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【15】 1章の13 出没

今日は間に合いました。




 ──いや、例え関係があるとしても、だ。


 言ってしまえば、これ以上関わらなければ良いだけの話。


 情報を手に入れるだけ手に入れて、利用できるだけ利用して、『メルカ()』の〈鞄〉を取り返したら、その時点でハイさよなら……とすれば良い。


 その後、『義賊』とやらの関連でミーニー君が捕まろうが、こっちに影響が出なければ問題ない。 むしろ、イケメンが減って個人的には万々歳と言っても良い位だ。 ケケッ。



 そう考えた俺は、気にせずチロッペたんやレイフェちゃんに使った『設定』を、オッチャン相手に喋ろうとして──視線の端をかすめた〈水晶〉が……ふと、気になった。



 ──チリッ



 ……待てよ?


 ……持ってこられた後、机の上に置かれっ放しのあの〈嘘吐きの水晶(ライアー・クリスタル)〉とやらは……今、『起動(・・)』しているのだろうか?


 先程、あの若いニイチャンが持ってきた後、オッチャンは受け取ってそのまま机の上に置いた。 ただ、それだけの動作しかしていないが……それだけの動作でも実は『起動』している、可能性もあるよな? いや、いっそ常に『起動』している可能性だって……あるかも。



 さっきの会話の流れだって、一度疑念を持ったにしてはアッサリと納得し過ぎてはいないか?


 『起動』しているからこそ、あの短い会話だけで、オッチャンは納得したんじゃないか? ……いや、むしろ……納得したフリをしているだけ、なんて可能性だってあるよな?


 そうか、これは……この『嫌な感覚』は。 俺を『ネカマ』かもしれない、と疑いを持って会話をしているヤロウと会話している時の、微妙な居心地の悪さとそっくりだ!



 一度疑念を持つと、俺はどうしても目の前の〈嘘吐きの水晶(ライアー・クリスタル)〉が、『起動』している気がしてならなかった。


 同時に目の前のオッチャンが、ボロを出すのを待ち構えている歴戦の刑事に見えてきた。 勘違いだろう、って? フッフッフ……こう言う嫌な予感を放置せずに、しっかり対応したからこそ、俺はそれなりに長い間『姫プレイヤー』なんぞ出来たのさッ!! 伊達に『ネカマ』はしてねぇぜッ!!


 ……さておき、だ。


 こうなると、取れる手段は限られてくる。 古今東西、『嘘』を見抜かれる状況での常套手段、ってね。



「実は……ワタシの『個人的な都合』の関係で、しばらく引き篭もっておりまして……その『義賊』? に関しても、何も存じ上げないのです」


「……そんなバカな、これ程世間を……ああ、いや。 〈エルフ〉ならば、その様な事もあるのか……」



 ……クックック。 引きこもっていたのは『俺』であって『メルカ』ではないが、答えたのは『メルカ()』だからな……『嘘』では無いが、解釈の余地を残して全てを語らない。 結果的に、俺は『嘘』をついていない、って訳だッ!


 苦笑気味で発した(メルカ)の言葉に、一瞬の間を空けた後オッチャンは疑念の言葉を発したが、結果的に納得した様だった。 後、何か〈エルフ〉が偏見を持たれてる気がしないでもないが、都合が良い分には気にしないで置こう……ついでに言えば、実際の所メルカ()は〈ハーフエルフ〉設定だけど……まぁ似た様なモンだから良いか。


 ……そぉしぃてぇッ! 俺は見逃さなかったぜ? 一瞬の間の時に、オッチャンの目が〈水晶〉へ向いたのをなぁッ!! 俺でなければ見逃しちゃうねッ! ……って言う程は、速くなかったけどッ!!


 やはり、『嫌な予感』を信じて正解だったらしいな。



 ……となると、だ。


 問題は、後ろのミーニー君(コイツ)だよな。



 オッチャンの微妙な納得顔には、引き続き苦笑を浮かべて対応しつつ。


 要らない事を言い出さないか、チラリとミーニー君の様子を確認してみたが……おぅ、いまだに冷や汗を浮かべながら俯いていらっしゃる。


 何? 動揺が顔に出過ぎ、と言うか隠す気あんのかコイツ……万引きがバレた小学生でも、もうちょっと誤魔化そうとするんじゃなかろうか……いや、そんな場面見た事は無いけどもッ!? 少なくとも俺……ゴホン。


 まぁ、一緒に来たミーニー君が疑われると、俺も面倒臭い事になりそうだし……とりあえずは情報だけ仕入れて、サッサと退散しておこうか。 後で口止め料として当面の生活費と、俺の〈鞄〉捜索への協力だけは取り付けておくけど……出来たらッ!



 ──俺はそんな事を考えていたんだが、物事ってのはそう都合よく動かないモンらしいな。


 むしろ、考えてた事の逆を行く、って言うか?




 ──タッタッタッタッ



「……あら?」


「ん? どうかしたかね?」


「え、メルカさん……」



 俺の『耳』は、『ココ』に近付いてくる足音を聞き付けたのだが、オッチャンは気付いていないらしい。


 疑問の声を上げた俺に、怪訝そうな顔を向けている。 ついでに、後ろに居て動揺しきりだったミーニー君も、ようやくまともな反応を見せた……のだが。




 バタンッ



「──先輩ッ! で、出ましたッ! 『ヤツ』ですッ!!」


「何? ……まさかッ!?」


「はいッ! 『キャットテイル』ですッ!!」


「こんな真昼間にか……何故だ……」



 オッチャンの後方にある、この部屋唯一の出入り口から急に飛び込んできた、さっきのニイチャン。


 よっぽど慌てていたのか、ノックも入室の許可も得ていないが……それ所じゃない事態って事だな。 オッチャンの方も、何か考え込んでしまったし。



 ……ついでに同時に、ニイチャンから発せられた『名前』に反応(・・)した人間が、もう一人。



「ッ!? (何で……)」



 ハイハイ、もうちょっと声抑えようね、ミーニー君。


 しかし、『義賊』ねぇ……ルパ○みたいなもんか?



