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【29】幕間 関りし者達 レイフェ1

今回は、視点が『レイフェ』のものになります。

話の都合上、同時2話投稿となります。

こっちが1/2です。



 【SIDE:レイフェ】



 『ボク』は今日、一つの事を決めて……いつもの『露店広場』に向かっていた。


 いつも手伝ってくれるチロッペにも。

 昔馴染みのレティシアにも……何も言わずに。


 頑丈な〈イバラ草〉で作った敷布に、『商品』を入れた箱を包んで背負い、歩いていく。


「レイフェ、今日こそは売れるように、私、頑張るからね!」


「……うん、ありがと」


「レイフェが作ってる『商品』は、使う人こそ選ぶかもしれないけど、絶対いい物だから! 『冒険者』の人が中々通りかからないから、中々だけど……その分、私が声を出してく!」


 力こぶを作って気合を入れるチロッペの姿に、微笑ましさと大きな感謝と……かなりの心苦しさで満たされる。



 ……自分でも分かってる。


 ボクは、『ドワーフ』と言う種族の中では──『落ちこぼれ』だ。



 『ドワーフ』の女は、元々『ヒューマン(人間)』に比べて、背が低く見た目も幼くなりやすい。

 その分、純粋な『筋力』に関しては、下手な『ヒューマン(人間)』の男に比べても強いのが普通なんのに……ボクは、その唯一の取柄と言える『筋力』が弱かった。


 『ヒューマン(人間)』の女に比べれば、強いとは思うけど……男と比べれば良くて互角か、下手すると劣る。

 その上、ボクの抱いた『夢』との相性も悪かった。


 一般的な『ドワーフ』の男は、鍛冶や細工、加工や。戦闘以外何も出来ない。

 そして、一般的な『ドワーフ』の女は、家事や育児、その他生活に必要な事一切を取り仕切るのが──『普通』だ。


 ボクの『夢』が普通の『ドワーフ』の女と同じなら、多少手間取る所があっても腕の良い『ドワーフ』の男と結婚して、『普通』の家庭を築いて、子供を育て、死んでいったんだと思う。

 ……自分ではそう思わないけど、ボクの見た目はいわゆる……その、『器量良し』らしい。


 1年前に出て来た『里』の中では、同年代やその上の男たちから、散々求婚された。

 でも、ボクには『夢』があったから、その全部を断った。



 ──ボクには、【鍛冶師になりたい】って『夢』があったから。


 でも、現実はそう上手くいかなかった。



  ●●●



「レイフェ、それじゃあいつもみたく、『商品』を見ているお客さんのフリをしててね!」


「……ん、分かった」



 客商売に向いていないボクの代わりに、チロッペが売り子をしてくれる。


 昔なじみのレティシアを頼って、この『テインの街』に来た時から、二人とも凄く良くしてくれる。

 あんまり会う事はないけど、レティシアの夫のティアルゴも。


 1年前、『里』で求婚から逃げ回っていたボクは、ある日里長に呼ばれた。


『わたしも一緒に呼ばれるなんて……レイフェ、アナタ何かしたの?』

『おかしな事はしてない……はず』

『そうよねぇ……』


 母と会話しつつ向かった里長の家で、腕を組んだ里長からこう言われた。


『ワシの息子と結婚してみてはどうか』


 ……そう言われた時は、正直驚いた。


 里長の息子は、力こそ強いが鍛冶の腕はあまり良くなく、鍛冶場にもほとんど顔を出さない男だった。

 それでもせめて、素行が良く里の運営を考えたり、里の防備を担うのであれば尊敬も出来る相手になったのに、村の若いごろつきと一緒に遊び歩いているだけの男なのだ。


 ついでに言えば今まで本人から全然求婚されなかったのに、急に親である里長が出て来てこんな事を言い出したのだ。


 ただでさえ結婚する気もなかったが、里長の息子となんて絶対にイヤだった。



 だからボクはいつも通り、『夢』があるからお断りします、と伝えたのだが──


『お前は力も弱い、まともな〈武具〉一つ作れまい。いい加減大人になって将来の事まで考えろ』


 ──ショックだった……けど、その言葉の内容自体は……自分でも薄々考えていた事だった。


 ボクの力の無さは、男に混じって鍛冶をしている時にも、気付いていた。

 男たちが使う〈道具〉は、ボクが振るうには……重過ぎた。


 結局、子供の使う練習用の〈道具〉を使って、ボクは鍛冶の練習を続けていたのだが、その間も男たちはニヤニヤと笑いながらボクの事を見ていた。

 その内思い知るだろう。出来ない事をして何になる。はやく誰かの嫁になれ。


 邪魔をされる事こそ無かったが、そう思われている事は分かっていた。


 それでも、練習をすれば。経験を積めば。

 ボクも『鍛冶師』になれると……そう思って頑張って来た。


 その甲斐あって、細かな技術を使う〈短剣〉や〈片手小剣〉は、ある程度満足いく物も作れるようになっていた。


 ……でも、里で主に必要とされるのは、切れ味では無く頑丈さ。

 里の外にはびこる『怪物(モンスター)』相手に使うには、何よりそれが重要だった。

 また商品として売られていく時にも、商品に使われた金属の総量を考慮した上で金額が決まる為、ボクが作った商品はそこまで大きな金額にはならなかった。


 里での『一人前の鍛冶師』をして認められる為の掟、その条件を達成するのは……今のままでは難しい、とは思い始めていたところだったのだ。


 ボクは、否定したかった。


 けど……自覚していただけに、言葉が……出なかった。



 無言になってしまったボクを見て、諦めたと判断したのか里長が言葉を続けようとした、が。


 ボクの横に座って、一緒に話を聞いていた母が……先に口を開いた。


『……里長。確かにこの子は力が弱く、里の男が作るような商品はほとんど作れません』


『そうだろう、故にワシは──』

『ですが! それだけで、この子の『夢』を諦めさせるのも早計ではないか、と考えるのです』


 いつも穏やかで優しい母が、里長の言葉を遮りってまで言葉を続ける

 更に母は、懐からボクが作って贈った〈短剣〉を取り出し、里長に示した。


『先日この子から贈られた〈短剣〉です。確かに、村や人々を襲う『怪物(モンスター)』に使うには、心許ないかもしれません。ですが、この鋭さはそれ以外の用途で使うには十二分であり、サイズや使い勝手は男どもの作った粗悪品とは比べ物になりません』


