【23】 1章の21 家名
えー、リポーターのメルカです。
ただいまワテクシは二人の美少女に連れられて、とある『商店』の前にお邪魔しております。
さっきまで居た『大通り』からは一本奥に入った形となりますが、往来はそれなりの通行量を維持しており、商店としては中々の好物件では無いでしょうか。
並ぶ他の店舗と規模としては同程度ですが、出入りするお客さんの数は多い様に見受けられます。 中々の繁盛具合と言える様ですね。
今も店先では、元気なお姉さんが商品の陳列をしながら、通り掛かった人に集客の声を掛けているのが見受けられます……店員さんでしょうか? 簡素なエプロンで押さえつけられる、その豊穣の女神が如き双丘が、今も開放を待ちのぞ……ってそうじゃなかったですね。 すみません、ついクセで! てへペロッ! ……ちょっと慣れてきた気がする……良いのかわるいのか。
きっとこの看板娘的店員さんの存在が、この繁盛を支えている事は間違いありません!
では、ワテクシもあの双丘に向けてこれから突撃、隣の盤古旛してきますねッ! ぱおぺぇッ!!
……何てアホな事も言ってみましたが、その場の流れでチロッペたんの『お店』にお邪魔しようとしている、ただそれだけなんですねこれが。
『──うん、このまま大通りで立ち止まっていても仕方ないですし、一度ワタシの家に行きませんか!』
『賛成、メルカこっち』
『え、ちょ、レイフェさん!?』
こんな感じで俺の意見は一つも省みられる事なく、強制的に連行されたのだ! 特に意見は無いけれどッ! ドヤァ!
……いやまぁ、美少女にあんなキラキラした目で手を引かれながら提案されたら、即答で断るのも気が引けたから仕方ないんだけどさぁ……レイフェちゃんも意外とぐいぐい来るし? こう、精神と物理の両面で? 背中を押す手は、柔らかかったですたい……。
と、そんな感じであれよあれよという間に、ここまで引っ張って来られた訳だが。
人通りの多い道を移動してるから、はぐれない様にしつつもあんまり会話は無し。
んで、テクテクグイグイ歩いてれば、そりゃあ俺も色々と考えた訳さぁ?
チロッペたんの、健康的な太ももからお尻のラインとか、レイフェちゃんのうなじに見える髪の僅かな乱れがそそるなぁ、って。
……間違えた。いや、間違ってはいないけど、それだけじゃなくて。
──さっきの二人の提案は、そりゃあもう理に適ってる。
お金が無いなら働いてみないか──なぁんて、実に現実的で即実現可能な方法ですね! さっすが~!
ただ一つ問題があるとすれば──俺が働きたくないって事かなッ!! 不労所得! 夢の不労所得はございませんかッ!? ……在庫切れ? おー、シット! じゃあ次回入荷までニートして待ってますね!
……とは行かない訳だこれが。
クソ、こんな事なら、さっきのエルフ騎士からお金だけ頂戴してくればよかったか……ん? プライド? いやぁ、プライドで飯は食えないんですよ、これが。
その上、差し当たっての『目標』と言うか、やる事もやれる事も無い訳で。
こんな見知らぬ街で一人行動しようもんなら、間違いなく良いように弄ばれるのは目に見えてるし、と言うか俺が悪い男で目の前に『メルカ』みたいな美少女が現れたら、そりゃ悪い事したくなっちゃうよね……分かる!
とは言えもちろん、俺が『する』ならまだしも、『される』のはゴメンだし。
手っ取り早くお金を手に入れる為に、売り払おうと思った私物は盗まれるし。
ミーニー君が、もしかしたら取り返すなり何なりしてくれる事は、今のとこ成否は不明だし即時じゃないし?
……と、なってくると、だ。
俺としても、歩いている内に何か少しだけ、悟りの境地に至ったと言うか? 煩悩を振り払ったと言うか?
そう──生きる為に、少々の労働もやむなし……少々なら、やむなし!
と言う考えに至ったのだ……!
これは正に、〇ッダが悟りを開いたのと同レベルの……あ、例えがマズイ? えーと……じゃあ、某腕強い船長が月で言ってた、人類にとっての大きな一歩レベルの偉業ではないだろうか!
……冗談はさておき、まぁ要するに──『お仕事』してやんよ! って事だ……か、かん違いしないでよねッ! あくまで簡単な事だけなんだからッ!
なーんてだらだらと思考する間にも、豊かな双丘を陳列していた店員さん……じゃなくて、商品を陳列していた豊かな双丘さんが、近づいてくる俺達に気付いた様だ。感性が酷い? 仕様です。
顔をこちらに向けると、にこやかな笑顔を浮かべて小さく手を振って……あらやだ可愛いわ。後、何故手を振る為に両手を胸の前に揃えたし。双丘が強調されて目に毒です……ね、狙ってるのかッ!?
……て言うか、ちょっと目鼻立ちがチロッペたんに似てるし、特徴的な『耳』の形もそっくりだ。もしかしなくてもご家族かね?
