【22】 1章の20 楽園
お待たせしております。
うーん……まぁ、あんだけ気にする素振りも無かったんだ。
多分、何かしらの『手だて』があるんだろう。
今はこの場を去ったミーニー君の事より、『露天広場』で俺の事を待っているであろうレイフェたんのもとに辿り着く事が、何より先決だなッ!
移動しながら、俺はそんな事を考えていた訳だが。
先を行くチロッペたんの頭越しに、つい先刻見かけた景色が広がったのは、ミーニー君と別れてからすぐの事だった。
広場を囲う様に建っている建物の付近で立ち止まると、チロッペが振り返りながら声を掛けてくる。
「ふぅ……着きましたよ、メルカさん!」
「ありがとうございます、チロッペさん!」
「お、お礼なんて良いですよッ! ……え、えーっと、レイフェは何処に居るかな……」
僅かに息を切らせながら、目の上に手をかざして広場を見回すチロッペ。
上気した肌と、そこに浮かんだ汗が何とも……ってイカンイカン。 惜しいが、今はさっさとレイフェちゃんと合流して、メルカの事を養って下さいとお願いしなければ……じゃなくて。
……常識もお金も無い俺一人がどうのこうの考えた所で、そんなに良い案が思いつく気もしないし。
情報共有も兼ねて、チロッペたんとレイフェちゃんの二人に力になって貰うしか無いよね! 常識的に考えて!
まぁその為にも、レイフェちゃんを発見しなければならないんだが……ええい、愚民共が多過ぎるんじゃい! 美人率まぁまぁ高くて眼福だけど、今はメカクレ少女を発見する事が至上命題なのだッ!
チロッペたんはもちろんだが、メルカもそんなに背が高い訳じゃないからな……こんな時には、ちょっと不便だ。
周囲を見回して、ちょっとでも高い所が無いかと見てみるが……広場に面した建物にでもお邪魔するしか、高い所は無さそうだしなぁ……横目でちらりと確認すれば、チロッペたんもまだキョロキョロしてらっしゃる模様。
……しかし、やっぱり薄っすらと汗ばんだ美少女の肌を至近距離から観察する事も、俺としては捨て難い訳でありまして。
何とか、この二つを両立させる良いアイデアが……浮かんで来ちゃうのが俺クォリティッ!!
「──チロッペさん、レイフェさんを探すにしても、もう少し視点を高くした方が良いと思いませんか?」
「視点を、ですか?」
俺の唐突な提案に、小首を傾げるチロッペたん。
このままお持ち帰りしたいレベルだが、ぐっと堪えて言葉を続ける。
「ええ。ワタシもあまり背は高くないですが、チロッペさんを『肩車』すればそれなりの高さになりますし、何より向こうからも見つけやすくなると思うんです」
そ・し・て──俺は美少女のウチモモの感触を、両手と頬っぺたで合法的に味わえるんだZE!
こんなアイデアが瞬間的に降ってくる俺は、正に神に愛されているとしか思えないZE!
「か、かか、『肩車』、ですかッ!? ……で、でも確かに、見つけやすくなるかも……」
俺の提案に、恥ずかしそうにしながらも、合理性を見出してしまう賢いチロッペたん。
よぉーしよし、それで良いんだ。君はただ、首を縦に振るだけでイイんだよぉ~?
だが、チロッペたんは何かに気付いた様に、ハッとこちらを見てくる。
「あ、で、でも……わたし結構重いかもしれないので、メルカさんが持ち上げられないかも──」
「大丈夫です! こう見えて、ワタシは結構力が有る方なんですよ! それに、チロッペさんが重いとは、どう考えても思えませんし!」
ま、例え同体積の黄金並みに重かろうが、きっと持ち上げちゃうだろうけどねッ! 至福の時の為には俺、努力と根性は惜しまないッ!
さぁチロッペちゃん、君は乗るしかないんだよ、このビッグウェ……じゃなくて、このメルカになぁッ!
「わ、分かりました……じゃあ、お願いします!」
「では、念の為にそこの壁に手をついて頂けますか? 後は、ちょっと足を広げて頂ければ大丈夫ですから」
「は、はい……こう、ですか?」
「……」
……バランスを崩した時に、すぐに目の前の壁に手をつける様に、とだけ思って指示してみたんだが……え、ナニコレ?
よく考えたら、この『ポーズ』結構スゴくね?
