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09 女児ぱんつ。

「なるほどなるほど、てっきり吾輩は太平が性的犯罪を犯したものだと思っておったわ」


「思うなよ!」


 太平はちゃぶ台を殴りつけるのだが、シバさんはそんなこと気にもせずにお茶をすすっていた。


「私はこれを知っているぞ、犬だ」


 イクがシバさん物珍しそうに観察しては、指を刺して呼びかける。


「我輩は犬である! えっへん!」


 シバさんは何故かふんぞり返って偉そうにしてみせる。


「しかし、私のデータベースには犬が喋るとは記載されていない。つまり、これは犬に見せかけた何か別のもの」


 どうやらイクのデータベースはこの世界の犬と同じものが登録されているようである。つまるところ、異世界の犬のデータ等存在していないのだ。


「ガッハッハッハ、お嬢ちゃん。犬を舐めちゃいけないよ」


「私は犬を舐めたりしない」


「うむ、いい心がけだな」


「そんな事をしたら汚い、バッチイ」


「だ、誰が汚いじゃと! 吾輩はこう見えても週に一回はシャンプーをしていたり、していなかったりなのだぞ!」


 どっちだよ! と太平はツッコミたかったが面倒なのでやめておいた。このメンツ相手にツッコミを入れているときりがないことを理解しているからだ。


「兎に角、その格好はどうなのかね? 今回は吾輩だったから良かったもんだが、他の人間に見られたならば、即通報、即逮捕、即死刑だぞ?」


「いやいや、死刑はないから……」


 と言ってみたものの、逆を言えば逮捕まではありえてしまうのだ。

 幼女に性的行為をして逮捕……。田舎の両親が知ったならば卒倒すること請け合いだ。

 

『あんなの家の子じゃありません!』


 涙ながらにマスコミのインタビューに応える両親の姿を想像して、太平は血の気が引いていくのを感じた。


「そうだな、服を手に入れないとだな……」


 とは言え、幼児服コーナーに男が一人足を踏み入れるというのはどうなのだろうか?

 しかも、まだ男物ならばともなく女物……。それはそれで通報されてしまうのではないだろうか?

 太平はデパートで自分が幼女の服を選んでいるシーンを想像してみる。


「駄目だ……確実に警察だ……」


 八方塞がりとはまさにこの事だった。


「太平、私は別にこの裸の上にシャツ一枚でも気にはしないぞ?」


 イクは男物のシャツを裾を手にとって持ち上げてみせる。そのせいで見えてはいけないところが見えてしまうのだが、偶然にもそこにコーラのペットボトルが置かれており視界には入ってこなくて、太平は胸をなでおろした。


「お前は良くても、他の奴らが気にするんだよ!!」


「そうか、そうなのか。ふむ、人間とは良くわからない生き物だな」


 持ち上げたシャツの裾を元に戻すと、イクは体育座りをしてなにか考え込んでいるようだった。

 

「ふっふっふ、太平よ。そういう時は一人で考えこんでおらんで、誰かに頼るのが大人の対応というものなのだぞ?」


 さぁ我輩を頼るが良い! とばかりにシバさんは二本足で立ち上がっては、胸の辺りを前足でドンと叩いてみせる。


「じゃ、何とかしてくれよ」


 ダメ元で太平はシバさんに頼んで見る。


「無理! 我輩には無理!」


 大威張りで返してみせるのだから、この柴犬本当に駄犬である。


「じゃ言うんじゃねえよ!!」


 太平の言葉は至極最もである。怒りのあまりいつものようにネックハンギングをしかけようとしたところで、シバさんがそれを静止させた。


「馬鹿者! 我輩には無理でも、他にいるではないか! そう、このアパートには女子が住んでいるではないか!」


「女子が……? まさか……」


 そう、シバさんの指し示すところの女子とは――魔王の事に違いなかった。

 確かに、魔王は女の子? それに幻影魔法で普通の女性の格好になることも出来る。それならば、女物の服を買いに行ってもらうことも可能なのではないだろうか?


「なるほど、一理あるな……」


「ふふふふっ、吾輩の知能に感謝するのだな。褒めろ! さぁ褒めろ!」


 その言葉を聞いて、体育座りを続けていたイクが音もなく立ち上がると、無表情のままでシバさんの頭と首の辺りを執拗に撫で回す。


「あっ……それ……凄く……良いワン……」


 イクは柴犬のデータから、もっとも気持ちよくなると思われるよ箇所をピンポイントで刺激し続ける。その快楽に抗うことができずに、シバさんは放送コードに引っかかりそうな声を出してしまうのだった……。

 

「何だこりゃ……」


 よがる柴犬、機械的に撫でまわす幼女。

 眼前で繰り広げられているカオスな状況に、太平は頭を抱えた。


 何はともあれ、こうして太平は女児服を購入を依頼するために、一○三号室へと向かうのだった。

 


 ※※※※


「あのー、すみません」


 太平は一○一号室の前に一人で立っていた。

 シバさんは未だにイクのナデナデ攻撃にメロメロ状態だったで放置してきた。

 

「はぁ〜い、何ですかぁ〜?」


 甘ったるい声が扉の向こう側から聞こえてくる。

 声だけを聞いていれば、美人以外の何者でもないのだけれども、扉を開けて出てくるのは……。

 ドクロ頭に黒衣のローブ、そして二メートル近い大きさのトレードマークである死王の鎌を携えた魔王なのだからたまったものではない。

 とは言え、流石にここで暮らし始めて一ヶ月が経とうとしている太平は、この異常な光景には慣れてしまっていた。まぁ今も部屋には喘ぐ柴犬と、裸Tシャツの超古代兵器が居るわけなのだら、当然といえば当然なのだ。

 

「すみません、あの少し頼みごとがありまして……」


「あら、どうかしたんですかぁ? この魔王でいいならば、お手伝いしますよぉ? どこかの国を消したりしちゃいますぅ?」


 魔王は意気揚々と死王の鎌を構えてみせる。


「いやいやいやいや、国は消さなくていいから! むしろ消しちゃダメだから!」


「えへへへっ。ちょっとした魔王ジョークですよぉ。そんないくら何でもそんな事したりしませんよぉ。酔っ払った勇者さんじゃないんですからぁ〜」


 あっけらかんとして笑う魔王だったが、一○一号室の住人の飲んだくれ勇者ならば本当に酔った勢いで国の一つくらいは滅ぼしかねない。そして、その様子を太平には安易に想像することが出来た。


「ところで、ご用事は何なんですかぁ?」


 ご用事だけに、ご幼児なんです。

 なんて馬鹿なことを頭の中で思いながら、太平は魔王のノリに流されて当初の目的から脱線してしまっている会話のレールを、元のところに戻そうそうとした。


「あの、魔王さん、女物の幼児服を買いに行くのに付き合ってもらえませんか?」


「へ?」


「出来れば、下着なんかも必要なんですけれど……」


「はぁ……」


 ここまで言い終えて、自分がとんでもないこと言ってしまっていることに気がついた。

 むしろ、ここまで言い終えるまでに気が付かなかった太平がアホ過ぎる。

 

「なるほどぉ……」


 魔王はなにか納得したように、ドクロ頭の顎のあたりに手を当てて、コクリと一度頷いた。

 そして、パンと胸の前で手を叩くと……

 

「わかりましたぁ! 人の趣味って色々ですものねぇ!」


 満面の笑顔ドクロなのでよくわからないがで答えるのだった。


「ところで、幼女用のパンツをどう使うんですかぁ?」


 この後、太平は半狂乱&しどろもどろ状態になりながら、小一時間をかけて事情を説明するのだった……。


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