【17】 1章の15 接近
今の衝撃に耐え切るなんて、小柄な割りに実に頑丈……もとい、大丈夫か?
もし、俺が受けていたら間違いなく一発ピチュン級のダメージだった筈。
見た感じ耐えているが、防具付きでも腕が逝ってておかしくな……ん? おいおいおいッ!?
『義賊っち』の様子を伺おうと、よくよく見てみたのだが……『騎士ヤロウ』の〈盾〉を受け止めている、腕に装備した〈手甲〉が『くの字』に折れ曲がってしまっている!
元々の構造がそんな形……な訳ねえよな、周りの〈革〉で出来た部分の引っ張られっぷりからいっても、おそらく正常な状態じゃない……と、思う。
あれじゃあ、次に攻撃を受けた時には耐えられないんじゃ──
と、俺が心配している間にも事態は進む。
「お、おい……今、何が起きたんだ?」
「分からねぇ……突然、凄い音が鳴ったと思ったら、強い風が吹き付けてきやがって……何も見えなかった」
「おい見てみろッ! あの格好……もしかして、騎士様が義賊に〈盾〉を叩き付けたんじゃねぇかッ!?」
「今の一瞬でかッ!? な、何て速さだよ……」
「むぅ……やはり只者ではなかったか……このワシにも、何も見えなんだ」
周囲の群衆が、ようやく衝撃から立ち直り、キョロキョロと辺りを見回して事態の把握に努めている。
どうやら、ほとんどの連中は何が起こったのかすら、分からなかったらしい。 実際に、俺だって距離が離れていたからかろうじて見えた位で、もっと近ければ何がなんだか分からなかっただろう。
そんな群集の声を待っていた訳でも無いのだろうが、〈盾〉を振り下ろした姿勢のまま動いていなかった『騎士ヤロウ』が、ゆっくりと〈盾〉を引きながら半歩下がり、今度は腰を軽く落として構える。
同時に、耐えていた『義賊っち』の方も腕を下ろした……と言うか、左腕の方はだらんと力無く下げている。 どう考えても、今の衝突で痛手を負ってしまったのだろう。
それを切れ長の目で冷静に観察しつつ、『騎士ヤロウ』がゆっくりと言葉を発する。
「……止めた、それ自体は見事。 だが、もう次はあるまい」
「……」
「おとなしく捕縛されるならよし、まだ抗うのであれば……覚悟する事だ」
「……ッ」
『騎士ヤロウ』の言葉を聞いた『義賊っち』は、一瞬何か逡巡したようだったが、次の瞬間には右手をしっかりと構え、前を向いた〈ネコマスク〉の奥から『騎士ヤロウ』を睨みつける。
左手が使えなくなっても、タダで捕まる気はそうそうないらしい。
その意気やよし、と言いたいが……流石に無謀だろう。
両手が使えた状態で、やっと止めていた様な攻撃だ……片手が使えなければ、どう考えても結果は見えている。
すまん……『義賊っち』。
心情的には、出来れば『義賊っち』を助けてやりたい位だが、生憎と今の俺には何の力も無い……ついでに言えば、今日の宿代すら無い。
となると、これ以上『騎士ヤロウ』のイケメン面を見たくもないし……ココはもう立ち去るしかないな。
そう思いながら、踵を返した俺だったのだが。
……ん? 『何か』忘れてねぇ?
◇◇◇
──シュルシュルシュル
『何か』を忘れている気がして、広場に背を向けた状態で一瞬立ち止まった俺だったが。
方向を変えたから、頭上から聞こえてきた僅かな『音』に気付けた。
──何だ?
見上げた俺の視界に映るのは、白い煙を噴出しながら回転して落ちてくる、複数の〈丸い物体〉。
数多の『ゲーム』やサブカルで鍛えられた俺の思考で想起されるのは、どう考えても〈煙幕〉か──〈爆弾〉……ちょ、おまッ!?
〈煙幕〉なら多分、問題は無い。 多少の混乱が起きる事で、何人かの怪我人が出る位だろう。
だが、こんな密集状態の群集に、もし〈爆弾〉が放り込まれれば……被害は甚大になる事、間違い無し!
