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【13】 1章の11 説明



「──ふむ。 では、事の経緯は不明だが……君が失ってしまったのは、生活用品等も含めた〈各種道具〉を詰め込んだ、そのような(・・・・・)〈鞄〉なのだね」


「はい、そうです……」


「……自分は直接見ては居ませんが、場所は『露天広場』で間違っていない様です!」


「そうか……ありがとう」



 ──と。 そこまで俺の話を聞いてくれた、口髭も頭髪も真っ白なナイスミドルな『衛兵』のオッチャンは、最後に一言確認した後。 『ミーニー君』の言葉に礼を言いつつ、目を閉じ眉間に皺を寄せ、更に腕を組んで押し黙ってしまった。


 しかしこのオッチャン……特徴的な部分は特に見受けられないし、多分ただの〈人間(ヒューマン)〉だと思うが……鎧の隙間から見える鍛えられた肉体は、結構な威圧感のある偉丈夫である。 分かりやすく言うとガチムチである。

 正直、同じ空間に居ると圧迫感があるんだが……後、微妙に暑苦しい。 視覚的に。



 ……ああ、そうそう。 今俺が居るのは、ミーニー君を押し倒した場所から10分程歩いた所にある、最寄りの『衛兵詰め所』の中だ。〈元世界(あっち)〉風に言うなら、『交番』みたいなモンらしい。


 鍛えた『テク』を駆使して、ミーニー君の良心だか下心だかは知らんが、とりあえずその辺に訴えかけてみれば。 そう言う事であれば、まずは『衛兵詰め所』に向かいましょう! と、連れてこられたのだ。

 そのまま事情を聞きたいという事で、このガチムチオッチャンと一緒に『取調室』的な小部屋でお話し中である……いや、あった、かな? 今は、全員無言だし。


 俺とオッチャンが、小さな机を挟んで向かい合い。 俺の斜め後ろに、ミーニー君が座っている。


 んで、俺のあいまいで要領を得ない説明に対して、さっきみたいに補足を入れてくれてたんだよ……イケメンのクセに、意外と役に立つよな。 褒めてつかわす!



 ……ちなみに最初は、目の前のオッチャンではなく、もっと若い『衛兵』のニイチャンが応対してくれたんだが……俺が目を見ながら説明を始めたら、しばらくしたら無反応、と言うかボーッとしちゃってな。 心ここにあらず、と言うか……別にあざとく話してた訳でもないのに、勝手にそうなったんだが。 さすメルだな。


 まぁその後、様子を見に来たこのオッチャンにそんな状態を発見されると、そのまま首根っこを掴まれて何処かウラの方に連れて行かれたんだが……まぁ、自業自得かな!? 何か悲鳴みたいなのが、聞こえて来た様な来なかった様な気もするが……知らん。



 …………って言うかねぇ、いい加減『沈黙』が重いんですけど。


 ズーンとか、ドーンとか、擬音(ぎおん)がついちゃいそうなんですけど。


 何が悲しくて、ヒゲのナイスミドルを目前にしながら、ボーっと考え事をしなくてはならないのか。



 どうせ見るなら、広場で出会ったチロッペたんやレイフェちゃんみたいな美少女が良いし。 一日でも二日でも見続けれる自信があるぜッ!


 更に言うなら、二人とキャッキャウフフしながら優雅にティータイムとか……いや、それはそれでやりにくいな。


 ……いっその事、『ツイスターゲーム』的な何かをやってみてはどうだろうかッ!?


 幸い、今のメルカ()は女の子。


 例え相手が美少女達であっても、不可抗力で何処ぞをタッチしてしまおうが、最終的に無理な姿勢から崩れて絡みつき、思わず○○○な事になろうが── 

 


「──残念だが」


「ひ、ひゃいッ!?」



 ちょ、オッチャン!? こっちが想定していないタイミングで、急に声を出されたせいで、思わず変な声が出てしまったではないかッ!?


 声を出すんなら、俺の都合と予定を考えた上で、アポを取ってだなぁ……あ、無理? オーケー知ってる。 続けて続けて。



「……おそらく君の〈鞄〉を見つける事は──まず無理だと、言わざるを得ない」



 俺がぐだぐだと考えている間も、オッチャンは言い難そうに言葉を続けていた……のだが。


 内容的に、俺にとって非常に好ましくない一言が、オッチャンの口から飛び出てきてしまった。



「え……な、何故でしょうか?」



 俺の当然の疑問に、オッチャンは組んでいた腕を外すと、眉間を片手で揉みながら再度口を開く。



「私としても、出来れば力になりたいのだが……そうだな。 いくつか理由はある……まず端的に言って、君の〈鞄〉はそれほど珍しい物ではなく、似た様な〈鞄〉は探せばいくらでも見つかるだろう」


 ……確かに、俺の記憶でも結構似た様な〈鞄〉を持った連中を、街中で見かけた覚えがある。


「『傭兵ギルド』や『探索者ギルド』でも、申請すれば貸し出される装備の一つに有った気がするし、もちろん『道具屋』での販売もされている。 それこそ、無くした〈鞄〉が〈魔法道具(マジックアイテム)〉で、『所有者識別』や『追跡』の『付与(エンチャント)』でも付いていなければ、と言ったところか」


「はぁ……」



 なんてこった……まぁ、俺もつい色だけで、ミーニーの全然形の違う〈鞄〉に飛びついちまった位だからな……って、思わず納得してしまったが、それ以外にも何か気になる『単語(・・)』がいくつかあったぞ?


