真冬の蝉は一週間に七度死ぬ
蝉の鳴き声が燦々と降り注ぐ、夏の日
二人、屋上で昼食を取り終え、そこからの風景をぼんやりと見つめていると…
隣のアイツはこう言った
「……雪だ!」
「えっ…」
嬉々とした顔で、日光の反射で白く見えるコンクリートを指差し、もう一度
「雪だ!」
と叫んだ
あの時、確かにそこには雪があった
*
晴れた空に大きな入道雲、教師が黒板に書きなぐる入試対策は頭に入って来ない
騒ぐ女子生徒、廊下を駆ける男子生徒
購買のパン、自動販売機のいちご牛乳
一際大きな蝉の声、屋上から見える雪
何もかもが噛み合わない、そんな夏の日
時計の秒針が動く音がした
*
屋上から見える景色は好きだ
蒼く澄み渡る空
明るいグラウンド
生徒たちの騒がしい声
野球をやっているのを上から見て、二人で実況者にでもなった様に騒ぎ立てた
雨が降る中、屋上に中古の安いテントを張ってキャンプみたいだと笑いあった
そんな「あの日」は戻って来ない
「雪だ!」
あの日、アイツは確かにそう言った
あの時、確かにそこには雪があった
fin.