クソッ……逃げようにも、これだけ人が密集してたら道が無い……目の前の連中を『盾』にしたら、多少は俺へのダメージも軽減されるだろうけど……流石に後味が悪いんだよッ!
あー……もーッ!!
「伏せろッッ!!」
叫びつつ、〈丸い物体〉が飛んでいってる広場の中心に足を向けて、うつ伏せに倒れ込む。
同時に以前教わった、耳を塞いで口を半開きにした爆発物に対する防御姿勢を取る。
本当は何か『遮蔽物』が欲しい所だが、何も無いから次善の策だ……何か、何か有れば良かったのにッ!
『──フフッ』
──キンッ
「おい、今の誰だ?」
「伏せろって……」
「煙が……」
「何がどうなってるんだ?」
「おい……『アレ』何だ? こお──」
──カッ ドォォンッ
「キャッ!」
「うおッ!?」
「うわぁぁぁッ」
……耳を塞いでいるからか、妙にくぐもった破裂音が聞こえてきた。
同時に、群集が上げる悲鳴や驚きの声。
数秒経ってから、そーっと目を開けてみる……よし、ちゃんと見えるな。
上体を起こしながら、自分の体を手早く探ってみる……ん、特に違和感がある場所も無い。 痛みも、出血も無しだ。
……やれやれ、まさかウザい『ミリオタ』の追っ掛けから教わった知識が、こんな所で役に立つとは……人生ってわからないモンだな。
と変な感慨を覚えていた俺は、そこでやっと周囲の状況に目がいった……周りはほぼ全て、倒れている人ばかり。
うめき声を上げながら、もぞもぞと動いている……正に『地獄絵図』といった状態だ……と思っていた最中に、ふと気付いた。
──全然、血の匂いがしない?
同時に見える範囲で確認したが、周囲の群衆も倒れ込みこそしているが、ケガをしている様子はなかった。
そして極め付けは、群集の呻いている内容。
「目が……目がぁ……」
「何も、見えない……」
複数の『某大佐』が生まれてしまっている事から考えても、おそらく間違いじゃないだろう。
さっきの爆発は……〈音響閃光弾〉? こんなファンタジーの世界で?
効果の程は、今見えている通りではあるが……強烈な場違い感が否めないな……まぁ、血みどろ地獄絵図よりはよっぽどマシか。
そんな事を、ボーッと俺が考えていた時だった。
「──おのれ、何処へ……目が見えずとも、逃がさんッ!」
「クッ」
ゴッ
再度の衝突音が聞こえた、と思った次の瞬間。 振り返ろうとした俺の顔面に、『何か』がぶち当たってきたのだ。
「おわッ……む、むむむむー」
え、ちょ……ま……『何か』で視界が塞がれて……息も出来ないぞ……ええい、何とかどかして───
俺は自由な腕で、目の前の物体をどかそうと両手で持ち上げようとした。
ガシッ
「──(キャッ)」
……キャッ?
ムニムニ
「(ヒャッ!?)」
んん? ……この『感触』と『声』。
あれ……もしかして……俺の視界を遮ってるのって、『女の子』か?
そう思って手を動かしてみれば、一種独特の柔らかさが両手一杯に広がる訳で。
何で『女の子』が俺の所に……まぁいいやッ! 折角の機会だし、堪能しない訳にはいかないよねッ! これは事故だよチミィッ! グフフッ!
ムニムニ
「(……ちょッ!)」
ムニムニムニ
「(……くッ! ……げんにッッ!)」
──ゴッ
「ふぐッ!?」
しまった……調子に乗り過ぎたか。
俺は、頭部に走った強い衝撃と共に意識を失いつつも。
何か柔らかい物から開放され、ようやく吸い込んだ空気から仄かに香る、〈柑橘類〉の様な甘い香りを胸一杯に吸い込みつつ、グッと親指を立てるのだった。
存分に……堪能させて頂きま──ガクッ
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