【21】 1章の19 提案
平日は7時投稿で頑張ってみるテスト
「……チロッペさん、もしかしてレイフェさんもワタシの事を探して下さってるんでしょうか?」
疑問に思った事は、とりあえず口に出してみる。
すると、チロッペたんは頷きながら答えてくれた。
「あ、はいそうです。メルカさんが向かった方向を中心に、わたしは遠くて狭い範囲を探して、レイフェは近くて広い範囲を探していたので」
「……何と言うか、本当に申し訳ありません……何も声を掛けずに動いてしまったせいで、ご迷惑をお掛けしてしまうなんて……」
俺としては珍しい事に、この『謝罪』は割と本心である。
男に謝るのは嫌いだが、美少女になら土下座したって構わない。むしろ、上からグリグリと頭を踏まれたってご褒美になる……ヤツも居るらしいなッ! 俺は相手によるかなぁ……素足ならアリかな?
さておき俺の謝罪に、チロッペたんはブンブンと音がしそうな勢いで首を振ると、慌てて手を握ってく……あ、やはらかい──
「頭を上げて下さい! 直前にしていた話が気になって、つい探してしまっただけなので……メルカさんが気に病む必要なんて、本当に無いんですよッ!?」
「……はい。でも、もう一言だけ──ありがとう、ございます」
今の自分に出来うる限りの笑顔を、チロッペたんにお見舞いしておく。
すまんな、他に出来る物理的なお礼は、今の所無いんだ……まぁ、チロッペたんが望むなら、メルカのこの『肢体』でお礼しても良いんだぜ? ……むしろ、『肢体』でお礼させて下さいお願いしますッ! 今なら全財産付けてもイイッ! ほとんど無いしッ!
俺の内心はともかく、外見を見たチロッペたんは顔を赤くしてしきりに照れている。と、今更自分が俺の手を握っている事に気付いたのか、アワアワしている……あ、気を取り直してもう一回握りなおしたッ!?
ヤバイ……ちょっと白米持ってきて! このチロッペたんをおかずに、ご飯5杯イケるッ!
「いえ、あの、その……あ、あはは……て、照れますね?」
「そうですか?」
「は、はい……」
……これは、流れでしれっと『抱擁』何かしちゃっても問題ないのではなかろうか? いや、むしろ感謝を伝える為にも抱かねばなるまいッ! 抱かまいでかッ! フゥーハハァー!
──だが。
そんな風に、至極楽しい百合百合空間を邪魔する野郎が、ここには一人居るんだなこれが。
「──あ、あのぉ……とりあえず、『露天広場』に向かいませんか? もうお一人、お知り合いの方がいらっしゃるみたいですし」
野郎の言葉を聞いたチロッペたんが、小さく飛びあがると道の先を手で示す。
「あ、そ、そうですねッ! レイフェが待ってるかもしれませんし、行きましょうメルカさんッ!」
「……はい、レイフェさんをお待たせするのは、申し訳ないですものね……」
未練がましく、離れていくチロッペたんの手と、抱けたかもしれない細い腰を見ながら、俺はつい考えてしまう。
ぐぬぬ……なるほど確かに、正論だ。
だが、正論が全ての議論や問題への正しい回答となる訳では無い事は、世の中の様々な問題が一向に解決しない事を見ても分かる様に、非常に高度で複雑怪奇な政治的問題を……ええい、自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた! とりあえずミーニー、貴重なチャンスを奪った罪でお前を後でシメるッ!
……でもま、レイフェちゃんを待たせるのは良くないな……と言う訳で、ミーニー君良かったな! チミの功罪はプラマイゼロで執行猶予が付いたぞッ! 無罪ではない!
