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【02】 序章の後 遭遇




 ──さぁて、指輪指輪、っと……お、あったあった。



 キョロキョロと見回すまでも無く、開いた〈ドア〉の真ん前、木の床の上に〈指輪〉は転がっていた。



 よっこいせ……っと。



 転がっている〈指輪〉を拾おうと、前屈みで手を伸ばしかけた──その時だった。



「……イタタタタ」


 あん? 何だ?


 すぐ右横から、呻くような声が聞こえてきたので、〈指輪〉を拾うのを中断してそちらを見ようとすると──



「──ちょ、ちょっとッ!? いきなり勢い良く〈ドア〉を開けたら、危ないじゃな──なななななぁぁぁぁぁぁッ!?」



 ……あー、もう何だよ……うるせぇなぁ……。


 こちとらまだ頭が(・・・・)ハッキリしてねぇ(・・・・・・・・)んだから、至近距離での大声は勘弁してくれよ……と言うか、急に大声を聞いたせいか、変な『頭痛』までしてきやがった……!?


 ……おいおいおい、これ『脳梗塞(ノウコウソク)』とか『脳溢血(ノウイッケツ)』の前兆だったり、しないよな……うお、怖ッ!? 30過ぎてもまともに体の事なんて気にした生活してねぇから、まぁまぁ怖いんだわコレが……今更かもだが、病院とか人間ドックとか一回行った方が良いのかねぇ?



 大声のせいか理由は定かでは無いが、急な『頭痛』に思わず顔をしかめて目をつぶってしまった俺は、急に動くと症状が酷くなる気がしたので、とりあえず左手で頭を押さえつつゆっくりと目を開けた。


 すると、ゆっくりと光を取り戻す俺の視界の中には──『男』が一人、転がっていた。



 ……まぁ、もうちょっと詳しく言うなら……赤くなった鼻の辺りを押さえて尻餅をついた姿勢で、指の隙間からはこれでもかと目を見開き、あんぐりと口を開けた驚愕の表情で。 開いた口からは『なななな』と言い続けてる……一人の若い『兄ちゃん』が、だな。


 ……その内『はちはち』とか『きゅうきゅう』とか言い出さ……いや、忘れてくれ。 ボケもキレが悪い……やっぱり調子がイマイチだな。



 まぁ、それはさておき、だ。



 コイツ……誰だろ?



 俺は、前屈みになりかけていた体をゆっくりと起こし、謎の『兄ちゃん』と正面から向き合う……向こうはまだ地面に転がってるがな。


 こっちの動きに関わらず、そのまま無遠慮に目を見開いて俺をジーッと見てくるし、こっちも遠慮なくジロジロと観察してみた……が。 おう、やたら『イケメン』だな。 よし、とりあえず……モ・ゲ・ロッ!



 んー……そうだな。 多分だが、『10代後半』位ってトコかね?


 彫りの深い『高い鼻』、いかにもサラッサラっぽい少しくすんだ『焦げ茶の髪』、引き込まれそうなとでも表現されそうな『蒼の瞳』、今にも光りそうな『真っ白い綺麗な歯』……あれか? 芸能人は、ってか?


 んで、何処から見ても明らかに『日本人顔』じゃねぇ。 欧米系か北欧系か……俺には区別なんかつかないが、ざっくりと言ってしまえば白人系の印象だ……が、完全に『外国人』ッて感じでも……ねぇな?

 『ハーフ』か? ……あー、いや今は『ブレンド』、じゃなくて『ミックス』……ん? 違うな、えーっと……あ、そうそう『ダブル』ッ! ……分かり(にく)いな。 もう『ハーフ』でいんじゃね? とりあえず白人ハーフ顔の『クソイケメン』て事だ。


 ……こう言うヤツが『ハーフタレント』として売り出したら。 多分速攻で黄色い声援浴びて、出す曲はオリコン1位とかになって、ドラマとかに出て視聴率取って。 女優とかアイドルとスクープされて、でも真剣交際! とか言って結局祝福されて──


 ……あ、少しイライラしてきたゾッ☆ テラガッデム☆


 ……クッソ……居る所には居るんだな。 こーゆー、生まれつきの勝ち組みたいな『イケメン君』。


 『俺』も、出来ればこーゆうタイプの顔面に生まれたか……んん?


