【25】 1章の23 思索
誤字報告に感謝です!
色々と混沌としていた話し合いの後。
仮ではあるが『メルカの部屋』だと連れてこられたのは、お店の2階にある一室だった。
普段は使用していないが、急な来客なんかがあった時の為の部屋だそうだ。
〈異世界〉で目覚めた安宿の部屋より、こじんまりとしていて家具もベッドと小さめの机、その上の〈カンテラ?〉的な物しかないが、よっぽど快適な部屋だと思える……あの絶壁オッサンも居ないしな。
そして何より……すぐ隣の部屋がレイフェちゃん、更にその奥にチロッペたんの部屋があって、チロッペたんの向かいの部屋がレティシアさんの部屋となれば、俺のテンションも問答無用でうなぎ上りというモノである……あくまでテンションが、な? 間違えちゃダメだぞ? ……あー、ちなみにレティシアさんの部屋は、その旦那の部屋でもあるらしい……嫁がレティシアさんで、娘がチロッペたんとか……嫁も娘も現実には居た事ないが、羨ましいやら妬ましいやらでコンチクショウってなもんである。
それはさておき、俺が〈異世界〉で目覚めたのが……大体昼過ぎだったのだが。
気が付けば、小さな窓の外には斜陽がかかる時間帯になっていた……まぁ、何だかんだ『色々』あったしな。
部屋に案内された際に、ちょっと夕食の準備をしてくるから、と言いおいてチロッペたんとレティシアさんは出て行ってしまった。
レイフェちゃんは〈荷物〉を置いてくると、自分の部屋にガチャガチャと金属音を鳴らしながら同じく出て行ってしまった。
つまり、今俺は仮の自分の部屋で、ベッドに転がり一人ぼーっと思考するしかない状況なのである。気を抜くと寝てしまいそうだが、色々と考えておかなければ。
細かい事は、また夕食の後で話し合いましょう、と言われたのは良いが……まぁ要するに金欠で困っているメルカが、生活費を稼ぐための『お仕事』に関する事のお話し合い、って事だよなぁ。
一応、踏ん切りはつけたから、多少働く事自体には文句は無い訳ではあるが……いや、ちょっとは文句もあるけど……労働とか、命に関わらないのであればするもんじゃないよね? ってイカン、また心が闇に呑まれる……大丈夫、俺は働ける、俺は働ける……よし。
ついさっき『見た』感じだと、このチロッペたんの家である〈商店〉は、極々真っ当な商売をしているように見受けられた。
そんなお店で、自分の命の心配も寝床の心配もせずに、体を売るなんて言う最悪な事態にも陥らずに済んでいるのは、奇跡的な事だと思う……あんまり実感は無いがな。
荷物が無い事に気付いた時なんかは、自分のお先真っ暗な状態にどうしたものかと、絶望しか見当たらなかったが……苦肉の策で、ミーニー君を利用出来たのも幸運だったと言える。
……何か、やたら幸運が続いている気もしないではない……大丈夫か? 幸運の揺り返しの不運とか来ないよな……って、待てよ? そもそも〈日本〉で殺された事が特大の不運だし、その後も宿屋から追い出されるわ、荷物を盗まれるわ、ク〇エルフに絡まれるわ……結構不運も続いてるか。
……引きこもってた時から考えると、異様なほどにイベントに巻き込まれてる気がするんだが……それとも、これが世間一般の生活で起こるレベルのイベント何だろうか……? フッ、俺レベルの引きこもりストには判断がつかないぜ……これは目から鼻水が出てるだけなんだぜ……ま、まぁそれはいいや。
ありのままに、当座とは言え生きていく方法を確保出来そうな事に感謝するしかあるまい。日々是感謝と言うやつだな……感謝ついでに正拳突きでもした方が良いのかな……いや、俺には武芸の心得は無いしムダか……あー、でも純粋な『筋力』と言う意味では、この『メルカ』の体にしては異常なレベルで持ち合わせているんだっけ?
殴る蹴る、なんて所は素人でしかないけど……何か〈武器〉を使っての戦闘なら、『メルカ』でも自衛手段を持つ事が出来るかもな。
太ももに巻いた、ベルトで固定された〈小剣〉を手で触りつつ、思考を続ける。
直接的な『生命の危機』なんてのに直面するかは分からないが……元が『ゲーム』の〈異世界〉な訳だし、『モンスター』が居ない訳も……無いよな。流石に街中に出てくる事は無いと思うが、もし今後街から外に出る事があったりすれば、『そこ』も考えておかないとだな。
少なくとも、こんな咄嗟に抜きづらい位置の武器しかないのでは、対処なんか出来そうにない。何か、もう少し使いやすい武器とかを手に入れるのもアリかも?