 『傭兵ギルド』に『探索者ギルド』と、〈魔法道具(マジックアイテム)〉と『付与(エンチャント)』とな?


 俺はいくつか気になる言葉を覚えつつも、ひとまずオッチャンの言葉の続きを聞く。



「かく言う私も、『探索者』時代には似た様な〈鞄〉を利用していた位でね。引退する時に処分してしまったが、当時は遠出の際に必ずと言って良い程使用していたんだよ」



 何て語りながら、懐かしそうに遠い目をするオッチャンだが……正直、そんな事(オッチャンの過去)はどうでもいい。 その辺にポイしなさい、ポイ。


 俺の心の声が聞こえた訳では無かろうが、そこで一度言葉を切ったオッチャンはこちらを見ながら……って、ん? 何でそんな……怪訝(けげん)そうな顔をして──



「一つ不思議なのは、君の『警戒心』の少なさだ……聞けば、ほとんど全財産が入っていたんだろう? 何故、そんな公の場所で目を放してしまったんだい?」



 ……そ、そうですよねぇぇッ!? 普通、そんだけ大事なモンが入った〈鞄〉を手放したり、あまつさえ目を放さないですよねぇぇぇッ!!


 ごめんねッ! こちとらつい数時間前まで、こんな『世界』の存在すら知らなかったのッ! 常識知らずなのッ! だから勘弁……してくれそうに無いから何か適当に言いくるめるしか無いッ!!



「じ、実は……」



 俺が適当に出まかせを並べて、何とかオッチャンを納得させようとした時の事だった。




 カッカッカッ


『失礼しますッ!』


「……ん、ちょっと待って貰えるかな。 入れッ」



 オッチャンの後方にあるドアから、入室の許可を求める声が聞こえてきたのだ。


 口を開き掛けていた俺を制すると、オッチャンはドアに向けて許可を出した。



 バタンッ



「失礼しますッ! ……せ、先輩ッ! 『中央詰所』から借りてきました(・・・・・・・)ッ!」


「ああ、ご苦労。 では、机の上に置いてくれ」


「どうぞッ! ……あの、先輩。 自分も同せ──」


「──お前は、表で『立ち番』だ……私が呼ぶまで、入ってくるなよ?」


「……了解、です……(チクショウ……先輩ばっかりずるい)」


「何か言ったか?」


「な、何でもありませんッ! 『立ち番』、行ってきますッ!」



 バタンッ



 ……今の、さっきウラに引っ張られた若い『衛兵』のニイチャンだよな。 ちょっと目が合っただけで、鼻の下が伸びていたが……いや……それよりもこの、俺の目の前に置かれた〈枠付きの水晶玉(・・・・・・・)〉は一体何なんだ? サイズ的には、(メルカ)の握り拳より一回り小さいくらいだろうか。 一回だけ見た事がある、〈あっち〉で『占い師』が使ってそうな〈水晶玉〉より……ふた回り以上は小さいかな?


 ……んん? 何だ……よくよく見ると、何かどこかで見た覚えが有るような、無いような……?



 俺がそんな疑問を覚えつつ、〈枠付きの水晶玉〉を見ていると。 オッチャンが姿勢を正して、口を開く。



「──ああ、話を中断してすまない。 アイツには、ちょっと『コレ』を取ってきて貰っていたんだ」


「『コレ』、ですか?」



 姿が見えないと思ったら、あのニイチャンはおつかいに行かされていたらしい。 何だ、ウラで呼び出しを食らっていた訳じゃなかったのか。



「……本来なら、何らかの『事件』が起きた際には必ず使用しながら(・・・・・・)事情を聞く決まりなんだが……この『詰所』に置いてあった物が、昼過ぎに急に動かなくなってしまってね。 アイツに時間を見つけて『中央』まで取りに行く様に言っておいたんだが、先に君から話を聞き始めてしまって……いや、お恥ずかしい。 私の指導不足だよ」



 そんな事を言いながら、やれやれと苦笑して見せるオッチャンだったのだが。


「──ッ!?」


 ガタン


 俺の後ろから急に声と大きな音がした事で、素早くそちらに目を向けた……って言うか、俺が驚くから急にデカイ音立てるなよッ!?


 聞こえた若干焦り気味の声に、俺もチラリと振り返ってみれば……何故かミーニー君が頬を引き攣らせながら〈水晶〉を見ていた……って、急にどした? 何、〈コレ〉ヤバイモンなの?


 ミーニー君の動揺した目線に誘われる様に、俺も視線を戻して〈水晶球〉を見るが……見た目はただの〈ガラス玉〉みたいなモンだよなぁ?



 ……などと、俺が呑気な考察を出来たのはそこまでだった。


 ミーニー君の反応を見たオッチャンが、何故か表情を真顔に戻すと、一段と低いトーンで口を開いたのだ。



「……どうやら、後ろの彼はコレが何か知っている様だね。 そう、これは──〈嘘吐きの水晶(ライアー・クリスタル)〉だよ」




 ……なん……だとッ!?




 …………ソレ、何?



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