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【18】 1章の16 騎士

お久しぶりです。


不定期ですが、更新を再開します!



 ──ユサユサ



「──おい」


「……ぅ」



 ……誰かが、俺の事を揺らしている。



「──おい、起きるがいい」


「……んん?」



 何だよ……こっちはまだ寝足りないんだ。


 もうしばらく……眠らせてくれよ。



「──ええい、いい加減に起きよッ!」



 あー、もう!


 ハイハイ、分かりましたよ! 起きればいいんでしょう起きればッ!


 全く……せっかちはモテないんだぞ! せっかちじゃなくても、モテた覚えは無いけどなッ! ……あれ、何故か涙が?



 寝ぼけ眼をこすりながら起き上がった俺が、ゆっくりと目を開くと。



 目の前には──視界を遮る〈布状の何か〉が! な、何だッ!? 拉致監禁か!? ああ、美人過ぎる今の自分(メルカ)が憎いッ!!



 ……って、よく見たらこれ今着てる〈ローブ〉の〈フード〉じゃんね? 下ろしてたはずなんだが……いつの間にかぶったんだろ? ……ま、いいや。


 わざわざ手を持ち上げてフードを下ろすのも面倒だったので、とりあえずフードはそのままに上体を起こす。



 特に異常は……あテッ!? な、何故か頭頂部が痛むぞ? ……いや、原因は分かってるけどさ。 存分に堪能したから、悔いはな……もうちょい揉みたかったなぁ。


 っと、あんまりボーッとしてるのも、まずいか。



 フードの上からそっと自分の頭を撫でつつ、顔を起こすと。 すぐ目の前に、ガッチリとしつつも眩く輝く〈白銀の脛当(フルグリーブ)〉が……って、んん? この装備は……まさか……いや、んな訳無いか。


 そのまま、見えている体の線に沿う様に視線を上げていくと、見上げるようなと言う形容詞がぴったりのかなり背の高い男が立っており、眩い逆光の中からこちらに手を伸ばしていた……って眩しい! 無駄に眩しい!



「……あ、あなたは……」


「……」



 目の前に立つ、無言の男。 何がしたいのか分からんが、とりあえず俺は目線で周囲を確認し、現在の状況を把握しようと努める事にする。


 見たところ、最後の記憶にある死屍累々と言った状況ではなくなっていて、ほとんどの人間は起き上がりまだ倒れている人間に手を貸している状態、のようだった。



「……手を貸してやる、立て」


「え……あ、はい」



 あー、なるほど。 つまり目の前のこいつも、倒れて気を失っていた俺を気遣って、助け起そうとしてくれた、ということか。 態度は悪いが。


 そういう事ならば、流石の俺も礼を言う事は、やぶさかではない……いや、俺だって親切にされれば礼くらいは言うし、やぶさかではない!



「あ、ありがとうございます……どうやら、いつのまにか気を失ってしまっていたようで──」

「貴様の事情はどうでも良い」



 ──ムカッ☆ なぁにぃさぁまぁだ、このヤロウッ!?



 かなりムカつくセリフを(のたま)う相手の顔を、フード越しにもう一回見た時……俺はようやく、目の前のヤロウが誰なのか分かった……と言うか、一瞬想像しつつも自分で否定した相手だった。


 ついさっきまで、目の前で小柄な『義賊っち』と派手なぶつかり合いをしていた、いけ好かないイケメンのエルフ騎士だったからだ……うわぁーお、近くで見たら(ルックス)だけはマジイケメン。 まぁ、やっぱり性格は腐ってるようだけどッ! これだからイケメンは……()く滅びろッ☆



 イケメンだと気付いてしまったからだけでなく、コイツの言動からも正直この手に触れるのも嫌だが、このまま地面で座り込んだままというのもおかしな話だ。


 俺は渋々、目の前の差し出された手に自分の手を重ねる……クソ、ガッチリした『男』の手をしてやがる……く、悔しくなんて無いんだからねッ!?



 俺の内心の逡巡などお構いなしに、エルフ騎士が特に力を入れた風でも無いのに、楽々と俺の手を引き、立ち上がる手助けをしてくれた。 ありがとう、ク〇ったれ!


 と、俺の心の声が聞こえた訳でもあるまいに、何故かエルフ騎士は一瞬ジロリとした目で俺の顔を見てきた……え、これマジで聞こえてないよね? 大丈夫だよね?



 不安になる俺を余所に、エルフ騎士は続けて俺の体をジロジロと……って、ちょ、何この視線? コイツ変態か? 変態なのか? 今も(メルカ)の手を触りながら、マジ柔らけぇ感触サイコーイイ匂いするぅ! とか思ってんじゃないだろうな!? 俺なら思うぞ! 後、嗅ぐぞッ!