ただお母さんにしては若過ぎるし……お姉さんが居たのか、もしくは従妹とかの親戚かもしれんな。
もし独身だったら、俺が旦那に立候補するのもアリかもしれ──
「ただいま、お母さん!」
「アンちゃん、おかえりなさい!」
──立候補は、あえなく取り下げられました。次回の選挙にご期待ください。
って、若過ぎだろお母さん!? どう見ても『姉妹』ですよこいつぁ……は、犯罪の匂いがするんだな……ご主人、ご主人は何処かッ!? 事情聴取が必要ですよッ!! こげな幼な妻ばゲッチュしよる手練手管ば、おいにご教授願えんやろかッ!?
「レイフェも、おかえりなさい」
「帰った、よ」
「あら……そちらの方は?」
双丘さん、もといチロッペたんのお母さんが俺の方に意識を向けて来たので、折角なのでしっかり自己紹介をしようと思います。 そしてどうせなら、きょうのよるはどうきんしてみませんかッ! ぜひともッ!
「は、初めまして! メルカ・ヌコバスと申します!」
「──! ……これは、ご丁寧にありがとうございます。 【レティシア】、と申します」
「えッ!?」
「……!」
……ん、んん?
俺的満点と言える、満面の笑顔でご挨拶をしてみた筈なのだが……何故か、場の空気が凍ったゾ?
チロッペたんのお母さん、レティシアさん……は、固い笑顔になっちゃったし、チロッペたんとレイフェちゃんもびっくりした顔で固まってしまった……え?
あれ? 俺、何かやっちゃいました?
◇◇◇
「──と、言う訳なんです」
「なるほど……」
この場ではちょっと、と店内へ丁重に連れ込まれた俺は、お出しできる物ではありませんが……何て言われつつ出されたお茶をゴクゴク飲みながら、さっき路上でチロッペたんとレイフェちゃんを相手にした説明を、もう一度繰り返した。
お茶は紅茶っぽい物で、普通に美味しいと感じられる物だったのだが、説明はちょっと疲れた……と言うのも──
「はわわわわ……」
「むぅ……」
──何故かチロッペたんとレイフェちゃんがこの調子で、合いの手もほとんど入れてくれないから、ほぼ全て自分で説明する羽目になったからである。まぁ、隣に座ったレイフェちゃんは今までも無口気味だったからあんまり変わっていないとも言えるが、はす向かいに座ったチロッペたんは明確に顔を青くしている。これはこれで可愛いから良いのだが……理由が分からないから、イマイチペロペロしにくいんだよなぁ……分かったら喜んでするけど。むしろ青さを愛でるまである。
おっぱ……レティシアさんは、最初にお茶を用意してくれた以外、正面に座ってじっくり話を聞いてくれたので、説明自身は十二分に出来たんだが……机に載った見事な双丘が、視界の端をチラチラするのでつい目線が向きそうになるのを必死に我慢するのは、それなりにしんどい……見ない? いや、ムリムリ! 男の子として生まれて、このたわわに目を向けないのはマジムリだからッ!
何かを考えて押し黙ったレティシアさんの顔を見つつ、視界の端のたわわをこっそり楽しんでいると。
横に座ったレイフェちゃんが、ツンツンと足をつついてきた。
え、何々? 俺もつつき返した方が良い? むしろお互い全身つつきながら、イチャイチャする事を推進したい委員会を開催してはどうか。
委員長、俺。副委員長、俺。書記、俺。満場一致で開催決定だろ、常識的に考え……いや、待て落ち着け俺。
俺の中の委員会を必死に抑えつつ、レイフェちゃんにこそっと話し掛ける。
「(レイフェさん、どうかしましたか?)」
「(……その、メルカ……は、自分の『名前』について、何か……覚えている?)」
顔を寄せてきたレイフェちゃんの吐息が、耳に当たってこそばゆい……あれ、コレ気持ちイイんですけどッ!? 耳が敏感なのは知ってたけど、まさか美少女の吐息がこんなにイイとは知る筈もないッ! イイよ、続けて続けて……あ、いや違う違う……えーっと?
「(な、名前……ですか? ええと……『メルカ・ヌコバス』だって事以外には、特には……?)」
「(……そう。 分かった、ありがとう)」
「(い、いえいえ?)」
顔を離していくレイフェちゃんを残念に思いつつ、俺も姿勢を戻す。
するとレイフェちゃんは、レティシアさんとチロッペたんに向けて、こう言った。
「チロッペ、レティシア。メルカは、『家名』がある事の意味を──覚えていない」
「そ、そうなんですかッ!?」
「……やっぱり、そうですか」
『家名』……? 俺の場合の、『ヌコバス』の事か?
意味も何も、『ゲーム』時代の【メルカ】と……あの【スオウ】と。もう一人、『娘』として【カナちゃん】の3人が家族になる時に決めた名前だから、特に意味なんか無いんだけど……?
疑問顔を浮かべた俺に向き直ると、レイフェちゃんは更に言葉を続ける。
「メルカ……『家名』がある、と言う事はつまり──」
つまり?
「──アナタは、『貴族』、だって事」
……ほうほう。
…………ほうほう。
………………ほうほう?
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