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異世界召喚のすヽめ  作者: 三上香月
3/4

理不尽魔王、その退屈

グレゴリー・サイフォス氏

「あれ?もしかして我輩主役ではなかった?」


ブクマありがとうございます!

 

「……退屈。」


 魔王エルマリアは退屈していた。エルマリア竜人暦2015年。彼女がこの玉座に座ってから、二千年余りが経過していた。たいへんに小柄で、かわいいという形容が似合う容姿、明らかに不釣合いな玉座。しかし、彼女の玉座を奪い取らんと挑むものは、ここしばらくの間にぱったりと見なくなってしまった。

 つい500年ほど前までは、彼女の元にはひっきりなしに魔族が訪れていた。その悉くが魔王としての彼女の能力に疑念を持ち、我こそはエルマリアを打ち倒し、新たな魔人暦を歴史に刻まんと野望を抱いた強者たちであった。

 

 568回。彼女が玉座を防衛した回数である。強く、強く、ただひたすらに強く。狡知にたけ、竜の子として生まれた証のその鱗、あらゆる魔術、あらゆる攻撃、そしてまた厄災すらをもはじく。彼女の炎は水をも燃やし、雷を降らせればあたり一面焦土となす。その御前においては林檎は下から上へと落ち、白が黒くて夜が明るい。世界の法則すら捻じ曲げるとされるエルマリア・サクラメント、付いた渾名が理不尽魔王。魔人暦始まって以来、最強最悪、無敵のディフェンディングチャンピョンであった。


「……退屈。」


 当然ながら彼女とて、もとより最強として生まれたわけではない。今となってはもう、エルマリア魔人暦を生きるほとんどが知る由もないが、むしろ彼女の生の多くは弱者としてのものであった。

 奪われ、強いられ、虐げられるその生で、彼女は弱者としてのすべを学んだ。奴隷の魔紋を刻み込まれ、数多くの暴虐、数多くの搾取を受けてきたが、しかし彼女は死ななかった。

 

 様々な経験を得た。死の足音がすぐそばに聞こえる弱者の世界で、生き残るためのありとあらゆることを知った。すべての経験をその強靭な、あるいは狂気すらいだかせる精神力で飲み下し、死に魅入られるものを見下し、死に呑み込まれたものを見送り、自身はそれと戦い、勝ち続けた。


「……退屈。」


 気がついたら強くなっていた。気がつけば商人が抱える奴隷たちのなかで一番強くなっていた。竜の血を引く彼女の体は、その小さな体には考えられないほどの力を溜め込んだ。あちこちに装飾のようにきらめく漆黒の鱗は、時に刃のように鋭く厄災を切り裂き、時に金剛石のように硬くその身を守る盾となった。彼女をもてあました奴隷商人は、エルマリアを剣奴として闘技施設に売り払った。


 強くなった彼女は、しかしここでは弱かった。あふれんばかりの愛情に始まり、死の足音を耳元で聞く奴隷を、確かに生き抜いたエルマリア。戦うすべを知らない彼女は、ここでも生きることに必死だった。幸か不幸か、女であった彼女は、負けるたび負けるたび、命をとられる代わりにそれを奪われた。

 苛烈な環境、生死をかけた戦いに身をおく剣奴たちには、死に魅入られ、自らそれを得る者も少なくなかった。何で自分が死んでしまわないのか、エルマリアにもわからなかった。耳元にはただ、母が死に際に放った一言だけが残っていた。


「エルマリア。私のかわいいエルマリア。あなたは生きて。あなたは精一杯、エルマリアを生きなさい。」


 気がついたら強くなっていた。たくさんの魔獣を殺し、多くの同胞を手に掛けた。人の入れ代わりが激しい剣奴のなかで、彼女は一番の古株となっていた。魔紋の黒竜姫クレイジーミニマム、そう呼ばれ始めたのはいつのころからか。

 奴隷時代につけられた魔紋は消えず、以来成長することをやめてしまったかのような矮躯、それらはまとめて彼女をあらわす代名詞になった。魔族の嫌う隷属魔法、その楔に歯向かい戦う小さな彼女は、大きな話題を呼び、絶大な人気を誇った。

 

 エルマリアは負けない。このころにはもう、闘技場の中には彼女を傷つけることが出来るものはいなくなっていた。絶対に負けないものがでてきては、剣奴の試合としては面白くない。最後の最後に組まれた無理難題。最強の魔獣、世界の支配者とも言われる竜との戦いだった。