「(……違うな)」



 思わず狼狽しかけた俺を余所に、きっと何か失礼な意味の事を言いやがったエルフ騎士は、すぐに俺から視線を逸らしキョロキョロと辺りを見回している。


 ……ずっと見られっぱなしより遥かに良いのだが、そう一瞬で目を逸らされるのも何故かムカつくな……後、握られている手にやたらと無駄な安定感があるのが、どうにも気に食わないが……ええい、さっさと手を離せ!


 振り払った様に見えない程度の速度で、ただ可能な限りの全力でエルフ騎士から手を外し、怪しまれない様に即座に頭を下げる。



「助けて頂き、感謝いたします……騎士様」


「……ふん。 ヤツに仲間が居たとは知らなかった事もあるが、あのように面妖な〈魔道具〉で邪魔されたからだ、勘違いするなよ?」



 腕組みをしつつ、こちらを見下ろす様にしながら言い放つエルフ騎士……うん、こっちが聞いてもいない事を言い訳がましく仰ってますね! 話が通じない系男子かコイツ!


 どうやら、義賊っちに逃げられたのがよっぽど悔しかったらしい。 よし、ここは、ざまぁ! と言ってやるべきだな。 ZA・MA・A!! HAHAHA!!



 俺が内心だけで盛大に(あざけ)っていると、再度上から目線でエルフ騎士は言葉を続けやがってございます。



「おい貴様。 あの『義賊』を名乗る不届き者が、何処に行ったか見ていないか」


「は……あ、いえ。 残念ながら、ワタシは気を失ってしまいましたので……」


「(チッ、この辺りだと思ったのだが……約に立たん女だ)」



 ……ヘイヘイヘイ、まるっと聞こえてるんですけど、このク〇ノッポッ!?


 自分の失敗を棚に上げて、人の事を役立たず呼ばわりとは、イイ御身分ですねッ!? ……ん? 何故か微妙に胸が痛い?


 さておき、例え知ってたとしてもテメェに教える筋合いはねぇッ! 義賊っちを取り逃がして、降格処分なり何なり受ければいいんだむしろ受けろ出来たら受けさせてやるぞコンチクショウッ!! ……ハァハァ……どうだ! 言ってやったぞ心の中でッ!



「……ん? 今、何か言ったか?」


「いえ、お役に立てず申し訳ありません」



 ……心の中でッ!!




  ◇◇◇




 さておき、俺がエルフの騎士と会話している間にも、周囲の状況が動いていたようで。


 こちらに近づいてくる足音に目線を向けてみれば、エルフ騎士の後ろから衛兵のオッチャンと兄ちゃんの二人が、駆け寄ってくる所だった。



「──こ、これは『ヴァイス卿』! 既に駆けつけておいででしたか!」


「む? ……ああ、お前達も来ていたか……最も、少し遅かったようだがな」


「誠に申し訳ございません。 野次馬の群衆に道を阻まれ、到着に時間がかかってしまいました。 先程の音と光は、『魔術』か何かでしょうか?」



 イヤミったらしいエルフ騎士の言葉にも、オッチャンは表情一つ変える事無く答えている。


 これが大人の対応ってヤツか……宮仕えの悲しさとも言うかもしれんが。



「ヤツに仲間が居たようでな、面妖な何かの〈魔道具〉を使われたのだ……とは言え、例えお前達が居たとしても、ヤツを抑えるのは難しかっただろうがな。 本気では無かったが、私の攻撃を防ぐなど、思っていたより……多少は出来るヤツだった様だ……本気では無かったが」


「……何と!? 『難攻不落』と名高い、ヴァイス卿の一撃を……防いだというのですか……! かなりの手練れ、と見るべきですな」



 しかめっ面をしながら呟くエルフ騎士の言葉に、思わずと言った風に返しながら、衛兵のオッチャンは驚いている様だった……大事な事だから2回言ったんだよな、分かる分かるッ! 分かるよッ!


 さておきどうやら、このエルフ騎士は衛兵達にも顔が利く上に、『難攻不落』と名高い有名な腕利きのようだ……本気じゃなかったから、義賊っち取り逃がしてるけどねッ! 本気じゃなかったら仕方ないよねッ!



 ……まぁ正直、俺にとってはただのいけ好かないイケメンに過ぎないし、あまり関わることなくさっさと離れたいんだけど、と言うのが俺の本音である。


 とは言え、この状況で別れの言葉も無くしれっと立ち去って良いものか、微妙に判断がつかない……どうしたもんか。


 ほら、俺って空気読める子じゃん? 略して空気じゃん? ……あ、微妙に違う? いっそ空気になれたら、ここからドロン出来るんだが。



 そんな事を考えていると、実にタイミングよく。 今度は群衆の中から、かき分けるようにミーニー君が近づいてきた。



「──もしかして……あ、やっぱりメルカさん! こんな所にいらっしゃったのですかッ!」



 ……なぁにが、こんな所にいらっしゃったのですかッ、だ。


 いつのまにか、勝手に消えていたのはお前の方だろうに……って言うか、今まで何処に居たんだ?