……あーあ、『対モンスター』で〈武器〉を使う事を考えないといけないとは……それこそ、本来なら『メルカ』は廃人たちに貢がせた〈強化アイテム〉で、鍛えに鍛えた『氷晶魔法』があるから〈近接武器〉なんてお遊び程度しか必要無かったってのに……『自分』が『メルカ』になった途端に、まともに使えないなんて……やってらんない。
…………後は、『対モンスター』以外にも『対人』を考えて置く必要はあるか。直接的な危機じゃないにしろ、メルカになったからには『女の尊厳』を守る事も考えないといけないだろう。
レイフェちゃんの露店で〈商品〉を見ていた時にも、ついつい『男』の時のクセで不用意な動作をしちまった訳だし、隙が多い女として見られちまったら……襲われる可能性を上げる事にもつながりかねな──そう言えば、レイフェちゃんの作ってた〈商品〉……〈暗器〉の類たち……『対モンスター』ではあまり使えないかもしれないけど、『対人』で考えたら悪くないかもしれないな?
後でちょっと相談してみようか……〈寸鉄〉一つでも、身を守るのには使えるかもしれない。
……身を守る手段、方法、行動。
そう言うのを常に考えていかないと、な。
……あと、ついでにチロッペたんやレイフェちゃん、レティシアさん何かと仲良くなれたらいいなぁ……ぐふッぐふふふふ……ジュルリ。
アンな事コンな事出来ると良いなぁ……。
楽しみだなぁ……。
…………スヤァ。
◇◇◇
──コンコン
「フェ……ハッ!」
妄想の中で、アンな事やコンな事をこねくり回していた俺は、突然ドアをノックする音に思わず跳ね起きる羽目になった。
口元のよだれを腕で拭い、はっきりしていない頭で周囲を見回す。
見れば、ついさっきまで窓から斜陽が顔を覗かせていた筈の部屋は、夜の漆黒に包まれていた。
どうやら妄想が過ぎていつの間にか寝てしまい、時間が経ち過ぎていたようだ。
『メルカ……起きてる?』
声が聞こえてきた方向を見てみれば、暗闇の中、長方形に光る物が見える。ベッドとの位置関係から考えても、あれはドアだろう。
さておき、この声は……レイフェちゃんだな。
「あ、はい! 起きてますよ!」
も、もちろん! 真面目な俺っちが、寝てる訳ないじゃないですかッ!
謎の見栄で、ついついさも起きていたかのような返答をしてしまった……カワイイ子には見栄を張る、それが漢の生き様じゃい! ……心は漢なのよ心は。
もう一度素手で顔を触って、よだれが残っていない事を確認する。
ベッドに転がってはいたが、面倒で〈靴〉は脱いでいなかったので転ばないように足元に注意しつつ、ドアまで向かう。
さわさわとドアの見当をつけた辺りを触ってみるも、初めて入った部屋なので正確な位置まで覚えていなかった。当たりをつけた位置から上下に手を滑らせてみる……と、無事取っ手を発見。ゆっくりと開いた。
差し込んでくる光に、思わず目を細めるが……目が慣れてみれば、目の前に小ぶりな〈カンテラ〉を持った小ぶりなおっぱいのレイフェちゃんが立っているのが分かった。
「すみません、お待たせしました。暗くてすぐ動けなかったもので」
「……メルカ。起きてたのに、明かりは点けてなかった?」
「明かり……ですか?」
室内を覗き込むレイフェの視線につられて振り返ってみれば、ベッド横の机の上にある〈カンテラ〉らしき物が目に入った。
しまった……そう言えばそんな物も有ったな。
「あ、ああ! そう言えば机の上にありましたね……でも、実は使い方が分からなかったんです」
苦笑いを浮かべながら、言い訳と事実の両方である返答をしておく。
こちとらアウトドアとは無縁の文明人である!
キャンプスキーな方々ならこの〈カンテラ〉らしき物も使いこなせるのかもしれないが、少なくとも俺にはムリムリ。
「……そう……メルカ、来て」
「は、はい?」
小さく呟くように、レイフェちゃんが俺を呼びながら部屋の中に入ってくる……って、何々!? こんな暗い部屋の中で何するの!? ナニするのッ!? ひゃっふーいッ!
