【16】 1章の14 対立
俺が気付かない内に、すぐ横に居た筈のミーニー君が消えてしまっていた。
何を言っているのか自分でも分からねぇ……訳でも無いな。
とは言え、はて……そんな居なくなれる様な場所じゃない筈……まさか、オッチャン達について行った……ら、流石にすぐ気付くわな。
となると、正面の人ゴミの方向か──横の建物か?
そう考えながら左右を見て、と……左を見た時。 一瞬視界の上端、三角屋根の間にさっき見た『茶色』が映り込んだ。
すぐに見上げたが、もう見えない……まさか、今のがミーニー君か?
今さっきの、オッチャン達が立ち去っていく僅かな時間で、2階建ての屋根の上まで登ったとでも言うのか。 ほとんど音もさせずに? ニンジャかよ。
……いや、考えても仕方ないか。 後を追える訳でもないし、追うメリットが有る訳でも──いや待て。
折角確保した少しは頼りになる相手を、そのまま行かせてしまう訳にはいかない『状況』なんだった。 せめて、当分の宿代だけでもせしめておかないと……タコ部屋はイヤだッ!!
とは言え、流石にこの建物をパパッと登る事は出来ない……この『メルカ』のスペック的には可能かもしれないが、俺に技術が無いからな。
となると、目的地を予測して先回り……ってまぁ、この『状況』なら目的地はすぐソコだよなぁ?
◇◇◇
──ハイハイ、ごめんなさいよ……っと。
心の中で適当な謝罪をしつつ、人垣の最後の一人をすり抜けた俺は、最前列に到着した。
ガタイの良いオッチャン達や、細身でも〈革鎧〉を一式装備していたミーニー君には難しかったのかもしれないが、〈ローブ〉しか装備してないメルカなら、さほど苦労する事も無く人ゴミを通る事が出来たって訳。 小柄でスリム体型なのが、こんな所でも役に立つとは……流石はメルカ!
……それはさておき、やっと全体が見渡せる群衆の最前列に来た訳だが……ふむ。
20m程度の人の輪に囲まれた中心で、2人の人物が向かい合って立っている。
俺から見て、向かって右に立っているのは、小柄でおそらく細身の人物だ。
もっとも、細かな人相なんかはサッパリ分からない。
何せ、長い〈焦げ茶色のフードマント〉を着ている上に、顔にはデフォルメされた〈黒いネコマスク〉を被っているからだ。 目の部分にだけ、横向きにスリットが入っている様だが……見辛そうだな。
さておき足の感じから、おそらく細身だと判断したが……膝より上は〈マント〉に覆われていて、体型も例えば何かを隠し持っていても、これでは分からないな。 身長は、おそらく今の俺と同じか、僅かに下かもしれない程度だ。
これが、『義賊』……『キャットテイル』だっけか? 名前をちゃんと覚えていなかったが……全体的には、地味な印象を受ける。 『ルパ○』と言うよりは『ネズミ小僧』……もとい『ネコ小僧』と言った所かね。
……そんな地味めなおそらく『義賊』に対して、さっき人垣の会話から漏れ聞こえていた相手。
『義賊』討伐の為に『王都』から来たとか言う、『Aクラス』の……よく考えたら、何の『Aクラス』かは言ってなかったな? 『騎士』とか言われてたし、『騎士ランク』みたいなのがあるんかね。
まぁ、とりあえず『騎士』だ。
パッと見ただけでも、かなり背が高い。 今の俺から見ても、30cm以上は高いんじゃないだろうか。 上背だけでなく、ガタイもかなり良い様に見て取れる……あ、でもガチマッチョじゃなくて、細マッチョちょいプラス……て所かね?
そんな『騎士』だが、その装備は『騎士』と聞いて思い浮かべる〈全身甲冑〉ではなく、比較的軽装の様に感じる、胸と腰の要所を守る為の〈白銀の部分甲冑〉。 後、同色の両手に〈籠手〉と、両足の〈脛当〉だった。 〈こっち〉の『騎士』は、スタンダードがコレなのか……?
さておき左手にはえーっと……形状的に〈凧盾〉か。 右手は何も持って無くて……後、腰には……〈小剣〉? 何で? バランス悪くねぇ?
疑問を挟みつつも、装備面はこんな所だな。
……後は唯一露出している『顔』なんだが……特徴的な耳の形状からして、種族は〈エルフ〉。
更に、サラサラだが少しだけウェーブの掛かった金髪を、首の後ろで緩くまとめており、まるでエメラルドの様な、が文字通りの透き通った碧眼。
スラッと伸びた鼻筋に、切れ長の瞳は、正に2次元の創作物がそのまま3次元にバージョンアップしたような正に『ザ・エルフ』……チッ。
……んで、総合的な評価は、って? …………もちろんイケメンだよちくしょぉぉぉぉぉッ!!
頑張れ『義賊っち』ッ! 俺は『騎士ヤロウ』なんかより、断然お前を応援する事にしたからッ!
◇◇◇
「──さて。 このまま睨みあっていても、仕方あるまい?」
「……」
痺れを切らしたのか、俺が着いてすぐに『騎士ヤロウ』が口を開いた……って、声まで低く落ち着いた『イケメンボイス』じゃねぇかよ。 『声優』が声当ててんじゃねぇの……ガッデム☆
「夜にしか活動しないと聞き及んでいたが、どういう風の吹き回しか……いや、捕縛した後聞き出せば良いか」
「……」
語り掛ける『騎士ヤロウ』に対して、全くの無反応を返す『義賊っち』……良いぞ! イケメンなんぞ無視だ無視ッ!!
「……無口な性質なのか、はたまた私と会話する気が無いのか……これ以上、問答を続けても意味は無い様だ」
「……」
「では、最後にもう一度だけ問う」
『義賊っち』の度重なる無視に、多分内心苛立っている『騎士ヤロウ』が。 表情を真顔に変えて、その無駄によく通る声で質問する。
「貴様が、この『テイン』の街を騒がす『盗賊』……『キャットテイル』で相違無いか?」
「……」
「無言は──肯定とみなすッ!!」
言葉と同時に、『騎士ヤロウ』は驚く程速い突進で前に出た。
かろうじて目で追えたが、棒立ちに近い状態から一瞬体を沈みこませたかと思うと、石畳を割り砕く程の踏み込み一回で、もう左手の〈凧盾〉を上から『義賊っち』に叩き付ける直前になっていたのだ。
ああ、クソッ、ダメか──
ゴッッッ!!!
軽い衝撃波すら伴う衝突音に、思わず目を瞑る。
……って言うか、今の確実に『捕縛』じゃなくて『討伐』にいってたよな……『騎士ヤロウ』ヤバイ……近付かないでおこう……ああ『義賊っち』、せめて安らかに成仏してくれよ……?
そう思いながら、そーっと目を開いた俺の目に入ってきたのは。
「……本気ではなかったとは言え、私の打撃を──止めた、だと?」
〈フードマント〉から出した両腕を交差させ、上段から打ち下ろされた〈凧盾〉を受け止めている『義賊っち』の姿だった。
……え、何、ちょ……『義賊っち』スゴないですかッ!?