 しかし……良く良く見たらコイツ……随分とまぁ──『変な格好』してやがるな。



 あまりにも整った『顔面』に気を取られ過ぎて気付いていなかったが、この『イケメン君』。


 〈服装・持ち物〉の面で、結構『おかしな事』になっていた。


 中に着てる〈服〉は、あんまり見ないタイプではあるが多分〈綿〉か何かで出来た〈シャツ〉と〈ズボン〉だ。 これは良い。 割りと普通だ。


 しかし……その〈服〉の上に着ているのは……茶色い〈革〉の……〈鎧〉だよなこれ? あ、この場合は装備してるのは、かね?


 ついでに腰には〈剣〉らしきモンをぶら下げてるし……アレか? コスプレか? 趣味か? レイヤーさんですか? ……いや、レイヤーさんは素晴らしき趣味だとは思うし、まぁ、やたら似合ってはいるけど……オタ系イケメンか? 誰得よ?


 しかし、昨今はオタの一般人化が進んでるとは聞くが、こんなヤツでもコスプレする時代かぁ……時代は変わったなぁ。


 ……あ、でも結局どこに居てもイケメンはモテるらしいからな……所詮世の中顔ですか、そうですか。 ホーリーシット☆ テラゴッサム☆


 ま、どーせ俺には関係なーいけーどねー……でもとりあえず、激しくもげろ!



 ……違うわ。 良く考えたら『ゲーム設定の夢』の中だったっけな。


 あんまりにもリアルな『イケメン』を見たせいで、一瞬本当にリアルかと思っちまったじゃねぇか……ってか、何で俺の『夢』でイケメンが出て来るんだよ。 普通に考えて出てくるのは美少女だろ美女だろ美幼女だろ。 間違っても『イケメン』じゃねぇだろ。 この場合クレームは何処に入れれば…………あ、俺か。


 ……クレームは置いとくにしても、俺は何故3次元の美少女をトレース出来なかったの……あ、そうか……うん、あんまり、身近で見た事……無いもんな。 あれ、何でだろう目から鼻水が……。



 ええぃッ! それはさておき、だ。


 ……さっきから何を固まってやがるんだ、コイツ?



 俺が観察を始めてから、それなりに時間が経った筈だが……全然姿勢も変わってないし、目線は俺と合ったまま……じゃねぇな? よくよく見てみたら……俺の〈顔〉じゃなくて、若干……『()』を見てる?


 何だ? 『俺』の〈体〉に、『何か』付いてんのか? ……ああ、『夢』だから『ナニ』がでっかくなってたりして……なーんてな。


 そう思い、視線を『自分』の〈体〉に向けてみれば──



 ──おかしな、『モノ』が……目に付いた。



 …………イカンなー。


 『夢』だからって、まだ目がぼやけてるのかもしれんなー。 ゴシゴシッ、と。


 よーし、どれどれもう一度………………んん?



 ……おかしい。


 …………何コレどういう事?


 ………………俺、見間違えたか?



 ……とりあえず、腰に手を当てて一度天井の方を向き、目を閉じる。 しばらくそのまま大きく呼吸を繰り返し、目が覚めないか試してみる……無理か。


 最後に一回ゆっくりと大きく息を吐いてから、目を開いてみる……が、天井はそのまま。 一応、もう一度そーっと『下』も見てみる……が。


 やっぱり……見間違えじゃない。


 ……よし、えーっと……その……アレだ。 アレだよ、アレ。



 何て言うか、えー……若干控えめではあるが、〈薄水色の薄っぺらい布(イワユルぶらじゃあ)〉に包まれた、十二分に柔らかそうな『桃』が二つ。 パイオツカイデー! 控えめだけど語感的にカイデー!


 ……が、『俺』の胸に付いてたよ……『ピーチ』ッスよ先輩!? ピッチピチの『ピーチ』が……あ、いや、何でも無いッス。 後、先輩って誰?


 ふー、いや落ち着け、落ち着け俺……よし!


 おれは せいじょうに おちついた !



 ……にしても、いやー、この『角度』では初めて見たね。 前からとか、斜め上45度とかは少し……いや、それなりに経験があるが、真上90度からってのは何だか新鮮な気分だわ。


 よし、どうせだし──揉んどくか。 『夢』だし。 せっかくだし?



 そっと〈下着〉の上から手を当てて、モミモ──



 ──フオォォッ!? な、何コレ!?


 手の平からの感触だけじゃなくて、自分の『(ピーチ)』の側にも触ってる感覚があるじゃんッ!?