  ◇◇◇



『聴取中にすまない、このまましばらく待っていて貰えるか?』


『分かりました……と言いたいんですが、興味深いのでよろしければ見物しても構わないでしょうか?』


『何を……ああいや、〈エルフ〉だったな。 仕方ない、邪魔はしない様に注意してくれよ』


『はいッ! もちろんですッ!』



 ……何で〈エルフ〉だと納得されるんだろうか。 〈こっち〉での〈エルフ〉の扱いを、もう一度再確認しときたい気がしないでもない今日この頃? まぁ、都合が良いから良いんだけれども。


 さておき、捕縛用っぽい〈刺又(さすまた)〉に似た道具を準備したオッチャンとニイチャンが、詰め所から飛び出して行くのを追い掛ける俺。


 幸い……では全然無いのだが、俺の持ち物は腰の〈財布〉と太腿の〈小剣(ショートソード)〉だけである。 走るのに、何の不都合も無い。 群集に声を掛けながら、道を開かせている二人の後を追い掛ける位なら、小走り程度の感覚だ。


 また、俺の横を走る……と言うか、今にも追い抜いていきそうな、焦燥に彩られた表情のミーニー君はと言えば。 俺よりは重装備であるが、特に何の問題も無さそうである。 着ている〈鎧〉は革製で、そこまで動きを妨げてはいないし、腰に装備した〈剣〉……形状的には〈幅広直剣(ブロードソード)〉も、片手で押さえながら走る姿には安定感がある。 多分、慣れているんだろう。


 そんなちょっと異色(かどうかは知らないが)の4人組で走る事、およそ5分といった所だろうか。


 前方に、喧騒が渦巻く空間が見えてきた……と言いたいが、見えたのは身長の関係で通りを埋める群衆の背中と声だけだが。 見えない物は見えません。


 しかし、俺達が背中を追い掛けてきたオッチャン達も、余りの人の多さに立ち往生してしまった。 聞こえてくる喧騒の中心まで、多分後50mも無いと思うんだが……左右を2階建ての建物で挟まれた、路地と言うほど狭くは無いが、少なくともメインストリートとは言えない道路か……うーん、横に抜ける道は無さそうだな。


 とりあえず、見えない分を聞いてカバーしようと耳をすましてみる。



「──へぇ、あれが有名な『義賊』なのかい!?」


 ガヤガヤ


「『義賊』は、夜しか活動しねぇんじゃなかったのか?」


「おいおいおい、終わったわアイツ」


 ワイワイ


「エラくまた細っこい野郎だな……ウチのチビくれぇだぞ」


「おれぁてっきり、もっとゴツイ野郎かと……」


「(クソ、何で昼間に出てきちまったんだよ……ましてや、相手が『Aクラス』だなんて)」


 ガヤガヤ


「(いけすかねぇ連中からしか、盗みをしねぇ『義賊』様を、捕まえちまうなんて……)」


「向かい合ってらっしゃる『騎士』様は、誰なんだい?」


「カッコイイねぇ……アタシが後5歳若かったらほっとかないんだけど」


 ワイワイ


「(何とか逃げてくれないかねぇ……)」


「ほぉ、あの御仁只者では無いな」


「おめぇ、知らねぇのかよッ!? あの方は王都から『義賊』討伐の為に来られた『難──』」


 ガヤガヤ


 ワイワイ



 ──あ、クソッ! 今、ちょっと興味深い文言が聞こえ掛けたのに……人、多過ぎッ!


 雑多な情報はかなり得られたが、こうなってくるとやはり直接見たい。


 しかし、聞こえてきた感じだと、『義賊』のヤツ……そこまで嫌われてもいないんだな。 むしろ、一部の層からは好感を持たれている様に感じられる。



 と、感想を持ったあたりで、痺れを切らせたオッチャンが、大声を出して前に進もうとした。



「おい、衛兵が通るぞッ! 道を開けてくれッ!」


「(む、おい)……旦那ぁ、そうは言ってもこの人の多さじゃ、下手に避ける事もできねぇんでさ。 なぁ?」


「……へぇ、物見高い連中が集まっちまいまして……アタタッ! おい、押すんじゃねぇよ!」



「クッ……ええい、回り込むしかないのか……」


「そうは言っても先輩、この道以外となると結構な大回りになってしまいますよ?」


「だからと言って、動かない訳にもいかん。 戻るぞッ!」



 って、あ。


 ……オッチャンに置いていかれてしまった。


 まぁ、良いか。 ついて行っても、遠回りする事になりそうだし……何より──



「(──これ以上、義賊様の邪魔が増えないようにしなくちゃな)」


「(おう、締め出しはしっかりやってくぜぇ)」



 ……まぁ、ル○ンだしな。 味方する群集も居てもおかしくは無いか。 原作版ならともかく……あ、違う? さておき、向かい合ってる『銭○警部』みたいなのも居るみたいだし、実際に物見高いってのもあるんだろうけど……て言うかね。


 人が多過ぎて、俺が見えないのッ!! こちとらあんまり身長高くないんだから、前の連中全員しゃがめやコラァッ!!


 ……何て心の中で叫んだ所で、目の前の群集は反応してくれない訳で。


 何とか見える位置は無いかと、周囲をキョロキョロしてみた時に……ふと気付いた。



 あら? ミーニー君……何処行った?




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