『……男衆とて、粗悪品を作っとるつもりは──』

『故に、この子に一度機会を頂きたいのですが、いかがでしょうか?』


 もう一度里長の言葉を遮った母は、じっと里長を見つめたまま今度は黙ってしまった。


 母と里長の間に置かれた〈短剣〉に目をやった里長は、おもむろにそれを手に取り細部をあらため、少ししてもう一度口を開いた。



『……確かに、悪くない出来だ。しかし、このまま里に居たのでは変化もあるまい』


 一度言葉を切った里長が、中空を睨み何かを考えながら呟いていく。


『『ギエルマニ』では、(ここ)と大差無いだろう……となれば、『テイン』が妥当か……よし』



 考えをまとめた里長が出した『機会』と言うのが、『テインの街』で条件達成のために『1年』の猶予をくれる、というものだった。



  ●●●




「──良い商品、置いてますよー! どうぞ、ご覧になって下さーい!」



 座り込むボクの横で、立ってアピールするチロッペの声が『露店広場』に響く。


 ……が、チラリと目線を向けられる事はあっても、並んでいる『商品』が目に入った人間は首を傾げながら離れて行ってしまう。


 やっぱり、今日もダメなのか……レティシアの店でこれらを並べられれば、まだ少しは違うのだろうけど……掟のせいで販売する時は、あくまで自分で売らなければならない。

 ボクが店主の露店でチロッペが売り子なら良いが、レティシアが店主の店でボクが売り子ではダメなのだ。


 そうなると、街中で比較的自由に物を売れる『露店広場』は都合が良かったが、同時に同じような事を考える人の数も多い。

 外周付近の様々人が立ち寄るエリアは、既存の利権も相まってとても手が出せない。

 だから仕方なく、ほとんどが外周付近で売れない商品を扱う人間や、一時の休息を求めて噴水付近にやってくる人間しか居ないような場所で、露店を広げているのだ。


 そしてそんな場所にやってくる人間は、ボクの売る商品にはほとんど興味が……無い。


 朝早くから、日がかげるまで。たまに休む時もあるけれど、ほとんど欠かさずに露店を広げ続けてた……でも、ごくたまに売れるのはごく一部の商品だけ。


 里ではあまりない作りの〈短剣〉の良さを分かってくれる人も居たが、それより程度は下がっても似た商品が街には既にあった。

 そうなると、見込んでいたよりも商品が全然売れず、時が過ぎてしまった。


 半年前に方針を変更し、単価の高い商品も買える『冒険者』向けの商品を自分なりに考えて作ってみたが……『冒険者』連中は、基本外周付近で必要な物が手に入ってしまうようで、噴水付近まで近づいてくる事はまれだった。



 そして気付けば……里長との期限の1年が、目前に迫ってしまって──


 ガチャン


「ああーッ!?」

「!?」



 考えにふけっていたボクは、目の前に落ちてきた〈仕込み腕甲(ガントレット)〉と、突然頭の上から発せられた大声に驚いて、尻もちをついてしまった。


「あ、ごごごめんレイフェ! 大丈夫? ケガしてない?」


「だ、大丈夫……チロッペこそ、大丈夫?」


「あ、うん。私は手を滑らせちゃっただけだから。ほんとにごめんね、レイフェ」


 しきりに謝ってくるチロッペに、気にするなと声を掛ける。


 でも、どうしたんだろう? チロッペは器用だし、気遣いの出来る子だ。

 ボクの商品を粗雑に扱った事なんて一度も無いし、いつも丁寧に持っているのに。


 何かに気を取られたのかな……?



 いや、もしかすると──これが、『諦めろ』って言う神様の意思、なのかも……しれない。


 チロッペが並べなおした〈仕込み腕甲(ガントレット)〉や、他の商品たちを見やる。


 どれも丹精込めて作った、ボクのカワイイ商品たち。



 でも、作られた道具が、使われずに残り続けるのは……どれほど無念な事だろうか。


 いや結局のところ、ボク自身が耐えられないのだ。


 突き付けられた『現実』から『夢』に逃げて、お母さんにも助けて貰って挑戦してみたけれど……結果が出せずに、期限が目前となってしまった。

 手伝ってくれたチロッペや、部屋を貸して良くしてくれたレティシアに何も返せないまま。


 下手にダラダラと引き延ばすよりは、いっその事──もう、終わりにしてしまおうか。


 期限の残りは、何が出来るか分からないけど、二人への恩返しをして。

 里に戻って、残りの一生を『普通』の生活で浪費してしまう前に。




 …………うん、決心はついた。


 ……サヨナラ。ボクの、『夢』。



 決意したボクは、また声を張り上げてくれているチロッペに声を掛ける。



「──あのぉ「もう、い──」……あらぁ?」


 ボクの発した声にかぶさるように、後ろから別人の声がした。


 何だろう?


 自分で言うのも何だけれど、こんな魅力の無い商品しか置いてない露店に用事だなんて。


 そう思いながら、振り返ったボクが見たのは──とても美しい、『エルフ』の女性だった。



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