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【11】 1章の09 金策




 自分の言葉を聞いて、ガックリと肩を落とす俺を見たせいか、またワタワタと慌て始めたチロッペたんが声を掛けてきた。



「ど、どどどうされたんですか!? え、わたし何かマズイ事言っちゃいましたッ!?」


「あ、いえ。 チロッペさんは何も悪くないんです……ただ、ワタシがその……世間知らずだなぁ、と」



 アハハ、と何とか苦笑いを浮かべて声を出す俺を、心配そうに見つめるチロッペたん。


 そして、前髪で表情こそ見えないが、こちらを向いて袖を持ったままのレイフェちゃん……多分、気にしてくれているんだろう。 



 さっき会ったばかりの相手を心配してくれるとは……全くもってイイ子達だなぁ、こんチクショウめ…………いや、でもホントにコレどうしようか。



 〈あっち(日本)〉では滅多に触れなかった、人の優しさに。 柄にも無くちょっと潤んでしまった自分の顔が見られない様、何気なく上を向けば。 蒼く澄みきった昼下がりの空が、これまた目に染みる……でもとりあえず気にせず、俺はグルグルと頭の中で考えを巡らした。



 ……金を手に入れる方法、もしくは金が無くても生活できる方法。


 このどちらかが、今の俺には必要って訳だよ……出来れば後者ね。 働きたくないでござるッ!


 それこそ『ゲーム』内では、自分で何かしなくても男どもが貢いでくれたから、必要な物に困った事なんかなかったけど……俺にとっての『現実』になった今、それをする訳にもいかないし……と言うかしたくないしッ! 働く以上に、したくないでござるッ!


 ……と言っても〈あっち〉みたいに、日雇いのバイトみたいなのがすぐ見つかれば良いが、〈ネット〉も〈電話〉も〈テレビ〉も存在しないであろう〈こっち〉では、まず探し方が分からない。


 ってなると、やっぱり聞いてみる方が早いんだろうな……どうせなら、なるたけ簡単で、楽ができて、払いの良い仕事がしたいですッ! でも、出来れば働きたくないでござるッ!!



 ……だが、今の俺にある(ツテ)なんて、せいぜい目の前のこの子達だけで……いや、多分探せばあるんだろうけど、見つけられても信用出来るか分からないしなぁ。


 その点さっきの応対から見ても、この子達なら悪い様にはされない筈……ではあるんだが。


 初対面の女の子に、いきなり『仕事の当ては無い?』なんて聞くのはどうにも気が引けると言うか、流石に……? 良い子達だからこそ気が引けると言うか……なぁ? こう、獲物としてはオッケーなんだけど、頼っちゃうと何か……な?



 いやはや、コレはどうしたもんだか、と俺が悩んでいると。


 突然、クイクイと〈ローブ〉の袖を引っ張られた感覚があった。 視線を下げてみれば、レイフェちゃんが持ったままだった〈ローブ〉の袖を引っ張ったらしい。



「……あ、はい。 どうされました、レイフェさん?」



 ありゃりゃ、何だねレイフェちん? 放っとかれて寂しかったのは分かるが、俺と添い寝がしたいんならまずは予約が必よ──いや、チミならアポなし即日でもハイ喜んでぇッ!! なんつって! なんつってな!



「メルカ……違ってたら、ごめん──」


 いいや、大丈夫でさッ! 俺の横は、現状カワユイ女の子限定フリースペースと化してい──


「──〈お金〉に、困ってる……?」



 ……おーぅ、残念。 添い寝じゃないらしい……って言うか、もしかしなくても普通にバレバレじゃねぇか。


 俺もそんなに隠すつもりは無かったけど……まだまだ『生身』の『表情』のコントロールが、うまく出来ていないのか。 『ゲーム』だったら、『感情モーション』や『表情チェンジ』がキーを叩くだけで簡単に操作出来たんだけどなぁ……ま、それはさておき、どう答えたもんか。



 実際、困ってるのは間違い無い。


 ただ俺の内情的に、それを言ってしまうのは(ハバカ)られるし……こう、オトコのプライド的に?



「それは、その……」


「え、メルカさん……本当なんですか?」


「あーっ、とですね……」



 言いよどんでいると今度は横合いから、チロッペたんが驚きと心配を大きくした顔で確認してきた……ぐぬぬ、何だこの罪悪感みたいな言い知れぬ感覚は。 別に俺、悪い事なんかしてないのに。


 あまり感じた事の無い感覚に戸惑いながらも、とりあえず否定しておこうとチロッペたんの顔を見た時の事だった。



「……凄く〈良い仕立ての服(・・・・・・・)〉を着てらっしゃいますし、てっきり腕の良い『探索者』か『冒険者』の方なんだと──」



 心配そうにこちらを見ながら言うチロッペたんの、その言葉を聞いた俺の脳裏に。 先程のチロッペたんの言葉が()ぎる。



『──で、わたしは家業の『雑貨商』の修行も兼ねて、レイフェのお手伝いを──』



 『雑貨商』……『雑貨商』、ねぇ?


 んで、(メルカ)の着ている〈服〉は、とても『良い仕立て』と。



 二つの情報から、俺の頭に天啓の様に一つの『アイデア』が浮かび上がる。



 ……大抵の『ゲーム』であれば。


 〈店〉では『購入』もするが、『売却』もするよな…………それ、チロッペたんのトコでも、やっちゃってたり……しないか?


