【19】 1章の17 困惑
20190919 エルフ騎士の性格とセリフ、展開を改変
「──そこの者は、詰所に用があるのか?」
そこの者、と言いながら俺の方を見てくるエルフ騎士は、メルカに怪訝そうな視線を向けてくる。
「え……えっと……」
「あ、はい。どうやら噴水のある『露天広場』付近で、全財産の入った〈鞄〉を盗まれてしまったようでして」
一瞬、どういう言葉を返したら良いのか考えてしまった俺の代わりに、歩き出しかけていた衛兵のオッチャンが答えてくれた。ビバ有能!
……って、改めて他人の口から聞くと、俺のお間抜け感が酷い……違うんや、つい〈日本〉の常識で行動してもうたからなんや……ん? それでも、公共の場で荷物を放置したりしないって? ……それもそーですね!
「盗まれた……しかも、全財産を、だと?」
そう言いながらエルフ騎士は、呆れた様な表情を浮かべつつ、再度ジロジロと俺の体を舐めるように見てきた。
……てか、また無遠慮にジロジロジロジロと……いい加減金でも取ってやろうかこの野郎。
内心で沸々と湧き上がる正義の怒りはともかく、表面上は苦笑を浮かべてやり過ごそうとした……のだが。
エルフ騎士は、唐突に何かに気付いたように、スッとこちらに手を伸ばしてきた。
ゲッ!? ちょ、いきなり何をするつもりだこいつッ!? こんな公衆の面前で、ワイセツ行為を働こうと言うのならば、出るトコに出て貪れるだけの現金を……って、そもそも〈異世界〉だと、そんなきっちりした法律とかあんのか? 基本的人権の存在すらも、怪しかったりするんじゃなかろうか……ってしまったぁッ!?
反射的に身をかわそうとしたのだが、一瞬要らぬ事を考えたせいで初動が遅れてしまい、更に付け加えるならエルフ騎士の手が思った以上に早い動きで俺に向かって手が伸びてきたもんで避けれなアー!
──そして、パサリと軽い乾いた音と共に、俺の頭から〈ローブ〉のフードを外されてしまった……ん? そんだけ?
お天道様の下、露わになったメルカの顔を見たエルフ騎士は、何かに納得したような顔を見せる。
人の顔を見て急に納得するの、やめて貰えませんかね? 何に納得したか分からないから、妙な不安があるんですけど?
「やはり、貴様『エルフ』だったのか……妙な違和感はあるが、何かの『精霊』の気配を感じた故に、もしやと思ったが……」
「は、はぁ……」
まぁ正確には、俺は『ハーフエルフ』の設定なんだけど……後、また気になる『精霊』ってワードが出て来てるんですけど。
しかし、そこまで言うと納得顔から一転、エルフ騎士は強烈な呆れ顔になった……いや、ちょっと違うな?
この視線……こう何か上からと言うか、あんまり受けた事は無いんだけどあんまり良い印象じゃないんだが。
「……優れた感覚を持ち、『魔法』への親和性も高い、選ばれた民たる我ら『エルフ』の一人が……全財産を盗まれるとは、な」
「も、申し訳ありません……」
そ、そんな事言われても……確かに、自分でも感覚は鋭くなった感じはするけど! 『魔法』の方の感覚はさっぱりだし、そもそも〈異世界〉生まれでも育ちでも無いんだから、勘弁してよ! ……と言えれば楽だが、言う訳にもいかんよなぁ……ぐぬぬ。
……それにしても、こいつこんな上から目線の表情をしていても、やっぱりイケメンにしか見えないな……ミーニー君がタレント系イケメンだとしたら、こいつはさしずめ俳優系イケメンか……イケメンばっかりじゃねぇか!? 神よッ!? イケメンばっかり優遇され過ぎじゃないですか!? 運営方針の改善を求めたいッ! とりあえず優遇措置の撤廃か、俺個人への優遇を考慮してみてはいかが!?
と、そこで俺の表面上浮かべている悲し気な表情か、内面の憤りに気づいたのかは定かではないが。
エルフ騎士は何かを考える様な仕草をすると、目をつむり一つ溜息をつきながら唐突な提案をしてきた。
「フゥ……とは言え『同族』のよしみだ。貴様の、盗まれたという〈鞄〉──私が、捜索を手伝ってやろう」
「……え?」
余りにも唐突な提案に、俺は思わず素で呆けた表情をしてしまう。
……何を言ってるんだこいつは?
確か、相当な腕利きの『二つ名』持ちで、義賊を討伐する為にわざわざ『王都』とやらから派遣されてきたんじゃないのか?
自分で言うのもなんだが、俺の金にもならない〈鞄〉の捜索なんかに、貴重な時間を使っていて良いのだろうか……多分良くないよな、と言うかその時間の浪費を俺のせいにされたりなんかしたら、実際堪ったもんじゃないんだが。ワタシ、ワルクナイネー! イヤ、ガチで!
俺の演技ではない本気の困惑に加えて、横に居た衛兵のオッチャンも慌てて──
「ヴァ、ヴァイス卿ッ!? 差し出がましい様ですが、この件はわざわざヴァイス卿のお手を煩わせる事案では無いと考えます! (……と言うより、おそらくもう見つからないんだが)」
──待てーい。 今、ボソッと何を呟いた、このオッチャン? 思いっきり聞こえてるんですけど?
……つまり、このオッチャンだけに任せていては……もう、俺の〈鞄〉は返って来ない、と考えた方が良いのか? それだけ、難しい……と。
あの〈鞄〉は今の所、数少ない俺の所有物だ。
中身の価値も、意味も、使い方さえも知らないし分からないが……ワタシの必要とする物が入っている事は、間違いない。
……礼をするつもりは無いが、腕利きが手伝ってくれると言うのであれば、利用出来るだけするべき、だな……礼をするつもりは無いが。あ、礼を言う程度なら一回くらい言っても良いぞ! 一回くらいなら!
よし、そうと決まれば。
気を取り直した俺は、感極まった顔でエルフ騎士──確か『ヴァイス卿』、と呼ばれていたっけ? に礼を言う事にする……って言うか、いちいち『卿』とか付けるのも面倒だし、心の中では『ヴァイス』で良いな。
「あ、ありがとうございます……! 騎士様が手伝って下さるのであれば、ワタシの大事な〈鞄〉も見つか──」
「──と、普段ならば言ってやる所だが、私は今忙しいのでな」
……。
…………は?
……………………は?
「え……ヴァ、ヴァイス卿……?」
すぐ横で、衛兵のオッチャンがしきりに顔の汗を拭きながら困惑している。
そして、多分それ以上に俺も困惑している。
えーっと、結局今……こいつは何が言いたいんだ?
「──逃げ出した『盗賊』の捜索もある。『国王陛下』の命に従う為にも、多くの衛兵の手が必要なのだ」
そう言うとエルフ騎士は、腰の〈ポーチ〉らしき物に手を突っ込むと、中から何かを取り出してこちらに投げてきた。
……が、微妙に飛距離が足りないので思わず伸ばした俺の手が届かず、弾いてしまい地面に落下した。
──ドチャッ
聞こえてきたのは、何か複数の『金属』が触れ合う重ための音。
こいつはもしかして……?
想像を巡らせる俺に、エルフ騎士は呆れた顔を通り越した……あ、分かった。
これは──蔑みの視線だ。
「『エルフ』の恥晒しに時間を使うのも惜しいのだ。『それ』を、盗まれた〈鞄〉とやらの代わりに収めておけ」
…………ふむ。
……………………ふむふむ。
これは、あれかな?
『ケンカ』──売られてるのかな?