【01】 序章の前 目覚め
「──むしろ『お兄ちゃん』と呼んでぇぇぇぇ……ムニャ……んん?」
……俺、今何か変な事口走んなかった……いや、気のせいか。 ふぁぁぁぁぁ……眠い。
大あくびをした後、俺は頭をボリボリと掻きながらゆっくりと上体を起こす。
……うーん、まだ何か頭がボーッとしてる感じがするな。 寝起きだからか……それとも、まだ『夢』を見てるのか?
まぁ、それはともかくとして、なんだ……が。
……『ココ』は……何処だ?
ハッキリしない頭を一振りしつつ、ひとまず周りを見回して今の状況を確認する。
……んー……まず、今居るのは『室内』……だな。 見りゃ分かるけど。
中にあるのは……俺が今座っている、さっきまで寝ていた……質素な、と言えば聞こえは良いが、実際はボロい〈木製のベッド〉。
んで、正面には〈クローゼット〉……かね? それッぽい〈両開きのドア〉。 閉まってて中が見えんが、位置的に多分そんな感じ。
視線を巡らし左を見れば……日は差し込んでいないが、結構明るい空が見える〈ガラス窓〉。 日が高いのか……外からは、軽い喧騒が聞こえてくるし……今は、昼過ぎ位、か?
反対の右手を見れば、〈ベッド〉とお揃いでボロい〈小机〉と〈椅子〉と……ゴツめの〈木製ドア〉。 あっちが出入り口みたいだな……。
しっかし……見た事は無いはずなのに、なーんか見覚えあんだよなぁ……この配置。 何かで見た事あるような……? テレビ……映画……うーん?
こう言うの何て言うんだっけか……デブ、じゃなくて……あ、『デジャヴュ』!? ……やっべ、某スミスさんの大群とかこねぇだろうな。
脳裏に浮かんだ考えに苦笑いしつつ、そのままぐるっと後ろを振り返る。
目に入るのは……ベッドサイドに綺麗に畳まれた──白に近い水色の〈布の塊〉。
……この『色合い』も、見覚えがある……何処でだっけ?
手を伸ばして、持ち上げてみる。
意外と大きくて、しっかりした作りの……〈パーカー〉じゃないし、〈ジャージ〉でもないし……ああ。
て言うかこれ──〈メイジローブ〉じゃん。
思い出した、と言うか。 思い当たった、と言うか。
俺が手に持っている〈コレ〉は、俺がやっていた『ファンタジーMMORPG』の中で結構ポピュラーな装備である、『魔法使い』や『治癒術師』御用達の〈ローブ〉の一種だった。
見慣れている筈の代物だったが、『オンラインゲーム』の中では多少の立体感こそあれ、画面の中の二次元映像だったからな……直に目で見ると大分印象が違ってくるせいで、すぐには気付けなかった。
……と、言うか。
〈メイジローブ〉で気付いたが、この『部屋』自体もそうだ。
あの『MMORPG』で、各街に最低一ヶ所は在った『宿屋』の、料金が一番安い部屋と内装がそっくりだ。
『ゲーム』で俯瞰視点だと狭く感じたが、中から見ると結構広く感じるな……てかむしろ、ちょっとだだっ広くて落ち着かない。 貧乏人は狭い部屋の方が落ち着くんです。 悪いか。
謎の言い訳をしつつ、俺は一つの結論に至っていた。
『ゲームの部屋』に、『ゲームの装備』と……なるほど。
こいつぁ……『夢』だな。 しっかし、我ながら良く出来てるもんだ。
そのままグルグルと室内を見回しながらも、手持ち無沙汰な俺はついつい、無意識で手に持った〈ローブ〉をにぎにぎと弄ぶ。
……この〈ローブ〉……意外とサラサラして手触りが良い。 いかにも着心地が良さそうな感じ。
……どうせ『夢』なら試しに着てみるか。 裾から頭を突っ込めば──
──ッカン コロコロコロ……
……んん? 何だ今の音?
裾を探してモゾモゾと〈ローブ〉を探っていると、『何か』が床に落ちる様な音がした。
キョロキョロと周囲を見回すと、右手側にある〈木製ドア〉に向かって、『何か光る物』が転がっていく。
何だアレ……〈指輪〉、か?
と言うか『リング状の銀色の物』って言ったら、貧困な俺の想像力だとそれ位しか思い浮かばねぇわ……語彙無し乙。
……いや、待てよ。 それ以前にアレ、『貴重品』ッぽいな!?
慌てて手に持った〈ローブ〉を〈ベッド〉の上に放り投げ、転がっていく〈指輪〉らしき物を追いかけようと立ち上がり、そのまま一歩踏み出した。
しかし、相手は一向にスピードを落とさず転がっていくので、すぐに距離が開いてしまう。
クッソ、意外と速い! この部屋、傾きでもしてんのかよッ!? 設計者呼んで来いッ!
最悪、足で踏みつけてでも止めるつもりで俺は走り出したのだが……何か、どうにも……体の動きに『違和感』がある。
寝起きだから……で片付けるには、看過出来ないくらいに強烈な『違和感』が……ッて、あッ! ……あー、クソったれめ。
俺が自分の体の『違和感』に気を取られている隙に、〈指輪〉は〈木製ドア〉の下から部屋の外へ転がり出てしまった。
と言うか『建付け』悪過ぎじゃねぇの?
床とドアの隙間が……2cmはあるぞ? 冬場、寒いだろコレ……さすが『安部屋』設定。 無駄にリアリティがある。
床にしゃがみ込んで〈木製ドア〉の下から覗いてみれば、部屋の外でキラリと『光る物』が垣間見える。
どうやら、外に出た所で〈指輪〉は止まったらしいが……チッ、俺も出るしかないか。 面倒だが、仕方ない。
「──ハァ。 めんどくさ…………ん?」
……何だ? 今また、何か『違和感』が……?
一瞬『何か』がおかしい気がしたのだが……『何が』おかしいのか分からなかったので、気のせいだと思う事にした。
……と言うかそれ以前に、どうにもまだ頭がボーッとしている感覚が抜けない。
正直、しばらく動きたくは無いくらいだったのだが……背に腹は代えられない。
〈ドア〉の開け方を確認する為に、パッと全体を見る。
……どうやら何の変哲も無い、内側からは〈ツマミ〉を捻れば鍵が開くタイプの〈ドア〉の様だ。
カチリと〈ツマミ〉を捻り、〈ドア〉を引き──
ガッ
……ん?
ガッ ガッ
……逆か?
カチリ
ゴッ
……いや、明らかにさっきより固い、と言うか動かない。
〈ツマミ〉を回す方向は最初で良い……と思うが。
カチリ
ガッ
……オーケイ、落ち着け。
蝶番は……こっち側には無い。
実は引き戸って言うオチは……。
ガッ
……無い。
さっきも思ったが、『建付け』が悪いせいだな、こりゃ。
ガッ
……。
ガッ ガッ
…………。
ガッ ガッ ガッ
……イラッ☆
「──だぁぁぁぁッ! めんどくせぇッ、なッ!!」
あんまりしつこく動かないもので、俺は思わず叫びながら〈ドア〉を蹴飛ばした。 すると──
ドゴッ!
『──ッアタァッ!?』
……ん?
今、某暗殺拳使いが居たような気がしたが……いや、もしかすると伝説の青木さんの方か……その場合はもうちょっと掛け声が違うか?
ま、俺には区別なんかつかんし……ただの気のせいだろ。
さてさて、〈指輪〉はどーこだ?
興味を持って頂けましたら、是非読み進めて頂けますと幸いです。