 正に、新・感・覚ッ! ちょっとクセになりそう! グヘヘヘッ!




 【少々お待ちください】




 ──フゥ。 いや、堪能させて頂きました。


 俺は、かいてもいない額の汗を拭いつつ、ニッコリ笑顔を浮かべた……のだがしかし、良く考えたら大丈夫かコレ。


 気持ち良かったのは反省も後悔もしないが、この年(30過ぎ)で、起きたら〈パンツ〉がベッタベタになってたりしたら、割とショックを覚える気配がヒタヒタと這い寄ってくるんだが。 リアルに……いや、考えたらダメだな。 その時はその時だ。


 ……あ、そうそう。


 揉み終わりかけに気付いたが、『桃』の包み紙的な水色の〈薄っぺらい布(このばあい下着)〉は、『下』にもあるからな? 別に何も『はいてない』訳じゃな──じゃすとぁもめんつ(チョット待てよおい)



 ペタ


 ペタペタ


 ペタペタペタ



 ……ガバッ




 …………な、い?


 な、いぞ?



 俺の……俺の大事な──『ナニ』が。



 『ナニ』が、『アソコ』に付いてねぇぇぇぇッ!?


 『ナニ』は『ムスコ』とも言うぅぅぅぅぅぅぅッ!!



 ……あ、それはどうでもいい? 了解。



 ──せ、先生ッ! 『なにか(オッパオ)』付いてる上に、『ナニ(ペンヂュラム)』が付いてなかったですッ! どうすれば良いんですか!?



 ──ハハッ! それはもう諦めて、そこで試合終了だねッ!



 ……ハッ!? ……イカン、あまりのショックに、つい名台詞を改変してしまっていた。


 ……いやね? 『俺』もさっきから、何か違和感あるなー、とは思ってたんですよ。


 でも、まさか今までの人生で苦楽を共にしてきた、大事な大事な『一人ムスコ』がいねぇとは、夢にも思わねぇでしょうよ? 俺のしらねぇ間に勝手に独り立ちしやがって……いつも毎朝勝手に一人立ちしてるくせに、身勝手が過ぎやがるぜッ! チクショウめッ!


 ……いやぁ道理で、さっき走った時も『バランス』が取り難いと思ったわ。 ペンヂュラム(ナニ)が無くなっている上に、アンカー(オッパオ)が2つも増設されてる訳だからな!



 よし。 散々慌てて、少し落ち着いてきたぞ。


 ……にしても、だ。 こいつは一体どういう思考でこんな事に……俺ってTS願望が……フロイト先生とかユング先生とかアドラー先生とか、一度調べてみるかな?


 俺は現状をしっかりと認識した、のだが。


 もう一度考えてみようかと、腕を組んで顎に手を当てようとした時に。



 ──目が、合った。


 誰とって、そりゃ今この場に居るのは、さっきから床に転がってる、イケメン君だわ、なぁ……。


 目が合った事に気付いたからか、はたまた(イケメン君)も認識が追いついてきたのか。

 さっきまでと同じ驚愕の表情に加えて、今では顔面が真っ赤に変色しているのである。 すげぇ、人間ってここまで赤くなれるんだな……もう、さっき何処が赤かったのか分からない位、顔全体が赤いぞ……と言うか大丈夫か。 貧血じゃなくて高血圧か。 塩分取り過ぎか? 『脳溢血(ノウイッケツ)』で一辺()ッとく?



 ──じゃなくて。 クソ、俺も混乱して思考がまとまらん。 酸でも巻き込んだか。



 ふぅ……冷静に考えてみよう。



 顎から手を離し両腕を組んだまま、目線を上げて考えてみる。



 この(イケメン君)の認識的には、だ。


・急に〈ドア〉が開いて顔面を強打。

・文句を言おうと思ったら、下着姿の相手が仁王立ち。

・何も言えないでいる内に、唐突に胸を揉みだす。

・ひとしきり胸を揉んだ後、急に慌てて股間をまさぐり。

・今は腕を組んで控えめな胸を強調しつつ、ガ〇ナ立ち。



 ……。


 …………。


 ……あれ、コレ…………俺、『変態』……じゃね?