「……メ、メルカさん?」
「あ、いえ、その……ありがとうございます……では──」
一向に来ない俺に、疑問に思ったのか声を掛けてくるチロッペだが、見えている景色の余りの完成度に思わず適当な返事しか返せない。
両手を壁について、そのまろやかなお尻をこちらに突き出すようにしたチロッペたんの姿勢は、恥ずかしそうにこちらに顔を向ける仕草も相まって、正にバックと言うかドッグと言うか──とにかくエロい! 後、マロいッ! 意味? 知らんッ! あ、はなぢが出そう……。
汚れきっちまった俺の思考じゃ、もうこの状態がいわゆる野外でのプレイにしか見えなくなってしまうんだッ! プレイ、そう『プレイ』は『遊び』……言うなれば、禁じられた神々の遊びッ!
おお、神々もご照覧あれッ! 俺は今、チロッペたんの広げられた麗しきフトモモの間にある魅惑の大三角形『楽園』へと、顔面から突入しようとしております! ……いざ、いざッ──!
「──こんな所で、何をしてる?」
「え、あ、レイフェ!」
「……え?」
横合いから掛けられた声に、慌てた様に反応するチロッペたん。
同時に、視界から離れていく『楽園』。
思わず目で追いかけた先には、怪訝そうに小首を傾げて立っている『メカクレ少女』こと──レイフェちゃんの姿が。
……何故だ。
…………何故、後十秒……いや、5秒で構わなかった……!
「あ、あれ? どうしました、メルカさん?」
「い、え……大丈夫、です」
「でも、何か項垂れているような……?」
──神は……神は死んだァァッ!! フリードリヒィィィィッ!!
◇◇◇
「……ともかく、合流出来て良かった」
「ご迷惑お掛けしてしまって、申し訳ありません……」
「気にしないで」
千載一遇のチャンスを棒に振った事で、思わず両手を地面について項垂れてしまったが、元々降って湧いた様な事だったのだ。
逃してしまった所で、大して惜しくは……惜しくは無いッ! 目から赤い鼻水が流れている気もするが、気のせいだッ! 気のせいったら気のせいッ!
……ふぅ、それはさておき。
レイフェちゃんと合流した俺達は、先程レイフェちゃんとチロッペたんが二人で露店を広げていた場所のすぐ横、噴水傍のベンチに3人で腰を下ろしていた。
事ここに至っては、数少ない知己であるこの二人に、助力を頼るしか無いと思った俺は。
今までの事情を説明できるだけ説明して、どうにか養って貰えないかと言う魂胆な訳だ。
まぁ、寄生が難しくても、現状以上に悪くなる事も無さそうな二人だった事もあるし。
そして説明の際、どうしても矛盾が生じてしまう部分も存在する。
メルカが〈あっち〉に居た間の、メルカの行動やら生活の部分な訳だが……そこはそれ、『伝家の宝刀』を抜く事になった訳だ──
「──『記憶喪失』?」
「……と言う事に、なると……思います」
「ほ、ほぇぇぇぇ……は、初めて見ました」
困った時の『記憶喪失』!
大体のフィクションで、実に都合よく使われているこの症状を、今更俺が使った所でどこからも文句はあるまい! 文句が有った所で知らんッ! 緊急避難は正義ッ!
都合の悪い〈日本〉での事は、全て『記憶にございません』で片付る事にしておいて、問題を〈異世界〉での事だけに集約する。
目が覚めたら、見知らぬ『宿』の一室に居た事。
手持ちの資金がなく、『宿』を追い出された事。
情報を収集する為に、人が多い所を移動した事。
見掛けた人の中で、良い人そうだったチロッペ達に声を掛けた事。
唯一の財産であり、記憶の戻る切っ掛けになるかもしれない〈荷物〉を失くしてしまった事。
それを見かけた気がして、慌てて追いかけてしまった事。
結局〈荷物〉は見つからなかったが、知り合った相手が心当たりを探してくれている事。
──以上を説明した。
詰め所と、その後の『義賊』関連のあれこれは、端折った。
あのいけ好かない『クソエルフ』の事を、喋りたくは無かったし……言ってしまうと、二人が助けてくれないかも、なんて打算もちょっとだけあった。
いや、いざって時には二人は関係ない、って事で逃げるかもしれないけど……知らなければ、言い逃れできる……と良いなぁ……はぁ。
そんな打算混じりの、俺の適当な説明を聞き終えた二人は、何事か目線と短い言葉で語り合う。
「そう言う事なら……レイフェ、良いかな?」
「ん、ボクは大丈夫」
「メルカさん、もし良ければ……なんですが」
「うん」
そして──ある『提案』を、してきた。
「「しばらく『売り子』をしてみませんか?」」
……『売り子』? 何の?