 誰もがエルマリアの敗北を予想する。支配人さえもがそうであった。彼はここでエルマリアを使い潰すつもりだ。今となっては負けなしの彼女が、憐れ竜のえさとなるのを楽しみに、悪趣味な成金たちはこぞってチケットを買った。

 伝説の竜に相見えるとして、多くの人が闘技場に詰め掛けた。絶対強者であるはずの竜がなぜ闘技場にいるのかとか、客の安全は大丈夫なのかとかいぶかしむ声も聞かれたが、それらはすべて熱狂の渦に呑み込まれた。


 魔族たちは奴隷魔術に詳しくなかった。強者を従えるためのこの魔法は、魔族の性質に相反するものであり、奴隷と同じ、弱者と同じ、忌むべきものとして扱われていた。奴隷魔術を使うものはそれだけでさげすまれたし、誰もそれそのものを研究しようともしなかった。だから、魔族はその竜にかかった魔術に詳しくなかった。


 竜の前に引き出されたエルマリアは、自身に刻まれた魔術の名残、それと同じものを目の前の竜に感じた。隷属の魔法。強者に縄をかけ、楔を打ち込むこの魔法。多くの魔族が唾棄すべきと考えるこの魔法が、エルマリアは嫌いではなかった。

 彼女の生はこの魔紋とともにあった。苦難とともに与えられ、長い間を過ごしてきた。与えられたのは苦難だけではない。何よりも貴重な経験と、そして知恵、知識を得た。おかげで、今ここ、竜の顎の目の前、絶対強者の眼前にあってもなんら臆することはない。


 エルマリア・サクラメントは思う。生きている、と。ボクは今、確かにエルマリアを生きていると。エルマリア・サクラメントは確かにここにある。死の足音から逃げ延びて、幾多の試練を潜り抜け、多くのものを失って、代わりにたくさんのものを手に入れた。今、ここ、絶体絶命、竜の目の前にあって、ボクは確かに生きている!


 この日、魔族に歴史に燦然と輝く一つの出来事が起こる。一人の剣奴が生存不可能と定められていた竜との試合を制し、倒したばかりの竜を手なずけ、荒廃と混沌渦巻く魔の大地を席巻する。後に絶大な力と、魔族に持つものの少ないその狡知、誰も知らない脅威の魔法を用いて、運命さえ、世界の法則さえも捻じ曲げると詠われた「理不尽魔王」、その誕生であった。


「……退屈。」


 エルマリア・サクラメントは最強最悪、神さえもが恐れるといわれる絶対無敵の大魔王である。彼女はその特殊な生い立ちにより、体のあちこちにきらめく黒竜の鱗を持ち、成長の跡が見えないその小さな体に、不釣合いなほど大きな魔紋が焼き込められている。浅黒い肌に目立つ真っ黒なそれは、しかし隷属の魔法の名残であることを知る者はほとんどが滅びた。

 

 エルマリア・サクラメントは最強最悪、神さえもが恐れるといわれる絶対無敵の大魔王である。彼女はその特殊な生い立ちにより、肉体ばかりでなく性格や性癖までもがどこかいびつだ。一番わかりやすいのは言葉遣いで、女性であるわりに一人称は「ボク」と言う。

 そして、何度も奪われ、むさぼるように求められた彼女の女は、強者にいたぶられ、なじられ、そしてそこに愛が感じられた時に悦びを得るようになってしまった。


 つまり彼女はドが付くほどのマゾなのであった。


 母の遺言のとおり、精一杯生きていたら、いつの間にか絶対強者になっていた。暴れまわって暴れまわって暴れまわった挙句、もはや暴れる場所がなくなってしまった。

 誰よりも強いエルマリアをいたぶるものはなく、彼女は愛を感じることが出来ない。玉座を狙う不届きものも、少々遊びすぎたせいでもう1000年は来ないであろう。エルマリア・サクラメントは退屈を、性癖を、力を、魔力をもてあまし、一人悶々としていた。


 エルマリア竜人暦2015年、氷狼の月。その小さな矮躯に似合わぬ玉座の上で、彼女はいつものようにその身をもてあましていた。突然玉座ごと彼女は光に包まれ、臣下が驚き、その光のまぶしさに思わず眼をそらした。次の瞬間、彼らが振り返ったところには彼女はその跡形すらなく、後にはただあわてるばかりの臣下と、主を失い、上へ下への大騒ぎを見守る玉座だけが、静かにたたずんでいた。

 

どうしてこうなった……

今回もぜんぜんハーレムしてない……

なんか話重いし、無駄に長々とした……


とりあえず主役を魔族にしたアフォをぶん殴らなければ……

寿命とか価値観とかいろいろ違いすぎてものすごく書きづらい……

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