【24】 1章の22 貴族
お久しぶりです。
ちょっと短めですが、ノロノロ再開していきます。
生暖かく見守って頂ければ幸いです。
──『貴族』……ってぇとあれか?
領民を弄ぶったり、気に入った娘が居たら無理やり手込めにしたり、果ては初夜権なんかも請求しちゃったり出来る、素敵に無敵で有名な、あの『貴族』でヤンスか? ……偏見が入ってるのは認める。
んで、俺もそんな『貴族』の一員……かもしれない、だって?
ヒャッホーゥッ! ……なのか? ってなるわな。
だってよ、『貴族』が良いのか悪いのか……なーんて言われても、正直急には判断がつかんよチミィ。
メルカがそうだと言われた『貴族』が、いわゆる型通りの『貴族』なのであれば、少なくともある程度の権威・権力なんてものは持ち合わせている──はず。多分。メイビー。
同時に、『高貴な義務』? だっけか?
そんな面倒も、よく分からんがあるかもしれん。でも俺、権利は行使しても義務は果たしたくないメンタリティにて候う! おい、誰が……おっとシモはいかんいかん。
そうらえはさておき(誤用)、どう返事したもんだべか……?
んな感じで俺が戸惑い無言で考えている間に、チロレイにレティシアママンが居住まいを正しているのが目に入、る──距離感を……心の距離感を感じるッ!? こ、これはマズイ!
「……か、家名を覚えているとは言いましても、それ以外を何も覚えていないワタシは、現状ただの『メルカ』でしかありません。で、ですので! どうぞお気になさらず、今まで通り接して頂けませんか……?」
慌てて少し噛んでしまったが、今は速度が肝心だろうJK。
貴族としてちやほやキャッキャされるのも、もちろんやぶさかではない。
やぶさかではない、のだが……それ以上に、ここまでである程度でも親しくなれた、心の壁を薄くできたのが元に戻るなんてのは勘弁だからな。美少女との交流──プライスレス!
真剣な俺の危機感が伝わったのか、一度顔を見合わせた三人はそれぞれに考え出す。そして最初に返事をくれたのは、隣に居たレイフェちゃんだった。
「……ん、分かった。メルカはメルカ、他の誰でもない」
「レイフェさん……ありがとうございます!」
椅子を引いてこちらに向き直り、まっすぐメルカの目を見ながら言ってくれた。
相変わらず目はまともに見えないが、覗く口元は微笑んで返事してくれたよ……嬉しいね! 今日は是非同衾しましょうぞッ!
そんなレイフェと俺の姿を見たチロッペたんも、青かった顔を一転紅潮させ、ニパッと笑いながらテーブルを回り込んで来たかと思ったら、そのまま俺の手を握りながら言葉を発した。
「そうですよね! メルカさんが『貴族』様だったら、私どれだけ失礼な事しちゃったのかと思って怖かったですけど……メルカさんですもんね! 私を、友達だって言って下さったメルカさんは、『貴族』様かどうかなんて関係なかったです!」
「チロッペさんも、ありがとうございます……!」
美少女たちの笑顔、嬉しい言葉。これより嬉しい事なんて、そうそう無いだろ!
この調子で、レティシアさんも聞かなかった事にしてくれないかなー?
そう思いながら、チラッと様子を伺ってみたのだが……残念ながら、そう上手くはいかなかったようで。
レティシアさんは居住まいを正した姿勢のまま、固い表情で喋り出した。
「……メルカさん。と、ひとまず今は呼ばせて頂きます」
「はい、もちろん大丈夫です」
チロッペたんが握ってくれている手はそのままに、レティシアさんに向き直る。
「……メルカさんが二人と親しく接して頂けているのは、私にも十分見て取れました。何もなければ、是非今後ともよろしくお願いします、と言うだけで良い話なのですが……」
そこで言葉を切ると、レティシアさんは何かに思い悩むように顔を俯ける。
「メルカさんが『記憶を失っている』と言う事が、『貴族』の方が絡むトラブルを招く危険もあるのではないか、むしろ……何らかのトラブルが原因でメルカさんがそうなったのではないかと、どうしても考えてしまうのです……」
……えーっと、それは……正直、『真実』とは全然違うんだけど……違うと言えないよな、これ。下手に『記憶喪失』を使ったのがまずかったか? いや、でも他に誤魔化せそうな言い訳も思いつかなかったし……と、とりあえず続きを聞こう。
「私は……娘と友人に、危ない目にあって欲しくはありません」
「ちょと、お母さんッ」
「チロッペ」
「……ごもっとも、です……」
俺だって身近な美少女に危険が迫ると言われれば、手の届く範囲で防ぎたいとは思うだろう……ただ問題は、そんな『危険』はこれっぽっちも無い事を説明出来ない、って事かなッ! ……詰んだ……これ『悪魔の不在証明』じゃねぇか。
頭を抱えたい気分だが、抱えてもどうにもならない。
どうにも出来ずに内心唸っていると、横からレイフェちゃんがレティシアさんに声を掛けた。
「レティシア……満足した?」
「……ええ、そうですね。少なくとも、故意に何かある訳では無さそうです」
「……え?」
レイフェちゃんの顔を見てから、その目線を追ってレティシアさんを見て見れば。
先程までの固い表情から一転、最初に見かけた時のような柔らかい笑顔に、幾分かの申し訳なさをブレンドした表情に変わっていた。
◇◇◇
「メルカさん、ごめんなさい……失礼だとは思ったけれど、念の為確認させてもらったの。さっき言った言葉は私の本心ではあるけれど、少なくともそれだけであなたとの関わりを断たせる事も無いわ」
「確認……ですか?」
「ええ。もしかしたら『貴族』を語って、何か悪い事をしようとしているのではないかと……最初は思ったのだけど、自分から否定する所を見ると違うようだし」
要するに何だ……こっちの思惑を試されてた、って事だろうか。
……焦らせないでくれ、また追い出されるかと思ったつーの。
内心で胸を撫でおろしている俺を余所に、会話は進んでいく。
「え、じゃあお母さんは……」
「レイフェも居たし、大丈夫なんだろうとは思っていたわ。でも、『貴族』の方が関わる時や大きな商売の時には、含む所が無いかの確認も忘れてはいけないの。あなたも覚えておきなさい」
「……分かった」
商人としての心構え、だろうか。教え諭すようなレティシアさんの言葉に、チロッペたんは不承不承ではあるが納得したようだ。
……それは良いんだが、俺のこのやりようの無い憤りは何処にぶつければ良いのだろうか。レティシアさんの『レティシア』にぶつければ良いのかな? よし、じゃあ今夜は一緒のベッドで就寝だッ!
「──それでメルカさん」
「ひゃいッ!?」
気が付けば、すぐ近くに笑顔のおっ……レティシアさんが居たもので、思わず変な声を上げてしまった。目線が下がりそうになるのを堪えつつ、顔を見て会話する。
「ど、どうしたの?」
「い、いえ……少し違う事を考えていたもので、驚いてしまいました」
「そう、なら良いけれど……とりあえず、『あなたの部屋』に案内するわ」
「分かりました…………はい?」
今、何て?