しかし、俺の妄想を余所にレイフェちゃんは視線を向けていた〈カンテラ〉らしき物を手に取り、こちらに示す。
「この明かりの『魔道具』は、〈魔石灯〉と言う」
「〈魔石灯〉……ですか」
それ『魔道具』だったのか。
「使い方は簡単。この側面にある〈ボタン〉を押し込むと、『回路』に導通して……光る」
レイフェちゃんは言葉と共に、側面にある一見飾りに見えていた出っ張りを押し込む。
すると、徐々に〈カンテラ〉……もとい〈魔石灯〉の中心が光り出し、橙色の輝きで部屋が満ちていく。
ほぇ~……これが〈魔石灯〉……何と言うか、昔あった〈白熱電球〉みたいな光り方だな? しかし便利だな……これなら文明の利器しか使えない俺でも使いこなせそうだ。
今では真っすぐ見ているのが難しい位明るくなった〈魔石灯〉に感心していると、レイフェちゃんが側面のカバーを引っ張り上げた。
「明るすぎる時は、このカバーで必要な光量に調整する」
「あ、なるほど……分かりました!」
「……メルカ」
よく出来ているもんだなぁ……と引き続き見ていると、レイフェちゃんがコイコイと手招きするのでホイホイと近付いちゃうんだぜ俺は。むしろ近づかない理由が無いよねJK!
レイフェちゃんの手が届く範囲まで近づくと、今度はしゃがむように手で示される……え、何? マジでキスできちゃう距離なんだけど……え、一線超えちゃう? ちゃう? 喜んで超えちゃうよ俺は。
ワクワクしつつしゃがみ込むと、今度は後ろを向くように……ってホントになんだ? ……従うけど。
若干戸惑いながらレイフェちゃんに背中を向ける……と。
──サワサワ
「ふわッ!?」
ななななッ、なんぞッ!?
唐突に、頭を触られる感触に驚いて立ち上がりかける……が。
「動かない」
意外な強いパワーで、肩を押さえられ動く事が出来ない。
よく分からないが、立ってはいけないらしい……な、なんなのだこれは!? どうすればいいのだッ!?
一瞬あわあわしてしまったが、どうとでもなれの心持ちで心を落ち着ける。
平常心、平常心だ……そうだ、こんな時は素数を数えるん──
サワサワ
──だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?
みみ、耳はだめぇッ!? 指が耳に当たってるのぉぉッ!?
サワサワ
俺の内心を無視して、触り続けられるレイフェちゃんの手に。
こそばゆさと、それとはちょっと違うナニかを感じつつ、耐える事数十秒……いや、もしかすると数分か数十分だった可能性も……無い? いや、気分的にね?
「……メルカ。もう大丈夫」
「は……はぇい……」
言葉と共に離れた手の感触に、ちょっとだけ腰砕けになりながら返事をした俺は、レイフェちゃんの方を振り返った。
そして、今の行為が何だったのかを問い質す事にする。
「れ、レイフェさん? 今のは、一体……?」
「ん……」
相変わらずの『メカクレ』状態で、あんまり表情は読めないレイフェちゃんだが。
こちらに真っすぐ顔を向けると、少しだけ口角を上げて喋り出す。
「……寝ぐせ」
「……えッ」
俺は思わず自分の頭に手を上げようとするが、それをレイフェちゃんに優しく押さえられる。
「もう直した……大丈夫」
「え、あ……ありがとう、ございます……」
俺の言葉を聞いて小さく頷いたレイフェちゃんは、手に持っていた〈魔石灯〉のボタンを押して消すと、部屋の外に向かって歩き出した。
し、しまった……よだれは感触で分かったけど、寝ぐせは気付けなかった……不覚!……待てよ? つ、つまり──
「……よく、眠れた?」
思わず目線を向けた先では、振り返って横顔だけ見えているレイフェちゃんが、さっきよりも口角を上げてこちらを見ていた。
「…………はい」
「メルカも色々あったから」
一言だけ言い添えて、レイフェちゃんは部屋の外に向かっていく。
こ、これって、つまり……レイフェちゃんは最初っから俺が寝ていた事に気付いてたって事で?
「……メルカ」
「は、はい!?」
「晩御飯、食べよ」
「はい……」
俺は、レイフェちゃんの言葉に従う以外の選択肢は無いのであった……ん? それは元々か。ハーッハッハッハ……は、は、恥ずかしいッ!!
イチャイチャじゃないけど、それに類する事を書くと異様に筆がノる……我が事ながら業の深い事よ。
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