◇◇◇
ダッシュでは無いが、それなりに速い速度で進んでいくチロッペたんの後を追いながら、俺は今後の事を考えていた。
さっきのチロッペたんの言葉で思い出した、これからの『生活』に関する事だ……俺だって、たまには女の子以外の事を考えるのだ。
〈異世界〉に来て、チロッペたん達と話した際に考えた当初の予定では、所持品をある程度売って生活資金を確保するつもりだった。
だが、なけなしの〈財産〉……と言えるのかは分からないが、少なくとも俺が把握しているメルカの所有物は、卑劣な犯罪(多分)によってほとんど失ってしまっている。
現状だと、取り戻すのはかなり難しい……と、考えざるを得ない。何せ、今の所在すら分からない状態だからな。
今現在俺が持っている物と言えば、腰の〈財布〉に入っている、〈アリド銅貨〉とか言う小銭が30枚と、使う事も出来ない……えーっと確か〈旧帝国銀貨〉、だっけかな? の、『偽物』が12枚。
後は身に着けている〈メイジローブ〉と〈焦げ茶色の編み上げブーツ〉に……あ、太ももの〈小剣〉も有ったか……あえてカウントするなら、着用中の〈下着上下〉も有るけど。
……これらを売るのは、出来るだけ避けた方が良いだろう。
予備の着替えすら無い状況で、〈衣服〉を全て手放すのは得策じゃない……と思う。
また、〈あっち〉と違って治安も良くないみたいだから、自衛手段である〈小剣〉も手放したくはない。
残った〈下着上下〉だが……これは売れないだろ……いや、むしろ特定層には高額で売れるかもしれないが、売ったらおしまいでは無かろうか。俺の個人的尊厳的に? ……ナニに使われるか、考えたくも無いし。
……ので、『命の危機』にでも直面しない限り、これらを手放すのはとりあえずナシだ。
それこそこの『世界』が『ゲーム』の中であれば、着の身着のままでろくに食事を取らなかろうが、睡眠を取らなかろうが、気にせずプレイするだろうが……残念ながら〈異世界〉は『ゲーム』じゃない。
贅沢を言うつもりは無いが、一般的に見てまともな生活水準くらいは確保したい所だ。
その為には……やっぱり、働かないとダメだよなぁ……?
…………はぁ。
と、憂鬱な気分になりつつ足だけは動かしていた俺に、ミーニー君が横から小声で話し掛けてきた。
また顔が近いな、ちょっと……おい耳はやめろよ、デリケートゾーンだぞコラ。
「(あの、メルカさん)」
「(……はい? どうしました?)」
こちとら迫りくる『労働』と言う名の敵への対処を考えるのに忙しいので、用件は短く簡潔に1文字でお願いします……無理? そこはほら、ツーカー的な、阿と言えば云と返す……程の関係性が無いな。よし、もう黙って話し掛けたのを無かった事にしてはどうだろうか?
「(実は、ですね)」
はい、俺の提案はスルーされました……あ、口に出してなかった!
「(はい?)」
「(以前に受けた『仕事』の関係で、近くの……その、『故買屋』に、ちょっとしたツテがあるんです)」
「(『故買屋』さん、ですか?)」
えーっと……どういう店だっけ? 普段使わない単語だから、意味がパッと出てこないんだが。
「(簡単に言うと……『盗品』も取り扱っている商店の事です)」
ああ、そうそう! そう言う意味だったな。ああ、スッキリした……って、違う!? それはつまり──
「もしかしてッ!?」
「──はい? メルカさん、どうかしました?」
驚いて、思わず普通の声量で声を出してしまったもんだから、チロッペたんにまで聞こえてしまったらしい。
「い……いえいえ、何でもないですよチロッペさん」
「はぁ? ……あ、『広場』はもう少しですよー」
「はい、ありがとうございます!」
もう一度前に向き直ったチロッペたんを横目に、ミーニー君の耳に口を寄せる。
「──(つまり、ワタシの〈鞄〉も、もしかして?)」
「(はい、『故買屋』に売られた可能性もあるかと思うんです)」
……これは、何と言う僥倖! まさか、この冴えない……事も無いか。お人好しイケメンのミーニー君が、そんな店にツテがあったなんて! 親切にしてやった事が、こんな風に返ってくるなんて、日ごろの行いって重要なんだなぁ! ……俺、親切にした事なんてあったっけ?
……ま、まぁいいや! じゃあ早速だな──
「(では、そこに向か──)」
「(すみません……流石にメルカさんを、そこに連れていく訳にはいかないんです)」
「……あ、確かに」
言われてみれば、それもそうだ。
メルカみたいな『一般人』を、言ってみれば『裏社会』に足を突っ込んでいる場所に、堂々と連れていく訳にはいかないよな……何と言うか、それをミーニー君に指摘されると……複雑なんだけど。
「(幸い、メルカさんのお知り合いとも出会えた事ですし、自分は一度そちらで情報収集してみようかと思います)」
「(そう……ですね)」
しかし、そうなると……ミーニー君とは別行動と言う事か。
行き掛り上仕方なく、全力で利用させて貰っているが……ふむ、まぁまぁ頼りにはなってる、な。
……礼の一つも言ってやるか。
「(ここまで、本当にありがとうございました。どうか、無理はなさらずに)」
「(はい、無理な事はしません! 何か情報を手に入れたら、すぐにお知らせします! では!)」
俺の言葉を聞いたミーニー君は、ニコリと笑うと先に進んでいるチロッペたんに一言声を掛け、そのまま……あっという間に雑踏の中に消えてしまった。
やれやれ、イケメンが近くに居なくなってせいせいした。
……本当だぞッ!?
……全く……ん?
よく考えたら……アイツどうやって俺に知らせるつもりだ?
俺の、所在も何も聞いて行かなかったよな?
……誰だ、一瞬でも頼りになるとか言ったヤツゥッ!?