 内心少しばかりイラッとしつつも、状況的に都合が良かったので、俺は渡りに船とばかりにミーニー君に返事をした。



「あ、ミーニーさん! 私も探していたんですよ。 人混みの中で何か『凄い光』が輝いたと思ったら、いつのまにか気を失ってしまいまして……あ、ミーニーさんは大丈夫でしたか?」



 形ばかりの気遣いを見せると、ミーニー君は相好を崩し、こちらに笑い返してきた……おうおう、イケメンは歯が命ってか? キラーンと光らせようが、俺には『こうかはいまひとつのようだ』!



「はい! 自分は何ともありませんよ! お気遣い、ありがとうございます」


 形だけだけどな!


「メルカさんも、本当にご無事で良かった……と、ところで、『義賊』は今どちらに?」



 そう言いながら、キョロキョロと辺りを見回すミーニー君に、横からエルフ騎士が……えーっと、そういやさっき『ヴァイス卿』とか呼ばれてたっけな。 が、答える……って、なんで?


 いつの間にか、衛兵のオッチャンとの会話を切り上げて、こちらを見ていたらしいが……聞かれたの俺じゃないの?



「ヤツに深手は負わせたのだが、仕留めるまではいかなんだ……何か、面妖な〈魔道具〉のせいでな」



 ……深手……ま、まぁ腕が動かせないくらいにはダメージを負ってたみたいだし、一応深手……か? ちょっと盛ってる気がするが。



 ちょっとした疑問を覚えつつも、その言葉を聞いたミーニー君に視線を向けると、一瞬だけ完全な無表情のミーニー君が……って何、今の無表情? イケメンの無表情は怖いから、マジでやめろ下さい。



「──それは凄い! 確か、今まで捕まえるどころか、まともに相対出来た者さえ居なかった、と聞いていますよ!」


「そうですぞ、ヴァイス卿! 奴に手傷を負わせたのは、十分な功績と言えるでしょう!」


「流石です!」



 無表情だったのは一瞬だけで、すぐに驚いた表情を見せるとエルフ騎士を褒め称えるミーニー君の言葉に、衛兵ズも口々に賛同する。



 うーん……詰所での言動といい、さっきタイミングよく居なくなった事といい、ミーニー君には何かウラがありそうだが……ま、いいや。


 それよりも事態が解決したのであればさっさと俺の〈鞄〉の捜索に戻りたいし、いかに腕利きであろうと俺にとっては単にいけ好かないイケメンの事は放っておいて、戻ろうぜ。


 そう考えた俺は、エルフ騎士の横に立っている衛兵のオッチャンに、近付きながら声をかける。



「……ひとまず、ここでの捕物は終わり、という事でよろしいでしょうか?」



 俺の言葉に衛兵のオッチャンは、一瞬(いぶか)し気な表情を浮かべたが、ふと何かに気付いた様で、慌てて周囲を見回すと一つ頷いた。



「……ああ、誰かと思えばさっきのお嬢さんだったのか……っと、そうだな、他の詰所からも応援の衛兵達が来た様だし、お嬢さんの〈鞄〉の捜索に戻っても大丈夫だろう」


「──! で、では、自分はお嬢さんに同行して──」


 その言葉を聞いて、嬉しそうに手を挙げた衛兵の兄ちゃんの言葉を遮り、オッチャンが指示を出す。



「いや、お前はここで応援の者達に状況と顛末の説明をしろ……ああ、あそこに来られた『騎士』様にもな。 その後、『神殿の方々』が来られたら、倒れた者たちの救護もお願いしてから戻ってこい……分かったな?」



 嬉しそうな顔から一転、どんよりと曇った表情に変わった兄ちゃんは、チラリと(メルカ)の顔を確認するも、オッチャンの命令を復唱してから、集まってきている衛兵達の元へと駆けていくのであった。


 少しばかり可哀そうな気もするが、これも世の定めだ。 我慢しろ、若人よ……俺はしないが。


 それにしても、『騎士』だったら今目の前にもいるのに、なぜ他の『騎士』へ報告するのだろうか……担当が違うとかだろうか?


 ……まぁいいか。 考えても仕方がないし、今の俺にとって自分の〈鞄〉の所在の方がよっぽど大事だ。



 俺の疑問を置いておいて、オッチャンは手に持った〈刺又〉を担ぎ直すと、逆の手で来た道を示して俺を促す。


 もうこの場所には特に用事も無いし、素直に従おうとした……のだが。


「──少し待て」



 何故か、横からエルフ騎士が声を掛けて来た。




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