 もちろん、この〈服〉自体は結構気に入っているからあまり売りたくはないが、何だかんだ色々入ってたあの〈背負い鞄〉の中身なら……売ってしまっても構わんだろう?



 一縷(イチル)の望みが見えてきた俺は、声が焦ったりしない様に気を付けつつ、チロッペたんに確認してみる。



「……実は、今の持ち合わせが少ないのは確かなんですが……チロッペさん」


「は、はい?」


「その……ご実家の雑貨商では、『物の買い取り』等をしていらっしゃらないでしょうか?」



 内心ドッキドキの俺の質問に、チロッペたんは何処か納得した顔をしつつも答えてくれる。



「えっと、何でもとはいきませんが、確かに『買い取り』はしています。 メインは『探索者』の方々が使われる様な〈物品〉の取り扱いですので、稀に掘り出し物なんかもありま──」


「──良かった!」


「え、ちょ、わわわわわわッ!?」



 こればっかりは、嘘偽りの無い本心の笑顔を浮かべつつ、俺は勢いでチロッペたんの両手を握る。



「本当に、チロッペさんに話しかけて良かったです!」


「え、ええ?」



 そのままブンブンと上下に振りながら、当面の生活の目途が立ちそうな事への安堵と、チロッペたんの若干カサつきつつも柔らかい女の子の手の感触に、多分デレッとした笑みを浮かべてしまう…………頬を紅くしながら困惑する様も、ごっつぅカワイイなコンチクショウッ!


 さておき何を売るかだな……うーん、もしかしたらあの〈背負い鞄〉には〈貴重品〉なんかも存在するのかもしれないが、今の俺には生活する為の資金が早急に必要なのだ! ……でもまぁとりあえず、〈完全回復薬(エリクサー)〉みたいなのが有ったら売らずに取っておこうかな……? 俺、ああいうアイテムは『ラスボス戦』でも結局使えないタイプの人間だし……テヘッ!



 俺は一瞬で自分勝手な思考に走りつつも、善は急げとばかりに手を握ったままのチロッペたんにお願いする。



「助かります! さっきもお伝えしましたが、本当にお金の持ち合わせがかなり少ないもので。 チロッペさんのご都合さえよろしければ、そこの(・・・)ワタシの〈荷物〉をいくらか、買い取って頂けないかと思いまして!」


「あー、そうだったんですね! それならお役に立てそうです……あれ……メルカさん?」



 俺の言葉を聞いて安堵した表情のチロッペたんが、唐突に何かに気付いた様に声を掛けてきた。



「はい? 何でしょう!?」


「その……〈荷物〉って……どこですか(・・・・・)? 手には、持っていらっしゃらないみたいですし、足元でも無いですよね……」



 ああ、そうか。 確かに手に持ってないし、言わなきゃ分からないよな。


 安堵でテンションが上がり過ぎて、ちょっと説明不足になっちゃってたか。



 反省しつつも、握ったチロッペたんの手の感触を離し(がた)かった俺は、左手だけで若干適当に自分の後方を指差して説明する。



「ああ、ごめんなさい! そこの噴水横(・・・・・・)に置いてる、横に〈杖〉が縛られた〈背負い鞄〉の中身なんです!」



 するとチロッペたんは、俺の体が邪魔で見えなかった様で。

 ピョコっと横から覗き込むように確認するチロッペたんにほんわかしつつ、俺はスッと体をどける……ただし、手は握ったままな! だって放したくないんですものぉッ!!


 数秒、キョロキョロと視線をさまよわせたチロッペたんは──コテンと首を傾げながら、言った。



「……〈背負い鞄〉、ですか……?」


「え……はい、そこに置いてる〈背負い鞄〉ですよ?」



 ……ん? 何で見つけられないんだ?


 確かに道を歩いている最中でも、似た様な〈鞄〉はいくつか見かける事はあったが。


 流石に『お上りさん』よろしく、サイドに〈杖〉が縛られてる様なのはなかったぞ?



 俺は疑問に思いつつも、同時に何故か──段々と、背筋の寒くなる様な感覚に、襲われつつあった。


 ……何だ? 嫌な……予感がする。



 自分で振り返って確かめてしまうと、その嫌な予感が実現してしまいそうな、そんな根拠の無い思考に囚われてしまった俺に向かって。 チロッペと一緒に、噴水側をジッと見ていたレイフェが声を掛けてくる。



「メルカ……その〈背負い鞄〉は、何色?」


「茶色い、革製の、〈背負い鞄〉が……そこに…………有りますよね?」



 俺の、そうであってほしい、と言う願いを込めた質問に。


 レイフェは、もう一度噴水側に視線を向けた後、ふるふると首を……横に(・・)振る。



「……メルカ、自分で見て確かめて。 何処にも、そんな〈鞄〉は……無い」


「……え? …………ええ?」



 そんな、馬鹿な。



 そう思いながらチロッペの手を離し、振り返った俺の視界に入ったのは。



 さっき見た時とまるで変わらない、賑やかな周囲の喧騒(けんそう)と。


 〈鞄〉の事など知らないとばかりに、しゃわしゃわと水が流れる〈噴水〉だけであり。




 俺が、ホンのついさっき〈噴水〉横に置いた筈の〈背負い鞄〉は、影も形も無くなっていたのだった。







興味を持って頂けましたら、是非ご評価もよろしくお願いいたします。

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