 いや、待て、落ち着け。

 ここは落ち着いて、慎重に、間違いの無いように、『言い訳』をしよう。


 アレだ、持病のシャクが、とか……いや、腹痛で胸は揉まんな。


 ……急な腹痛が、とか……いや、だから腹痛で胸は揉まんて。 天丼か。


 おかしな頭痛が……いや、痛み系全般で胸は揉まんて。 せめて押さえる程度やろがい。


 ……催眠術にかかって……どんな? むしろかけ方を知りた……は、置いといて。


 あー、実は悪霊に憑かれて……とか? …………こ・れ・だッ! 採用! 悪いのは全て『悪霊』のせいなのです! お兄さん、今すぐ悪魔祓い(エクソシスト)呼んで頂けますかッ!? 今からブリッジしときますんでッ!



 即座に思考をまとめた俺は、上げていた目線を下ろして床に転がった『イケメン君』に向けて声を掛ける。



「あの──」


「うひゃッ!?」


 ズザザッ



 ……うひゃ?


 声を掛けたのは良いが、それだけで50cm位後ずさりされたぞ……待て待て、落ち着けクールボーイ。 良いか、さっきまでのは──


「──す」


「……す?」


「す、すみませぇんッ!」



 ……あん? いや、何でそっちが謝ってんの?


 今では目をつぶり、更にその上から両手で顔を覆ってしまった『イケメン君』が、何故か逆にこっちに謝ってきたのだが……どうなってんの?



「自分は何も知りませんッ! 何も見てませんッ! 『エルフ(・・・)の女性(・・・)には会ってませぇんッ!!」


「……え?」


 今、何か……おかしな事を?



 俺が戸惑った一瞬の隙に。


 ついさっきまで仰向けで転がっていた『イケメン君』が、気付けばうつ伏せに……と言うか、その姿勢は……陸上の短距離とかで見るクラウチング──



「『ご趣味』の事は、誰にも言いませんので──す、すみませんでしたぁぁぁぁぁッ!!」


「え……あ! ちょ、ま、誤解──」



 戸惑っている俺の言葉を聞く事なく、『イケメン君』は謝罪を口にしつつドタバタと脱兎の如く逃げ出した。 しかしまわりこ……めなかった……クソ、この『格好』のまま追い掛ける訳にもいかんしなぁ。


 ……てか、どっちかって言うと……この場合、本来の見た目だけなら、逃げるの俺の方が正解だと思うんだがな……常識的に考えて? いくら俺が常識では考えられない男だとしても、だ……まぁ、俺が向こうの立場でも逃げるけども。


 ……いいや、もう忘れよう。

 これがやってる『ゲーム』の中だったなら、上手く取り入って『貢がせ君』にさせるとこだが、リアリティのある『夢』の中じゃ意味も無いな……そもそも貢がせても、アレじゃあ稼ぎもイマイチっぽそうだし。 あーあ、さっきの部屋に戻って二度寝したら目が覚めるかねぇ? 『頭痛』もやっと収まって来たし。



 俺はとりあえず頭をポリポリしつつ、くるりと振り返って部屋の中に戻ろうとした。


 その時、光が差し込む廊下の〈ガラス窓〉の向こう側に──『人影』が見えた。



 ──プラチナブロンドの髪。


 ──短い柳の葉のような耳。


 ──卵形の小さな顔に、スラッと通った鼻筋。


 ──切れ長で少しだけつり目な、薄水色の瞳。



 それは──『見慣れた姿』であり、同時に。



 ──絶対に『この目で見るはずが無い姿』。



「メ──」


 俺は思わず手を伸ばし、向こうからも同じタイミングで伸ばされた手が、ガラスに触れる。


 予想以上に冷たいガラスの感触に、反射的にビクリと手を引き戻す。


 ガラスの向こうの、『彼女』も──全くの、同時に(・・・・・・)



 そして、ジワリジワリと染み込むように。


 ……『俺』は、『記憶』を取り戻す。




 ──ああ……クソ、思い出した(・・・・・)。 思い出しましたよクソッタレ。



 そうか……コレは『夢』……じゃ、無いのか。



 ……そうだった、な。



 『俺』が……『彼女』に……『メルカ』に、なったんだったな。




 ──やぁ、こんにちは? ご機嫌如何(いかが)





 ────『ワタシ(メルカ)』。







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― 新着の感想 ―
[一言] ふおあああああああッ!! 垣さん、ねぇ垣さんっ!!顔のニヤニヤがとれないんだけどどうすればいいですか、ねーーっ!!(*´艸`)笑笑 突然の事態に加えお胸を揉み出してあれやこれや。そりゃイケメ…
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