしかして?)」
「(あ、ああそうだ。『アレ』がその、『入荷』した時に中身を確かめようとしたアイツが、凍り付いちまったんだ)」
「(凍り付いた……?)」
その言葉に、もう一度動かない男に目をやると。
なるほど、確かに。
よくよく見てみれば、男の体表を薄っすらと覆う様に、氷の膜、とでも言えばいいのでしょうか。男の体が薄っすらと光を反射しているのが分かりました。
厚みが薄かったのと、光源が弱かったので気付かなかったようです。
しかし、『凍り付いた男』と、透明度の高い……おそらく『氷』で出来た『犬』。関連性が無いとは、とても思えません。
その時ふと、昼間に聞いた衛士の話を思い出しました。
『──それこそ、無くした〈鞄〉が〈魔法道具〉で、『所有者識別』や『追跡』の『付与』でも付いていなければ──』
まさか、あの〈鞄〉が〈魔法道具〉? 所有者ではない人間が開けようとしたから……いや、だとしても反撃までするような〈魔法道具〉なんて、今は無き自分の『実家』どころか。それこそ『上級貴族』や『王族』しか……むしろ『国宝』級じゃないんですか?
あの〈鞄〉が本当にメルカさんの物だとしたら、メルカさんは一体何者……?
そんな、新たに浮かんだ疑問に気を取られた訳でも無い筈なのですが。
ゴトリ
何か重いモノが落ちる音がしたと思い、慌てて目の前に意識を戻すと。
そこには、作業台の上に居た筈の『氷の犬』が近づいてくるのが見えました。
まずい。
人間を一瞬で凍り付かせるなんて、『怪物』で言ったら『Bランク』クラスです。
特性から考えても物理攻撃は効きにくそうですし、自分も多少は『魔法』の心得はありますが、とても対抗できるとは思えません。
ここは、逃げるが勝ちでしょう!
「店主さん、急いで玄関へ──」
ガタン、バタバタバタ……
……自分が声を掛けるよりも早く、店主は逃げ出して行きました。
流石は裏の商売人、逃げ足も早い。
っと、それどころではありませんでした、自分も──
『──おんしから、〈お嬢〉の魔力を感じるのはどういう事や?』
……はい?
今の……誰でしょうか?
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